「それにしても、当然まずは準備よね。運び出し。
 大変だわ」
 メリーが苦笑しながら、巨大な冷蔵庫から材料を引っ張り出す。
「まあいいじゃない」よいしょ、と私は野菜が入った段ボールを抱えて「準備も花、楽しめるところは楽しみましょう」
「それもそうね」
「前向きですね」
 苦笑するのは私たちと一緒に野菜とかを運び出している水蜜。
「前向きっていうか、開き直ってるっていうか」
「もうそれでいいわ。
 開き直り上等、楽しければそれでいいとは言わないけど、楽しまないと損をするわ」
 なるほど、と水蜜。
「楽しい事が大好きなんだねえ」
 水蜜と同様、箱を持ちながら一輪が笑う。
「っていうか、それ当たり前じゃない?」
「そこまで吹っ切れるのは珍しいと思うわ。
 と、それより、トラックが来るらしいけど」
 一息、タオルで汗をぬぐう。
「結構あったけど、何人参加するの?」
 さとりちゃんたちもいないし、『Scarlet』にいたメンバーじゃ間違いなくあまる。
 と、
「お、いたいた」
「やっほー」
 バックしてこっちに来るトラック、運転席から顔を出すのは勇儀さん、そして、荷台に座っているのは萃香。
「さて、さっさと積んじゃって」
「萃香と勇儀さんも参加するの?」
 問いに、うん、と二人は頷いて、
「言っておくけど、私たちだけじゃないよー参加してるの。
 楽しみにしておきな」
「だけじゃあない?」
 何か気になるフレーズ、問いに、萃香は笑って、
「まあね、『博麗』の荷物運ぶのは手伝ったし、その時霊夢とかちっちゃいのとか運んだけど」
 と、首をかしげる萃香。
「そうそう」勇儀さんが運転席の窓から顔を出して「『伝承園』の、幽香とメディスンだっけ、車あったよ、来てるんじゃないかな」
「ほんと、大規模になりそうね」
 メリーが苦笑して言う、――大規模、まあ。
「どれだけ楽しめるか」
「楽しみ、ですね?」
 水蜜にはもちろん、と頷き返す、さて。
「私達も乗って行っていい?」
「もちろん」
 差し出される手、私はその手をとって荷台に足をかけて、
「よ、っと」
 ふわ、と。跳んで帽子を抑えて着地、へえ、と。萃香が、
「身軽だねえ」
「ん、まあね」
 そして手を伸ばす。メリーの手をとって、
「よ、と」「きゃっ」
 一気に引き上げる、バランスを崩したメリーを、
「っと、危ないわよ」
 抱きとめる。
「大丈夫?」
「う、……うん」
「メリーって微妙に鈍いわね。
 荷台から落ちないでよ」
「…………気をつけるわ」
 ならよし、と私は手を出す、「ありがと」と一輪を引っ張り上げて、座る
「乗ったー?」
「おうっ、行け勇儀っ」
「了解っ、者共、落ちるんじゃないぞっ」
「了解っ」
 と、声を飛ばすと、前から豪快な笑い声。そして、発車。
「さて、どんな感じになってるかなあ」
「萃香さん、何人参加するとか聞いていますか?」
 水蜜の問いに、いや、と否定。
「私は知らないよ。
 昨日、『博麗』で飲んでたら咲夜に言われてね、面白そうだから乗った」
 ……咲夜さんか。
 なんとなく、何となくだけど、
「あのさ、蓮子。
 咲夜さんって、面白そうだからっていう理由で無茶しそうよね」
「うん、同感」

「おーっ、やってるねー」
 河原の一角はすでにいろいろな鉄板やらが並べられ、簡単な調理台の上では霊夢や白蓮さん、咲夜さんが包丁を握っている。
 ともかく、トラックは河原の一角、いくつかの車が駐車してあるところに停車。さて、
「それじゃあ、荷物を運んじゃおうか。
 ほらほら、降りた降りた」
 萃香に言われ私たちはトラックから飛び降りる。とんっ、と。帽子を抑えて着地。
 同様、手をついてふわり、と身軽に着地する萃香。
