「あははっ、ちゃんと出来たじゃないっ」
「うるさいわねっ」
 むー、と膨れるメリー、……それで怒ってるつもりなのかしら?
 長い付き合いだからか、膨れているのはポーズだって、ばればれ。
「まったく、なんで急に私に振るのよ」
「そりゃあ、ねえ?」
 レミィが麦酒を傾けながら笑う。
「だって、ねえ?」
 さとりちゃんがお燐を撫でながら笑う。
「メリーの可愛いところが見たいからだよ、ねっ、お姉様っ」
 フランちゃんが満面の笑顔で言う。ふむ、と奥から、
「神社で一緒に食事をとった時は落ち着いた感じの娘と思ったが、なかなか可愛いところがあるじゃないか」
「メリーさん、可愛かったですよ」
 ポテトを山と持って来ながら白蓮さんが言う。メリーは顔を赤くして、
「も、もうっ、あんまりからかわないで、よ」
「可愛いわよっ! メリーっ!」
「黙れ」
「はい」
 なんで私だけ睨まれるのかしら?
「はいはい、可愛いメリーはいいから、さっさと注文しちゃってよ」割烹着を着た霊夢がぺしん、と私を伝票で叩いて「纏めて聞いちゃうわ。どうせそこらへんの面倒な連中も混ざっての宴会でしょ?」
 傍らには咲夜さんとパルスィ、二人も伝票を持ってる。
 態勢は万全、故に、
「唐揚げっ、あと「ポテトをお願いします、それと「サラダっ」「赤ワインを」つくねも、あと「焼き鳥っ!「それこっちも、塩で」タレっ!」、からあげ「きゅうりっ」もう一つ」ウィンナーの盛り合わせ」
「黙れっ! んなに聴き取れるかっ!」
 霊夢怒る怒る。
「全部のテーブルまとめて聞くからでしょ?」
「咲夜、あっちの天狗やら河童がいるところの注文聞いてやりな」
「パルスィはこっちお願い」
「承知しました、お嬢様」「まったく、なんでこんなに働かなくちゃいけないのよ、ヒマそうな連中が妬ましいわ」
 で、残った霊夢に私たちは注文を繰り返す。ふむ、と頷いて、
「よし、じゃあ作らせるわ」
「あ、作るじゃないんだ」
「まあね。どうせ戦力なんていくらでもいるし」
「霊夢、貴女は横着が過ぎます」
 さとりちゃんが呆れて言う。が、霊夢はどこ吹く風、気にしない。
 と、
「貴女達が最近流行りの旅行客ですか?」
 聞き覚えのない声。んと、振り返る。げ、と誰かの声。
「こんにちわ、私は記者の文、って言います」
 記者? ともかく彼女は近くの椅子を引っ張ってきて座り、
「お話いいですか?」
「いいけど、っていうか、なに? 最近流行りって」
「いやいや、天子さんとか妖夢さんとか面白い人がいるって」
 そして、ぐぐっ、と拳を握って、
「最近家に引きこもって新聞ばっかり書いて、出会いを見逃すなんてっ、文一生の不覚っ」
「っていうか、うーん、記事にされてもなあ」
 どーしたものだろ、とぼやく私に文は苦笑して、
「いえいえ、そんな大げさなことじゃありませんよ」
「大丈夫じゃない?
