さて、みんなに麦茶がいったところで、
「それじゃあ、乾杯の音頭をメリーにお願いします」
「なんで私っ?」
「いいじゃない、誰だって。
 蓮子とかその辺りだと面白味ないし、たまには珍しい人がやった方がいいでしょ?」
 肉に熱視線を注ぎながら霊夢が言う。うん、
「面白味あるわねえ」
 幽香さんが笑って言う、メリーが詰まる。
「ああもうっ、どうしていつもこういうところで狙われるのよっ」
「あの、無理はしなくても」
 自棄っぱち気味に怒鳴るメリーに、水蜜がおろおろと、
 が、メリーは大きく肩を落として、せーの、と。
「かんぱーいっ」
 かんぱーいっ! と、全員の声が合唱した。
 そして一口。東北の夏、暑すぎはしないけど、いろいろ動き回って熱くなった体に心地いい冷たさ。
「それにしても、乾杯にはグラスをぶつける音がつきものだが、さすがに我がままか」
「やってもいいわよ、勇儀」にや、と萃香は麦茶が入った紙コップを掲げて「びしょぬれになる事、覚悟しな」
「それは勘弁だ、第一もったいない。
 せっかく作ってもらって注いでもらったんだ。ちゃんと飲み干すのが礼儀だろ」
 わかってるねえ、と萃香が笑う。そして、
「それじゃあ、焼きましょうか」おっとりと白蓮さんが首をかしげて「えっと、なにか決まり事とかあるのでしょうか?」
「なんでもいいわよ。
 火を通せば食えないものは何もないわ」
「……霊夢、それはちょっと考えが豪快ね」
 永琳先生は苦笑。まあ、それもそうか。
「豪快っていうか、適当っていうか」
 リグルは野菜をつまみながら笑う。
「でも、それでも料理はあんなに上手に作れるんだから。
 まったく妬ましいわ。雑で適当なのになんでもできるなんて」
「そりゃ天才の特権よ」
「また、凄い事を言うな」慧音先生は苦笑、まったく、と「霊夢らしいが」
「まあね」
 ま、そっちはいいとして、
「って、幽香さん、何やってるの」
「ご飯を炊こうと思って、蓮子、手伝ってくれない?」
 飯盒に、どこからか取り出した水と米を入れる幽香さん。メリーが楽しそうに手伝っている。
「楽しそうね、メリー」
「ええ、こういうアウトドアなのは新鮮だからね」
「やったことないのか? 蓮子とメリーは」
 妹紅が石を並べて着火剤を置く、それとマッチ。
「ええ、ないわ。
 本の世界だけね、完全に」
「そうか。
 京都だっけ? こういう事やらないのか」
「私はやったことあるよっ」
 サニーちゃんは胸を張る。ううむ、ちょっと羨ましい。
「チルノが自分に着火してパニックになってたわねっ」
「って、大丈夫だったのっ?」
 自分に着火って、……で、そのチルノちゃんは、
「なにいってるのっ、あたいが火くらいで負けるとでも思ってるのっ?」
「そういうものじゃないと思うんだけど、あんまり危ないことしちゃダメよ。チルノちゃん」
 めっ、とまあそんな感じでメリーがしかる。むう、とチルノちゃん。
「ま、そういうわけだ」妹紅はサニーちゃんとチルノちゃんに手を振って「こっちは私に任せてな、慧音から何かもらって食ってろ」
「「はーい」」
「焼肉には白米だぜっ、
 ほれ、さっさと作ってくれ」
「そうすぐには出来ないわよ」近寄ってきた魔理沙に幽香さんは手を振って「野菜でも食べてなさい」
「えーっ、やっぱり肉のほうが好きなんだけど」
「肉は渡さない」
「れ、霊夢、睨むな。なんか怖いぞ」
「いつも飢えてる我が店主ー」
「飢えてる言うなっ!」
 うがーっ、とミスティアに吼える霊夢。
「飢えてはいないけど、結構食べるわよね。霊夢って」
「そうなの?」
 うん、とリグルが頷く。ふと、
「太らないの?」
 問いに、霊夢は首をかしげて、
「知らないわよそんなの。
 まあ、たまに体重計に乗っても変わらないんだから、太らないんじゃない」
「…………だってさ」
「う、うるさいわねっ
 いいわよっ、私だって気にしないわよっ」
 メリーは自分から太るフラグを立てた。合掌。
「あら、体重とか気にしているの?」
 永琳先生の問いに、うぐ、とメリーは言葉に詰まり、……
「は、はい」
「ふふ、そうよね。女の子だものね。かわいい女の子だものね」
 かわいい。そう言ってメリーを撫でる永琳先生。――ただ、
「「どういう意味よ?」」
「あら、どういう意味かしらね?」
 思わせぶりに笑う永琳先生に、レイセンが、
「確かに、霊夢も蓮子も可愛いっていうタイプじゃないですね」
「じゃあどういうタイプよ?」
 胡乱な霊夢に、魔理沙がからから笑いながら、
「さあな。
 面倒なタイプじゃないか?」
「魔理沙に面倒と言われたら終わりね」
「黙れアリス、お前だって十分面倒だ」
 あらら、
「甘いわよ。女の子は面倒で複雑なほうが魅力的よ?」
 ねっ、と笑いかける。はっ、と魔理沙は笑う。
「馬鹿言うな。ストレートなほうがいいに決まってる。
 面倒なのは御免だぜ」
 うぬぬぬ、――――って、
「ま、あたいはなんでもいいですけどね。
 お肉が美味しければ」
「小町、食べすぎです。少しは落ち着きなさい」
「妹様、口元が汚れていますよ。
 それとお嬢様、野菜食べましょうよ野菜。肉ばかり食べてないで」
「野菜はあんまり好きじゃないなあ」
「えー、野菜は『Scarlet』から持ってきたのですよ。
 私が育てたやつですよっ」
「あははっ、美味しいねっ。ルナっ、スターっ」
「あつっ、あつっ」
「ルナったらどんくさいわねえ。
 はい、麦茶」
「は、はひはと」
「お肉美味しー」
「私は野菜のほうが好きだけど、……あっ、リグルっ、それ私が狙ってたやつっ」
「あ、そうだった? ごめんね」
「謝るならたーべーるーなーっ」
 って、
「うあっ、第一陣が無くなってるっ?」
「蓮子っ、あんたが変な事を言うからっ!」
「えっ、私のせいっ?」
「うわっ、その大きいヤツ私が狙ってたのにっ! ヤマメっ、食うなっ! 食うなっ!」
 にやー、と笑って、至極当然のようにヤマメはその大きめのお肉を食べる、はふう、と一息。
「美味しいねー
 いやいや、いい具合に焼けたお肉は絶品だよ」
「なら食うなーっ!」
「お野菜美味しー」
「リリーっ、少しはお肉も食べなくちゃあたいみたいに強くなれないわよっ」
「私は弱くてもお野菜美味しー」
「そう、じゃあ、あたいも食べるっ」
 賑やかな声、女三人集まれば姦しい、だっけ?
