一晩、地霊殿を後にした輝夜は、えっと、と賑やかな一角を見て、その声に、密やかに笑う。
「『難題』龍の頸の玉 -五色の弾丸-」
 そして、竜の牙と爪が、店に突き刺さる。
 爆音。――弾幕の破壊力が店の一部を粉砕。
 襲撃か、とそこにいた鬼、――勇儀は飛び出して、佇む姫にきょとん、とした。
「はぁい、飲みに来たわ」
 無意味な襲撃者、輝夜はいつもと変わらない笑顔で、そういった。

「また、派手なノックもあったねえ」
 弾幕により吹き抜けになった一室で、鬼やらそのほか諸々、封印された妖怪がお祭り騒ぎ、を体現している。
 その中、輝夜と勇儀は並んで座る。
「ええ、そうそう、地霊殿の案内ありがとう。
 あそこの姉妹と楽しい時間が過ごせたわ」
 姉妹、その言葉に勇儀はへえ、とつぶやく。
 忌み嫌われた心を読めるさとりと、心を閉ざし誰かと関わることを避けるこいし。
 その姉妹と、かい。
「そりゃよかった。
 楽しんでくれたなら案内した甲斐もあるってものよ」
「そ、そうそう、それでね。実は少し興味があるのよ。
 鬼さん。私はね、蓬莱の薬を飲んだ。永遠の民、永遠の、大罪人」
 へえ、と勇儀は視線を細め、輝夜は笑う。
「だから、ただの酒じゃ酔うこともできない。永遠の民である私は今を永遠に続ける。
 貴女なら解ける? 難題、酒精に酔えぬ私を酔わすこと。
 解答できたのは、八意永淋、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐ、――私の家族、それと友人、博麗霊夢、霧雨魔理沙、最新で言えば、古明地さとり、古明地こいし、」
 あとは、と指折り数える。その姿を見て勇儀は苦笑。
「ずいぶんと解答できたものがいる難題だね」
「ええ、もちろん。
 幻想郷の解答率は高いわ。だから、貴女にも解ける?」
 はっ、と鬼は笑う。
 冗談でないなら、――その方法に若輩は首をかしげ、古参の者は笑う。
 そう、この難題。幻想郷では解答率が高すぎる。
 難題を吹っかけられた勇儀は、笑って立ち上がる。
「酒だっ! 酒をもってこいっ! そして者共っ! やれ歌えっ! 囃せっ! 拍手鳴らして踊り舞えっ!
 この酔狂な客に穢土の酒宴を堪能させてやれっ! 浄土の姫が酔っ払うくらいになっ!」

 夜。――酔いつぶれた勇儀は眼を開ける。顔に乗った邪魔な紙を払いのけて、
「ん、――くそ、結局つぶせなかったか」
 確か、とふと、視線を払い除けた紙へ。
 そこに書かれた文字。
「『楽しかったわ』――まあ、まったく、変な客がいたものだ」
 難題、解答。か、と勇儀はまた眼を閉じた。

