第1話 奇跡 「え〜、と?」 ガリガリと頭を掻きながらペンを走らせる。ペン先では真新しい紙に今日、習った転移魔法用の陣が刻まれていた。だが、もう一歩の所で僕は詰まっている。 「こことここを繋ぐんだっけ?」 今まで習った事を書き記した大学ノートと睨めっこしてやっと、魔方陣が完成した。この魔方陣は上手く行けばパチュリーのいる紅魔館の図書館に繋がる。そして、成功した証としてパチュリーの手によってリンゴが送られて来る……はず。 「さてと……ご飯にしよっと」 起動する時間までまだ、1時間もある。このテストはパチュリーから提案された物だ。何故なら、僕がいるのは自分の部屋。つまり、外の世界なのだ。幻想郷と外の世界を魔方陣で繋ぐと言う試みに僕の先生は目をキラキラさせていた。因みに、スキマの許可はすでに取ったらしい。抜かりのない魔女だ。 ・・・何で、こんな事を。 パチュリー曰く、この魔法はお互い――繋ぐ先と先の座標を知らないと出来ない。もちろん、パチュリーは僕の家の座標など知るはずもなくこうやって、魔方陣を描く羽目になったのだ。 「何、作ろうかな?」 魔力を注がなければ魔方陣は作動しない。一先ず、魔方陣が描かれた紙を机の端に移動させた僕は台所に向かった。 そう、これが間違いだったのだ。 「ん?」 作り置きしていたカレーを温めていると何やら甲高い音が聞こえ始めた。まるで、エネルギーを充電するような音。 「ま、まさか!?」 慌てて火を止めて魔方陣の様子を伺いに走った。が、もう遅かったらしく魔方陣が起動しているではないか。その証拠に紙が光り輝いている。 「うおっ!? え!? ちょっと待って!!」 別に繋がる場所はあの図書館なのだから慌てる必要もなかった。しかし、パニックを起こしていた僕はその事に気付かずに魔方陣を壊す為にペンを掴んで1本の線を紙に刻む。こうすれば、魔方陣の意味が変わり、魔法も失敗する。そう、意味が変わってしまうのだ。 「な、何で!?」 普通ならば、魔法が失敗すると光が消える。しかし、光は消えず更に強くなっていく。 も、もしかして、奇跡的に別の魔方陣になったのか!? 「くそっ!」 もう一度、線を描き入れようと手を伸ばすが魔方陣から凄まじい風が吹き荒れ、近づけない。でも、俺が描いた魔方陣は直径10センチメートルほど。そこまで、酷い事にはならないとは思うが。構造も簡単だし。 僕の思考を読んだように魔方陣から現れたのは皮製の入れ物に包まれたPSPだった。どうやら、転移魔法と言う概念はそのままらしい。 「このやろっ!!」 転移させたのが携帯ゲーム機で安心した(別に得したとか思っていない……決して)束の間、魔方陣からPSPを掴む手。 「お、おい?」 まさか、PSPの持ち主が吸い込まれる愛機を逃がすまいと必死に抵抗しているのか? 普通なら、怖くて何もしないだろう。もしくは、写メを取る。 「どうなってんだよ!!」 魔方陣から頭が出て来た。黒髪でポニーテールの女の子。年は僕より少し下。高校生から大学生の間ぐらいだろう。 「早くその手を離して! 耐えられない!」 小さな魔方陣では人間を転移するのに耐えられるはずがない。大きさ的に。ピシピシ、と陣から嫌な音が聞こえる。 「で、でも! これは大事な物なんだ!!」 この女の子はどれだけゲームが好きなんだ!? 「早く!」 「嫌だ!」 僕の制止も空しく、魔方陣がとうとう壊れた。その瞬間、女の子がこちらに飛び出して来る。 「「ちょっ!?」」 突然の事で僕も女の子もどうする事も出来ず―― ――ゴチーン!! お互いの頭にたんこぶを作った。 「おかわり」 「……うん。それにしても、吃驚したよ。魔法を知ってたなんて」 俺が差し出した皿にカレーを盛り付けながら良也が呟いた。俺だってそうだ。まさか、転移魔法に俺のPSPが巻き込まれる事になるなんて思いもしない。 「こうなったのは僕の所為だ。気にせず、食べてくれ。音無さん」 「サンキュ」 一応、自己紹介はした。だが、こいつは勘違いしている。 「言っておくが、俺は男だぞ? 『音無 響(おとなし きょう)』って名前、男にも女にも聞こえるし俺の顔を見て勘違いするのはわかるけど」 「……はい? いや、完全な女の子じゃん。声も高いし背も……女の子にしては高いけどさ? 髪も長い」 「いや、声は変声期が来なかっただけだし、背は男にしては低いだけだ。髪は……切りに行くのが面倒だったからこのままにしてただけ」 俺の言葉を聞いても良也は苦笑いする。 