「ほんと、身が軽いねえ」
「ん、まあね」
 特に運動部に所属していた事はないけど、バランス感覚は優れている、と自負はある。
 散歩も好きだしね、……とは関係ないか。
「よっと」
 一輪と水蜜も乗り越えて降りる。で、
「ほら、メリー」
 そういうのが苦手なメリーに手を出しだす、が。
「え、えいっ」
「へ?」
 ひょい、と跳んだメリーは、
「って、メリー」
 がく、と荷台の縁に足を引っ掛けてバランスを崩す。
「きゃっ」「っと」
 バランスを崩して倒れ込むメリーを抱きとめる。
「まったく、メリーはとろいわね」
「う、うるさいわねっ」
 ぽん、と帽子を直す。
「さて、それじゃあさっさと持っていっちゃおうか。
 のんびりしてると日が暮れる」
「それは困るわね。
 お祭り行かなくちゃいけないし」
 行かなかったらさとりちゃんとか怒るだろうなあ。とか。
「さて、そういう事」よいしょ、と勇儀さんが箱を抱えて「食材とか運んで行っちゃって、私と萃香で降ろすから」
「えっ、ちょっとそれ先に言ってよ。
 私降りたの意味ないじゃないっ」
 萃香が文句を言うけど、さっさと降りちゃったからなあ。
 勇儀さんは萃香の非難にからから笑って、
「なに言ってるんだ。
 なにも聞かずに降りちゃったのは萃香だろ?」
「ぐ、……わかったわよ」
 とんっ、と萃香も軽く跳んでトラックの荷台へ。
「さて、それじゃあ運んで行っちゃいましょうか。
 私とメリーで向こうまで届けるから、一輪と水蜜で二人から受け取ってくれる?」
 問いに、三人は頷く、だから私とメリーは中間地点位へ。
 それじゃあ、と萃香と勇儀さんが一輪と水蜜に箱を渡す。その中には食材。
「はい」「では、お願いします」
「ええ」「ん、じゃあそっちもよろしく」
 言葉を交わして、荷物を受け取って、戻って進んで、私とメリーは霊夢たちのいる方へ。
「はーい、食材追加よー」
 ひらひら、と霊夢に向けて言う、霊夢はこっちを向いて、
「まだ来るのっ?」
「結構用意しましたね」
 苦笑する白蓮さん。
「どうでもいいんだけど、咲夜。
 どのくらい呼んだの、なんかかなりいろいろ用意してあるけど」
「そうですね、大体三十人くらい。がんばりましたわ」
 むん、と拳を握る咲夜さん。うん、
「「がんばりすぎよっ」」
 ぐりん、とそっちを向いた霊夢と、呆れたため息つきで私が告げる、咲夜さんは楚々と微笑む。
「ええ、これもお嬢様の御威光ですわ」
「えーっ、絶対ただ飯目的とかそういうのよ」
 胸を張るレミィの横からフランちゃん。……なんとなく、なんとなくだけど、
「参加者の中に魔理沙いる?」
「ええ、ただ飯のために」
 あ、やっぱり。――と、
「おーいっ、蓮子ーっ、メリーっ」
 あ、しまった。
 向こう、見ると水蜜と一輪が荷物を抱えて首をかしげている。やば、戻らないと、
「ちょっと待って」「急ぎましょう、蓮子」
 もちろん、と私は頷いて駆け戻る。
 後ろ、白蓮さんの苦笑を聞きながら、
「ごめんごめんっ」「ごめんなさい、ちょっと話しこんじゃったわ」
「ふふ、まあ、気持ちはわかります」
 苦笑する水蜜には感謝。
 さて、私とメリーは荷物を受け取って、また戻る。
 二度、三度、と繰り返したあたりで、
「車?」
 きっ、と見覚えのある車が止まる。――見覚え、って、
「幽香さん?」
「やっほー」
 車から飛び出して手を振るのはメディスン、運転席を見ると、案の定、シートベルトをはずしながら幽香さんが顔を出した。
「こんにちわ、およばれしてきたわ」
「お土産もあるわよっ」
 メディスンは言いながら、車の後ろを開ける、そこには、
