「ひまーっ!」 「うるっさいわよっ!」 図書館に入った私たちを迎えたのは、こんな声だった。 「あ、いらっしゃいませ」 がー、と自動ドアが開く、固まる私たちの前で、自動ドアは困ったように閉じようとして、開こうとして、 「あのー」 はっ、 「ああ、すいません」 従業員らしい女の子に頭を下げる。 「いえ、ようこそ、『遠野市立図書館』へ。 貸出ですか?」 「いや、観光客なんで、借りられないですよ」 「借りて構いませんよ。返さなくても」 ……それは問題あると思う、っていうか、図書館の職員がそれ言ったらだめでしょ? 「賑やかですね」 メリーが苦笑して、女の子も同様に苦笑。 「まあ、賑やかなお客さんがいますから」 と、 「阿求」 「あ、パチュリーさん、どうしましたか?」 不機嫌な猫のような歩みで、長い髪の女の子がこっちに、 彼女は一度、私たちを見て阿求ちゃんに視線を向ける。 「閲覧室にいるうるさいやつ、なんとかしてよ。 これじゃあゆっくり読書も出来ないわ」 「はあ? まあ、一応言っておきます」 「頼むわよ。 それと」 パチュリー、と呼ばれた彼女は胡散臭そうに私たちを見て、 「見ない顔だけど、図書館内は静かにしなさい」 「そりゃ当り前でしょ。 図書館で騒ぐほど子供じゃないわよ、私」 「…………夜にやたらとはしゃぐ程度には子供だけどね、蓮子」 うるさいわね。ともかく、即答した私の解答に満足したのか、パチュリーは頷いてどこぞへ。 まあ、そんなわけはないと思うけど、 「あの子もここの職員?」 「まさか、図書館の本を寄贈していただいたのです。 彼女には」 だから、と阿求ちゃんは満面の笑顔で、 「好きなだけ持っていっていいですよ?」 ……いや、それも違うと思う。 「閲覧室は地下です。 依姫さんと豊姫さんは御存知ですよね」 「ええ、よく勉強に来ているもの」 偉いでしょ、と豊姫。 「お姉様、たまに涼んでるだけの時がありますよね?」 「あははー」 鋭い突っ込みに豊姫は半笑い。――うん、 「そうよねー、図書館涼しいものねー」 京都の、地獄のような暑い夏、喫茶店が入れない場合の緊急避難所として活用していた私。 「ああ、わかってくれたっ」 手をとって握手、そんな私たちを依姫はため息、メリーは苦笑で見てる。 「ふふ、こっちですよ」 そして、そんな私たちを微笑んでみていた阿求ちゃん。 なんか、よくわからない子ね。 階段を下りて、地下へ。 「誰が暴れてるの?」 「暴れているわけではないと思いますけど、天子っていう、天人さんです」 「……いるの、天人」 「いますよ、天人。 なんでも、羽衣をかっぱらわれて帰れなくなっとか、ふふ、間抜けですね」 阿求ちゃん、微笑んで毒吐くのはよくないと思うわ。 ともかく、から、と扉を開ける。 「天子様、あまり図書館ではしゃがないでください」 「しょうがないじゃないっ、退屈なんだもん。 あー、もう、ひまーっ」 うわー、騒いでる騒いでる。 ともかく、入るとぐたーっ、と伸びている女の子と、その傍らに立ち眉根を寄せている女性。 「天子、図書館の中では騒いではだめです」 「うぐ、――なんて依姫までいるのよ?」 「知り合い?」 問いに、豊姫は、 「ええ、同じ学生よ」 へえ、と頷く。奇遇ね、と。 「それで、あそこにいるのが天子のお母さんの衣玖さん」 へ? 思わず、その言葉の意味を考え、メリーと顔を見合わせて、 その、女性に視線を向ける。 「「お、お母さんっ?」」 「違いますっ!」 「うるさいって言ってるでしょうっ!」 「へえっ、貴女京都から来たんだ」 ずずい、と身を乗り出す天人、――もとい、天子。 「私も興味ありますね。 どのようなところなのですか?」 阿求ちゃんも興味津々と問いかける。どう、といわれてもね。 「京都ね」パチュリーは重々しく「鬼が跋扈し、鵺が笑い、怪鳥が舞い、狐が化ける、『魔都』京都よ。ちょっと前に『火雷天神』菅原道真の祟りで都一帯が焼け野原になったそうね」 「……何時代よ?」 