「…………なんで、二人は戻ってくるたびに何か連れてくるんだ?」
 レミィの不思議そうな問いに、答えたのは、
「まあ、これも人徳、ではないでしょうか?」
「そんなものかしらねえ?」
 それはよくわからないんだけど、
「で、お雛様はどうしよう?」
「……咲夜、ザシキワラシのいる部屋に飾っておいて」
「はい」咲夜さんはお雛様を受け取って「なんていうか、縁起だけは順調に良くなっていますね、あの部屋」
「あー、うん、そうだね」
 今度見に行ってみよ。――「部屋の内装って、同じですよね、私たちがいるのと」
「ええ」
「……ミスマッチね」
 純然たる洋室に飾られる、フリフリな服の和人形。隣にはザシキワラシ鎮座。――なんなんだろう?
「それと、そっちは何?」
「ぞんざいな言い方だね」てゐちゃんはひらひらと手を振って「宿泊客だよ」
「帰れ」
 いろいろ思うんだけど、遠野の人って商売する気あるのかしら?
「では、夕ご飯は午後七時からです」
 時刻はまだ午後五時半、レンタサイクルは、さすがに無理か。
「ま、いっか。
 メリー、部屋でゆっくりしていましょう」
「出来ればね」

 もちろん、出来るわけもなく、
「へー、ここが二人が泊っている部屋か」
「早速来たわね、てゐちゃん」
「まーね」
「邪魔するわよ」
 鈴仙も顔を出す。ま、いっか。
「夕飯どうするんだろうね、ここ」
「隣の『博麗』で食べるらしいわよ」
「なんだ、いつも行ってるところか」
 ぽすん、と鈴仙はソファに座る。
「っていうか、どうしたのよ、二人とも」
「どうもなにも、『Scarlet』にいるから一緒に遊ぼうって言ったのは蓮子でしょ? 忘れた?」
「あー、いや、そうだったわね」
「二人は京都から来たんだっけ?」
「ええ、そうよ。言っておくけど鬼も鵺も怪鳥も狐も怨霊もいないわよ」
「え? そうなの?」
「一体京都をなんだと思ってるのよ。貴女達は」
 呆れていうと、鈴仙は至極当然と、
「羅城門に鬼が巣食い夜になると鵺が笑い道を歩けば狐が化かし橋を渡れば橋姫に引き込まれる。
 『火雷天神』菅原道真や『大魔縁』崇徳天皇の怨霊が跋扈する『魔都』」
「…………そのどれもないわよ」
 いい加減人が住めるような都じゃないような気がする。
「へえ、そりゃ意外だね」
「いくらなんでも誤解しすぎよ。
 ただ、普通の平穏な町よ。嘘だって思わなかったの?」
「博物館で言ったのじゃ足りないって思ってたわ」
「あれでも多い」
「じゃあさ、二人は何やってる人?」
 むぅ、と黙る鈴仙の横で、てゐちゃんが問いかける。
「働いている、ようには見えないけどね」
「私はてゐちゃんが働いているって方が信じられないわ」
「そりゃこんなに可愛いんじゃねっ」
 ウインク一つ、似合ってるし、実際可愛いとは思うけど、自分でいうな。
「ええ、可愛いわよ。てゐちゃん」
「……ありがと」
 自分で言っておいて照れないでよ。
 にっこりと笑顔のメリーに、てゐちゃんはため息。
「私とメリーは大学生よ。
 私が超統一性物理学、メリーが相対性心理学のね」
「なんか面倒くさそうな学部ね」
 眉根を寄せる鈴仙、――まあ、そんなわかりやすい学部とは思わないわよ。自分でも、
 と、
「来ちゃった」
