第5話 出発 「で? 紅魔館にはいつ行くんだ?」 博麗神社に来てから早1時間。さすがに痺れを切らした俺はお茶を啜っていた良也に質問した。 「へ……あ、そうか。行くんだっけ?」 「お前、殺されたいようだな」 当初の目的を忘れていた良也の頬に軽く拳をぶつけてそう言う。 「ああ、そう言えば響は異世界から来たんだっけ?」 煎餅を加えながら魔理沙。 「こいつのせいでな」 「何度も謝ったじゃん……じゃあ、早速行こうか?」 そう言いながら良也が立ち上がる。それを見て俺も腰を上げた。 「気を付けてね。何か起きそうだから」 縁側から境内に飛び降りた所で霊夢が忠告してくれる。 「何だろう。聞いてすごく行きたくなくなったんだけど……」 「紅魔館だろ? そこまで危険じゃなくね?」 唯一、危険と言えばフランがタックルをかまして来て俺の骨が折れるぐらいだ。 「き、君の世界の紅魔館は平和だったんだね……僕なんか血を吸われてばかりだよ」 良也は肩を落としながら教えてくれる。 「あー、なるほど……俺が普通だったらあり得るな。それ」 「じゃあ、君は普通じゃないって事?」 「まぁ、な」 これ以上は能力に関係して来るので会話を中断し、霊夢の方を向く。 「霊夢。昨日お願いした物、出来てるか?」 「ええ。もちろんよ。あ、賽銭箱は向こうにあるから」 賽銭箱があるであろう方向を指さしながら巫女。『料金を払え』との事らしい。それだけ言って霊夢は中に引っ込む。物を取りに行ったようだ。 「はいはい……1000円ぐらいでいいか」 溜息を吐きながらスキホを操作し、1000円分のお金を取り出す。もちろん、外のお金ではなく幻想郷で使われている物だ。 「それ、本当に便利だね。お金も入ってるの?」 横から見ていた良也が感心したらしく、そう呟く。 「ああ、報酬金がいくらか入ったままなんだよ」 「へ〜、どれくらい?」 「ん」 残り残高を画面に表示して良也に見せる。 「どれどれ……はぁっ!?」 画面を覗き込んだ途端、目を見開く良也。 「な、なんだ……この額は!?」 「ん? あ、この前、異変を解決したから紫に給料貰ったんだよ。そう言えば、全く手を付けてなかったな……」 何せお金が振り込まれてから2日後にここに来たのだから。 「ぼ、僕の1か月の給料を遥かに超えてる……因みにその異変の内容は?」 「異変の名前は『魂喰異変』。幻想郷中の幽霊が喰われた」 「うわ、ものすごくやばそうな異変だ……それを君が?」 「うん。死にそうになったけど何とか解決出来たよ……もう、あんな思いはしたくないな」 確か、永琳の話じゃ敵の攻撃を喰らい、体中の皮が破け、血管も破裂し、即死してもおかしくないほどだったらしい。自分でも何で生きているのかわからないほどだ。 「はい、音無さん。どうぞ」 「お? ありがとう」 戻って来た霊夢から数十枚の『博麗のお札』を受け取り、目の前で賽銭箱にお賽銭を入れてやる。それを見て霊夢は満足そうに頷くと再び、湯呑を手に取った。 「それは?」 「お札。ストックが切れそうだったから頼んだんだよ」 体の中に流れている霊力を探っていたので魔理沙からの質問に適当に答えた。その後すぐに霊力を見つけ、お札に流してみる。 「……うん。上手く行きそうだ」 お札にきちんと霊力が注がれたのを確認し、スキホに仕舞う。 「ねぇ? もしかしたら、飛べるんじゃないか?」 その様子を見ていた魔理沙が問いかけて来る。先ほどまで良也が俺を背負ってここまで来たと話していたので俺が飛べなくなってしまった事を知っていたのだ。 「え? あ……」 無意識で霊力を使っていた。これを使えば飛べるだろう。 「じゃあ、僕の苦労は?」 「無駄だったみたいね」 「嘘だぁ〜!」 良也の叫び声が境内に響いた。 「やっぱり、空を飛べるを良いな」 「本当に君が飛べてよかったよ……」 人1人を背負って紅魔館まではかなり、厳しい。僕じゃきっと、途中で墜落してしまうだろう。 「ねぇ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」 気持ちを切り替えて隣を飛んでいる音無さんに向かって問いかけた。 「ん? 何を?」 「君が飛べなかった理由だよ。いつまでも僕のせいにされちゃ困るから……」 霊夢と魔理沙の視線が痛かった……紅魔館でも同じことを言われちゃ僕の心が砕けてしまう。 