平安かなにか? ――――いや、行けるものなら行ってみたいけどね。 「うわっ、それは楽しそうねっ。 衣玖っ、京都に行くわよっ」 「はあ、行くといわれても、どうやってですか?」 「さあ、どうやって?」 どう、と聞かれて、私は来た道を思い出す。 「私たちが来た時は、釜石線で新花巻、新花巻から新幹線で東京ね。 東京から京都までは卯酉東海道ってところかしら」 「む、難しいわね」 メリーの返事にいやそうな表情を浮かべる天子。 「第一、お金はあるの? 遠そうだけど」 「片道どのくらいかかりましたか?」 「遠そうねえ、――二、三時間くらい?」 「ううん、片道五時間くらいね。 で、料金は二万くらい、かしら」 無料、だけどなんとなく調べてみた、どのくらいなのかな。と。そして、その値段を見てメリーに心底感謝したのは、とりあえず秘密。 ともかく、うわ、と、天子が、 「遠いわっ」 「改めて聞くと、ずいぶん遠くから来たのですね」 「衣玖ー、御金ちょうだーい」 「ありません」 「うぐ」 ぐったりする天子。 「それで、御二人は京都からここにどのような用事ですか?」 そして、衣玖さんは困ったようにおっとりと首をかしげて、 「天神様の祟りが起きるような京都に比べて、ここはそんなに面白くはないと思いますが」 「いえ、起きませんけど」 頬に手を当てて呟く衣玖さんにメリーがつっこみ、――本気にしてたのかしら? 「どうもなにも、観光よ。 福引で当てただけだけどね」 「あら、それは幸運ね」 「幸運、なのでしょうか? もっと観光に向くところもあったと思います。 月とか」 「……それ、何年後かしらね」 月面ツアーが福引の特賞になるのは、――まだまだ月面ツアーは高根の花、物凄い高額。 だから、メリーのその気持ちの悪い目にかけてるんだけどね。 あの時のメリーの笑顔を思い出す。御金をかけないで月面ツアーに行く方法、たぶん、それは虚実を、……まあ、ともかく、 「いいのよ、一度は来てみたい場所だったから」 秘封倶楽部として、ね。 「変なものね」パチュリーは本から顔もあげずに「ここを出たいと騒ぐ人がいる、ここに来たいという人がいる。そんなものかもしれないわね」 「自分が持っていないものにあこがれるのは、普通な事ですからね」 妙に悟ったような事を言うパチュリーと阿求ちゃん。まあ、そうかもしれないわね。 「隣の家の芝はいつも青い、ってことね」 苦笑するメリーと、 「そんなんじゃないわよっ」 天子はまた、一つ怒った。 さて、と。私とメリー、依姫と豊姫はまた図書館に戻って、本の散策を始める。 何か面白そうなものはないかなー、とね。 と、見回る私の所には、もう一人。 「遠野ですからね、伝承や妖怪、――まあ、そんな感じの本が多いですよ」 阿求ちゃんはほら、と書棚の案内を示す。 『伝承・妖怪』、と私のよく知る地元の図書館なら、たいてい隅に押しやられているコーナーが、ここではど真ん中にある。それも、一番範囲が広い。 さすが遠野ね。 「絵本とかも結構あるのね」 メリーが無邪気に絵本をめくる。子供向けらしい大きな字に、デフォルメされて誇張された絵。 「よければあげますよ」 「いえ、そんな簡単に言われても」 「これ、パチュリーの本、なんでしょ?」 「はい、まあ、彼女もいらない本を並べているだけみたいなんですけどね。 すっごく本を持っているみたいなんです。羨ましいですよねー」 「確かに、――私も一冊借りてみようかしら」 ふと、……思い浮かんだのは、『Scarlet』にいる何人かの女の子。 だから、 「ちょっと、聞いてみるわ」 「……えっと、ごめんね、二人とも」 「まあ、いいですよ」 「あはは、たくさんもらっちゃったわね」 私とメリー、だけではなく、依姫と豊姫にまで手伝ってもらって、私たちは一度『Scarlet』に向かう。 ちなみに、持っている紙袋には結構な量の本。 「それに、パチュリーも、ありがと」 阿求ちゃんは気にしないと、気楽に言ってた。