「帰って来たなら呼んでくれればいいのに」
「やっほー、お帰りーっ」
 隣の部屋にいたザシキワラシやら雛人形やら、
「それにしても、またお客さんを連れて来たのですか。
 蓮子さんも、…………」
「なにっ?」
「お帰りーっ」
 ばたんっ、とフランちゃんが現れた。
「おやおや、なかなか人気者だねえ」
 けけけ、と笑うてゐちゃん。なんでかしらねー
「これも人望だそうよ」
「それは凄い。いや、見習いたいねえ」
「凄いって意味じゃ、博物館の館長やってるてゐちゃんの方が凄いと思うんだけど」
「そう? そりゃ年の功さ」
「この中じゃ、……いや、うーん。下から二番目、くらい?」
 フランちゃんとこいしちゃんとてゐちゃんと、見た目だとそんな大差なさそうだけど、
「? 何の話?」
「誰が年上に見えるかって話よ。
 まあ、下三人はフランちゃんとこいしちゃんとてゐちゃん、かなって」
「逆に一番年上そうなのは誰だと思いますか? この中では」
「……また、難しい事聞くわね」
 うーん? ……「メリー」
「私っ?」
「やっぱりメリーお姉ちゃんだっ」
「メリーお姉ちゃん」
「よかったねえ、メリーお姉ちゃん」
 で、下三人が笑っていう、メリーは何とも言えない表情で、
「なんで、私?」
「蓮子とメリーと、どっちの方が上に見えるかって話よね。
 雰囲気的には確かにメリー、のような気がするわ」
「確かに、お姉ちゃんっぽいですよね。メリーさん」
 お雛様はふんわりと笑う。お姉ちゃんっぽい。――うん、
「メリーお姉ちゃん」
「気持ち悪い」
「ひどっ」
 即答されたっ! ――あ、いや、私も似たようなもの、だったっけ?
「ほら、ほら、鈴仙さん、蓮子お姉ちゃんって言ってみましょう」
「蓮子、お姉ちゃん?」
「うわー」
 ぞぞぞ、と、背中が痒くなる。正直やめてほしい、その響き。
「ん、咲夜。蓮子お姉ちゃんがベッドでもがいているけど」
「そうですね。何かいい事があったのでしょう」咲夜さんは、にたり、と微笑み「蓮子お姉ちゃん」
「いやーーっ!」
 咲夜さんに言われた、なんか、もう、やめてほしい。

「…………で、なんであんたこんなところで独り酒してるのよ」
「放っておいて、もうお姉ちゃんネタはいやー」
 『博麗』のカウンター、私はそこに突っ伏して独り酒を飲む。
 お姉ちゃんネタは止めてほしい、切に、レミィやさとりちゃんならともかく、咲夜さんやメリーに言われると妙に泣きたくなる。
「あっそ」
 霊夢はあんまり興味なさそうに、私の隣に座った。
「ヤマメ、冷酒」
「はいよ」
 とん、とヤマメは冷酒を置く。
「私もー」
「お客さん、飲みすぎないでよ」
「今日はとことん飲むぞー」
「はいはい、ヤマメ、この酔っ払い気をつけてよ。
 必要なら殴って止めろ」
「了解。
 ん? んじゃ、霊夢、私は上がりかい?」
「いいんじゃない? 代りに咲夜でも働かせれば」
 あー、店員の代わりに働くお客さんって何なんだろ、
 頭がぐるぐるしていて巧い突っ込みが出てこない。――――まあ、いっか別に、
「ま、いっか。面白そうだからここで眺めてるよ。
 お客さん、注文は是非このヤマメを御贔屓に」
「あいよー」
 ひらひらと手を振る。
「んで、どーしたの?