 さて、ではその十倍なら、どんなものか。――まあ、
「ちょっとっ! 私の分も取っておいてよっ!」
「待ちなさいっ、私の分も残しておいてよっ!」
「出遅れた蓮子と霊夢に残しておく肉はないよ」
 にやあ、と笑うレミィ。で、その傍らで、
「はい、メリーさん」「魔理沙も、そんなに肩落とさないでよ、これあげるから」
「ありがとう、白蓮さん」
「おっ、すまんな、一輪」
「「出遅れても受け取ってるじゃないっ!」」
「知らないよそんな事」

 ぱしゃぱしゃ、と。
「一休み?」
 問いに、ええ、と。
「賑やかなのは楽しいですが、ずっとそこにいるのも疲れますね」
 映姫さんはにっこりと笑顔。楽しんでくれてるんだな、とそう思うと嬉しくて、
「楽しそうですね。蓮子」
「そう?」
「笑っていましたよ」
「かも、うん、楽しいからね」
 だから、
「ね、私も隣、いい?」
「構いません。
 でも、貴女がいないと寂しがる人もいるのではないですか?」
「人を楽しませるサービス業をやるつもりはないわ。
 せっかくの機会なんだから」
「おや、そう言っていただければこちらとしても幸いですね」
 くすくす笑う。
「それにしても、映姫さん大変そうよね。
 なんていうか、ああいう公的機関? みたいな場所って」
 なんとなく固そう。
「ええ、そうですね。
 大変ですよ。書類は多いわ、意味不明な依頼は多いわ、……っと、すいません。愚痴になってしまいましたね」
「いえいえ、ささ、どうぞ仕事の不満を、ぱーっと」
 ほれほれ、と煽って見せると映姫さんは苦笑して、
「なんの煽りですか。
 蓮子、貴女はたまに悪乗りが過ぎます」
「かも、しれないわね」
「ふふ、愚痴を聞いてくれるのは有り難いですが、今はなしにしましょう。
 せっかくの機会なのですからね」
「聞いてくれる人がいるから?」
 問いに、映姫さんは言葉に詰まって、……苦笑。
「否、といっても嘘と断じますね。貴女なら。
 ええ、あとで酒を飲みながら小町に愚痴る事にします」
 ま、そりゃそうよね。
「ん?」
 なにか、じっと私を見る映姫さん。
「どうしたの?」
「いえ、蓮子こそ、嬉しそうですね」
「へ? そう?」
「なんというか、納得した、というか、仕方ないというか」
「まあ、納得はしたかな。
 そうだよね、愚痴るなら一番信頼できる相手よね」
「そ、それは、……その、」
 ちらちらと視線を向ける。その先、勇儀さんと豪快に笑いながら肉を食べる小町さん。
「別に小町など信頼していません。
 仕事はさぼるし適当だし、遅刻はするし、遊びに来た知人と無駄話ばかりするし、居眠りばかりするし、仕事中なのに遊び呆けるし、それに、――――」
 それに、と小町さんの愚痴を羅列する映姫さん。小町さんはくしゃみをして辺りを見渡す。
「それに、小町は「それでも一緒にいるんだから、映姫さんも有り難い人よね」酒、……へ?」
 挟んだ言葉に、きょとん、と私を見る。
「いや、そこまで愚痴をいいながら一緒にいるんだね」
「べ、別に、…………それは、その、」
 しばらくおろおろする映姫さん。――うわー、可愛いー、そして、拗ねたように私を見て、
「蓮子は、深入りが過ぎます。
 はあ、貴女の前では隠し事は出来ませんね」
「そんな事はないと思うんだけどね」
 そんなプライベートなところまで秘封倶楽部の理念を持ち込むつもりはないわよ。
「自覚をしなさい。
 貴女は自分に対して無頓着すぎます。そう、自覚をし、自戒しなさい」
「ええっ、ここでお説教っ?