彼女なりの冗談かと思ったんだけど、 改めて告げた感謝に、パチュリーは、ふと、視線をそらして、小さく早口で応じる。 「大したことないわよ、そのくらい」 ほんとにもらえた。 「けど、意外ね。 絵本、そんなに好きなの?」 「ん、まあね」 というか、どっちかっていえば、好きかなー、ってちょっと期待している、小さな女の子。……さとりちゃんが好きとか言ったら可愛いかも。 ともかく、『Scarlet』に戻る、と。 「あれ? 御帰りなさい」 美鈴さんが丁寧に頭を下げる。そして、 「パチュリー様も、こんにちわ」 「ええ、こんにちわ。 相変わらず精が出るわね」 「やりがいがありますから」 にこっ、と明るい笑顔。本音なのね。 うらやましい、と思う。学生だから、いつか、……………………まあ、いっか。 「それで、どうしたのですか? 結構な大荷物ですけど、御部屋まで運びましょうか?」 「あ、ううん、いいわ。 レミィとかさとりちゃんはいる?」 「お嬢様と妹様はいますよ。 ザシキワラシの姉妹は、いなくなることはないと思います」 それもそう、なのかな? まあ、いっか。 「皆さんに用ですか? でしたら呼びますけど」 うーん、――どう、しようかな。 「大丈夫ですよ」メリーは笑顔で「絵本もらったので、読んであげようかなって、それだけですから」 へえ、と美鈴さんが、 「それは、きっと妹様は喜ばれますね。 お嬢様も、歓迎してくれると思います」 「口でなんて言うか解らないけどね」 と、 「絵本っ? それは私もぜひ聞きたいね」 相変わらず神出鬼没な声、振り返ると案の定、けろけろ笑う諏訪子ちゃん。 「いいかい? 私も聞いて」 「構わないけど、そんな期待されてもねえ」 「いやいや、誰かに読んでもらうってのはそれだけでありがたいものよ」 そんなものかしらね。――って、 「依姫も、豊姫も無理に付き合わなくてもいいわよ」 二人にはそんなに面白くないだろうし、こいしちゃんやフランちゃんが楽しんでくれる、かも、しれないってくらい。 まあ、諏訪子ちゃんがノリノリだからそれだけでもいいかな。 「ううん、私も、いい?」 なぜかノリノリの豊姫、絵本を読むだけだし、 「いいけど、面白くないと思うわよ」 「そう? 貴女達がいるだけで面白いと思うわ」 「そんなに面白いかな、私たち」 たぶん、私とメリーの事だと思うけど、 「蓮子は面白いと思うわ」「だから、メリーには言われたくないわ。そういう事」 「どっちもどっちよ」だから、と豊姫は笑顔で「私も仲間にいれて、ね?」 まあ、いいか。と頷くと、豊姫は手を打ち合わせて、嬉しそうに笑う。 「依姫も、ね?」 「え、ええ、と」 両肩に手を置く豊姫に、依姫は困ったように呟く。まったく、 「豊姫、無理言ったらだめよ」 けど、 「その、…………私も、いい、ですか?」 依姫は、おずおずと、そう言った。 「およ? パチェ?」 「妙な客がいたのものね。レミィ」 知り合い? ともかく、言葉を交わす二人、そして、レミィはこっちを見て、 「結構早く戻ってきたわね。 二人の事だから、町中駆け回ると思ってたわよ」 「お客さんも連れてきましたね」 美鈴さんが笑う。賑やかだね、とレミィは頷いて、 「それで、どうしたの?」 「絵本もらったから、読んであげようって思って」 へえ、とレミィが、 「それは喜びそうね、妹連中が」 「妹連中ってなによ、お姉様」 じとっ、と、姉を睨むフランちゃんと、苦笑する咲夜さん。 「私にも読んでっ」 たたたっ、と駆け寄るこいしちゃんと、 「私も、是非お願いします」 さとりちゃんも、笑顔でいう。よかった。 喜んでくれたなら、うん、 「さて、それじゃあやりましょうか、メリー」 「ええ」 メリーも頷く、そして、瞳を輝かせるみんな、と。 「何か始まるの?」 「霊夢、どうしたの?」 食事処『博麗』の店主と、そこで働いている女の子たち。 「どうってわけでもないわよ。 昼寝よ昼寝」 「お店は?」 