 そいつ、『射命丸』っていうローカルなところの記者だし、読むとしても遠野の中だけよ」
 レミィの言う事に文は苦笑して、
「ま、そんな感じです。
 それに、仕事は抜きにして、会ってお話ししたかったんですよ」
 屈託なく笑って言う。とはいっても、
「別に面白い話なんてないわよ?」
 ……なぜか集まるじとっとした視線を無視。が、文はそれでも笑って、
「かもしれない、とちょっと見てたんですけどね。
 さっきの、メリーさんへの振りを見てこれはいけるっ! と確信しましたっ」
「な事でなんで確信してるのよ」
「十分よ。ねえ?」
「うむ、まあ、事実だしな」
 さとりちゃんの言葉に神奈子さんが頷く。
「あはっ、では早速行きましょうかっ」文はメモとペンを出して「では、改めてお名前は?」
 変なことになったなあ、と思いながら、
「宇佐見蓮子よ」「マエリベリー・ハーンです」
「ん、とすると、メリーさんというのは愛称で?」
「ええ」メリーは私の肩を叩いて「言い難いって、勝手につけたのよ。失礼なことに」
「私はそっちの方が可愛いと思うわよ。
 はい、ポテト」
 美鈴さんが大盛りのポテトを置きながら笑う。ほら、と私は胸を張って、
「可愛いって、ほら、メリー、私に感謝しなさい」
「はいはい、感謝感謝」
 うわっ、なんて適当な感謝っ。
「で、お二人は遠野に観光に来た、って事でいいですか?」
「ええ、間違いないわ」
「こう言っちゃあなんですけど、意外ですね。
 ほら、遠野って田舎でしょ? 蓮子さんやメリーさんみたいに若い女性が来るのは」
 意外、いろいろ言われた言葉に、応じたのは、
「文」レミィが重々しく言う「その問いに最適な答えを教えてあげるわ」
「最適?」
 酔狂とか、物好きとか、そんな感じ? ――なに? なんでさとりちゃん笑ってるの、
 と、
「そいつらだから、でしょ?」
 霊夢が料理を運びながら、やる気なさそうに呟く。
「霊夢っ、人のキメ台詞取らないでよっ」
「それってキメ台詞になるの? まあ、なんでもいいけど」
「そいつらだから、ですか?」
 後に続いてくる早苗が首をかしげる。っていうか、
「どーいう意味よ。霊夢」
「そのまま、……なんていうか、酔狂とか物好きとか、……あとは、暴走娘とストッパーっていうか」
「ちょっと待ちなさい、最後のはなによ最後のはっ」
「秘封倶楽部の提案兼暴走役と補佐兼暴走歯止め役」
 そーいえば、最初にそんな自己紹介をしたような。……って、
「ちょっと待て、なによ暴走役ってっ!」
「あら、間違えていませんわ」
 澄まして肯定するメリーに裏切りの代償としてデコピンを打ち込む。
「「秘封倶楽部?」」
 同じところに疑問を持ったのは文と早苗。――さて、なんて言ったらいいか。と。
「あっ、私知ってるよっ」フランちゃんが両手をあげる「墓暴きする人たちだよねっ」
 ……あー、そういえば、そんな事言ったなあ。
「びっくりするほど罰当たりな人たちですね。
 神奈子様、どうしましょう?」
 うわっ、しかもこの場に神様いるっ!
「生憎と、墓には興味ないよ私は。
 死者は山へと還るものだ。山暴きをしなければね」
「山暴きって言葉は初めて聞いたよ。私は」
 樵の勇儀さんはけらけら笑う。む、と神奈子さん。
「そういう事をしてはいけませんよ」
 こと、と焼き鳥を置いた白蓮さんが咎める。
「御墓は死した人が眠る場所です。
 その休息を妨げてはいけません」
 うわー、どーしよ。――はあ、しょうがないか、
「御墓を暴くっていうか、その向こう側を見たかったのよ」
 結界暴きは禁止されている、んだけどね。
 ただ、……隠すのは、もう、なしでいいかな?
 向こう側? という問いに、
「ええ、この世界の向こう側。
 夢に語られる桃源郷、物語に語られるマヨヒガ。世界の向こうにある、世界。
 暴きたいのはお墓じゃなくて、秘められ、封じられた、向こう側の世界」

 ……それこそ、この、『遠野』じゃないの?

「それはそれで危険ではありませんか?」一転、咎める、というよりは困った表情を浮かべて「神隠し、に自ら身を投じるように聞こえますけど」
「かも、しれないわね」
「ハーメルンの笛吹きを追いかけまわしそうですね」
 文も苦笑して言う。実際、あり得る、とか思ってるから救いようないわ。
「ま、だとすれば残念だね、と言っておくよ。
 蓮子、メリー」
 神奈子さんは苦笑、はたてと椛を見て、
「神隠しに遭う一番手っ取り早い方法は山人に攫われる事だが、それは私が認めない。
 この遠野で神隠しにあう事はないと、諦めな」
 そうでしょうね。
「なに、そうなりそうになったら力尽くで連れ戻すから、……うん、やっぱり諦めなさい」
「ええ、そうするわ」
 苦笑、そして肩をすくめる。けど、
「でもね、みたいのよ」
 メリーが微笑んで、
「この世界の向こう側の世界、面白そうだから、ね?」
「文。一つ訂正するわ」
「なんですか?」
「暴走役と暴走役。
 こいつら、見境なしに突っ走りそう」
「「失礼ね」」
「否定できないんじゃないですか?