 いや、こういうところでそれは」
 まさか、お説教が始まるなんて、が、映姫さんは意地悪く笑い。
「わかっています。こういうところでお説教も無粋という事は、
 それでも、必要ならします。それが年長者の務め」
「いやいやいや、必要なのっ?」
「ええもちろん、
 まず蓮子、貴女は無鉄砲すぎます。見ている方が危なっかしい」
「あら、お説教?」
 と、声、見る。同時に、
「幽香さん、助けてください」
「助けてとはなんですか? 貴女のためを思っての事です」
 幽香さんは楽しそうに笑いながら、
「そうね。私もいいたい事があるわ」
「ええっ、増えるのっ?」
 すとん、と私の隣に座る幽香さん。
「挟み撃ち?」
 しかも、善意でお説教をする映姫さんとは違い、幽香さんって、悪意でお説教しそう。
「あら、冗談よ。
 こんなところでお説教なんてしないわ。涼みに来ただけ」
 靴を脱いで靴下を脱いで、映姫さん同様川に足を入れてぱしゃぱしゃと水を跳ね飛ばす。
「そうですか、では、幽香は置いておいて、
 いいですか、蓮子」
「いや、よくありません。幽香さん、助けて」
 さらに始まるお説教、なぜか幽香さんは楽しそうに私を見る。
「えと、楽しい?」
「ええ、とても」だから、と幽香さんは私の手を握り「逃さないわ、もっと困ってなさいな」
「なにその新手のいじめ」
「いじめとはなんですか? 蓮子、貴女は自分が他人に与える影響が分かっていません。
 一度メリーとよく話し合いなさい」
「なにをっ?」
「貴女の事を、かしら?」
 左右を抑えられているので見上げる。その先にいる彼女に、
「あ、アリス、助けて、お説教されてるのよっ」
「こんなところでお説教される貴女も難ねえ」
「代ってください」
 結構真剣に頭を下げる。が、アリスはくすくす笑って、
「あら、私はお説教されるような事をしていないわ」
「うぐー」
 と、まあ、と苦笑。
「このくらいにしてあげましょう。あまり長話をするのも難ですからね」
 ほっと一息。
「あはは、でも、その会話、聞いてみたいわね。
 なんていうの? 蓮子、メリーに、私の事を教えて、とでもいうのかしら?」
「あ、それは私も聞いてみたいわ。楽しそうね」
「聞けないって」
 ため息交じりの声に、アリスがさらに楽しそうに、
「いいじゃない、私の事をどう思ってるの? とか聞いてみたら」
「そうですね、その事も把握しておきなさい。
 貴女が親しい人からどう思われているか、それを知ることが自分を知ることにつながります」
「ふふ、でも、面白いわねー、その場面。
 愛の告白みたいね?」
 噴いた。
「あ、あ、はっ? ちょ、幽香さん、なによそれっ」
「いいんじゃない?
 喫茶店とかで、言ってみたら? メリー、私の事をどう思ってるの? って」
「なんの告白シーンよっ! それはっ!」
 怒鳴る私に、幽香さんとアリスがけらけら笑う。
「なんの話をしているの?」
「どっか行けメリーっ!」
「ええっ? いきなりなにっ?」
「こら、いきなりそういうのは失礼だぞ」
 一緒にいた慧音先生が眉根を寄せていう。メリーは首を傾げる。
「照れくさいのでしょう?
 メリー、蓮子から貴女に聞きたい事があるそうよ?」
「って、幽香さん、ダメっ、やめてホントお願いしますっ」
「幽香にそれって逆効果じゃない。
 性格悪いし意地悪だし性根悪いし」
「メディスンは後でお仕置きね?」
「はいはい」メディスンは肩をすくめて「で、聞きたい事って」
「何なのよ、あっち行けとか聞きたい事があるとか」
「二人は友人だろ、なら、聞きたい事があれば遠慮なく聞いた方がいい」
 生真面目な慧音先生、首をかしげるメディスン。
「に、逃げ場がない」
「逃げる必要などありません」
 いけーっ、と囃し立てるアリスと幽香さん。
「なんで二人してそんな楽しそうなのよっ」
「だって、楽しいもの」
「ふふ、困っている蓮子を見るのもなかなか楽しいわね」
「それ楽しまないで」
「蓮子っ、メリーっ、何やってるのっ?」
「こんな隅っこで座ってないで、こっち来なさいよ」
 フランちゃんとレミィまでっ!
「そうね、……ええ、理由の説明が必要ね」
 にやあ、と笑う幽香さんが立ち上がる。よりによってレミィとフランちゃんとメディスンに耳打ち。
「どうした?」「なによ、一体?」
 耳打ちが終わる、レミィがにやー、と笑い、フランちゃんが楽しそうに、
「そうだねっ、私も聞きたいっ」
「蓮子の質問?」
「ううん、メリーの答えっ」
「いいじゃない? 別に変なことじゃないでしょ?」
 メディスンは真剣に首をかしげる。どうして聞きにくいの? と。
「え? なにこの布陣、私逃げ場がないじゃない」
「友達に質問をするのに逃場など不要だろう?」
 行けーっ! と。……ああもうっ、
「め、メリーっ!」
「は、はいっ?」
「わ、私の事をどう思ってるのよっ?」
「はひ?」
 きょとん、とメリーが眼を見開く。――え? なんでガッツポーズとかされるの?