「おっ、いいねっ」勇儀さんはそっちを見て笑って「やっぱり、食事は米がないとなっ」
「ええ、鉄板もあるのだし、後で炒飯にでもしましょう」
 確かに、それはそれで美味しそうね。――でも、と。
「ちょっと持ってきすぎちゃったんだけど、
 ねえ、誰か運んでくれない?」
「後でね」
「それもそうね。
 メディスン、とりあえずあっちに顔を出しましょう」
「はーいっ」
 あっち、鉄板とかが並ぶ方、幽香さんとメディスンは歩き出す。
「はい、っていうか、随分こっちまで来たね」
「私たちは楽ですけど」
 あ、しまった。――まあ、
「いいわよ、持っていくから」
 メリーも笑って受け取る。
「では、お言葉に甘えます」
 野菜の入った箱を受け取り、私達も幽香さんたちの後を追うように向こうへ。
 と、がらがらがらっ、と音。
「台車?」
 ミスティアとルーミアが台車を押して走っている。その横をリグルとヤマメ、パルスィが続く。
「あー、蓮子とメリーだー」
「台車なんてあったんだ?」
「ええ、そうよ」パルスィが奥の車を示して「お米持ってきたみたいだから、台車に乗せて運ぶわ」
「手伝い手伝いおーてーつーだーいー」
 くるくる回って歌うミスティア、うん。
「「がんばってね」」
「おーっ」
 ヤマメが手を振り上げる。そして、またがらがらと走っていった。
 その後ろ姿を見送って、くすくす笑うメリー。
「元気ね」
「ちっちゃい子はね。……そういえば、ルナちゃん達も来るかしら?」
「かもしれないわね」
 来たらまた賑やかな事になりそうだなあ。とか期待してみる。
 そして、そんな往復を何度か繰り返して、……さて、
「これで最後ね」
 向こうから来たのは勇儀さんや萃香、水蜜と一輪とこっちに来ている。そして、遠目に見える荷台は空。
「このままもって行っちゃいましょうか?」
「ううん、せっかくだから最後までやらせて」
 そうですか、と笑って頷く水蜜から箱を受け取る。
「そうそう、咲夜さん随分誘ったみたいね」私同様箱を受け取った箱を抱え直し「なんか、三十人くらいとか」
「うわっ、随分と誘ったな」
「いいじゃないか、楽しそうでっ」
 勇儀さんが豪快に笑う、まあ、
「楽しいわよねー」
「くなりそう、とか言わないあたりが蓮子さんですね」
 水蜜が笑って言う、そう? と問い返すと。
「ええ、どちらかといえば、楽しくする、といいそうです」
「私はそういう人は好きだよ。
 いいねえ、前向きで」
 まあね、と頷いて、
「何事も楽しくやった方がいいわよ」
「準備もね」
 まぜっかえす一輪にもちろん、と胸を張る。
 と、
「来たなただ飯ぐらい」
「来ていきなりそういうふうに言われるとは思わなかったぜ」
 にや、と笑う魔理沙、と。彼女は泥棒みたいに大きな風呂敷を持っている。
「私は一緒にしないでよ?」
 そんな魔理沙を横目でにらむアリス。へえ、と。
「それじゃあ、アリスはなにを持ってきたんだ?」
 そのアリスも大きなリュックを背負っている。確か、二人は『霧雨道具屋』で一緒に働いていたはず。
「知らないの?」
 問いに、魔理沙は、ああ、と力強く頷いて、
「お互い何を持ってくるかは秘密にしてたんだ。
 そっちの方が面白いだろ、なんとなく」
「これはまた、蓮子さん以上に変なところに楽しみを見出す人ですね」
「うん、負けたわ」
 思わず水蜜と俯く私、そして、それを横目に、
「なんだよ。私が蓮子のなにに勝ったんだ?」
 不思議そう、というよりは唇を尖らせて魔理沙。
「ん、どんな事でも楽しめるって事」
「それこそ勝ち負けの意味がわからん。
 第一、どんな事でも楽しめる? 何だって楽しまなくちゃ損だろ」
 至極当然、と言い切る魔理沙。