 あっちで遊んでればいいじゃない」
「んー、今は飲みたい気分なのー」
「あっそ、明日ぶっつぶれても知らないわよ」
「気をつけるー」
「ヤマメ、この酔っ払いどうする?」
「放っておけば抜けるんじゃない。
 あとは油でも食わせれば? 揚げ物ってアルコール分解するってのはほんとかしらね?」
「嘘に決まってる。っていうか聞いた事ないわよ、そんなわけのわからないの」
「分解したらもったいないじゃなーい」
「まあ、それもそうね」
「霊夢、それ納得しちゃうんだ」
「同志よっ」
「黙れ酔っ払い」
 ぐぅ、
「ったく、お酒は適度に、って習わなかった?」
「私は適度に飲む霊夢なんて知らないけどね。
 枠だよあんた絶対」
「酔わなきゃいいのよ」
 そういって、ぐいっ、と。
「おおっ、いい飲みっぷり」
「ん、このくらい楽勝よ」
 ふぅ、と霊夢は一息。
 ぱちぱちと手を叩くと霊夢は得意げに笑う。ヤマメは身を乗り出して、
「お客さん、霊夢に付き合わない方がいいよー
 冗談抜きで枠だからね、いやあ、沼かな。いっその事」
「泥沼?」
「あはははっ、底なし沼だね」
「あんたら、変なことで盛り上がらないでよ」
「いーじゃなーい、場末の酒場は盛り上がったほうが勝ちよー」
「黙れ蓮子お姉ちゃん」
「霊夢にいわれても何とも思わないのはなぜだろう」
 霊夢と首をかしげる。と、
「へえ、それは面白いな、霊夢お姉ちゃん」
「うわっ、気色悪っ」
 にやーっ、と笑うレミィに霊夢は自分の身を抱いて悶えた。
「お嬢様、霊夢お姉ちゃんが震えていますよ」
「ひゃーっ、咲夜に言われるのが一番気色悪い」
「……なぜでしょう?」
 相変わらずの緩い無表情を、どことなく残念そうにして咲夜さん。
「そんなことよりー、蓮子ーっ、こっちで飲みましょうよーっ」
「私の酒が飲めないってのかーっ」「飲めないってのかーっ」「かーっ」
 立ち上がって両手を掲げるてゐちゃんにフランちゃんとこいしちゃんが続く。
 ばさっ、と。
「さとり様も寂しがってるよー」
「お、お空っ、変な事言わないのっ」
「霊夢もこっちで飲めばいいじゃない、そんなところで飲んでないで」
 鈴仙に言われて、霊夢はどーしたものか、と。
「いいのよ、今日はこの酔っ払いと飲んでるから」
「それじゃあ頑張ってねー」
「付き合え酔っ払い」
「ぐえっ」
 襟首つかんで引き戻さないでよ、絞まるわよ、首。
「ミスティアー、適当にポテトでも持ってきて」
「はいよーっ」
 やれやれ、とレミィは肩をすくめて、咲夜さんは苦笑して賑やかな一角へ。
「付き合えって、なんか付き合うことあったっけ?」
「私の愚痴」
「客に愚痴聞かせないでよ」
「うっさいわね」ぐいっ、と冷酒を干して「ま、いいや、別にないし」
「結局ないんかい」
「愚痴ためるような生活してないからね。あんただって似たようなものじゃない?」
「まあ」メリーと一緒に駆けまわる日常、不満がまったくない、なんてことはないけど「ね」
 愚痴るようなことは、別にないか。
「どっちも好き勝手やってるんでしょ。
 ちっとは周りの事でも考えてみたら?」
「「うるさいわよ」」
 ……ぐあ、また、
 おお怖い、とヤマメはけらけら笑う。
「へいっ、ポテトお待ちっ」
 山、と盛られたポテト、霊夢は喜々としてつまみだす。
 私も一口、ほくほくしてる。美味しい。
 と、
「れでぃーすっ、あーんどっ、じぇんとるめんっ」
「ん?」「なに?」
 『博麗』、その一角の開けたスペースに、三人の女の子。
「ああ、チンドン屋の三姉妹か」
「チンドン屋、珍しいわね」
 京都じゃあ、見たことないわね。聞いた事はあるけど、
