『Scarlet』に戻ると、一人出迎えてくれた咲夜さん。
 彼女は真っ先に伝えた。レミィ達はもう寝てしまった、と。
「フランちゃんやこいしちゃんも、もう寝ちゃったの?」
「ええ、代わりに明日思う存分付き合わせるって、早めにお休みになりましたわ。
 お二人は明日、絶対に空けておけ、と」
「空けて、――って、バーベキューやるって言っちゃったんだけど」
「それは織り込み済みです」白蓮さんがひょい、と顔を出して「楽しみにしていましたよ。皆さん」
「あややっ、バーベキューですかっ」
「参加したそうね?」
「そりゃもちろん、これほど面白そうなイベント、放置する理由がどこにありますか?」
「楽しそうねえ」
「早苗も楽しみにしていたよ。
 もう夢の中さ」
 その声、神奈子さんも奥から顔を出す。
「明日が楽しみです、だそうだ。
 また、明日も早苗と遊んでやってくれ」
「あら、神様。それは許しませんわ。
 お二人にはお嬢様や妹様とも遊んでいただけませんと」
「あややっ、私だって取材したいですよっ! 一緒に遊びたいですよっ!」
「さとりちゃんやこいしちゃんも同じ事を言いそうね」
 メリーに抱えられたお雛様が苦笑する。――で、
「私も、一緒に遊びたいんだけど」
 最後、ぬえが小さく呟く。
「ふふ、二人とも人気者ですね」
「あははは」
 笑うしかない、どうすればいいのよ、ほんと。
 まったく、と。
「それじゃあ、明日は白蓮さんたちとバーベキューに付き合うから、その時みんな参加で遊びましょう。
 っていう事でいい?」
「ええ、遠野に残って遊んでいただけるのでしたら、十分ですわ」
「ああ、それはよかった。
 頼むよ」
「もちろんっ、私も参加ですねっ」
「はいはい、いいから文は落ち着いて」
 どうどう、と。
「それより、遅くなって悪いんだけど、咲夜さん。お風呂入れる?」
「ええ、大丈夫ですわ。
 で、そっちの二人は、また新しいお客さん?」
「大繁盛ですね」
 白蓮さんがほくほくとした笑顔で言う、咲夜さんは確かにね、と苦笑。
「うぐ、私お金ない」
「私はもちろんありますよ。
 蓮子さんとメリーさんと一緒にお風呂に入るためなら、ホテル一泊の御金など安いもの」
「それが目的なのかい」
 神奈子さんが苦笑する。確かに、それってどうなのよ?
「で、そっちの子は?」
「うーっ」
「…………威嚇されても困るのだけどね。
 じゃあ、安いものだなんて言った文。貴女が出しなさい」
 しれっ、と咲夜さんは割と滅茶苦茶な提案をする。
「ええっ!」「ありがとっ、文っ!」
 がしっ、とぬえが文の手をとる。
「あややっ、冗談じゃありませんよっ、そんなお金払えませんっ」
「払ってよっ、私も一緒にお風呂に入るからっ」
「ぬえのお風呂入っているところなんて見て何が楽しいのですかっ!」
「……私達も、どっちもどっちだと思うんだけど?」
 メリーが首をかしげる。いえ、と咲夜さんが、
「メリーさんも蓮子さんも肌は綺麗ですよ。一見の価値があります」
「「へ?」」
 咲夜さんは淡々とした表情で、
「一緒に入った私が言うのだから間違いはありません」
「間違えていいわよっ!」
 っていうか、こんなところで何を言いだすのよっ。
「ほら見なさいっ。
 ぬえっ、貴女と混浴などに価値はありませんっ」
「あるわよっ、私だって綺麗よっ」
「なにをわけのわからない事を」