 なにせ、神隠しに自分から突撃するとか言い出していますし」
 早苗まで笑って言う。……そして、言い返せない私たち。
「好奇心は猫を殺す。
 有名な言葉ですね。…………まあ、」
 さとりちゃんは、――ザシキワラシは、苦笑した。
「だからこそ、貴女達は魅力的なのだと、そう思えてしまうのですね」
「危なっかしいですけどね」
 白蓮さんがまぜっかえす。「まったくそのとおりですね」とさとりちゃんは重々しく肯定。
 それを聞いて白蓮さんは笑いながら厨房に戻る。
「いやあ、私はそっちの方が面白いと思うよ。
 自分で突き進む意思を失っちゃあいろいろつまらんからね」
 にや、と笑う勇儀さん。
「なるほどなるほど、これは面白いですね。
 想像以上の収穫です」
 けらけら笑いながら文。と、すぱんっ、と。
「あいたっ」
「なにやってるのよ、文」
「あややっ、はたてじゃないですか?」
「知り合い?」
 問いに、ええ、とはたてが、
「こいつ山にまで変な情報まき散らしに来るのよね」
「だからはたてさんはみょーに俗っぽい天狗になっちゃいました」
 椛が遠くを見て言う。遠く、――たぶん、明後日とかその辺。
「う、うるさいわねっ! しょうがないじゃないっ、面白そうなんだもんっ」
「あははは、はたてさん。微妙に天狗さんらしくないですよね」
「う、うるさいっ」
「それは私のせいじゃありませんよ。
 誤解です、濡れ衣です」
 大仰に後退する文、それを見て笑う誰か。――それにしても、私は文を見て、
「山まで届けてるんだ」
 ちょっと、驚いた。対して文は胸を張って、
「私は記者ですよ?
 ただ一人でも読んでくれる人がいる、ならば、山だろうがどこだろうが行きます」
 へえ、
「格好いいわね」
 率直に洩れた言葉それを聞いて、
「あ、あやや、……なんていうか、そう言われると照れますね」
 胸を張った仕草から一転、困ったように頬を掻く文。
 と、
「ふぅ、一段落つきました」
 白蓮さんと水蜜、一輪が戻ってきた。
「お疲れ様」
「ええ、でも、楽しかったです」
「姐さん料理とか好きだからねえ」
 一輪が笑う、水蜜も有り難い事です、と微笑む。
「ええ、特に、私が作ったもので誰かが喜んでくれれば、ですね」
「えっと、これはお客さんが増えた、ってこと?」
「ミスティアー、私もお客さんになるー」
「店主がー、ねーごーとーっ
 働けーっ!」
「うっさい、変な歌うたうなっ!」
「えーっ、お客さんには美声って好評なんだよっ!」
 唇を尖らせるミスティア、――まあ、明るいし、聞き心地は悪く、…………「なぁに? 霊夢」
 その視線は、私とメリーに突き刺さる。
「ま、まさか」
 メリーは、隠れるようにこいしちゃんの後ろへ。うん、と霊夢が頷いて、ちょいちょい、と。
「どしたい? 霊夢」
 寄ってきたヤマメに霊夢がなにやら不吉な耳打ち、にやあ、とヤマメが不吉に笑って、
「これよりっ! 蓮子とメリーが厨房に入りますっ!
