目を開けて、最初に見えたのはメリーの寝顔。それも、文字通り目と鼻の先。
 ぼんやり、とその寝顔を見て、目をこすって起き上がる。さて、
「ん、…………っていうか、なんなのかしらねえ。この状況」
「惨状ってんじゃない」
 思わずぼやいた言葉に返事。
「あ、おはよ。霊夢」
「おはよ。早かったわね」
「ん、まあね。……うわ、朝六時かあ」
 最近早起きね、私。
 まあ、当然か。――朝食は七時、だから。
「どっか行くの?」
「ん、朝風呂」
「あ、私も行きます」
 阿求ちゃんが寝乱れた寝巻を直しながら立ち上がる。霊夢はそう、とだけ頷いて歩き出す。
 なら、
「私も行こうかな」
 二日連続朝風呂、――金輪際ない気がする。

「…………二人とも、似たような体型ですね」
「「はあ?」」
 お風呂、寝間着を脱いで、さて入るぞ、といったところで、こんな事を言われた。
 またも重なってしまった声、もうため息さえつかず、ふと、霊夢を見る。霊夢もこっちを見た。
「「私はこんなに小さくないわよっ」」
 なにが、とは言わないけどね。で、そんな私達を見て、阿求ちゃんは笑って、
「いえいえ、二人とも綺麗ですよ」
「うるさいわね」
 ふん、とそっぽを向く霊夢。
「阿求ちゃんも綺麗だから安心しなさい」
「そうですか、ありがとうございます」
 にこっ、と笑顔。
 なにかなー、とその笑顔に微妙な警戒を感じながら、私はまず体を洗おうと、椅子を引っ張って蛇口の前に座り、
「ひゃああっ」
「……どうしたの? 霊夢」
「いえ、せっかくなので背中を洗ってあげようかなーって」
 にやー、と笑う阿求ちゃん。ついたての向こうだけど、たぶん。
「抱きついてる?」
「すべすべですね」「じゃないわよっ、鬱陶しいっ! 離れなさいっ」
「いいじゃないですか、サービスなんですから」
「知るかっ、洗いたければ好きなだけ洗っていいから、離れなさいっ」
 ちぇ、と阿求ちゃん。
 仲いいわね、と。ふと、
「阿求ちゃん」
「なんですか? 蓮子さん」
「霊夢の事、好き?」
 問いに、「はあっ?」と向こうから慌てた声。
 対して、阿求ちゃんは嬉しそうに笑いながら、
「ええ、好きですよ」
 当り前のように、そう言った。
「ったく、当人がいる前でそんな事聞かないでよ」
「いや、つい。
 愛されているわねえ、霊夢」
「うっさい黙れ」
「ふふ、怖い怖い。
 あ、蓮子さんも洗ってあげましょうか?」
「いや、いいわ。自分で洗うから」
 えー、となぜか不満そうに阿求ちゃんが声をあげる。
 と、
「って、ひゃっ、阿求っ、どこ洗ってるのよっ!」
「腋の下」
「いらんわっ!」
 やばい、阿求ちゃん、てゐちゃんくらい厄介な娘だ。
 確信して、私はさっさと体を洗う。昨日のてゐちゃんは大人しかったけどね。
 じたばたと嬌声をあげる霊夢と無駄に楽しそうな阿求ちゃん。私は本能的な危機感に従って、急ぎ湯船へ「逃すかっ!」
「ほえ?」
 ぱかんっ、
「いたっ!」
 なにっ? 振り返ると、
「あんたも洗われなさい」
「え? 何その変な命令?」
 恐る恐る後退する私と、じりじりと迫る阿求ちゃんと霊夢。
「え? な、なに、この危機感?」
「ふふ、気のせいですよ」「気のせい、気のせい」
「ほら、朝だから、ね、大人しく行こう」
「気のせいですよ」「ええ、気のせい、気のせい」
「ごめん、言ってる意味が全く分からないわ」
「行け阿求っ!」「合点承知っ」
「なんで阿求ちゃんそんなにノリノリなのっ?」
「楽しいからですよっ」
 ああ、阿求ちゃんが厄介な理由が分かった。
 この娘、かなり享楽主義者だ。他者の反応を見て楽しむてゐちゃんとは違う。自分が楽しいと思った事をやって満足するタイプ、たぶん、他人の事考えないで。
「ひゃーーーーっ!」
 私の間抜けな悲鳴が、朝風呂に木霊した。

「…………で、蓮子。なんでそんな疲労困憊なのよ?」
「うーあー?」
 ぐったりしている私に、メリーは不思議そうに問いかけた。
 答える、その前に、
「ふぁー、眠いぜ眠いぜ、どうしてこんなに朝早いんだぜ」
「あふ、ほんと。
 朝くらいゆっくりしたいんだけど、私」
 そして、『霧雨道具屋』の二人はぐったりしている私を見て、
「なに朝っぱらから疲労困憊なんだ?」
「マラソンでもしてたの? 健康的ね」
「まさかっ!」
 がたっ、とメリーが立ち上がる。
 その勢いに「おお」と、二人は後退して、
「蓮子が太らないのって、それが原因なのっ!