「格好いいわねえ」
「はあ?」
 そんな魔理沙を見て、しんみりと呟くメリー、そして、変な声をあげる魔理沙。――ただ、
「格好いいって、あのな。私は女の子だぞ。
 格好いい、と言われてもそんなに嬉しくはないぜ」
「いやいや、格好いいわよ。魔理沙」
「黙れアリス」
 けらけら笑うアリスをじとっ、と睨む魔理沙。
「それはともかく、二人は何を持ってきたの?」
「飲み物よ」アリスはリュックを降ろして一息「紅茶、と思ったけど、バーベキューじゃあれだし、麦茶持ってきたわ」
「あー、あまり飲み物考えてなかったな」
 そういえば、と。萃香。
「やっぱり、食べる事ばかり考えていたんでしょ?」
「あははは」
 返す言葉もありません。――で、
「それで、魔理沙。
 貴女は何を持ってきたの?」
 風呂敷袋の中に何が入っているのか、……っていうか、リュックとかなかったの?
 なんていうか、
「家出少女みたい」
「一概に間違いとは言えないのが辛いな」
「私は泥棒を思い浮かべたけど」
 それもそうね、とメリーに同意。そして、魔理沙は重々しく頷く。
「一概に間違いとは言えないのが辛いな」
「言いなさいよ。せめてそっちは」
 むぅ、と唇を尖らせ、風呂敷を置く。そして広げる、出て来たのは、
「どうだっ、七輪だっ」
 胸を張らないでほしい、リアクションしにくいわ、ほんと。
「……それ、何に使うのですか?」
 水蜜が真剣に首をかしげる。
 あるのは七輪、ただそれだけ、他に何があるわけでもない。
「まあ、焼肉?」
「こんな小さいので?」
 うーん、と首をかしげる私たち、アリスは顔に手を当てて俯く。
 そして、一輪が代表して、
「使い道がないわね」
「餅でも焼けばいいだろ? 醤油ぐらいあるだろ」
「おっ、いいねっ。
 お餅は好きだよ。私。熱々のを海苔でまいて醤油につけて食べるなんて、たまらないねえ」
「……勇儀さん、期待しているところ悪いけど、
 たぶんそのどれもないと思うわ」
 餅も海苔も、……醤油は、あるかもしれないけど、
「なんだ、それは残念だな」
「うわ、また材料が増えた」
 眉根を寄せる霊夢、まあ。
「これで最後よ」
「そっち、代ろうか」
 荷物を置いてメリーが向こうへ。顔を輝かせたのは、
「よしっ、お願いっ」
 霊夢が我先にと包丁を放り出す。それを見てため息をつく咲夜さんと、微笑する白蓮さん。
「ええ、わかったわ」
「ありがとー、メリー」
「白蓮も、そろそろ交代しましょうか?」
 水蜜が笑顔を浮かべる霊夢を見て問いかける。
「そうですね、お願いしていいですか?」
「はい」
 水蜜が包丁を受け取る、白蓮さんは一息。
「ふふ、少し疲れました」
「結構な量あったでしょ?」
「人数相応かもしれませんね」
 そうかも、――さて、
「それじゃ、私も何か手伝いを、」
 なにかあるかな、と歩き出そうとしたけど、つい、と。
「白蓮さん?」
「あの、……よければ、ちょっとお話しませんか?」
 どうしようかな、と。とはいえ、確かにやる事もないかも。
 アリスが持ってきたポットはリグルを中心に『博麗』の子たちが賑やかに並べている。
 咲夜さんも今は包丁をアリスに渡して、レミィと何か談笑中。
「そうね」
 そして、白蓮さんと近くの土手に座る。
 白蓮さんは、ぐっ、と手を伸ばして、
「ふ、――う」
「お疲れ様」
「いえ、あれだけの荷物を運んだ蓮子さんほどではありませんよ」手首をまわしながら笑顔で「それに、疲れたのは手くらいですからね」
「ピンポイントできつそうだけどね」
「かもしれませんね」
 そして、白蓮さんは改めてつと、私を見る。
「どうしたの?」
「朝の御話、覚えてますか?