 ふっ、と鼻で笑う文。そして、
「なら、とくと見なさいっ」
「って、こんなところで脱いでは駄目ですっ!」
 服に手をかけてまくりあげるぬえ、白蓮さんが慌てて止めに入る。――で、
「……咲夜さん。話し振ったんだから止めようよ」
「いえ、私は客観的事実を言ったまでですわ」

 とりあえず、ぬえの宿泊代は白蓮さんと文の折半、という事で話しが付いたらしい。
「それでは、楽しかったです」
 お雛様はにっこりと笑って向かいの部屋へ。かちゃ、と扉を開ける。
「さとりちゃんたちは」
「ええ、寝てます」
「ちょっと、いい?」
 問いに、はい、とお雛様。
 ひょい、と覗き込む。
 常夜灯の幽かな明かりに照らされて、みえる。
 手を取り合って壁に背を預け、眠るさとりちゃんとこいしちゃん。
 柔らかい寝顔。と、とん、と靴を叩かれる。
 振り返る、とお燐とお空がいる。
「あのさ、お姉さん」
「ん?」
 私とメリーはしゃがみこむ。出来るだけ視線を合わせようと、
「なぁに、お燐?」
 メリーの問いに、お燐は少し言いにくそうに言葉を選んで、けど、
「蓮子、メリー、明日、さとり様とこいし様と一緒に遊んであげて」
 迷った言葉を、先にお空が告げる。お燐も、すこしためらって、頷く。
 それは、「ごめんね、お空」
 私が何か言うより前に、メリーが困ったような表情で、お空を撫でる。
「「え?」」
 お燐とお空は言葉を止める。表情はわからないけど、――たぶん、失望、かな。
 謝ったこと、それは、断るため、だから。
「ごめんね、さとりちゃんとこいしちゃんと一緒に、は無理と思うわ。
 レミィやフランちゃんとも約束してるし、白蓮さんがやるって言ってたバーベキューも参加したいし、早苗さんや、たぶん、神奈子さんとかとも遊ぶと思うの、だから、」
 メリーは不思議そうに見上げるお燐とお空を撫でる。
 なんだ、と。私は苦笑、こういうところはメリーに敵わないだろうな、と。
「さとりちゃんとこいしちゃんと一緒に、じゃなくて、
 みんなで一緒に遊ぼう、じゃダメかしら? お燐とも、お空とも、私たちと一緒に遊びたいって言ってくれた、みんなと一緒に、」
 撫でられながら顔をあげるお燐とお空、メリーは改めて笑いかけて、
「ね、みんなで一緒に遊びましょう?」
「う、うんっ」
 ばさっ、とお空が嬉しそうに頷く。
「って、ばかっ、静かに、さとり様もこいし様も寝てるんだから」
「あ、……ごめん」
 お空がそのまま着地、そして、お燐はため息。
「うん、……えっと、ありがと」
「ふふ、どういたしまして」
 メリーはお空とお燐を撫でる。そして、
「さとりちゃんもこいしちゃんも幸せね。
 主思いのペットがいて」
「それはさとり様とこいし様だからさ。
 だから、ペット思いの主がいてあたい達も幸せ者だよ」
「うんっ、さとり様もこいし様も大好きっ」
「だーかーらっ、お空っ。あんまり大声出しちゃダメだろっ」
「うにゅ、ごめん」
「だから、お燐、お空、二人ももうおやすみなさい。
 明日、たくさん遊びましょうね。私と、蓮子と、さとりちゃんと、こいしちゃんと、みんなと」
「「うんっ」」
 声が重なる、そして、静かに、けど急いだ動きでどこかへ。
 たぶん、自分たちの寝床でもあるのかな、と。
「…………お燐もお空も、余計な事を言わなくてもいいのに」