 抜け駆けっ?」
「おーい、メリーメリーメリー、落ち着きなさい」
 あまり声をあげる元気もないのでぼんやりと、メリーははっとして、
「あ、ごめん」
「いえ、面白いものが見れましたわ。
 ダイエットは定期的な有酸素運動が効果的ですからね」
 咲夜さんが笑顔で朝食の準備をする。
「私も朝はいつも運動してますよー」
 美鈴さんも笑顔で続いた。――――なるほど、
「な、なんですか?」
「美鈴さんがスタイルいいのってそれが理由なんだ」
「なるほど、魔理沙は運動しないものねえ」
「暗に何言ってるのかよくわかるぜアリス。
 っていうか、お前が言うな」
 じゃなくて、と。
「おはようございます」
「おはよー」
 さとりちゃんとこいしちゃんが顔を出す、そして、テーブルに突っ伏す私を見て首をかしげ、
「どうしたのですか? 蓮子さん」
「スタイル維持のためにジョギングしてたそうですよ」
 違うわ。
「わっ、蓮子凄いっ」
「なんていうか、結構、健康的なんですね。
 ちょっと意外です」
「そうですよねー、でも「美鈴、準備っ、今日もお客さんが多いんだから」あ、はーい」
 咲夜さんに呼ばれて美鈴さんは奥へ。
「おねーさまー、ねーむーいー」
「私だって眠いわよ。
 くあー」
 オーナー姉妹がやってきて、最後に、
「おはよ。っていうか、もっとしゃっきりしなさいよ」
「おはようございます」
 呆れた声の霊夢と、元凶の阿求ちゃんが現れた。
 霊夢はぐったりしている私を見て、苦笑。
「お疲れ」
「っていうか、霊夢回復早いわね」
「ん、まあね。
 っていうか、あんたほどじゃなかったし」
「…………私を生贄にしたわね?」
 霊夢はぱっ、と視線をそむけて、阿求ちゃんがはっ、とした。
「どうしたんだ? 三人でジョギングでもしてたのか? …………え? 霊夢がジョギング?」
「あ、ありえないわね」
「お姉様、ど、どうしよう? 珍しい事が起きたら世界が滅びるのよね?」
「……フランドール、その都市伝説はどこから入ってきたの?」
「って咲夜が言ってた」
「…………まあ、珍しいわね。世界は滅びないと思うけど」
「ってか、なんで私がジョギングしたことになってるのよ。
 風呂入っただけよ」
「蓮子もか? 風呂に入って疲労困憊なんて、どんな激しい風呂なんだよ?」
「咲夜ーっ! お風呂改造したー? 激しい感じに」
 レミィの問いに、ひょい、と咲夜さんが顔を出して、
「お嬢様、申し訳ございません。まったく意味が分からないです」
 うん、同感。
 首をかしげるみんなに、阿求ちゃんが笑って、
「いえ、蓮子さんと一緒にお風呂に入ったんですけど、体を洗ってあげたんです。
 くすぐったい感じに」
「で、さんざんくすぐりまわされたってわけ」
 ひらひらと補足をする。
「む、なんか楽しそうね」
 なぜか不服そうなレミィに、ぼんやりと顔をあげて、
「楽しくないわよ。疲れたわよ。気力なくなったわよ」
「あれ? じゃあ、早池峰山へは行かないのですか?」
 ごめんね、さとりちゃん。
「行く。絶対」

「あまり感心しませんね」
 『観光案内所』へ。そこで真っ先に言われたのがこんな言葉。
「え? ごめんなさい?」
「意味もわからずに謝らないでください」
 いや、雰囲気が、ともかく映姫さんは立ち上がり、
「確かに、見聞を広めるのはいい事であり、神社にお参りに行く、というのも感心な事です。
 とはいえ、手段が乱暴すぎます。
 トラックの荷台に乗っていくなんて、危険という事はわかっているのですか?」
「「うぐ」」
 言われた、確かに、危険かもしれないけど、
「まあまあ、映姫様。
 いいじゃないですか。せっかくの旅行なんだから、ちゃんと回りたいところを回らなくちゃ損ですよ」
「そうそう、ロープも張ったし、自転車は落ちないよ」
 萃香がけらけら笑って、一緒にいる勇儀がにや、と笑う。
「よし、それならその二人も縛り付けて行こう」