「ど、どう、って? え?」
「メリー、貴女の素直な、気持ちが聞きたいそうよ」
 アリスが笑いをこらえて余計な補足をする。
「き、気持ちって、へ?」
「メリー、ちゃんと答えてあげなさい。
 これも蓮子のためです」
「え、映姫さんっ!」
 真面目なのか意地悪なのか、ある意味彼女が一番難しい。
「れ、蓮子のためって、……あ、あの、その」
 うぐ、……沈黙が痛い。
 と、映姫さんが真面目な表情で、
「メリー、貴女が一番蓮子の行動を近くで見ていたはずです。
 彼女の自分に頓着がないところ、ちゃんと伝えなければいずれ取り返しのつかない失敗をしかねません」
 あ、
「うわ、言っちゃったわ」
「あら、残念ね」
 失敗、と笑うアリスと幽香さん。
 へ、と、メリーが首をかしげて、
「愛の告白じゃないのっ?」
「蓮子がメリーに気持ちを確かめるとか、そういうのじゃないの?」
 フランちゃんとレミィが首をかしげる。
「幽香さん、何をどう伝えたのよ?」
「あるがままに伝えただけよ?
 メリーが蓮子の事をどう思っているか、蓮子が知りたいって」
 で、映姫さんが首をかしげて、
「私、何か変な事を言いましたか?」
「そんな事はない。
 確かに、自分の事を知るためには一番近い友人に聞くのがいい」
 真剣に首をかしげる映姫さんと、生真面目に頷く慧音先生。
 はーっ、とメリーが肩を落とした。そして、間違いなく私も。そして、メリーは苦笑して、
「まあ、いろいろ面倒な悪友かしらね」
「そんなところよね」
 はあ、と、一息、そして立ち上がる。
「さて、お腹すいちゃったし、また何か食べよう」
「そうそう、咲夜が焼きそばをとりにいったわ」
 さて、と戻り始める。首をかしげる慧音先生とメディスン、すこし残念そうな――何を期待していたかは考えたくもない――レミィとフランちゃん。
 アリスと幽香さんは肩をすくめて、それぞれ戻る。
「あはは、結局賑やかになっちゃったね」
「ええ、まあ」と映姫さんは肩をすくめて「蓮子、貴女が来たあたりで、こうなるとは思っていました」
「邪魔しちゃった?」
 問いに、映姫さんは首を横に振って、不意に、にや、と笑う。
 幽香さんが浮かべるみたいな、意地の悪い笑顔で、
「同性でなんて、はしたない」
「…………あははは」
 この人には勝てないな、と。
 先に立った私は手を差し出す。映姫さんは立ち上がろうとして、
「きゃっ?」「へ?」
 かくん、と。河原の石が傾いて、バランスを崩す。掴もうとした手が宙を切り、そこに体重を預けようとした映姫さんが、
 ばっしゃーんっ、と。
「あ、つつ」
「映姫さん、大丈夫っ?」
「ええ、大丈夫です」ただ、と苦笑して「ずぶぬれですね」
 うん、……ただ、服、透けちゃってるわよ?
「可愛い下着」
 へ、と映姫さんが固まり、……少しずつ、真っ赤になる。
「な、ななな、」
「さて、小町さんに「ちょ、ちょっと待ちなさいっ、蓮子っ」」
 手を掴まれる。映姫さんは河の中に座ったまま、泣きそうな表情で、
「こ、小町は、呼ばないでください。
 タオルを、それと、着替えも、お願いします」

「まったく、映姫様も意地っ張りだね。
 気にしないのに」
 小町さんは苦笑していう。そして、車からタオルと着替え一式。
「用意してあったんだ」
「そりゃねえ、咲夜が来た時着替え必須、とか言ってたからね」
 ただ、と苦笑して、
「川遊びなんてしません。私には不要です。とか言い張ってた映姫様が一番最初に着替えとは」
「あはは、それはまあ、事故なんだけど、
 それより急がないと」
 幽香さんあたりが茶々入れに行くかもしれない。
「意地っ張りっ……よね。
 映姫さん、小町さんに格好悪いところ見せたくみたいだし」
「あはははっ、ま、そうだね。
 そうそう、意地っ張りっていった事、映姫様には内緒にしておいてくれよ? 叱られちゃうからね」
「了解っ」
 私は着替えとタオルを持って映姫さんの所へ。
 途中、映姫さんの所に行こうとしている幽香さんを必死に抑えるメリーを横目に、
「映姫さん、持ってきたよー」
「あ、ありがとうございます」
 河原で、ぺたん、と座り胸を手で隠す映姫さん。とりあえずタオルを渡す。
「着替え、ここに置いておくけど」
 さて、どうやって着替えてもらおうか? ――映姫さんもそのことに思い至ったのか、固まった。
「さすがに此処で裸になるのは、ねえ」
「そ、そんな事、出来ません」
 うわあ、真っ赤。
「じゃあ、車の中行こうか」
 手を差し伸べる、映姫さんは手をとって、
「すいません、蓮子。
 二度手間になってしまいましたね」
「いいわよ、気にしないわ」
 手を繋いで歩き始める。つと、見えた永琳先生が野菜をつまみながら、
「大丈夫? 結構派手な音したけど」
「大丈夫。
 まあ、ずぶぬれだけど」
「あらあら」おっとりと首をかしげて「風邪をひいたら是非うちの診療所に」
「か、考えておきます」

 もう大丈夫、ありがとうございます。と車の中から消え入りそうな映姫さんの声を聞いて、私は賑やかな方へ。
「あ、炒飯?」
「ええ、美味しいわ」
 ぱくぱく、と、お皿に乗った炒飯を片手で持って、もう片方の手で箸を持つ豊姫が笑う。
 ただ、
「具は焼肉の余りなのよね」ひょい、と肉をつまんで「だからすっごく大きいの」
「ほんとね」
 炒飯の中に刻まれ散らされた肉じゃない、文字通り、ぴろーん、と肉がある。
 でも、
「そっちも美味しいかもね」
「美味しいわ。お勧め」
 そう言って示した先、慧音先生が豪快な手さばきで炒飯を作ってる。
「もらってくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい」
 ざっ、ざっ、と米を焼く慧音先生、と。
「お、なんだ。蓮子も飯食べに来たのか?」
「ん、まあね。
 せっかくだから一通りは食べないと」