 拗ねたような小さな声。けど、
 さとりちゃんは寝ているから、たぶん気のせい。
「じゃあ、お雛様。
 おやすみ、さとりちゃんもこいしちゃんも、起しちゃだめよ」
「ええ、もちろん、起こしたりしないわ。
 おやすみ」
 そして、私とメリーも部屋に戻る。
「さって、と。
 お風呂ね」
「出たら今日はさっさと寝ちゃいましょ。
 明日、」
 くすっ、とメリーは笑って、
「楽しむためにも」
「それもそうね」
 わかる、わかってる。
 明日、そして、明後日には帰る、という事を、――――だから、
「楽しみましょう」
「ええ」

「と、いうわけでっ、あやや突撃っ!」
 脱衣所、服を脱いでいるところで文が文字通り突撃してきた。ぬえの首を掴んで、
「うがー」
 ぬえは洒落でなく苦しそうにもがいている。
「……あのさ、文」
「なんですかっ、メリーさんっ」
「文って、夜になるとテンション上がるタイプでしょ?」
「あややっ、ばれちゃってますかっ」
「うん、私の相棒と似たような感じ」
「なんか、馬鹿にされてない、私」
「それって、比較対象の私はどう思えばいいんですか?」
「って、文っ、離してよっ、首が痛いわよっ」
 ぬえが文を振り払う。文はけらけら笑う。
「なにを言っていますか? ぬえがもたもた歩いているからですよ。
 脱衣中に突撃できなかったらどうするのですか?」
「……え? それポイントなの?」
 確かに、私はスカートを脱いだだけで、メリーは下着姿。
「それはもう」
 ぐっ、と文。ぬえはため息をついて、
「まったく、意味わからないやつね。
 ま、私もお風呂入るわ」
「そうですね、ちゃきちゃき脱いじゃいましょうか。
 あ、私には遠慮なく」
「文はお風呂に入らないの?」
 問いに、「入りますよ」と即答しつつ脱ぐ様子のない文。凝視、とそんな表情でメリーと私を見ている。
 そんな彼女に首をかしげつつ下着を脱ぎ始めるメリー、私は一つ、頷いて、
「……ねえ、文」
「なんですか?」
「厄介な奴、っていろいろいると思うの、私」
「ほほう」
「阿求ちゃんとか、てゐちゃんとか、あと、さとりちゃんも結構悪ノリするのよね、あと咲夜さんも、
 レミィは単に我が侭なだけだからあんまり害はないけど、あと、幽香さんも結構意地悪な気がする」
「ほほう、つまり何が言いたいのですか」
 うん、と私は頷いて、
「さっさと脱いでお風呂に入りましょうねっ」
 言いながら、文の手を掴んで引き寄せ、スカートのホックをはずす。
「あやややっ、脱がされるーっ」
「ぬえっ、抑えて」
「合点承知っ」
 ぬえに文を羽交い締めにさせ、スカートを取っ払ってシャツのボタンをはずしていく。
 ぽつりと、声。
「……傍から見ていると蓮子が一番厄介な奴に見えるわ」
 無視っ! ともかく文を素っ裸にして浴室に放り込む。
 うん、
「ナイスっ、ぬえっ」「やったね、蓮子っ」
 ぱちんっ、と打ち合わせた手が鳴った。
「脱衣がーっ」
 無視。

「うう、ひどいですよー」
「うるさい」
 まったく、ともかく蛇口の前に座り、シャワーで体を流す。
 ほう、と。一息。
 さっさと体を洗う。
「そーいえばさ、蓮子」
「ん?」
「結局朝風呂の時何やってたの?」
「朝風呂? 蓮子って朝から風呂に入ってたの」
 衝立の向こうからにょ、とぬえが顔を出す。「まあね」と頷いて、