 家族っていうの」
「ああ、――えっと、気に障ったなら、謝るわ」
 もしかしたら前から知り合いかもしれないけど、けど、あるいは同じホテルにいるだけの、その程度の縁。
 それで、家族なんて括られたら嫌という人もいるかもしれない。
「いえ、そんな事はありません」
 白蓮さんは真っ直ぐ、私を見て、
「朝も言いましたが、とても素敵な事だと思います。
 人類みな兄弟、なんて大仰な事を言うつもりはありません。それに、本当に家族というような親密な繋がりを持てる、と断言も出来ません。
 それでも、ああやって一つの卓に座って、みんなで挨拶をして一緒に食事をする、というだけでも、絆はつながると思います。
 そして、それはとても素敵な事だと、だから、蓮子さんの言った事が気に障る、なんてことはありません」
「あ、うん、ありがと」
 力強く言ってくれる白蓮さん。それに、と。微笑して、
「あの場にいた誰も、そんな事は思っていませんよ。
 だって、みんな楽しそうに話していたじゃありませんか」
「その場のノリだけかもしれないけどね」
「いやな事に乗れるような人は少ないですよ。
 どこかで同意し、喜ばしいと思ったからこそ、楽しく話せたのではないですか」
「あはは、そう言ってもらえれば話題提供者として嬉しいわ」
 ふと、白蓮さんは微笑む。
 どこか、寂しそうな微笑で、
「それでも「あーっ、始まってるーっ」あら?」
 振り返る。あ、
「サニーちゃん?」
「あっ、蓮子だーっ、やっほーっ」
 サニーちゃんと、ルナちゃん、スターちゃん、それに、チルノちゃんとリリーちゃんも、こっちに駆け寄ってくる。
「おーいっ、走ると危ないぞ」
 慧音先生が声をかける、その後ろをのんびりと妹紅が続き、
「あっ」
 うん、土手は坂道よね。
 ひゃーっ、と転んだサニーちゃん。
「ちょっ」
 転がり落ちる前にそっちへ。どんっ、と。
「まったく、危ないわよ」
 抱きとめるようにサニーちゃんを受け止める。
「あ、ありがとっ、蓮子っ」
「どういたしまし「きゃーーっ」「きゃっ」てーっ?」
 サニーちゃんとまったく同じ軌道で転がり落ちるルナちゃんと、むしろ自分からジャンプして飛び込んでくるスターちゃん。
「ひゃぁぁあっ?」
 かろうじてサニーちゃんを横に、直後に私は二人の女の子に激突。
「あっ、……蓮子、……ごめんなさい」
「ごめんねー」
 謝ってもらえるのは嬉しいけど、まずはどいてください。
 潰れた蛙みたいなみっともない格好で倒れる私と、その上に座るルナちゃんとスターちゃん。
 さすがに、重い。
「こらこら、二人とも、さっさとどかないか。
 蓮子が苦しそうだぞ」
「あっ」「あら?」
 慌てて飛び退くルナちゃん、スターちゃんはのんびりと退いた。
「大丈夫?」
 おっとりと首をかしげるリリーちゃんに助け起こされる。
「ええ、なんとか」
「よかった」
 にこっ、と優しい笑顔。その隣でチルノちゃんが腕を組んで、
「まったくっ、蓮子ったらひ弱ねっ」