「そうか。ならこれで腹いっぱいにするなよ」魔理沙は一角、積まれている段ボールを示して「この後、焼きそばでシメだぜ」
「そういう順番なの?」
「知らん。妹紅が米を食いたいって言って、それで始まっただけだ」
 なるほど、っていうか、
「誰も気にしてないか」
「ははは、味より気分が優先だぜ」
 それもなあ、とは思うけど、
「このメンツじゃそんなものかもね」
 魔理沙はその言葉を聞いて楽しそうに笑った。さて、
「慧音先生、私にもー」
「適当に持っていって構わないぞ」
 す、と示した先、しゃもじが置いてある。
 ありがと、と応じて近くのテーブルに積んであった紙皿をとる。
 どのくらい食べようかな、この後焼きそばらしいし。
「けーね、そろそろ代ろうか」
 妹紅がのっそりと顔を出す、ふむ、と慧音先生は頷いて、
「頼む」
「おっけー」
 そして、手の空いた慧音先生も紙皿を手に、しゃもじを握って、
「蓮子はどれくらい食べる?」
「え? いいわよ、自分で取るから」
「そうか、……まあ、そっちの方がいいか」
 納得をして手を引っ込める。ふと、
「そういえば、慧音先生、……って、何の先生」
「さんざん先生と呼びながら、今さら凄い事を聞いてくるな、蓮子は」
 くつくつ笑いながら慧音先生。――まあ、そりゃそうよね。
 ただ何となく、先生という言葉がしっくりきたから使ってたけど、
「あっちの」しゃもじを置いて手で示す先「サニーやルナ、スターたちが通っている学校のだ」
「『とおの昔話村』の職員じゃないの?」
「それは妹紅。……まあ、私も手伝ったりしているが」
 手伝っているどころか普通に職員やっていたような。
 ちなみに、その生徒たちは向こうで何か言いあってる、主にチルノちゃんとサニーちゃんが、
 当人たちは必死なのかもしれないけど、なんていうか、のんびり見ているスターちゃんとほわほわ微笑んでいるリリーちゃんがいるから、緊張感らしいものが全くない。ルナちゃんはこっちを見て、肩をすくめて見せた。
 手を振るとルナちゃんがこっちにぱたぱたと、スターちゃんは気付いたみたいだけど、会釈をしてまた観戦に戻る。
「どうしたの? あの二人?」
「さあ、知らないわよ。
 最初はどっちが食べた肉が大きいかで喧嘩してたんだけど、二転三転四転五転しすぎて二人も覚えてないんじゃないかしら?」
「脊髄反射で会話するとそうなるわよねえ」
「……言いたい事はわかるが、……まあ、そうだな」
 何かしようとしていた反論を引っ込めて、慧音先生は苦笑する。
「放っておいていいの?」
 ルナちゃんは慧音先生に問いかける。慧音先生は肩をすくめ、
「引っ張り合いくらいなら放っておけばいい。
 それ以上になったら、……喧嘩両成敗だな」
 とん、と何のジェスチャーかはわからないけど額を叩く、ルナちゃんは同情するような目をチルノちゃんとサニーちゃんに向けた。
「喧嘩するほど仲がいい、ってことなのかしらね?」
「そうよね」はあ、とルナちゃんは肩をすくめて「少しは大人しくすればいいのに」
「かもしれないわね」
「ええ、同感」
 うぐ、
「め、メリー?」
 振り返る、前に頭を押さえられる。ぽんっ、と帽子ごしに広げた手の感触。
「蓮子もちょっとは落ち着きなさいよ。
 見ているこっちは気が気じゃないんだから」
「むー」
「はは、どこも大変そうだな」
 けらけらと、楽しそうに慧音先生が笑う。まあね、と上からメリーの声。
「メリーは大変?」
 ルナちゃんは軽く首を傾げて問う。
「まあ、ね」
 ぽん、ぽん、とメリーは私の頭を叩きながら応じる。ルナちゃんは頷いて、
「私も、サニーは目を離すとすぐ動きはじめるし、
 スターは目を離すとすぐにサボり始めるのよ」
「あら、それは大変ね」
 メリーは笑って応じる。けど、と。
「でも、そんな二人と一緒にいるのが楽しいのよね」
 メリーの不意の一言に、ルナちゃんは固まる。――――しばらく、目をきょときょとさせて、
「メリーは、どう、なのよ?」
「楽しいわよ。蓮子と一緒にいるのは」
 ほんと、どうしてこういう事はあっさりと言えるんだろ。
 はあ、と、ため息。重なった。――見ると、ルナちゃんも同様にため息を一つ。
「なによ、二人揃って」
 胡乱そうな問いに、持ち上げた視線の先、慧音先生がくすくす笑っている。
「別に、メリーって恥ずかしい事を平気で言うのね、って思ったの」
「そう?」
 心底不思議そうに首をかしげるメリーに戦慄、ルナちゃんはすっ、と立ち上がって、ぱたぱたと、……ふと、こっちを見て、
「私も、楽しいわ。サニーやスターと一緒にいるのは」
 恥ずかしそうに早口でそう言って、スターちゃんの隣へ。何か言って、スターちゃんが笑って、ルナちゃんが肩を落として、
 そして、サニーちゃんがそっちを見て何か言い張って、……そんなやり取りが、
「楽しんだろうなあ」
「楽しんでいるからな。
 友達はいいものだ」
「なぜかしら、慧音先生が言うと一般論でも妙に含蓄があるように聞こえるわ」
 そうか? と慧音先生が首をかしげた。

 リリーちゃんに拉致されるメリーを見送って、私は炒飯を片手に適当に歩く。
 さて、一人で食べようか、雑談を肴にして食べようか。……まあ、あんまり迷う事はないか。
「よっす、蓮子っ」
「あ、萃香」
 危うく炒飯を落としそうになった。ともかく、
「どうしたの?」
「ん、お話し、しよ?」
「改めていう必要もないと思うけど、
 そうね。どこか座る?」
 問いに、あっち、と萃香が誰もいない一角を示す。
「おっけー」
 萃香と向こうへ、ふと、こっちを見て、
「改めていう必要あるわよ。
 たいてい誰かと話してるじゃない。霊夢みたいね」
「そう?」
 問い、視線を向けるその先、咲夜さんとレミィと、何か話してる霊夢。
 と。萃香はぺろっ、と舌を出して、
「ごめんね、こんな事言って」
「いや、いいわよ。
 ま、私も落ち着いて食べたいしね」
「えーっ、落ち着くの?