「阿求ちゃんと霊夢と一緒にお風呂に入ったんだけど、阿求ちゃんが体洗うとか言ってくすぐりだしてね。
 転がりまわるわ笑い転げるわ。散々だったわ」
 あの、妙に手慣れた感が物凄く嫌な感じだった。
「ほほう、では、私もやりましょうか。
 からだあらってあげますよー」
「メリーでも洗ってやりなさい」「蓮子、よかったわね、洗ってくれるって」
「……文、なんでこの二人ってたまに共食いするの?」
「そういう仲なんじゃないんですか。
 いやな事は押し付け合うのも友情っ」
「……それも違うと「あれ?」」
 およ、
「あっ、椛ちゃん」
「あ、……あ、」
 恐る恐る入ってきた椛ちゃんは、私たちの姿を見て、ぱっ、と引っ込んだ。
「どうしたのかしら?」
「恥ずかしいんじゃないですか?」きしし、と文はいやあな感じに笑って「ほら、裸、ですし」
「気にすることないのに」
「そうですよ、ねえ」
「文はちょっと気にした方がいいんじゃない?」
 同感、と。
「呼んでこようかしら? せっかくなんだし」
「そうね」
 はいはい、とメリーは脱衣所へ。
「椛ちゃん、一緒に入りましょう?」
「え、え、えっと」
「大丈夫よ、ね」
 メリーの説得が続く。――――えっと、
「あのさ、文、ぬえ」
「ん?」「なんですか?」
「いや、妙に静かだなー、と」
「メリーさんの後ろ姿っていやらしくありません?」
 とりあえず私は近くの洗面器を放り投げる。
 ぱかんっ、
「あやっ」
「はい、蓮子」
「ありがと」
 と、
「…………ああ、うん、まあ、大丈夫よ。大丈夫。
 誰も気にしないわ」
 どうしたんだろ? と、
「蓮子も似たようなものだし」
「私?」
「? さっきのちっちゃい子よね」ぬえは首をかしげて「ちょっとしか見えなかったけど、蓮子となにが似てるの?」
「さあ?」
 あんまり似てないと思うな。
 ともかく、タオルを巻いたままメリーに手を引かれて椛ちゃんが顔を出す。
「別に引っ込む事はないじゃない、椛」
「あれ? 文、椛ちゃんと知り合い?」
「ええ、早池峰山にもよく行きますからね」
「そーいえば、それではたてが俗っぽくなったとか」
「知りませんよ。そんな事。濡れ衣です。濡れ衣」
「で、ですが、……その、やっぱり、恥ずかしい、です」
 顔を赤くして、体を隠すように手を前へ。――――思い出すのは、レイセンで、つまり、
「マスコットタイプね」
「へ?」
「ああ、いや、なんでもないなんでもないわ」
「椛、はたてはどうしたのですか?」
「はたてさんならもう寝ちゃいましたよ」
「ほほう」文は笑う、意地悪な感じに「つまり、はたてが寝てから一人でお風呂に入るという算段だったのですね、椛」
「あー、確かにね。一人の方が独占気分で気持ちいいかも」
 納得するぬえ、それもそうだけど、と私も思うけど、それかしら? ……なんとなく文を見る、文はにやー、と笑ってる。
 まあ、いっか。さっさと体洗っちゃお。と。
「あ、そうだ。椛ちゃん」
「は、はいっ?」
「せっかくだから体洗ってあげようか?」
「えっ、え、だ、大丈夫、です、よっ?」
 ふと、
「蓮子さん、体洗ってあげましょうか?」
「断固拒否するわ」
 ちぇ、と文。
「いや?」
「あ、……い、いや、……じゃ、ない、ですけど」
「じゃ、いいわね」
 メリーって変なところで強引よね。