「いや、さすがにあれはきつい」
「なら次はチルノだっ」
「へっ? ちょ、サニーっ」
「チルノねっ」
「へ?」
 そして声、きょとん、とそっちを向くチルノちゃんに、
「とりゃーっ」
 サニーちゃんが飛びかかり、
「ひゃー?」
 跳びかかるサニーちゃんに手を握られていたルナちゃんが激突し、
「えいっ」
 とどめ、とスターちゃんが突き飛ばす、四人仲良くごろごろ土手を転がって下へ。
「あ、だ、大丈夫かな?」
「なにやってるんだ、あのちびども」
 おろおろするリリーちゃんの横、妹紅が頭を掻いてため息一つ。
「大丈夫、か?」
 慧音先生は不安そうに覗き込み、ため息一つ。そっちを見ると仲良く喧嘩をしている四人。
「子どもは元気ね」
「そうだな。
 まあ、川には気をつけるように言わないと」
 無理じゃない、フランちゃん川で遊ぶの楽しみにしてたし。――――とは、口に出さない。どうせ出してもどうにもならないだろうしね。
 ともかく、楽しそうに喧嘩をする四人に向かって走っていく慧音先生。
「はー、びっくりした」
「あ、あの、蓮子ちゃん」
「ん?」
「あの、ごめんね」
「リリーちゃんが謝る事はないわよ」項垂れるリリーちゃんの頭を撫でながら「それに、大丈夫、子どもはあのくらい元気なほうが可愛いわ」
「う、うん」
 頷くリリーちゃん、だから、くしゃっ、とその髪を掻きまわして、
「もちろん、リリーちゃんみたいな優しい女の子もね」
「あ、――えへへ、ありがと」
「おいおい、こんなちっちゃい子を口説くなよ」
 照れくさそうに微笑むリリーちゃんの横から、
「なんか、物凄い事を言わなかった? 妹紅。
 なんで口説いてるって事になってるのよ?」
「なんだ、違ったのか」
 さすがにそれは冗談きついわ。
 妹紅はリリーちゃんの頭にぽん、と手を乗せて、
「とりあえずあっち、挨拶して来よう」
「はい」
 さて、
「あはは、妙な横やり入っちゃったわね」
 白蓮さんの隣に座り直す、彼女は笑顔で、
「いえ、皆さん楽しんでいますね」
「まだ始ってない気もするんだけど」
 けど、と、小さな声。
「ん?」
「いえ、それも終わってしまうと、……そう思うと、ちょっと切なくなってしまって」
 ごめんなさい、と、なにを言う間もなく、白蓮さんは謝る。
 まあ、失うのはつらいけど。……でも、
 でも、
「いずれ失われる、だから、それまで精一杯一緒にいたいって、そう思うのは甘えかな」
 視線を向ける、その先、メリーは霊夢と何か話しながら野菜を切ってる。
「たとえ、それによって悲しみが増したとしても?」
「それをせずに一緒にいなかった事を悔やむよりはマシ。
 理想論かもしれないけどね。でも、私はそうしていくわ」
 そうですか、と白蓮さんは嬉しそうに笑う。
「理想家で、でも、だからこそ、…………」
「ん?」
 だからこそ? といいかけた言葉。首をかしげる先、白蓮さんはおっとりと微笑んで、
「格好いいですよ。
 惚れちゃいそうです」