「のったっ!」「のるなっ!」
 冗談じゃないっ、私にそんな趣味はないわよっ。
 なぜか不服そうに唇を尖らせる萃香。まったく、と映姫さんが、
「いいですか、二人とも、くれぐれも安全運転を心掛けてください。
 蓮子、メリーも、移動中は何かにつかまって、間違っても立ち上がったりしてはだめですよ」
「わかってますよ」「えっ」
 あっ、しまった。
「えっ、とはなんですか、えっ、とは」
「あ、あははは」
 ちょっとやろうとしていました。
「大丈夫ですよ。
 このじゃじゃ馬は私がちゃんと面倒見ていますから」
 その保護者みたいな態度が腹立たしい、――けど、反論も文句も飲み込んで一呼吸。
「気をつけます」
「……まあ」はあ、と映姫さんはため息「気を付けてください」
「うん、ありがと」
「へ?」
 きょとん、と映姫さん。
「いや、……まあ、心配してくれてありがと、って、思って」
 こんな事を解説するのもなあ、と思いながら続けると、映姫さんは顔をそむけて、
「ど、どう、いたしまし、て」
「おやあ、映姫様。顔真っ赤ですよ?
 お説教を感謝され、きゃんっ!」
「よ、け、い、な、こ、と、は、い、わ、な、く、て、よ、ろ、し、いっ!」
「きゃんっ、い、痛いっ! 痛いです映姫様っ。きゃんっ、
 照れ隠しならもっと可愛いの、可愛い感じでお願いしますっ」
「うるさいですよっ!」
「あのさ、蓮子」
「ん?」
「楽しそうだなあって思う私って、変わってるかな?」
「え? なに言ってるの? 言うまでもなくメリーって変じゃない」
 確かに楽しそうだなとは思ったけど、メリーが変なのはそれとは別に、当り前のこと。
 だから、至極当然と頷くと、――メリー?
「なんでよっ!」
「きゃんっ!」

「あはははっ、楽しいねえ、二人揃って」
「あー、まあ、うん、楽しいわよね。
 見てるぶんには」
 助手席から顔を出して萃香、私は苦笑して応じる。
 そして、視線の先、心配そうにこっちを見ている映姫さんと、苦笑している小町さん。
 なんか、心配かけちゃったな。
 そして発車。しっかりとトラックの荷台を掴む。
 取り合えず、戻ったら、大丈夫だったよって挨拶しないとね。
「一応安全運転で行くけど、止まったり曲がったり急ブレーキしたりするから気をつけなよ」
 萃香が身を乗り出して言う、そりゃもちろん。
「荷台掴んでるわ。大丈夫」
「ま、あれだ」
 勇儀さんが運転をしながら、少し困ったように、
「こっちの提案に乗せちゃったわけだし、何かあったら言ってくれ、やれる事はやってやるから」
「ありがと」「ありがとうございます」
 ほんと、有り難いわね。心配してくれた事、も含めて、
 来てよかった、改めて思う。
「凄いわね」
「メリー?」
「蓮子、凄いわ、景色がいつもと逆に流れてる」
 運転席のほうに背を預けて座っている私たち、当り前だけど、自転車に乗っている時とは逆に景色が流れる。
「うん、凄いわね」
 何が凄いってわけじゃないんだけど、当り前の事なんだけど、
 だけど、私はメリーに頷く。
「気に入ったかい?」
「「ええ」」
「へえ、それはよかった。
 勇儀っ、私も後ろ行くっ」
「はいよ、止まったら勝手に行きな。
 落っこちるなよ」
「わかってるって、そんなへましないよ」
 そして、車は一時停止、がちゃ、と扉が開いて、
「よいしょ、とっ」
 とん、と萃香が座る。
「やっほ、割り込ませてもらうわよ」
「いや、いいわよ。気にしないで」
「でさ、二人とも、ここは楽しい?」
 問い、答えは決まってる、考える必要もなく、
「もちろん」「ええ、楽しいわ」
「そっか、それはよかった」
 萃香は、んあー、と大きく伸びをして、
「私もここ好きなんだよねー
 のーんびりしてられるけど、山入るといろいろいるから、楽しくてねえ」
「天狗とか?」
「そ、天狗とか」
「やっぱりいるのね」
 メリーが苦笑、そりゃねえ。