一応聞いてみる、案の定、霊夢はむしろ胸を張って「準備中よ」 「食事時に稼がなくてどうするのよ」 呆れていうけど、霊夢は肩をすくめ、 「いいのよ、眠いんだから、 っていうわけで、レミリア、寝床貸して」 「はいはい、適当に使いなさい」 「それより何かやるのー?」 ルーミアちゃんが問いかける。視線の先には私たちが持っている紙袋。 まあ、誤魔化す理由もないか。 「絵本をもらったから、読んであげようって思ってね」 「じゃあ私も聞くー」 「おお、それは楽しみだね」 「私もっ」 ルーミアちゃんと、ヤマメ、それと確か、リグル、って言ったっけ? 彼女も頷く。 「歌うのっ?」 「いや、歌わないわよ」 素っ頓狂な事を言うミスティアに突っ込み一つ、彼女はちぇー、と。 「私も聞くっ、面白そうだし」そして、後ろへ「パルスィはどうする?」 「…………聞いておくわ」 「無理しなくてもいいんだけど」 「うるさいわねっ、聞くわよっ、――ああもうっ、何も考えずに頷く連中が妬ましいわっ」 「ざまあみろー」 ルーミアちゃんは脳天気に返事をする、パルスィはそんな彼女に頭突きした。 「っていうか、なんでこんな大所帯になるのかしら?」 「知らないわよ」 霊夢はそっけなくそう言って、いの一番にベッドに寝転がった。 「昼寝するんじゃないの?」 「寝物語よ。眠くなりそうなのお願い」 「端っから真面目に聞く気ないわね」 「真面目に聴かせるつもりだったの?」霊夢は意外そうに視線だけをこっちに向け「聞きたいように聞けばいいじゃない」 「ま、それもそうね」 うん、どうせ単なる気まぐれだし、聞き手に文句を言うのも野暮ね。 頷くと、霊夢は目を閉じる。もう寝ちゃったかも、――けど、まあなんでもいいか。 「はやくー」 ルーミアちゃんは手をゆする、はいはい、と……って、 「咲夜さんも、いいんですか? 仕事とか」 「いえいえ、静聴していますので気にしないでください」 「と、いうわけ、観客に気にせず噺してみなさい」 レミィは一歩離れたソファで興味津々と、瞳を輝かせる。 「まったく、物好きが多いわね」 「パチェもそれにエントリーされているわよ。 忘れないでよ?」 「…………わかってるわよ」 さて、と絵本を広げる、と。 「「とおー」」 「って、きゃあっ」 メリーに、フランちゃんとこいしちゃんが飛びついた。 そして、二人は仲良く頭をぶつけて倒れた。 「…………咲夜、私の妹は何をやってるんだろ?」 「おそらくはテンションが高くなったのでしょう。 ままある事ですわ」 「ふぅん?」 「あ、いたた」 「フランっ、そこは私っ」 「私だよっ」 ぐぬぬ、と指差して睨む先、メリーがいる。 「どうしたの?」 「膝枕でも所望なんじゃない?」 豊姫の解答にメリーは首をかしげる。そう、――まあ、そんなものかもね。 「まだ始らないの?」 「場所取りに忙しいみたいね。 霊夢はー、もう寝たー」 …………ほんとだ。すー、と寝てる。 「さすがの寝つきのよさだね。店主は」 「寝たい時にすぐ寝れるなんて、妬ましいわ」 「では、私はここで」 ぽすり、と。 「さとりちゃん?」 すぐ目の前にある後頭部を見下ろす、すとん、と私の腕に収まったさとりちゃんは、こちらを見上げて、 「迷惑かしら?」 「いや、別にいいけどね」 「さとり様随分蓮子のこと気にいってるみたいだね」 ぴょん、と、私の膝の上に座るさとりちゃんの膝の上に乗るお燐。 「そうね、霊夢さんと同じくらい好きよ」 「霊夢も?」 「まあ、彼女にこんな事をすると追い払われるけどね」 残念ね、とさとりちゃん。 そして、そんなさとりちゃんの膝の上で、お燐はくあー、と伸びをして丸まった。 「メリーの所もまとまったみたいだし、そろそろ始めたら?」 レミィがそんな私たちを見て楽しそうに笑う。そして、メリーを見ると、ぺたん、と座った彼女の太ももにフランちゃんとこいしちゃんが頭を乗せて寝転がってる。 