「確かに、男の部屋に突然飛ばされたら驚くだろうけどさ? 警戒する必要はないよ。僕だってそれぐらいの常識はある」 頑なに信じようとしない良也。 「……勝手にしろ。俺は言ったからな?」 「はいはい……さて、住所教えてくれる? 明日、君を帰さないといけないから」 「その前に電話させてくれ。さすがに言っておかないとやばい事になりそうだ」 失踪したとか騒がれては洒落にならない。 「そ、そうだね」 良也も頷いたので俺は仕事用の『スキーマフォン』――通称、『スキホ』ではなく自分の携帯を取り出して妹の望(のぞみ)の携帯にかけた。 「……あれ?」 繋がらない。話し中とかではないようだ。 (仕方ない。家の電話にするか……) かけ直すがまたもや、繋がらない。 「ここって電波悪い?」 「? いや、普通だと思うけど……僕も普通に使えるし」 俺も良也も首を傾げた。何故、これほどまでにかからない。 「しゃーなしか。上司に電話する」 「上司? 仕事でもしてるの?」 「まぁな」 紫に電話する為にスキホに持ち替える。こっちは電波とかそう言う概念がない。スキマで繋がっているからだ。 「……嘘だろ?」 それでも、繋がらなかった。おかしい。スキホでも繋がらないなんてあり得ない。 「ど、どうしたの?」 「繋がらない」 「あー、さすがにこんな時間じゃ起きてないのかも」 いや、紫なら……あり得るがなら、藍が電話に出るはずだ。そう言う決まりになっている。 「……くそ。仕方ない。すまん、ちょっと出て来る」 「え? 今から?」 「大丈夫。魔法を使うから」 さすがに幻想郷に行って来るとは言えず、そう嘘を吐いて立ち上がった。皮製のホルスターに入ったPSPを左腕に括り付け、スキホを操作し白いヘッドフォンを取り出す。 「おお! その携帯、物を収納出来るのか!?」 「そんな感じ。もっと、機能あるけどね」 驚愕する良也に説明しながら、ヘッドフォンを頭に取り付けた俺はスペルカードを宣言した。 「移動『ネクロファンタジア』!」 いつもなら紫の衣装になって、スキマを開ける。しかし、何故か服は部屋着から変化がない。 「……移動『ネクロファンタジア』!」 改めて、唱えたが反応なし。 (の、能力が使えない?) 「なぁ? 今日って――」 能力を使えない日は1か月に一日だけある。その日が今日か後ろにいる魔法使いに聞こうと振り返った。その時。 「それって……スペルカード?」 良也が立ち上がってそう質問して来る。 その問いかけは俺にとって、一番あり得ない事だった。何故なら、これを知っていると言う事は『幻想郷』を知っていると言っているようなものなのだから。 あとがき 皆様、初めまして。ホッシーです。やってしまいました。初めてのクロスです。駄文でしたが、読んでくださってどうもありがとうございます。 俺が書いているのは『東方楽曲伝』と言う幻想入りで、pixivの方で上げさせて貰っています。まだ、始まったばかりで話数も……80話ぐらいですかね?一応、3日に1回、投稿しています。今のところは守れていますが今後どうなるかわかりません。 長々と書くつもりはありませんが一つだけ弁解させてください。 作中で響が使用したスペルを見て気付いた方もいるかもしれません。響の能力は『東方曲を聴いてそのテーマのキャラの能力を得る』と言うものです。実は、この能力。他の方が似たような能力をすでに思いついていたようで前にバッシングされた事があるんです。見た事があるって……。 まぁ、言い訳にしかすぎないんですが、それに気付いたのがこの幻想入りを上げて少し、経ってからなんですよ。さすがに書き直せなくて……すみませんでした。 それともう一つ。この能力は響さんの本当の能力じゃなくて――言うなれば、響さんの能力は『能力の内容が変わる能力』なんです。 つまり、条件次第で能力が変わってしまうんです。 え?能力名?あ……能力名ですが、こちらの方でもまだ、一度も出していないのですみません、言えません。 一応、pixivに投稿している。『東方楽曲伝』の方では色々な能力に変化しているので気になった方はpixivの小説で検索して頂ければ読めますので暇な時にでもどうぞ。 本当に長々とすみませんでした。続編も書くつもりなのでよろしくお願いします。 |
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