 賑やかに食べようよ、ぱーっと騒いでさっ」
「食事時よ食事時、宴会とは違うの」
 萃香は不貞腐れたように河原を蹴る。なんだい、と、
「そこに友がいる。
 それだけでいいじゃない。賑やかになるのは」
 まったく、――ぽん、とその小柄な頭を撫でる。
 不思議そうに見上げる萃香に、
「食べながらだから、あんまり賑やかなの期待しないでよ」
「しょうがないか、まっ、話しに付き合ってくれるだけでいいや」それに、と猫みたいに目を細めて「撫でられるの、心地いい。もっと撫でて」
「そんなもの?」
「そんなものそんなもの。
 あ、勇儀には言わないでよ。あいつ絶対に滅茶苦茶やるんだから」
「勇儀さん」ざっとみる、いた。魔理沙を前に豪快に何か笑ってる「ね、わかったわ」
 さて、この辺かな。手を離す、萃香は不満そうに膨れたけど、
「よし、ここね?」
「まあね」
 すとん、と座った。私も隣に座る。
 では、
「いただきます」
「私が召し上がれって言っていい?」
「いいわよー」
 萃香は笑う、楽しそうに、
「ね、萃香」
「ん?」
「楽しい?」
「それ期待してるんだけどね?」
「期待されても困るけどね。
 じゃなくてさ、ここの生活」
 萃香は、苦笑。
「楽しいよ。
 不便だけどね、……それも、楽しいってたまに思えるんだから、私も楽よね」
「幸せ、でいいんじゃない? 楽よりは」
「かもしれないわね」
 そして、けらけら、と萃香は笑う。
「よく笑うわね」
「そう?」
 胡坐をかいて、手で足首を掴んで、そんな仕草で萃香は首をかしげる。
「うん、楽しそうだなって」
「楽しいわよ、毎日」
 そして、ぐるり、とあたりを見る。
 遠くに見える山々か、そのふもとに見える田んぼか、向こうに見える遠野の町か、それとも、近くで遊ぶ少女たちか、
 辺りを見て、萃香はからっ、と笑って、
「私さ、樵なのよ」
「うん」
「だから、いつも山に入って、生活してるんだけど、凄いんだよ」
「凄い?」
 問いに、萃香はうんっ、と大きく頷いて、
「山がさ、いろいろな木とか鳥とか生物がいて、そこに入るだけで楽しいんだ」
 萃香は遠くを眺める、遠く、遠野の山々を、……あるいは、そこにいる、いろいろなものを、かな。
「楽しそうね、それは」
「楽しいよっ!
 川とか綺麗だしっ、たまに滝を見かけたりもするしっ、山の湿った空気もいいしっ、今度、……あ、」
「あはは」
 苦笑する、萃香が言おうとした事はわかる。
 今度遊びに来なよ、かな? それは、無理。
 明日には、帰るのだから。
「ごめん」
 しゅん、と俯く。私はその頭をかしかしと撫でる。
「蓮子?」
「ね、だからさ、
 もっと聞かせて、萃香の大好きな山の噺。
 せっかくだから土産噺、沢山頂戴?」
「う、うん」
 萃香は照れくさそうに頬を掻いて、
「じゃあ、聞いて、私の噺」
 伺うような視線に、私は笑顔で頷く、ええ、もちろん、
「楽しみにしているわ。樵さん」
 だから、
「聞かせて」
 ぱっ、と萃香が笑顔を見せた。

「蓮子っ!」
「魔理沙」
 あ、と小さな声。萃香がちょっとムッとした表情で魔理沙を見る。
 話し足りない、って顔ね。まあ、
「どうしたの?」
「そろそろ腹も膨れただろ? 川で遊ぼうぜ」
 指鉄砲のポーズ、川、で、か。
 どうしようかな、と。
「よしっ」
 萃香が立ち上がる。
「噺の時間は終わり、それじゃあ、一緒に遊ぼうっ」
「もちろん、萃香だけじゃないぜ?
 ほれ、あっち」
 見ると、アリスが手を振ってる。水蜜、一輪もいる。…………と? よし、
「それじゃあ、私はちょっと巻き込む相手増やしてくるから、
 二人は先遊んでて、追加で遊べそうな感じで」
「了解っ」
「ん? 誰か誘うの?」
 萃香の問いに、私は笑って視線を投げる。
「もちろん、傍観しそうな人をね?」

「とっ、よっ、ひっ、めーっ」
「ん、あ、蓮子っ?