 二人の手料理が食べたい人ーっ!」
「って、ちょっと待ってよっ!」「えーっ!」
 抗議の声をあげる。きっとみんなも同意してくれる、と信じて、…………で、結果として、
「な、なんでよお」「裏切り者お」
 抗議はほぼ満場一致で却下され、私とメリーは割烹着を手に厨房に押し込まれた。

「なんで、宴会に来て包丁を握っているのかしらね、私」
「不思議ねえ」
 メリーが苦笑して頷く。まあ、と咲夜さんが。
「二人とも、料理ができないなら無理はしなくていいわよ?」
「いや、出来なくはない、けど」
 とはいえ、……視線を向ける、咲夜さん、それと、前にここで食べた料理を思い出して、
「店で出せるほど上手じゃないわよ。私」
 ちなみに、それは店内の賛成した全員に言った。曰く、
「貴女の作った料理が食べられればそれでいい」咲夜さんはくすくす笑って「そう言われたんじゃないかしら?」
「大当たりですねっ」
 その場にいた早苗が頷く。――そう、そう言われた。
 ちなみに、霊夢にも直接聞いてみたら、さっさと作ってきなさい、と一言。
「ま、不肖美鈴、お二人を徹底的にサポートしますので、がんばっちゃってくださいっ」
 むん、と力強く拳を握る美鈴さん。そして、
「私も手伝うよー
 必要なものがあったらどんどん言っちゃって」
 萃香も楽しそうに声をかける。手伝ってくれる事、単純に有り難い、と思うけど、
「はあ、どうなっても知らないわよ」
 ため息をついて、メリーは長い髪をまとめて帽子に押し込む。
「出来たら呼んでねー
 それとも、自分で持ってくー?」
 ルーミアちゃんの問いに、冗談じゃない、私は首を横に振って否定する。
 手料理ってのだけでも恥ずかしいのに、そんなの直接渡せないわよ。
「あら、それは残念。
 喜んでくれるところ、見たくない?」
 うぐっ、
 上品に微笑む咲夜さん。――それは、確かに、見たいけど、
「た、多少、怖いかも」
「じゃあ、私が感想だけ聞いてあげるよ」
「ありがと、ルーミアちゃん」
 にこーっ、と笑ってまたぱたぱたと仕事に戻る。
 ……はあ、まったく、
「よしっ、やるわよメリーっ」
「ええ、こうなったらやれるだけやってやるわっ」
 って、
「それで、私たちは何を作ればいいの?」
「さあ?」
「あの、蓮子さんとメリーさんって、たまに空回りしますよね」
「勢いで突っ走ってそのあと首をかしげるタイプね」
「オーダー取ってこようか?」
 リグルが苦笑して顔を出す。うん、
「「御願いっ」」
 さて、メリーと材料や、それと器具を確認、用意してもらっていると、
「取ってきたよ」
 苦笑交じりのリグル、……うわ、あんまりいい予感がしない。
「えと、なん、だって?」
「ええ、『蓮子とメリーのお勧め』だそうよ」
「知るかっ」
「まあ、なに作ってもいいんじゃない?」
「というか、どのくらい作ればいいかもわからないんだけど」
 宴会人数だったし、そんな量作った覚えはない。
「それもお任せみたいね。
 なんでもいいから作れば誰か食べるわ。喜々として」
「すっごくハードル高くない? その注文」
 作る量、内容、全部お任せってどんな注文よ?
 と、
「やっほーい、追加注文だよー」
「……ヤマメ、却下してきて」
「メリーに、フランドールとこいしから」
「私っ?」
「うん、『愛情をこめて』」
「意味わからないわよっ!」
 ある意味凄まじい高難度の注文にメリーが悲鳴をあげて、ヤマメは無視。
「それと、蓮子、霊夢から」
「なんで霊夢から?」
 というか、物凄く嫌な予感がする。……ちなみに、立場が逆転した場合、私なら、
「「『とにかく美味しいの』」」
 自分の想定と、ヤマメの告げた予想が見事に合致した。
「うわー、霊夢さんと蓮子さんって気が合うんですね」
「っていうか、どう見ても嫌がらせに走っているわね。霊夢」
「あの、咲夜さん。それ、逆の立場なら蓮子さんが霊夢に嫌がらせに走るってことでしょうか?」
「……ありえるわね」
 じと、と視線が四つつきささる。負けた、とそんな言葉を思って、
「それと、蓮子にさとりから注文」
「いや、ほんと勘弁して」
 ヤマメは無視。
「『愛情をたくさんお願いします』」
「あ、愛されていますね?」
「あはははは」
 私は何を作ればいいの?
「美鈴さん。
 私は何を作ればいいんですか?」
 メリーの問いに、美鈴さんは苦笑して、
「えっと、とりあえず、……さ、咲夜さん?