「おねーさまー、退屈ー」
「そうだねえ、また誰か呼ぼうかな。
 今度は神社の蛙とか」
「そうですわね、招待状でも書きましょう。
 それとも、巫女を人質にしましょうか?」
「人質付きの招待ってのも、斬新ねえ」
「咲夜ー、それなんて招待するの?
 巫女はもらった、返してほしくば茶飲み話に付き合え、って?」
「怒られそうですね」
 紅魔館、レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットは向かい合って紅茶を飲み、十六夜咲夜は後ろに待機、そして、
「あ、紅茶頂戴」
「…………お引取り願えませんか?」
 フランドール・スカーレットの隣に座っていた輝夜は「けちねー」とつぶやいた。
「きゃああっ!」
 いきなり隣に現れた客人にフランドールは飛び上がり、そのまま転がり落ちた。
「あ、可愛い」
「なに、お前?」
 転がり落ちたフランドールを見てころころ笑う輝夜に、レミリアは面倒くさそうな視線を向ける。
「あ、いたたた、な、なに?」
「私は何か、何なのかしらね?」
 真剣に首をかしげる輝夜に、咲夜とレミリアはそろって、
「「変な人」」
「失礼ねー」
「お姉様、その人友達?」
「ええ、友達よ」「ああ、友達だよ」
「え? そうなのですか?」
 咲夜が首をかしげた。
「失礼な従者ね。
 私とレミリアよ。親友といってもいい位他人じゃない」
「仲良くする理由がまったくないが、まあ、友達でいいよ」
 はははは、と笑う輝夜とレミリアに、咲夜は天井を見上げた。
「ふぅん、――ま、要するにお姉様の知り合いなのね」
「そうよ」
「知り合い、とかつまらないい方ね。
 どうせなら友情のない友人とか、戦うことのない好敵手とか、そういう凝った表現は出来ないの?」
「そうね。童話とか読み始めたんだし、少しは表現に気を使ってみたらどう?」
「お嬢様、それとそっちの変なのも。わかりやすいものをわざわざ解りにくくする必要はないと思いますわ。
 というか、意味不明です」
 それもそうね、とレミリアは肩をすくめて、
「変なのってなによ。
 怒るわよ? お姫様はプライド高いのよ?」
「まあ、自覚がないのは重症ですわ」
「そうね。
 千年近い引き籠りじゃしょうがないが、まずは自分を知ることが大切よ」
「それもそうね。気をつけるわ」
「…………お姉様、なに、この変な人」
「永遠亭とか言う、変な薬師と狂った兎と胡散臭い兎と一緒に暮らしているルナティックなお姫様よ」
「狂ってるの? 確かそういう意味よね」
「そこの蝙蝠、なんで私が狂ってるのよ?」
「満月光線を浴び続けたのだから、狂っても仕方ありませんわ」
「それもそうね」
「ふーん、でも見た感じ普通の人間よね?
 なんか、さっき気が付いたら隣に座ってたけど、あれは何の手品?」
「実はその椅子が本体とか言うオチじゃないでしょうか?」
「咲夜、なら好都合ね。その椅子燃やして」
「承知しました。上に座っているのごと」
「こらこら、燃やそうとしないの。
 そんなことしたら火鼠の皮衣を持ち出してもっと燃やすわよ」
「紅魔館は火気厳禁ですわ」
「え? そうなの?」
 きょとん、とするフランドールに、レミリアは頷いて、
「そういうわけよ。だから御自慢の魔杖は使ってはだめよ」
「えーっ」
 膨れるフランドールに、まあまあ、と咲夜が、
「お客様限定ですわ」
「何の意味もなさそうな火気厳禁ねー
 それより紅茶はまだかしら?」
「淹れてやりな。いい暇つぶしになりそうだし」
「構いませんが、お気を付けください。お嬢様、妹様。
 相手はルナティックなお姫様。常時満月光線を発していますわ。多分」
「こいつと一緒にいてもなにもないんだけどなあ」
「っていうか、満月光線ってなによ?」
 咲夜は無視して茶を入れる。
「どうぞ、福寿草でいれたお茶です」
「あら、苦そうなお茶ね」

「蓬莱山輝夜。
 ふーん、私見覚えないわね」
「そいう私は貴女の事を知っているわよ。フランドール・スカーレット」
「そう?」
「ええ、こいしが貴女の事話してたわ。
 遊んでて楽しいって」
「こいし、会ったの?」
「ええ、さとりともね。
 ここ、あの姉妹に好評だったわ」
「そりゃ悪魔の住む館だからね」
「お嬢様、それは好評となる理由なのでしょうか?」
「忌み嫌われているんだし、どっちもどっち、
 似たようなもの同士で気が合うんじゃないの?」
 フランドールの言葉に、なるほど、と咲夜は納得。
「っていうか、地霊殿になにしに行ってたの?」
 問いに、輝夜は福寿草でいれたお茶を飲んで「苦っ」と呟いて、
「なにってわけじゃないわ。
 永琳が言ってたのよ。やりたい事を見つける事をやりなさいって、
 そんなわけだからやりたい事を見つける一環として、幻想郷をうろちょろ歩きまわってるの」
「それで地霊殿、また、随分遠出するのね」
 咲夜が意外そうにいい、輝夜は胸を張って頷く。
「甘いわよ従者。
 散歩よ? 中途半端にやったりしたら大変な目にあうわ」
「…………どんな目?」
 輝夜はその問いにころころ笑う。フランドールも同じ疑問に首をかしげて、レミリアは解答に見当がついて苦笑。
「難題よ、考えてみなさい」
「んー、見当はつくわね」
 と、レミリアは輝夜に耳打ち、輝夜は笑っていう。正解、と。
「ん、面白そうね。
 咲夜、フランドール、難題。答えられたらプレゼントをあげるわ」
「ほんとっ」「はあ、まあ、考えてみます」