 どうしたの?」
 駆け寄った私に豊姫が顔をあげる。――けど、本命は彼女じゃなくて、
「遊びましょ?」
「ええっ、そうしましょっ。
 依姫もね?」
「え、あ、はい?」
「あ、私もっ、何して遊びますか?」
 きょとん、とする依姫と顔をのぞかせるレイセン。なにで遊ぶのか。
「川」
 示した先、魔理沙と萃香が文字通り突貫、……転がる萃香、なにやってるのかしら?
 へ、と。
「あら、楽しそうね。
 大丈夫よ。三人分の着替えはあるから」
 だから、と永琳先生は、
「三人とも、遊んできなさい」
「はいっ」
 豊姫は目がきらきらしている。
「あ、私も、いいですか?」
「もちろんよ」「行きなさい。遊ぶのはいいけど、迷惑はかけすぎないようにね」
「は、はいっ、がんばりますっ」
 気合いを入れられてもねえ、……まあ、
「気にしないわ、気楽に笑って遊びましょう」
 はいっ、とレイセン、彼女の肩に豊姫が手を乗せて、
「よかったわね」
「はいっ」
 で、…………
「え、か、川で、ですか?」
 集まった視線に後退する依姫。
「そ、川で」
「大丈夫よ、依姫。
 貴女の着替えもあるのだから」
「え、えっと、
 わ、私はここで見ています」
 ぽん、と。
「あ、あの? お姉様?」
「ごめんね、依姫。
 私は貴女と一緒に遊びたいの」
 ほんわかと微笑む豊姫、そういうふうに言われた依姫は返す言葉もなく、だから、と豊姫が、
「一緒に遊びましょう?」
「は、はい」
 頷いた。だから、
「レイセンっ、右手抑えてっ!」
「はいっ」「へ?」
 うん、
「突撃ーっ!」
「え? へ、ちょ、なっ?」
 言うと同時に、両手を抑えられた依姫が、豊姫とレイセンに押されて走り出す。
 後ろ、永琳先生が笑って手を振っている。そして、そのまま、
「きゃーっ?」
「……また、派手な登場ね」
 萃香が呆れた口調で言う、ざっぱーんっ、と三人分の水音が響き渡った。
「あはははっ、楽しいわねっ」
 ざぱっ、とびしょぬれの豊姫が顔をあげる、彼女は満面の笑顔で、
「ねっ、依姫っ、レイセンっ」
「はいっ」
 ずぶぬれな自分を苦笑して、レイセンも笑う。楽しんだもの勝ち、とそんな事を思い浮かべる傍ら。
「お、……姉様、それと、レイ、セン」
「「ひっ」」
 びしょぬれで、前髪が目にかかり顔の半分は見えない依姫の口元が、笑う。
 水の冷たさとは別の理由で震えるレイセンは豊姫の後ろへ。豊姫は対峙するように依姫の前に、……そして、
「依姫」豊姫は可愛らしいウインク一つ「怒っちゃ、いやっ」

 激怒した依姫が豊姫とレイセンを――川の中で――追いかけまわすのを横目に、靴を脱いで靴下を脱いで、それと、帽子もそこにおいて、ネクタイも、かな。
 スカートとシャツだけ、となって私は川に入る。
 横目に見るのはきゃあきゃあ楽しそうな悲鳴をあげる豊姫とレイセン、依姫も少しずつ表情から険が取れて、
「まちなさーいっ」
「あははっ、捕まえてみなさいっ」
 追いかけっこ、まさにそのままな様相で三人は出鱈目に水の中を走る。なんだかんだで、依姫も楽しそうね。
 ん、冷たい。――けど、それだけじゃあ面白くない。
「萃香っ」
「な、なに?」
「山は好き?」
「え、ええ、好きよ」
「川は?」
「ま、まあ、好き、かな」
 よし、
「とりゃーっ」「ひゃーーっ」
 萃香に飛びつく、萃香は逃げようとして、足をとられて、
「ひゃっ」
 転んだ。ざぱんっ、と。その上に私が抱きつくように倒れる。
「うわ、びしょびしょ」
「あははっ、まあねっ
 いやなら謝るわっ」
「いらないわよっ、代わりに、「あら、先にこっちと遊んでもらうわよ」へ?」
 と、萃香と顔をあげた先に見える。水?