 ちなみに、そのチンドン屋の楽器の組み合わせがまた珍しい。なに、バイオリンとトランペットとキーボードって、
「そうでもないわよ、たまにああやって演奏していくの。
 ヒマなのかしらね?」
「さあ」……けど、演奏、そして拍手喝采、賑やかな一角を眺めて「上手ね」
「下手な演奏なんてしたら叩き出してやるわよ」
「素直に上手って言ってくれればありがたいんだけどね」
 お、
「うるさいわね」
 さっき演奏していた三姉妹、だっけ、そのうちの一人が霊夢の隣へ。
「ヤマメ、麦茶くれる?」
「はいよっ」
 手際良く出された麦茶を一口、彼女はふと、私を見る。……うん、
「素敵な演奏だったわ」
「ありがと、そう言ってもらえると一演奏家として嬉しい」
 そして、私と彼女の視線が、じと、と霊夢へ。――――はあ、とため息。
「まったく、はいはい、ルナサ、あんたたちの演奏は上手よ。
 これからもお願いね」
「ふふ、そう言ってもらえるとありがたいわね」
「そんなもの?」
「そんなものよ」
「って、姉さんっ、何こんなところで一人飲んでるのよ」
「私もーっ」
「うわ、妹連中まで来た」
「妹、連中? ……ああ、三姉妹って言ってたっけ?」
「ん? 新手のお客さん?」
 新手って、ルナサは苦笑して、
「これも何かの縁だし、紹介するよ。
 次女のメルラン、三女のリリカ」
「はじめましてー」「これからもチンドン屋『プリズムリバー』を御贔屓に」
 御贔屓に、って言われてもね、ともかく、
「はじめまして、私は宇佐見蓮子よ」
「御贔屓にってねえ、リリカ」霊夢は苦笑して「彼女、観光客よ」
「えっ、あ、そうなの? じゃあ新しい商売相手にならないじゃん」
 ちぇっ、と舌打ち。たくましいなあ、と苦笑し、
「リリカ、商売相手じゃなくてもお客さんであることには変わりないよ」
「はーい」
 咎める口調に彼女、リリカは苦笑して頷く。そして、
「ごめんねっ、お客さんっ」
「いたっ、メルラン姉さんっ、頭抑えないでよっ」
 ごめんなさい、のジェスチャーと共に頭を押さえて無理矢理頭を下げさせるメルラン。――なんか、
「なに笑ってるの?」
 霊夢の胡散臭そうな視線、そりゃあ、だって、
「仲いいなって」
「そう?」
 ルナサが首をかしげる。――と、聞かれても、だって、
「ま、何となくだけどね」
「私は姉さんも妹も大好きだよーっ」
 むぎゅっ、とメルランがルナサとリリカを後ろから抱き締める。
「きゃっ」「ちょ、メルランっ」
 細身のルナサと小柄なリリカは、そのままメルランに押し倒されて仲良く転ぶ。
「なにやってるのよあんたら」
 満面の笑顔のメルラン、その下で苦笑するルナサと、目を回すリリカ。――そんな姿が面白くて、
「わ、笑わないでよっ」
 思わず笑い出した私に、ルナサが顔を赤くして抗議。
「あははっ、ご、ごめんっ、ごめんねっ」
「謝るくらいなら、……まあ、いいか」
 ルナサは苦笑。そして、響く声。
「って、何そっちで楽しんでるのよーっ」
 向こうから抗議の声。フランちゃんが麦酒のジョッキを持って振りまわしてる。
「あはは、うん、姉妹っていいなあって思ってね」
 言いながら手を差し出す。
「ん、両手ー」
 向こう、逆側から呆れた表情の霊夢も同じ姿勢。メルランは嬉しそうに私と霊夢の手を握る。
 そして、立ち上がらせて、
「ルナサ」「リリカ、寝てないで立ちなさい」
「ん、ありがと」「別に寝てたわけじゃないわよ」
 私はルナサを、霊夢はリリカを立ち上がらせる。
 と、
「きゃっ、ちょ、こ、こいし?」
「私だってお姉ちゃん大好きよっ?」
 さとりちゃんに抱きついているこいしちゃん、それを見て、「うむ」とレミィが手を広げて、
