第4話  思考






「おーい……まだかよ〜」
「もうちょい行ったら飛んで行けるから!」

 背後の音無さんを励ましながら山を登る。目指しているのは博麗神社。

「お前と一緒だと指輪が使えないから飛べないんだよ!」
「いや……知らないよ」

 話を聞くに僕が仕事に行っている間に能力が使えたらしい。きっと、指輪も能力の1つなのだろうが、僕がいないと博麗神社までの道のりがわからない。

……何で、こんな事に。

 まぁ、確かに魔方陣を誤って発動させたあげく、意味を変えて異世界に繋げてしまったのは僕だ。と言うより僕のせいで音無さんはこんな目にあっている。でも――。

「だからって僕が君を背負う事にはならないと思うんですけど!?」
 僕の叫びに後ろにいる(背負っている状態だ)音無さんが怪訝な顔をする。

「いや、これぐらいの事で許されるとでも? もしかしたら俺、帰れないかもしれないんだよ?」

「うぐっ……」
 何も言い返せなかった。







「はぁ……はぁ……」
「やっとか〜」

「君は何もしていないだろ!!」
 僕の言葉を無視して音無さんがゆっくりと博麗神社に近寄る。

「なるほど……確かに変な感じだな」
「へ、変な感じ?」

「いや、何でもない。さ、行こうぜ」
 首を横に振りながら音無さん。
「う、うん。じゃあ、目を瞑って」
「ん」

 それにしても無防備だ。男である僕に背負わせたり、すぐに目を瞑ったり女の子しての自覚があるのだろうか。

「で? 次は?」
「あ、手を出して」

 僕の指示通り、音無さんは手を差し出す。それを握って僕も目を閉じる。空気が変わる気配がして目を開けるとすでに幻想郷側の博麗神社にいた。

「はい、到着」
「おお。すげー。でも、面倒だな? 毎回、こうやって入ってんだろ?」

「へ? じゃあ、もっと簡単に?」
 さすがにそれはない。まず、幻想郷と外の世界を行き来すること自体が難しいのだ。

「彼はスキマが使えるのよ? 良也さんよりずっと簡単じゃない」
 音無さんが答える前に霊夢が答えた。

「す、スキマを!? じゃあ、君は隙間妖怪?」
「俺はれっきとした人間だ! 確かに少し、魂構造はおかしいけどさ……」

 魂構造? なんだそりゃ?
「まぁ、いいわ。いらっしゃい、二人とも。あ、良也さん。お茶」

「少しは休ませてくれ……ん?」
 待て。何で、霊夢が音無さんを知っている。

「……音無さん」
 一つの可能性に辿り着いた僕は静かにその名を呼ぶ。

「な、何?」
 明らかに動揺している音無さん。

「君、能力を使ってここに来たでしょ?」
 そう言った瞬間、肩をビクッと震わせる。頷いているのと同じだ。

「だ、だってさ? スキマが開くかどうか確かめて閉じようとした時、霊夢の腕が伸びて来て……」
「急に目の前に開いたのよ? 吃驚するじゃない」

「仕方ないだろ? 紫みたいには使えないんだよ。扇子がないと開けないし」
「音無さん!!」

「は、はい!」
 ダラダラと喋っている二人の会話を断ち切り、僕は一番心配している事を聞く。
「誰かに襲われなかった? 怪我は? ダメージは? 服は大丈夫!?」

 そう、ここは幻想郷。いつ、弾幕ごっこを仕掛けられるか分からない魔の巣窟。
「ああ、少し魔理沙と……」
「ま、魔理沙!?」
 駄目だ。あいつなら絶対、勝負を申し込んでいる。

「だ、大丈夫だったの?」
「う〜ん……指輪も使えたし何とか勝ったかな?」

「何言ってるの。あれは卑怯よ。逃げ場ないじゃない」
「え? あ、『合成』の事? あれは発動してから5秒後にスペルブレイクされるから全力でバックすれば大丈夫なんだよ」

 この二人の会話から察するにあの魔理沙に勝ったとで言うのか。

「でも、向こうも手加減……いや、油断してたし。俺の地力の少なさを見くびったな」
「まぁ、あんたはその指輪を使って合成してるから正直言って無尽蔵でしょ?」

「よく、わかったな……さすが、霊夢」
「他の事はほとんど知らないけどね」

「ちょ、ちょっと待って!」
 まずい。混乱してる。音無さん、相当強いみたいだ。僕なんかよりもずっと。

「……ねぇ? 何で、昨日と雰囲気が違うの?」
 だが、霊夢が少し首を傾げて音無さんに質問した。

 気配が違う? 僕には同じように思えるけど……。
「良也のせい」

「はぁ!?」
「良也さん……何やったの?」

 ジト目で僕を睨む霊夢。
「な、何もやってない! 断じて!!」

「お前の近くだと俺の能力が変わるんだよ。そのせいでPSPも指輪も使えない。今、妖怪に襲われたらどうすんだよ」
「知らないよ!!」

 僕の近くだと能力が変わる? 僕の世界にいると音無さんにどんな影響があるんだ?

「とりあえず、良也。お茶」
「君も僕に淹れさせるのか!?」

「だって霊夢の話じゃお前、ここに居る時は給仕係なんだろ?」
「……」
 何でだろう。言い返せない。全くのその通りだから。

「おいーす! お? 今度は良也も一緒か?」
「おいーす。魔理沙」

 空から箒に跨って魔理沙がやって来た。音無さんが手を挙げて答える。随分、仲がよさそうだ。
「馴染み過ぎじゃない? だって、霊夢や魔理沙からしたら君の事、知らないんだよ?

「はぁ? 何、言ってんの? 俺だってこいつらとは昨日が初めてだよ」
 僕の問いかけに少し意外そうに答える音無さん。

「へ? だって、君の世界にも幻想郷があったはずじゃ……」



「あったよ。もちろん、そこには霊夢も魔理沙もいた。でも、ここの霊夢は俺の知っている霊夢じゃないし魔理沙も同じ。例え、顔や声、性格が同じでも全てが同じじゃない。俺の世界の霊夢には霊夢の。ここの魔理沙には魔理沙の世界があるんだよ。だから、俺は別人として接してんだ」



「?」
 意味が分からず、首を傾げる。

「まぁ、良也にはわからないか……」
「地味に貶すのはやめてくれるかなっ!?」

 僕の叫びを無視して音無さんは博麗神社の中に入って行く。慌てて、僕もその後を追った。





あとがき

 皆さん、お久しぶりです。ホッシーです。
 何とか、第4話を書き終える事が出来ました。第5話ではある場所に向かいます! それにしても、これ書いてる時、まだ第1話も投稿してないんですよ。大丈夫かな……
 と、とにかく! 頑張って書きます! よろしければ次の話もお読みくださいな!



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