「相変わらずカビ臭い場所ね」
「何の用?」
 図書館の主。パチュリー・ノーレッジは半眼で問い、軽く目をこする。
「パチュリー様、コーヒーのほうがよろしいですか?」
「ええ、お願い」
「あ、私も」
 輝夜は本を見ながらいう。使い魔はえっと、とパチュリーを見て、
「いいわ、淹れてきなさい。
 輝夜、頼んだからには飲みなさいよ」
「もちろん飲むわ。
 昔に習ったのよ。食べ物飲み物を残してはいけませんって」
 へえ、とパチュリーは顔を上げて、
「お姫様らしくない事を習っているわね」
「私だって生まれてこの方ずっとお姫さまだったわけじゃないわ。
 竹細工とか得意なのよ? 竹籤を折って籠を作ったりするの」
 へえ、とパチュリーは意外に思い。すぐに思考を回転させる。
 蓬莱山輝夜。――かぐや姫、そして、竹細工。
「ああ、地上に来たばかりの時ね」
「そうよ。なんだ、もうちょっと悩むかと思ったんだけど」
「この程度、難題にもならないわ」
 パチュリーは再度本に顔を向ける。
「でも、そんな答えが出るってことは、竹取物語もここにあるの?」
「あるわ。
 貴女の事があるから、一時真剣に調べてみたのよ」
「へえ、面白かった?」
「そこそこ、まあ」パチュリーは肩をすくめて「千の書を読むより、貴女に直接聞いた方がいいわね」
「何か質問は? 知識の魔女さん」
「いらないわ。
 どうせ、私の質問は全て難題、として返ってくるでしょう?」
 そして、パチュリーは笑う。
「難題、竹取物語」
「ええ、その物語の寓意。好きなだけ理屈付けして、架空の解答を楽しみなさいな。
 採点はしてあげないわ」
「最悪ね」
「あら心外」
 と、
「あっ、ここにいたっ! 輝夜っ!」
「あら? フランドール、どうしたの?」
「お姉様から聞いたのっ!」
 フランドールは、興味津々と、
「貴女死なないんでしょ、だから」
 きゅっとして、
「妹様っ!」
 パチュリーが顔を上げる。輝夜はその意味を知り笑う。
 どっかーんっ

「ええ、死なないわ」
 コーヒーを淹れて戻ってきた。その相手が目の前で爆破され、硬直する小悪魔。
 そのトレイからコーヒーを取り、優雅に飲みながら。
「はしたないわね。いきなりは」
 輝夜は、笑う。
「『新難題』悪魔の魔橋建築」
 刹那、という時間をもって、弾幕の濁流がフランドールめがけて流れ出す。
「あはっ」
 それを、跳躍回避。が、
「あら? 橋の建築は、これからよ」
 跳躍したフランドールめがけて、弾幕の橋がその最中にいるフランドールを巻き込んで、建築完了。巻き込まれた者は圧砕される。
 される、――はずだった。
 ぼっ! と弾幕が粉砕。そこには魔杖を持つフランドール。
「あはははっ」
「ふふふ、五百年程度の引きこもりが、千五百年の引き籠りに勝てると思っているのかしら?」
 そして、図書館を飛び出して二人は紅魔館を弾幕で彩る。
 ぽつん、と残ったのはパチュリーと小悪魔、輝夜用に入れたコーヒーは空となっている。
 えっと、
「…………引き籠りの年数って、能力には関係ないような」
「百年程度の引き籠りである私には解らないわ。
 輝夜、なんかいろいろルナティックだから、適当に言っただけでしょ。
 それより、コーヒーを頂戴」
「あ、はい」