 手を引かれて椛ちゃんはメリーがいるあたりにすとん、と。素直に座る。本気で嫌がっているわけじゃない。か、それに、それならメリーも無理矢理やるとは思えない。
 ま、いっか。
 体を洗い終えて、髪を洗う、わしゃわしゃと。
「ふふ」
 向こうからは上機嫌そうなメリーの声。――さて、体についた泡、頭についた泡をまとめてシャワーで流して、
「それじゃ、御先」
「はいはーい」
 ひらひらとぬえが手を振る。向かう途中、ちら、と横を見ると上機嫌に椛ちゃんを泡まみれにするメリーと、鏡に映る、俯いて顔が真っ赤な椛ちゃん。
「あ、蓮子さん、洗い終わったのですか?」
「ええ、おかげさまで」
「せっかく洗ってあげようかっていったのにー」
「いや、文はあんまり信用できない」
 えーっ、と抗議の声。当然無視して湯船につかる。
「はーっ」
「やっほ」
「ん」
 ぱしゃ、とぬえが隣に座る。「んー」と伸びをして、
「はーっ、楽ねー」
「まあね」
 と、
「えっと、ごめんね。脅かして」
 あの時か、――まあ、気にしない、…………とだけっていうのも、芸がないし。
「蹴っ飛ばした事で御相子、でいい?」
「あー……あはは、あれは痛かったわ」
「結構適当だったんだけど、わき腹直撃だったみたいね」
「痛かったわ、物凄く」「怖かったわ、物凄く」
 とりあえず言い返してみる、嘘つき、とぬえは笑う。
 ただ、――――「あのさ、蓮子」
「ん?」
「私が言うのも難だけど、……その、蓮子、危ない、と思うわよ。そういうの」
「でしょうね」
 なにが危ないか、それはわかる。たぶん、遠野に暮らす人なら、みんなそういうと思う。
 自ら隠され、その向こうにある異界に乗り込もうとする意思。それは、自ら破滅に突き進むようなもの。
「だからこそ、っていうのもあるんでしょうけどね」
 文が私の隣に座る。
「だからこそ、魅力的に見える。
 それでも、行くのでしょうね」
 文は笑う、楽しそうに笑って、
「なぜ、貴女はその問いにどう答えます?」
 なぜそんな事をするのか、その問い、そう聞かれたらなんて答えるか。
「楽しそうだから?」「見たいから?」
 ぬえと文の答えは、まあ、あってるんだけどね。
「二人とも正解、だけどそう答えないわ。
 答えるなら、」
 そう、その問いに、私はこう言うでしょうね。
「無粋な事を言うな。
 でしょ、蓮子」
「キメ台詞をとるのはよくないわよ、メリー」
 メリーは笑って、彼女に手を引かれる椛ちゃんとお湯につかる。
「ん、いい湯」
「温まりますね」
 ほふう、と吐息。
「はあ、お風呂はいいですねえ。
 邪念が洗い流される気分ですよ」
「気分だけ気分だけ」
「うるさいですねー」
 ぬえの茶々入れに文が膨れた。
「ふふ」
 上機嫌なメリー、彼女は膝の上に椛ちゃんを乗せて後ろから抱き締める。
 椛ちゃんは顔を赤くしてされるがまま、そっちを見てにやん、と笑う文。
「仲いいわね、えっと、メリー、でいい?」
 ぬえの問いにええ、とメリー。
「それにしても、無粋な事を聞くな、とはなかなか男らしいものいいですね」
「そう? けど、いちいち理由づけなんて面倒くさいじゃない。
 楽しいから、何が楽しいの、とか。
 見たいから、何を見たいの、とか。
 そういう面倒くさそうな事につながりそうなのは野暮ったいだけよ」
 それに、とこちらを覗き込んで笑う文に告げる。それは、貴女だって、
「文だってそうでしょ?