「メリー、河童がいてザシキワラシがいて喋る烏とか猫とか人形がいるのに、これで天狗がいなかったら詐欺よ」
「なにに対する詐欺何だか全然わからないんだけど」
「あははははっ、おまいさんら随分いろいろなのに会ってるねえ」
 運転席から豪快な笑い声。いろいろなの、――うん。
「まあね。面白い人がたくさんいるわ」
「そうね、蓮子に勝るとも、…………まあ、面白いわね」
「え? 普通に勝るとも劣らずっていいましょうよ」
「いや、……うん、蓮子は面白いわ」
「褒めてないわよね、それ?」
「あははっ、いいじゃない、面白いのはいい事だよ。
 私も面白い人は大好きだよっ」
 豪快に笑う萃香。――うん、貴女も十分面白いわ。
「酒呑んで一緒に騒げればなんだっていいさ。
 そうそう、おまいさんら今夜も『博麗』かい? 私たちはいつもそこだから、土産話の一つでも用意してもらおうか」
「毎日『博麗』だけどね」
「土産話なんて必要ないわ。
 霊夢と蓮子がそろえば大抵面白いから」
「メリーメリー、なんで私が彼女とセットになるのよっ!」
「え?」メリーは心底不思議そうに私を見て「だって、面白いし」
「へえ、霊夢の友達なんだ」
「まあ」どうだろ、と珍しく自分で首をかしげながら、一応「そう、ね。多分」
「何かあいまいないい方だね。はっきり言えばいいじゃない」
 はっきりねえ。――いや、それは、なんだろ?
 わからない。なあ。
「ごめん、よくわからないわ、正直」
「ふぅん? ま、それならそれでいいさ。
 あんまり難しく考えない事だね」
「おーい、後ろ。
 左曲がるから、気をつけなー」
 と、私は急いで掴まる。
 まずは車が左によって、ゆっくりと左折。
「おいおい、勇儀さんや。いつもに比べて随分と安全運転だね」
「あのなあ、萃香。
 今は客人がいるんだぞ、無茶をするわけにもいかないだろ」
「まあ、それもそうか」
「いつもは違うの?」
 問いに、萃香は楽しそうに笑って、
「おうともさ、最高速度のままドリフトターンとかやるよ」
「あ、うん。勇儀さん、安全運転お願いします、かなり本気で」
「わかってるって、第一そんな派手なパフォーマンスなんてやらないよ。
 萃香、面白おかしく変な虚飾するな」
「すまんすまん」
 ミラー越しに睨む視線に、萃香はペコリと頭を下げる。
「お客さんも、心配しなさんな。
 安全運転は心がけるよ」
「ありがと」「ありがとうございます」
 なに、と勇儀さんは笑って言う。気にするな、と。
「遠い道行だ。のんびり行こうじゃないか」
 遠い、か。
「まだ半分も来てないのね」
「まあね、残念?」
「ううん、こういう雑談も好きだからね」
「そりゃあいい。私も楽しいよっ」
 あはははっ、と豪快に笑う萃香。
「なんだいなんだい、なんか私除者みたいだな」
 運転席から聞こえる苦笑交じりの声。――まあ、運転する人がいないと到着できないわね。
「邪推はよくないよ勇儀さんや。
 勇儀がこっち来たら誰が運転するのよ」
「はいはい、わかってる。
 こっちから口挟ませてもらうよ。割り込みごめんってとこだな」
「割り込み歓迎中よ」
 ついでに言ってやると、前から勇儀さんの笑い声。
「それはありがたいっ。
 まあ、歓迎してなくても割り込むがね」
「あははっ、遠慮などする勇儀など気色悪いわっ」
「あんだとー」
「萃香もあんまりそういうの気にしなさそうよね」
 メリーの問いに、そりゃもちろん、と。
「楽しく行こうじゃないか、せっかくの出会いだ。
 楽しまなくちゃ損だろう。
 楽しまなくちゃ嘘だろう。
 仰々しくも賑々しく、思う存分楽しもう、そう、」
 萃香が言葉を一瞬止める、合の手は。
「この素晴らしき出会いを」「この素晴らしき時を」
 私とメリーの合の手に、萃香は「よし」と、
「勇儀っ、客はノリがいいぞっ」
「そーこなくちゃなっ
 まったくっ、私がそっちに行けないのが残念でならないねえ」
「二人とも、酒はいける?