「……いや、私は女性よ? そんな特殊な性癖を言われても困るわ。かなり」
 そっちの趣味はない。いや、全否定するつもりもないけどね。傍から見る分には、
「ふふ、やっぱり相手はメリーさんですか?」
「相手ってなによっ?」
 白蓮さんは楽しそうに笑う。本当に、楽しそうに笑って、
「それではっ、私も楽しみに行きましょうか。
 ふふ、せっかくの機会ですからね」
「張りきってるわねえ」
「ええ」
 ぱっ、と立ち上がって白蓮さんは振り向き笑う。そして、手を差し伸べる。
「行きましょう。きっと貴女がいてくれた方が楽しいです」
「私はそこまで娯楽を提供した覚えはないんだけどね」
 白蓮さんはくすっ、と笑って、声。
「貴女は誤解をしています。
 貴女が娯楽を提供していなくても、貴女の意思は十分に人を惹きつけるでしょう。一緒にいて楽しいと、それがその理由です」
「あはは、なんか、そう言われると照れくさいわ」
 惹きつけるって、――苦笑して私はその手をとる。と、
「こんにちわ、映姫さん、それと小町さん」
「ええ、こんにちわ」「やっほー、遊びに来たよー」
 丁寧に頭を下げる映姫さんと、ひらひらと手を振る小町さん。それに、
「豊姫っ」
「やっほーっ、蓮子っ」
「「こんにちわ」」
 レイセンと依姫、だからもちろん、
「ふふ、たくさん来たわね。
 たくさん用意して正解だったわ」
「そうですね。まさかここまで大規模になるとは、まあ、聞いてはいましたけど」
 永琳先生の言葉に苦笑する映姫さん。――けど、用意?
「お肉よっ。いっぱい持ってきたわ」
「あら、じゃあまた運んで行かないとならないですね」
 楽しそうに笑う白蓮さん。さて、
「んじゃ、最後の一仕事と行きますか。
 それが終わったら、ぱーっと食べてぱーっと遊んでぱーっと楽しくやりましょう」
「はいっ」
 歩き出す、そんな私たちに首をかしげる永琳先生たち。ただまあ、
「ふふ、そうね。
 準備はさっさと終わらせて、ぱーっと楽しみましょうか」
 駆け寄る豊姫、そして、みんなも、少し首をかしげて、なんとなく不思議そうに、でも、楽しそうに笑って動き出した。

「さて、準備も終わった。
 人もそろった、それじゃあ、ぱーっとバーベキューを始めましょうか」
 ざるの中には適当に切られた野菜、映姫さんたちと永琳先生たちが持ち込んだ肉やらはトレーの上に乗せられている。
 アリスが用意した麦茶は一つのテーブルにまとめて置かれ、魔理沙が用意した七輪は所在なさそうにぽつんとテーブルの下。
「っていうかさ、幽香さん」
「なにかしら?」
「そのお米、どうするの?」
「飯盒もあるわよ?」
「え、それで作るの?」
「炊飯器はないわよね」
「でも飯盒で作るのもキャンプっぽくていいと思うわ」
「野外料理を纏めてやるってどうかと思うわ」
「ま、それよりさっさと始めましょう」
 霊夢の提案に勇儀さんは頷いて、
「乾杯かっ?」
「なにでやるんだよ?」
「麦茶ならあるわよ」
 麦茶で乾杯かあ。
「あら、それでいいんじゃない?