「んー。詳しくは話せないけど……俺の中に流れていた力が変わったんだよ」 「力が?」 音無さんの言っている意味が分からず、聞き返した。 「霊力とかあるだろ? 俺の場合、他に魔力、神力、妖力を持っていて体の中を巡ってるんだ」 「……なるほど。君は霊夢側の人間だったんだね」 「あんな人間の皮を被った得体の知れない何かと一緒にすんな」 いや、神力と妖力を持ってるだけで得体の知れない何かですよ、貴女は……。 「まぁ、いい。そのせいで力がお互いに邪魔し合って表に出せなくなってるんだよ。それに体の中にある力が急に変化してしまうと体も動かせなくなる」 「えっと……つまり、力の種類が多すぎて本気になれない、みたいな?」 「そんな感じ。で、さっきも言ったようにお前の近くにいると能力が使えないってのは『俺の能力が変化する能力』だからだ」 今までの説明だけでもかなり、付いていけない(現に体が動かせなくなる理由とか聞く気にもなれないほど)のに今度は意味がイマイチ、わからない能力が出て来た。 「例えるとだな……カメレオンみたいな感じかな? 緑が豊か所だと体の色も緑になるし、木の上にいれば茶色になる」 僕の顔を見てわかりやすく説明してくれる音無さん。 「それと僕の世界にいて能力が変わる理由がわからないんだけど……」 「俺の能力って結構、頻繁に能力変わるんだよ。満月の日とか」 「で、それと僕に何の関係が?」 音無さんの能力については少し理解した。でも、僕の何が音無さんの能力を変えたのだろう。 「実は俺も確信はしてない。お前の能力が関係して来るんだとは思うんだけど……なぁ? 『自分だけの世界に引き篭もる程度の能力』ってどんなもんなんだ?」 「え? 一言じゃ説明できないんだけど……僕の周囲にだけ僕の世界が広がってる、みたいな?」 自分でもあまり、理解していないのでしどろもどろな説明になってしまったが、それを聞いた音無さんは深い溜息を吐く。 「少し、実験してみよう」 そう言って音無さんは何故か、僕から離れていく。 「?」 意味が分からず、観察する。 もしかして、僕の世界から出ようとしてる? 「うおっ!?」 そして、僕の世界から出た瞬間、音無さんが急に落ち始めた。 「え!?」 突然過ぎて硬直してしまったが、僕が動く前に態勢を立て直し再び浮上する音無さん。 「なるほど……」 一人でうんうん頷いた後、彼女はまたこちらに近づいて来た(僕の世界に入った瞬間、また落ちたがすぐに浮上した)。 「やっぱり、お前の能力のせいだな」 「いや、僕にはさっぱりわからないんですが……」 結局、音無さんは詳しく説明してくれなかった。その代わり――。 「あ、一応これ渡しておくよ」 音無さんが少しだけ不貞腐れていた僕に差し出したのは1枚のスペルカードだった。 「何、これ?」 表も裏も白紙だ。でも、力を蓄えた痕跡が残っている。本来なら、この状態のスペルには文字が書かれているはずなのだが。 「お守りみたいなもんだ」 「お守り?」 「ああ。紅魔館なら戦う事もないだろうけど……念のためな」 「でも、白紙だけど?」 「それはまだ、未完成なんだ。それを使う為にはもう少し、お互いを信頼しなきゃ駄目だ」 「信頼、か……」 スペルを観察していると何となくだが、音無さんの霊力が感じられる。まるで、“このスペルカードと音無さんが常に繋がっている”かのように。 「ほら、紅魔館までもう少しだ」 「え? あ、待ってよ!」 いきなり、スピードを上げた音無さん。僕も慌てて、彼女の後を追った。 あとがき 皆さん、こんにちは。ホッシーです。 やっと、紅魔館に向かいました。長い……。 今回、少しだけ響さんの能力について触れましたが、今後の話でかなり重要になります。戦闘も入れようと思っていまして、その時にまた響さんから説明があると思います。 このクロスを書かせていただいて、早5話。終わりは何話になるか全く、わかりませんがこれからもがんばって書いて行きたいな、と思っております。 それでは、また6話でお会いしましょう。読んでくださってありがとうございました! |
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