 今夜思う存分飲み語ろうじゃないか」
 あー、酒かあ。
「私は付き合うけど」メリーは苦笑「飲み比べに発展する? 蓮子潰れたわよね?」
「普通にお願い」
「飲み比べ? 誰と」
 意外そうな問いに、私はまた、彼女の顔を思い浮かべて、
「霊夢」
「「なんとっ!」」
 声が重なった。
「あの霊夢と飲み比べとは、また凄いねえ」
「どっちっ、どっちが勝ったっ?」
 ずずい、と萃香が迫ってくる。どっちが、
「メリー、どうだった? 私よく覚えてないんだけど」
「ほぼ同時に潰れてたわ」
「へえ、あの霊夢とねえ。
 ま、飲み比べなんてしないさ。酒こそ楽しく飲まんとならんからな」
 もちろん、と萃香は笑って、
「それを望むなら、ああ、とことん付き合ってやるさ。
 なあ、勇儀さんや」
「挑戦を断る理由はないな」
「遠慮します」
 私は速攻拒否、そういえば、
「メリーってどのくらい飲めるの?」
「さあ、そこまで飲んだ事もないわね」
 二日酔いの所も見た事がない、飲めない、ってわけじゃないんだろうけど。
「ま、今夜は酒がメインかな。
 レミィとか付き合ってくれるかな」
 っていうか、飲める、――――のよね。
 当り前のように出し、普通に飲んでた。
「ここで酒を飲まない奴なんていないさ」
「あははっ、楽しい楽しい宴会だねっ」
「霊夢、っていうか、『博麗』の子たちが大変そうね」
 あるいは、咲夜さんや妖夢、鈴仙辺りも、…………私達も、巻き込まれるかもしれない。
 ただ、あるいはそれも楽しいかもしれない、かな。
 ……って、
「勇儀さんっ、止まってっ」
「おっ?」
 がくん、と車が急停車。
「きゃあっ、れ、蓮子っ、なに?」
 バランスを崩したメリーが抗議の声。けど、
 隣を流れる猿ヶ石川。そこに、
「あ、あれ」
 ぷかぷか浮いてるのって、――――まさか、
「ん?」萃香が身を乗り出して「ああ、あれ、」
「溺れてる、人?」
 まさか、と思いながら私は荷台から飛び降りる。
 もしかして、だけどもっと近くで確認して、場合によっては、
 早池峰山はあきらめないといけないかな、と駆け出す、前に、
「おーいっ、にとりーっ」
 萃香が声をあげた。――にとり、って、確か?
「『カッパ淵』の河童よね」
 メリーが言う、そして、その通りの彼女が川からあがってきた。
「ひゅいー、いやいや、川で昼寝なんてするものじゃないね。
 流されちゃったよ」
「……なに、そのリアル河童の川流れ」
「おっ、君は『カッパ淵』であった、蓮子、だっけ。間違えてたらごめんね」
「あ、ううん、あってるわ。
 にとり」
 名前を呼び掛けてあげると、にとりはにこーっ、と笑う。
 そして、トラックに顔を向け、
「萃香、どうしたの? また珍しい客を連れてるけど」
「なに、合縁奇縁、縁があったってだけよ」
「こんにちわ、にとり」
「うむ、メリーもこんにちわ」
 よいこらせ、と声をあげてにとりも荷台に乗り込む。私も続く、そして、私が乗ったのを見て、
「でさ、みんなはどこに向かってるの?」
「樵がこの道行くなら」萃香は奥に見える山を示し「早池峰山さ、仕事だよ」
「なるほど、それは失念してたよ。
 って、まさか二人も樵の手伝い?」
「いや、間違いなく足手まといになるわね。私たち」
 メリーが苦笑していう。それはそうだ。重労働っぽいし、林業って、
「神社にお参りだってさ。
 『早池峰神社』に」
「へえ」にとりは改めてトラックに腰をおろして「んじゃ、私も付き合うよ。いいかい?」
「私たちの仕事に?」
 運転席から身を乗り出して勇儀さんが問う、まさか、と、
「もちろん、お参りよ」
 だろうね、と勇儀さんは苦笑して運転席へ。
「行くよ」
 そして、出発。
「おおっ、久しぶりの車は気持ちがいいねえ」
「川に浮かんでばっかりだからな、河童は」
「……浮かんでって、そんなに頻繁に川流れしてるの?」
 まあね、とにとりは笑って頷いた。
 笑う事、でもないと思うんだけど、



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