 覚えてるわよ、創世の瞬間にだって、世界の果てにだって駆けて行くって言ったの」
「あやややっ、キメ台詞を蒸し返されるのも恥ずかしいですね」
「そうね。けど格好いいと思うわ。
 それに、どうやって? とか言われると白けるでしょ」
「まあ、あくまでも意志の問題ですからね」
 そういうと、文はくすくす笑う。楽しそうに笑って、
「やろうとする意志に理由づけを求められても、って感じですよねえ。
 やりたいから、それで納得しなさい、って」
「ええ、だから無粋な事を聞くな、ってぶった切って終わり」
 声が聞こえる、ぬえとメリーの楽しそうなやり取り、時折小さな声で混じる椛ちゃんの声。
「蓮子さん」
「ん?」
「格好よくて惚れてしまいそうです」
「真顔で言わないでよ、そんな事。
 ってか、私女性だし、格好いいって言う理由で惚れられても、あんまり嬉しくないわよ」
「愛に理由なんて要りませんよっ?」
「叫ぶなーっ」
 ぐりん、とぬえとメリーと椛ちゃんがこっちを見る。
 呆然、とそんな表情を見返して、
「な、なに?」
「ま、まあ、恋愛は自由だと思うわ、私」
「お、おめでとうございま、す?」
 恐る恐る呟くぬえと椛ちゃん。
 最後に、
「…………蓮子、幸せになってね」
「ちがーーーーーーうっ!」
 文はけらけら、と楽しそうに笑う。

「さて、寝ましょうか」
「ええ、それもそうね」メリーはここで苦笑して「昨日って完全に雑魚寝よね」
「パジャマパーティーなんてそんなものでしょ。
 またやりそうね」
「ええ、魔理沙が第何回、とか言ってたような」
「あれはその場だけだと思うんだけど」
 メリーは寝転がり、布団の中で笑う。
「メリー、電気消すわよ?」
「ええ、お願い。
 あ、常夜灯は点けたままで」
「はいはい、メリーは暗闇が怖い?」
「まさか」
 そう言って笑う。私はそれを見て灯りを消す。
 ぱちっ、と音。――常夜灯の淡い明りだけがぼんやりとメリーを照らす。
「ふふ、楽しいわね」
「そうね」
「ね、蓮子」
「ん?」
「秘封倶楽部って、好き?」
「メリーってたまに変な事聞くわね」
 呆れた。好きでもない事をいつまでも続けるほど物好きとでも思われているのかしら?
「ふふ、私は好きよ。
 蓮子と一緒にいる事」
「愛の告白をありがとう。
 両想いで私は嬉しいわ」
「それに、秘封倶楽部も、……ね、蓮子。
 秘封倶楽部って、好き?」
「好きよ」
「ずっと、続けてたい?」
 問いの答え、その問い。
 ずっと、ずっとメリーと一緒に秘封倶楽部として、……それは、
「わからないわ」
「蓮子?」
「メリーと一緒に現実と幻想の間を行ったり来たり、そんな秘封倶楽部は楽しいけど、」
 だけど、
「メリーと一緒に、もっといろいろなものをみたい、幻想の世界を覗いて、……そうね、架空の理論を覗くのも楽しいかもしれない。
 不可能、と呼ばれたあらゆるものを追求するのも、存在しない、とされる存在を追いかけまわすのも。
 封じられて秘められた世界を解き明かす、それもいいけど、不可能に挑戦し、架空を事実に引きずりこむのも楽しいと思うわ。
 夢を現に変えるの、架空を事実に引きずり込む、不可能を可能に解析する、」
 ねえ、
「それって、強欲かしら?
 この世界の、ううん、メリーと一緒に見られる、あらゆるものを、もっともっと突き詰めたいって、そう思うのは」
「強欲ね、呆れた。
 蓮子、貴女は七大罪の一つをかなり犯しているわ」
「知的好奇心が強いだけですわ。
 それに、そういうメリーだってそうじゃない? 狐さん」
「違いないわね」メリーは寝転がったまま苦笑して「結界暴きなんて下手な犯罪より性質が悪いからね」
「精神論からいきなり法規に跳んだわ」
 呆れた言葉に、メリーが噴き出す。あはははっ、と笑う。
「なによ」
「ん、――ふふ、なんでもない、さてっ」
 ぼふっ、と枕を叩く音。

「それじゃあ、おやすみ。罪人さん」「ええ、おやすみなさい。悪魔さん」



戻る?