「……提案しておいて言うのも何だけど、そんな上手なのを期待されても困るわよ」 「大丈夫です。丁寧に読んでいただければ、それだけでもありがたいです」依姫はすでに寝てる霊夢を見て苦笑して「もう、寝ちゃった人もいますけど」 「御噺の楽しみ方は人それぞれ、私は十分に堪能させてもらうよ」 諏訪子ちゃんがけろけろ笑う。まったく、 「どーしてこんな大所帯になったんだか。 まあ、眠くなったら寝ちゃってもいいわよ」 「寝ーろ寝ろー」 囃さなくていいわよ、ミスティア、っていうか、意味わからないし、 さて、と絵本を広げる、妙なことになったなあ、と頭の片隅で思いながら、 「『お月お星』」 メリーは別の絵本を選んだらしい、私は適当に選んだ本を広げる。 適当、でもないかも。私の目を考えると、まあ、意識したわけじゃないけどね。 「昔ある所に、お月お星という仲のよい姉妹がいたとさ」 姉妹、その言葉にさとりちゃんはこいしちゃんを見る、そのこいしちゃんはメリーの語る昔噺に聞き入ってる。 「でも、お月は先妻の子だから、継母が憎んで殺そうと企んだと」 レミィは、興味深そうに私を見てる、咲夜さんは目を閉じて聴き入る。 「ある時、毒まんじゅうを食わせようとしたが、お星が、姉、食うなよとお月に教えて無事だったと。 次には、天井から槍で刺そうとしたと。 この時も、お星の機転で、小豆の袋を身代わりにして助かったと」 ありゃ、ルーミアちゃん寝ちゃったかな? 私の手にもたれかかるようにして目を閉じる。 噺が途切れないように、軽く撫でて支えてあげる。ん、とルーミアちゃんは身をよじって寝心地の良さそうな感じに、そして、すー、と寝息。 「最後に継母は、ほだら遠い山さ投げるべと、大工頼んで箱を作ったと。 お星は、箱の隅さ穴こつけ、食物とケシの種を持たせて言ったと。 姉コ姉コ、この穴からケシの種落とせよ、来年の春訪ねて行くからな。 次の春、お星がケシの花を頼りに山さ入ったと。 花こが途切れたところで、姉コー、姉コー、て叫んだら、ほーいと音がしたから、掘ってみたら、箱の中に、骨と皮ばかりのお月がいたったと」 「助かったのね」 ほっと、そんな口調で豊姫がいう。そして、 「あ、ごめんなさい」 「よかったわね」 リグルも同様。けど、また続くのよね。 「二人は、運よく親切な長者に助けられて、その家で養生したんだと。 さて、旅に出た父親が帰って見れば、お月もお星もいねがったと」 「どんな旅に出てたのよ」 「お嬢様、御静聴を」 「うぐっ」 「父は六部になり、お月お星があるならば、なんでこの鉦叩きましょって、泣きながら探しているうちに、盲目になってしまったと」 「ふぅん、父親はいい奴だったのね」 パルスィが素っ気なく言う、何となく安心したように聞こえたのは、気のせいかしら? 「ある日、歌コ聞きに、姉妹が出てみると父親だったと。 喜んだ二人の涙が父の目に入ると、不思議にも両目が開いたんだと」 「涙は万能の霊薬ね」 そうね、とさとりちゃんに頷いて、 「親孝行のお陰で、二人は天さ上って月と星になったし、父はお日様になったと。 継母は、土さもぐってモグラになったんだとさ」 そして、聞いてくれたみんなに視線を向けて、 「どんどはれ」 「月と星の成り立ちかしらね? この地方の」 パチュリーは興味深そうにつぶやく。――まあ、それ考えるとなんか神話っぽいわね。 けど、あくまでも昔噺なのでしょうけど、と。 「次はこれ読んでー」 「あ、起きてた?」 ルーミアちゃんは、んー、と首をかしげる。寝てたんだか起きてたんだか。 ちなみに、霊夢は大絶賛爆睡中。 「蓮子、その本は返しなさい」 「ん、わかったわ」 元々読み聞かせるために持ってきたんだし、返すと、パチュリーはそれを袋に仕舞う。 さて、 「では、次も期待していますよ」 膝の上のさとりちゃんは、笑顔でそんな事を言った。 「面白い昔噺を、ね?」 |
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