「『禁忌』フォーオブアカインドっ」
 四、全方向に跳躍するフランドール。
 狙い、囲む、――回避をふさいで、笑う、が。
「『解答不可』人生を歩む人型たち」
 ふ、と輝夜は須臾を操る。
 細分化された時刻。その、ほぼ同時に存在する無限の今を弾幕をばら撒きながら疾走。
 四、どころではない。無限に存在する輝夜が同時に放った弾幕は、フランドールを文字通り蹂躙する。
「っ! なによ今のっ!」
「弾幕の解説なんてしないわよ。馬鹿馬鹿しい」
「このっ! 『禁忌』恋の迷路っ!」
「ふぅん。
 『解答不可』猿の叩いた戯曲書」
 被弾、やった。とフランドールは笑い、――次の瞬間、弾幕をくぐりぬけようとのんびりと歩く輝夜を見る。
 被弾、だが輝夜は前に進む、被弾の形跡はない。
 被弾、どう? と見た先、ひょい、と弾幕を回避する輝夜を見る。
 被弾、倒した、と笑った先、弾幕の下をくぐりぬける輝夜を見る。
「だーーーーーっ!」
 被弾しても被弾してもなぜか弾幕を避け続ける輝夜を見て、フランドールは魔杖を振りまわす。
「なんなのよあんたはっ!」
「なんなのかしらねえ。哲学的に考えれば、…………難題ねえ」
 のんびりとした返事は目の前。
「いっ?」
「『難題』火鼠の皮衣 -焦れぬ心-」
 ごっ、と火炎がフランドールを焼く。
「あれ? ここって火気厳禁だっけ?」
「な、めるなぁぁあああああああああああっ!」
 炎熱の魔杖を振り上げる。そして、真っ直ぐ振り下ろす。
 直撃、――直前に、輝夜は須臾を操る。
「『矛盾』最遅に届かぬ最速」
 そして、下がる。無数に細分化された空間を、
「あれ?」
 魔杖を空振りし、きょとんとするフランドール。
「ふふん、甘いわよ。
 年季が違うのよ。年季が」
「あーーーっ! もーーーーーーーーっ!」
 がむしゃら、と振るう魔杖を輝夜は後退で回避、――否、空振りさせ続ける。
「なんか、変な争いね」
「妹様には相性最悪ですね」
「このっ!
 『秘弾』そして誰もいなくなるのか?」
 ふっ、と、消えて輝夜は笑う。
「私の時刻、素敵な刻限へ。
 ようこそ」
 ふっ、と消えた瞬間に、時間が加速する。
 永夜の術を終わらせた、時刻の超加速、輝夜の刻限。――それが、即座に誰もいない時間を終わらせる。
「あ、え?」
「ふふ、これが千五百年の引きこもりの実力よっ!」
 きょとん、となにも出来なかったフランドールは、笑いながら蓬莱の玉の枝を掲げる輝夜を見た。

「お嬢様、引き籠りの時間って関係あるんでしょうか?」
「ルナティックなお姫様だし、適当に言ってるだけでしょ。
 あ、落ちた」
 目の前、さんざん永遠と須臾に振りまわされた少女はとうとう撃墜した。

「うーーっ」
「ふふ、私の勝ちね」
「納得いかなーーーいっ!」
 じたばたと駄々をこねるフランドールに輝夜はころころ笑う。
「ふふ、可愛い。
 でもだめ、私の勝ちよ」
「永遠と須臾の大罪人。
 須臾の時空を操って実現したゼノンのパラドックスか。須臾を利用した同時存在やら時刻の超加速もだけど、
 言っておくけど、それ反則だよ。弾幕ごっこになりゃしない」
「ええ、わかってるわ」
 輝夜は自覚を持って頷く。でも、と。
「ゼノンのパラドックス、――『矛盾』は効果薄いわね。
 空間を移動してこないと意味ないし、霊夢や咲夜、レミリアとかそこの妹さんとかスキマとか、その辺になると空間無視するから、不意打ちにしかならないわ」
「はっ、時間と空間ごときで運命を変えられるか」
 にやり、と悪魔のように笑うレミリアに、咲夜は微笑み、
「それでも、弾幕では反則ですわ」
「わかっちゃいるけど、問答無用に襲いかかられちゃあねえ。
 宣言無視の反則をそっちもしたんだから、お相子よ」
 と、倒れたフランドールがその場で手をばたつかせる。駄々をこねる。その仕草に不満に満ちた声。
「もーーーっ」
 じたばた暴れるフランドールに輝夜は笑う。胸を張って、
「甘いわよ。
 もう千年引き籠って出直してきなさい」
 むくり、それを聞いてフランドールを体を起こす。
「じゃあいい」
「そ?」
「別に、――魔理沙とか霊夢もいるし、また引き籠るくらいなら、弱いままでいいわ」
 その言葉を聞いて、輝夜はフランドールの髪をなでる。
「なによ?」
「そうそう、だからお散歩は手を抜けないのよね。
 貴女みたいに面白い人との、せっかくの出会い、見逃すかもしれないし」
「自分から難題の答え言ってどうするのよ」
 きょとん、とするフランドール、レミリアはため息交じりに呟く。
 それもそうね、と輝夜は笑った。
 だから、と両手を広げて、
「フランドール・スカーレット。
 弾幕ごっこは好き? さっき私とやったのは反則だからカウントしないとして」
「ええ、好きよ」
「楽しい」
「もちろん、楽しいわ」
 答えに、輝夜は、改めて蓬莱の玉の枝を向ける。
 突きつける、その仕草に笑みを乗せて、
「495の過去より、楽しい一時は、大切かしら?」
 問いに、フランドールは改めて魔杖を向ける。
 突きつける、その仕草に笑みを乗せて、
「ええ、あらゆる過去より、楽しい今は大切だわ。
 好きなの、お姉様と遊ぶのも、咲夜と遊ぶのも、魔理沙と遊ぶのも、霊夢と遊ぶのも、――さっき、貴女が言ってたこいしと遊ぶのも楽しかったわ。
 だから、私は楽しい今を大切にするために、私を封じる蓋を、破壊し尽くす」
 輝夜は、その言葉に、その言葉と向けられた魔杖に、満面の笑みをもって、