「さあ、フランドール?」
「んあ?」何かを食べていたフランちゃんは「なに? お姉様、殴ってほしいの?」
 レミィ、かなりリアルにしょげた。……「え? 咲夜さん、なんでそんな残念そうなの」
「……………………いえ、現実とはままならないものですね」
「咲夜が落ち込まないでよっ、変な事を考えている気がするでしょっ」
「お嬢様と妹様が抱き合うところを妄想する事の何が変なのですかっ?」
「妄想ってねえ」
 変なことという自覚があるのか、はたまた天然か。…………天然で性質が悪いって手に負えない気がする。
「あははっ、相変わらず霊夢の所は賑やかね。
 盛り上げ甲斐があるわ」
「盛り上げなくても盛り上がるけどね」
「姉さんっ、そういう事を言っちゃだめっ」
「確かに賑やかよねえ。なぜか」
 とはいえ、と三姉妹が立ち上がる。
「さあっ! もっと盛り上げていきましょうかっ!」
 再度、楽器を構える三姉妹、わーっ、と上がる喝采に笑顔で手を振り返す。
 と、
「ほい、霊夢、酒。
 蓮子はどうする? 飲むかい?」
「もらうわ。霊夢が飲んでるのに私が飲まないって、なんか負けた気がする」
「あら、奇遇ね」
 にやん、とそんな感じで笑う霊夢。
「言っておくけど、私、強いわよ」
「なに言ってるんだか、遠吠えなら負けた後にしたら?」
「言ってくれるわね」
『さて、ここで当店店主、霊夢とお客様の蓮子の一騎打ちが始まります。
 実況は私、リグルがお送りします』
『解説のパルスィよ。
 こんなところで遊び始めるなんて、仕事中だってのに、妬ましいわ』
『一緒に遊んでながら妬んでる変なのと一緒に解説するルーミアだよー』
 あれ? と、思う間もなくみんなが集まり始める。
「ファンファーレは『プリズムリバー』にお任せあれっ!」
「BGMもねっ」
 ぷわーっ、ぱーっ、と高音が弾ける。ノリノリなリリカとメルランに、困ったように首をかしげるルナサ。
 いいのかしら、と。そんな声が聞こえてきそう。……で、この場にいる良心は彼女くらい、その後ろでは盛り上がる盛り上がる。
「ささ、どっち賭ける? 今のところ霊夢寄りかな」
「蓮子っ、私、信じてるからねっ」
「霊夢がんばれーっ」
 何かが盛大に始まった。私と霊夢を中心に、半円形になってあつまってる物好き連中。
「ジャッジは私、ヤマメがお送りするよっ」
 びしっ、とポーズ。そして、ミスティアが私のコップに酒を注ぐ。
「なにやってるのよ、あの連中」
「知らないわよ、ヒマなんじゃない?」
 店員が遊び始めちゃどうしょもないような。はあ、と重なるため息。もうこうなったら、
「まったくっ」「ああもうっ」
 視線を交わす、そして、同時にコップを掴んで、
「「やってやろうじゃないっ!」」

「あはは〜」
「このバカって言っていいこのバカ」
「うるさーい」
 ちなみに、霊夢はほぼ同時に潰した。店内で倒れてる。
 私も完全に千鳥足、あー、地面がふわふわする。
「美鈴、酔い止めの薬、用意しておいて」
「思いっきり強力な奴を、ですね」
「次の日二日酔いでもよくありません、彼女?」
「貴重な一日を無駄にするのも悪いでしょ。こんなのでも」
「それにしても、よく霊夢を潰せましたね」
「珍しくムキになってたよね、霊夢」
「蓮子も、ここまで飲むのは珍しいわね」
「あははー」
「だめだこいつ」

 そして私はベッドに伸びる、伸びる、ぐてーっと、伸びる。
「うあ、頭が痛い」
「大丈夫ですか?」
「あはは、大丈夫、大丈夫」
 ひらひら、と看病してくれる美鈴さんに返事をする。その傍ら、
「飲みすぎよ。