 ほら、お嬢様への愛情たっぷりのご飯を参考に、とか」
「美鈴、甘いわね」
 咲夜さんは、冷静な表情で頷く。
 甘い、と。
「愛情は、その人によって、そして、向ける対象によっても違うのよ。
 私の言う事は参考にならないわ」
「いや、そんな精神論は置いていいです」
「私はそれをたくさん要求されてるよ。さとりちゃんから」
「あと、レミリアから」
「却下っ!」
「『満足できるものを』」
「知るかっ!」

 ため息をついて、ジャーマンポテトやら唐揚げやらサラダを作って持っていく。
 持っていく、……持っていこうかと言ってくれたルーミアちゃんは裏切った。――どころか、みんなが却下した。自分で持っていけ、と。
 適当な量をカートに運んでテーブルに突貫、告げる言葉は一言。
「へいおまちっ!」「蓮子、それもどうなのよ?」
 メリーは無視、そして、おお、と。
「へえ、美味しそうじゃない」
 レミィが少し驚いたように言う。まあ、盛り付けあたりは咲夜さんとかにいろいろ手伝ってもらったんだけどね。
「はいはい、さっさと並べるわよ」
 さて、と。私は料理を手に取る。それと、
「はい、フランちゃん、こいしちゃん」
 メリーは二人にの前にオムライス。
「わあ」「ありがとっ、メリーっ」
 愛情、とメリーはそれをケチャップで描かれたハートマークで表現。
 フランちゃんとこいしちゃんは満面の笑顔で食べ始める。そして、それを見てほっと一息ついて、美味しい、と笑う二人を見て微笑むメリー。
 さて、
「で、蓮子さん。私に愛情たくさんの料理は?」
「はい」
「…………真っ赤なオムライス? ケチャップの量と愛情は比例しないと思うわ」
「で、蓮子。私に満足できるものは?」
「はい」
「…………なに、この三倍近い量のオムライス? 満足するのってカロリー?」
「で、蓮子。私に美味しいものは」
「はい」
「…………ただの米?」

 レミィ達は縁日には参加できない、らしい。
 その辺何かルールがあるかもしれないけど、まあ、私にはわからない。
 というわけで、さんざんごねるレミィとフランちゃんは何かの妥協点を探してもらうとして、
「……えっと、なぜですか?」
「私も遊びたーいっ」
「うるさいっ、あんたたちも居残り」
「いいもんっ、こいしで遊ぶからいいもんっ」
「で?」
 と、八つ当たり気味にさとりちゃんとこいしちゃんがレミィとフランちゃんに残らされる。
「まあ、大変そうですねえ」
「あはははは」
「まあ、お嬢様も妹様も、遊び相手がいてよかったです」
 玄関まで見送りに来てくれた美鈴さんと咲夜さん。私とメリー、そして、メリーの手の中に収まったお雛様は、頭を下げる。
「「「いってきます」」」
「はい、いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃーい」
 まあ、そんな言葉に見送られて、私とメリー、お雛様は夜の遠野へ飛び出した。
 飛び出す、路地に、――――そこで、世界が覆った。
「わ、あ」「へえ」
 ぽつ、ぽつ、ぽつ、と灯る提灯。真っ暗な世界は、ぼう、と提灯の赤い光に照らされる。
 そして、その光を押しのけて輝く屋台の明かり。
 縁日、その言葉通りの光景。
「さて、それじゃあ行きましょうか」
「私もいいですか?」
 え? と、
 とんっ、と軽い足取り、目の前で笑う女の子。
「文、貴女も、参加できたの?」
「ええ、それはもちろん」文は古風な写真を向けて「忘れましたか? 私は記者ですよ。面白そうなところはどこへだって行きます」
 にこっ、と彼女は笑う。
「ええ、どこにだって行きます。
 幻想の向こうだろうが、現実の境界だろうが、世界の最果てだろうが、創世の瞬間だろうが、この世の終わりだろうが、
 この眼で見て、この手で描く、そのためになら、文はどこにだって跳んでいきますよ」
 だって私は記者なのですから、と笑う。
 なるほど、なら、
「気が合いそうね」「共感してもらえるでしょ?」
 にや、と文は悪辣な感じで笑う。きっと、私も似たような笑顔なんだろうなあ。



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