「ひゃっ!」
 それが私の肩に当たる。軽い衝撃、を無視してみると、
「レミィ、なに、その頭の悪い装備?」
「いいセリフね」
 じゃきっ、とそんなノリで巨大な水鉄砲を構えるレミィ。
 ちなみに、濡れた時の配慮か何なのか、彼女は白い無地のワンピース。見た目は、――うん、清楚なお嬢様、なんだけどね。
 巨大な水鉄砲を構えて、にや、と笑うレミィはそんな弱々しい印象など何もない、だからこそ、
「レミィ、どこにあるの? それとも、一方的にやるのを楽しめる性格?」
「なら、窮鼠の意地を見せないとね」
 萃香の危険な笑みに、レミィの悪意満点の笑み、彼女は近くの河原を示す。
 困ったように笑う咲夜さんと、その足元に大量の水鉄砲。――うん。
「咲夜、あんたも参加しなよ」萃香は私の肩を叩いて「二対二のほうが面白いだろ?」
「咲夜」
「ええ、承知しましたわ。お嬢様。
 それと、お二人は泣言の御用意をお勧めします」
 さて、水鉄砲をとって、給水。咲夜さんとレミィは私たちを待って、……さて、
「始めましょう」「始めよっか」「始めよ」「始めますよ」
 ざっ、と銃口が跳ね上がった。
 先手必勝、と持ち上げて引き金を引く、けど、
「うわ、早っ」
「蓮子、単純すぎるわよっ」
 ぱっ、と左右に分かれて跳ぶ咲夜さんとレミィ、当然あげた腕は止まらず、引き金を引く指も止まらず、
「ひゃああっ!」
「あ、霊夢、ごめんね」
 涼んでいた霊夢の顔面に直撃した。
 あ、と。萃香が呟く。ふらり、霊夢が立ち上がり、
「ルーミアっ」
「なーにー?」
 ぱたぱた、とルーミアちゃん、首をかしげてミスティアとリグル、それとパルスィとキスメ、……で、
「一斉砲撃っ!」
「「「「「らじゃーっ!」」」」」
「って、なんでその子達隠し持ってるのよーっ!」
 五人分の水鉄砲が、文字通り一斉射撃。
「ひゃあっーっ!」
「って、ばかっ! 霊夢っ! こっちにもあたるだろっ!」
 一足先に水の中にいた魔理沙は巻き添えをくらって転ぶ。倒れた魔理沙に霊夢はなぜか水鉄砲を連射しながら、
「うるさいっ! 巻き込まれろっ!」
 そして、こっちを指差す、びしっ、と横にいる女の子たちに、
「撃てーっ!」
 霊夢の号令一同、思い思いに水鉄砲を掃射する。もちろん、
「っきゃっ! ちょ、霊夢、それ、あぷっ」
「お、お嬢様っ!」
 顔面に直撃したレミィはそのまま転んで、――萃香と目配せ、
「「いけえっ!」」
 へ? と、声に反応した咲夜さんは、
「わっ」
 よし、と。萃香とキメポーズをとる。こういう時のセリフはもちろん、
「「悪は「お前たちよっ!」きゃああっ!」」
 霊夢、キメ台詞をとるのはよくないわ。
「やったわねー」「やろうっての?」
 ずぶぬれで立ち上がる、霊夢も右手に水鉄砲を構えてこちらへ。
「へへ、なら次は霊夢だ。
 覚悟しな」
「おおっと、萃香。お前の相手は私がやってやるよ」
 魔理沙は両手に構えた水鉄砲で笑う。霊夢の射撃でびしょぬれ、それに、不敵な笑み。
 萃香はそれに応じるように笑みを浮かべて、
「いいねえ、私に喧嘩を売るなんて、
 そういうやつ、大好きよ」
 一触即発、そこに不意打ち気味に打ち込まれる水鉄砲。
 誰を狙ったわけでもないけど、……そっちを見る。そこにはずぶぬれで不敵に笑うレミィと、危険に笑う咲夜さん。
「私たちを忘れてもらっちゃあ困るわね」
「ずぶぬれのお嬢様を見せていただいた恩はあれど、とはいえやったらやり返すのは至極当然の流れですわ。
 ええ、百倍返しです。サービス満載で行きますよ」
 真顔の咲夜さんに、レミィは何とも言えない表情を向ける。
「へえ、やってもらおうじゃない」
「そのサービス、私にもくれるんだろ?」
 挑発には真っ向から笑みを持って応じて、……さて、
「なんか、無駄に賑やかになってるわね」
「ええっと、いいのでしょうか?」
「放っておけばいいのです。ああやって頭冷やすくらいがちょうどいいのです」
「まあ、風邪引かない程度にな」
 永琳先生と白蓮さん、映姫さんと慧音先生の呆れたような声を背景に、――さあ、
「「「「「勝負っ!」」」」」

「……蓮子ってさ、馬鹿よね」
「うるさい」
 土手に倒れる私は疲労困憊、水の中走るの邪魔とスカートまで脱いじゃったので、着ているものはシャツと下着のみ、
 うう、ぐしょぐしょ、
「なんか、死屍累々っていう感じですね」
 おっとりと笑う美鈴さんに、私と同様疲労困憊で倒れるレミィが、
「余計な、事をいわなくて、いいの」
「あははっ、お姉様えろいわっ」
「黙りなさい、フランドール」
「つ、疲れたぜー」
 ごろごろ、と。寝転がる私たち、――フランちゃんの言葉通り、格好はかなりあれだけど、
「色気ないわねー」
「悪かったな」
 こっちも私と似たり寄ったり、シャツと下着だけな萃香がぐったりと寝転がってる。
「ああ、疲れた。
 山駆け回るのより疲れた」
「抵抗あるからかしらね」
「まったく、……ああ、疲れたあ。
 昼寝したいわー」
 霊夢の声もどんよりと響く。
 と、
「わっ」
「ほら、タオル。
 さっさと拭いて着替えちゃいな」
 タオルをどかすと、勇儀さんが倒れている女の子たちに適当にタオルを放り投げている。
 着替え、……「メリー」
「はいはい、持ってきてあげるわ。
 ちょっと待ってなさい」
「ふぁーい」
 ぱたぱたと着替えをとりに行くメリー、――にしても、
「笑われるわねえ、私たち」
「そりゃそうよ。
 なによ、川ん中でこんなになるまで水掛け合って、びしょびしょになって倒れてるなんて、指差されて笑われるわ」
 霊夢がため息交じりに同意する、けど、と。
「楽しかったからいいか、とか、そう思っちゃうんだけどね」
 だからしょうがないわね、と霊夢はため息をついた。



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