 お酒はほどほどに、って聞いた事がない?」
 鈴仙はあきれ果ててぼやく。美鈴さんは頷いて、
「酒は飲んでも飲まれるな、ですよね」
「その格言を飲酒中に思い出せる人は少ないわ」
「威張らないでよ」
「あははー」
 伸びるしか出来ない、視界の隅、ベッドには瓶が置いてある。
 『かなり強力な薬』。――――薬局で見たら間違いなくスルーするわね。このラベル。
「まあ、ありがと。
 明日二日酔いで倒れてたら目にも当てられないしね」
「お嬢様のご意向ですから、感謝でしたら「私にしな、蓮子」」
 お、
「レミィ、こんばんわ」
「こんばんわ、まったく、こっち相手しないと思ったら霊夢と飲み比べとは、相変わらず面白いねえ」
「変な奴ってだけじゃない」
「パチュリー?」
「レミィに誘われてね、私も泊ることにしたわ」
「こいつはパチェでいいよパチェで」
 そう、
「そういえば、メリーは」
「さとりもだけど、妹連中と風呂、今頃遊んでるんじゃない?」
「お風呂くらい静かに入れないのかしら」
「無理だろうね、私の妹はやかましいから」
「フランちゃん一人でね」
「こいしが触発されるんだよ」そういえば、とレミィが「鈴仙、てゐは?」
「? お風呂に一緒に入ってるんじゃないの?
 てゐはそう言ってたわよ」
 そして、あー、と。
「嘘ついたかも」
「しっかり管理しておきなさい。
 ただでさえ厄介な奴なんだから」
「出来る範囲でね」
 鈴仙はそう言って肩をすくめる。レミィはため息。
「で、調子は?」
「だいぶましになったわ。ありがと」
「ならよかった」
「珍しいわね。レミィがそこまで気を使うのも」
 パチェの言葉にレミィは笑って、
「なに、客人の面倒をみるのも主人の仕事よ」
「いや、ほんと、感謝してます」
「そんな姿勢で言われてもねえ」
 鈴仙は肩をすくめる、美鈴さんが噴き出す、ちなみに、ぐたーっ、とベッドに伸びたまま。
 確かにねえ。
「受け取るだけ受け取っておくよその言葉。
 ま、美鈴、後は任せたわよ」
「はい、お任せください」
「パチェ」
「はいはい」
 行っちゃった。
「珍しいですね、お嬢様がここまで気にかけているのも。
 様子を見に来るなんて」
「客が珍しい、――ああ、違うか」
 鈴仙はにや、と笑って、
「貴女が珍しいんでしょうね」
「私の何が面白いのよ、そんなに」
 普通の大学生のつもりなんだけど、
「自覚がないのは重症、って言葉、御存知ですか?」
「知ってるけど、……じゃあ、鈴仙。私の面白いところを教えて」
 とりあえず振ってみると、鈴仙は、あれ、と首をかしげて、
「……うーん、思いつかないわね。
 強いて言えば、…………存在?」
「私は何なのよ」
 存在が面白いって、
「ただ、霊夢があそこまでムキになるってだけでも珍しいと思うわよ」
「霊夢がねえ」
 なんなのかしらね、あの子。
 ころん、と私はベッドを転がる。鈴仙と美鈴さんから視線を外して、
「星」
「ああ、もう夜ね」
 窓の向こうには星が輝いている。――それは、私に時を教えてくれる。
「月は、みえるかな」
「好きなの?」
 鈴仙は首をかしげてカーテンを開く。
 見える、燦々と、輝く満月。
「綺麗、……ね」
 ぼう、と窓からその月を見る。場所を伝える。『遠野』と、今いる場所を、
「綺麗って、京都でも見れるでしょ、月」
 鈴仙は不思議そうに問う。うん、と頷きはする、けど、
「こんなに明るくない」
「そうですか?」
 うん、と頷く。
 燦々と、輝く月は綺麗で、京都にはない存在感がある。
 だから、かな、――それとも、お酒が入ったせい、かな。

 呆、と私は『遠野』の満月に魅入っていた。



戻る?