 せっかくだから乾杯しましょう」
「麦茶で、というのはいいのでしょうか?」
 はーいっ、と手をあげる豊姫に首をかしげる依姫。まあ、
「なんでもいいんじゃない。
 いやなら、レミリア。号令でもする。こう、」霊夢は、鉄板を指差して「焼けーっ、って」
「なんの合図だかわからないわよ」
 笑う美鈴さんにうっさい、と霊夢。
「ま、さっさと始めましょう」メリーは紙コップを開けて「ぶつけられないわねえ」
「それでぶつけたら大変なことになりそうですね」
 こぽこぽ、とメリーが出した紙コップに映姫さんが麦茶を入れる。
「小町、配りなさい」
「はいはいっ、っと。
 さて、うわ、多いな」
 てきぱきと麦茶を注いでお盆に載せるメリーと映姫さん。
 当然お盆は一つじゃ足らない、けど、
「片方は私配るわ」
「お、悪いね」
 小町さんから一つ受け取る。さて、
「はい、どうぞ」
「あら、ありがとう」
 永琳先生に渡す、それと、
「はい、依姫、豊姫」
「ええ、ありがとう」「ありがとうございます」
 おっとりと受け取る豊姫と、謹直に頷く依姫。
「あ、私も手伝ったほうがいいでしょうか?」
 ひょい、とレイセンが挙手、……うん。
「大丈夫よ、レイセンっ」
「……なんか、凄い笑顔ですね」
 ごめん、レイセンは可愛いけど、こぼしたらもったいないから却下。
「まあまあ、ほらほら、美味しいわよー」
「普通の麦茶のような」
 首をかしげて受け取るレイセン。さて、
 あとは、と。
「レミィ、飲む?」
「そりゃ飲むわよ。乾杯できないし」
「本当にこれで乾杯するのですね」
「他に何でするのよ。
 美鈴、したくないならしないでいいわよ」
「と、とと、とんでもないっ、しますっ、させてくださいっ」
 慌てて受け取る美鈴さんと、にやあ、と不吉な笑顔のレミィ。
「蓮子っ、私にも頂戴っ」
「ええ」
 手を伸ばすフランちゃんに一つとって渡す、「ありがとっ」と笑顔で、
「お姉様っ、乾杯する時にかけてあげるねっ」
「乾杯くらい普通にやりなさい」
 笑顔で滅茶苦茶な提案をするフランちゃんと肩をすくめるレミィ。
「あと、……あれ? 咲夜さんは?」
「咲夜なら」お盆を持って歩きまわっているほうを示して「あっち」
 レミィはつまらなさそうに言う。
「咲夜さんは働き者ですからね。
 何かやってないと落ち着かないみたいです」
「真面目、っていうかなんというか」
 さて、と。
「咲夜さんっ」
「ん? どうしたの、蓮子」
 アリスに麦茶を渡しながら咲夜さんが首をかしげる。
 私は声を意識しながら、
「残り、私が渡して回ろうか?」
「へ? いいわよ。
 蓮子こそ、ゆっくりしてなさい」
「いや、だって」視線を向ける、こちらの声が気になってこっちを見ているレミィを確認して「咲夜さんが傍にいないから、レミィがつまらなさそうにしてるわよっ」
「んなっ! れ、蓮子っ! あんた何を言い出すのよっ!」
「あはははっ、お姉様も甘えんぼねっ」
 けらけら笑うフランちゃん。顔を真っ赤にして怒鳴るレミィ、それと、そんな二人を見て、こちらに小さく頭を下げる美鈴さん。
「それは困るな」にたーっ、と魔理沙が笑って「ほれ、咲夜。レミリアが寂しそうだぞ、ここは蓮子に任せろっ!」
「なんで貴女がそのセリフを力強く言うのかしら?」
 まあ、と咲夜さんは笑って、
「じゃあ、お願いするわ」
「ええ、引き受け「るのはこっちでいいわ」え?」
 ひょい、と咲夜さんのお盆が取り上げられる。そしてそのまま、
「魔理沙、あんた暇でしょ?」取り上げた主、アリスが「これ、私持って歩くから貴女渡してってよ」
「了解だぜっ。
 よしっ、咲夜っ、ここは任せろっ」
「ええ、主にアリスにお任せしますわ」
 澄ました顔で、紅い顔で何かを必死に怒鳴るレミィの所に行く咲夜さん。
 好きなんだろうな、そういう主が、とその後ろ姿を見て思った。



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