「さあ、楽しい楽しい弾幕ごっこを遊びましょう。
 『新難題』浄土の雪月花」
「ええ、最高に楽しい今この瞬間を遊んであげる。
 『禁域』ムスペル」

 輝夜の開放した弾幕が花開く。
 地面に咲き誇る数多の花、狂い咲く弾幕の花。
 それと同時に降り注ぐ、まばゆい光の、降り注ぐ弾幕の雪。
 そして、雪を縫い、花を貫き、駆け抜ける弾幕の月光。
 フランドールは笑う。足元に咲き誇る大球の群れ、ばらまかれ降り注ぐ小弾、そして、舞踊るレーザー、これぞ、弾幕だ、とフランドールは笑って、自分のスペルを開放。
 浄土を焼き尽くす、禁断の炎獄。自己を中心に高密度の円を描き広がる、火焔の弾幕。
 月を焼く、花を焼く、雪を焼く、浄土を焼き尽くす。
「あはっ」「ふふふ」
 が、浄土は焼き滅ぼせない、ある、ある、あり続ける。花は咲く、雪は舞う、月は輝く、浄土は炎獄さえ飲み込む。
 白の光と赤の光、白は赤を包み飲み込もうとし、赤は白を内から焼きつくす。
 絶大、――その言葉に相応しい力をもつ者同士、膨大な弾幕が均衡を作る。
 笑う、笑う、笑って、笑って、笑って、思い切り笑って、その力を出し尽くす。
「あははははっ」「ふふ、あはははっ」
 笑う、楽しいと、楽しくて仕方がない、と、――その、二人の浮かべる満面の笑みを見て、レミリアは、ぽつりと呟く。

「どっちのほうが狂ってるのかな?」

 紅と月の狂気は、夜を目指して加速する。

 そして、最後。
 輝夜は、家に戻る。
「ただいま」
 いつも通りの挨拶に、
「お帰りなさい。輝夜」
 永琳は微笑んで応じる。その後ろから、鈴仙とてゐが顔を出す。
「心配した?」
 問いに、永琳は苦笑して、
「まあ、最初は、
 慧音が事情を説明しに来なかったら、総出で探しに出たところよ」
「実際準備だけはしたからねー
 いやいや、慧音のタイミングの良さには脱帽だよ」
「別に狙ったわけじゃないと思うけど」
 きしし、と笑うてゐに鈴仙は肩をすくめる。そして、てゐが、
「でさ、お姫様。
 なんか面白こと見つかった?」
 問いに、輝夜はころころ笑う。
「ええ、楽しいわ。
 幻想郷は」
「あ、ここがですか」
「ええ、ここが、今、ここにいる事が、とても楽しいわ」
 そして、微笑む。
 だからね、と。

「明日、面白い事をしましょう?」



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