「銀魂をこれ以上PTAの目の敵にさせる訳にはいかないアルネ!
とっとと酒離すヨロシ!!」

「酒は命! 誰が離すかぁ!!」




 うーわー。
萃香の奴、巨大化した。

腕を振り回して殴りかかるも、チャイナ服の女の子、真っ向からダッシュ飛び蹴りを敢行。
ぶつかり合った衝撃がここまで感じられる。
 ……あの子、人間?


「兄ちゃん、災難だなオイ」
と、ベンチに座っている男から声を掛けられた。
公園の反対側から、一部始終を見ていた様だ。

「まあ、慣れてますから」
と、その男に返事。

男は、みすぼらしいボロボロの和服で、それに不釣り合いな物の良さそうなサングラスをかけていた。
なんだろう、この人から感じられる、まるでダメなオッサンの雰囲気は。

「つーか、あの角生えた子、半端ねーな。
巨大化するし、神楽ちゃんといい勝負するってどんだけだよ」

「僕としては萃香と戦える時点で驚きなんですが」
幻想郷で、一体どれだけの存在がああまで肉弾戦やれるだろうか?
 霊夢の場合、弾幕ごっこの要因もあったし。


「いや、神楽ちゃんってアレよ。
夜兎族の末裔よ。宇宙三大傭兵一族のひとつの天人だよ」
天人……アマントってつまり。

「宇宙人?」

「そーなんだよ。人は見かけによらねーよな。地球に来た方法ってロケットにしがみついてたって話だし」

いや、ロケットにしがみついていたってのは嘘じゃ……。




ドゴオオオオンンンン………




すると、岩盤が陥没するような音が聞こえてきた。
萃香のパンチが地面に突き刺さっている。
だが神楽という少女が、傘でガードしつつ拳を押し上げ、出てきた。


 もしかしてだけど。
非常識が常識の幻想郷とのたまう面々にとっても、非常識な世界に僕はいるんじゃないだろうか?




ザックリ
不意にそんな音がした。

「この白い前足! このドブみたいな犬臭さ!
お前銀時んトコのでかい犬だろぉぉぉぉおお!!
痛いんですけどぉぉおおおおおおおおおお!!!」
人の背丈位の体高がある巨大な白い犬が、サングラスの男の頭に思いっきり噛みついていた。
って、ドバドバ出血してるし!

「いきなりなにすんだぁぁぁぁ!
俺の頭がそんなにうまそうかぁぁぁあああああ!!」
「ぅぅうわん……」

あ、すんごくまずそうな顔した。
「嫌そうな声出すくらいなら噛みつくなぁぁあああああ!!」

「わん」
ドブシャ!

「なんでさらに強く噛むんだよぉぉおおおお!!」
「……ほら、あんぱん。その人の頭よりうまそうだろ」
と、リュックからあんぱんを取り出した。

人間の里での出店の売れ残りだ。
「ほーら、取りに行けー」
と投げる。

巨大な犬は「わん!」と嬉しそうな声を上げて走って行った。
「辛ぇな。人生」
男は出血しつつ、サングラスをかけ直しながら言った。




「いや、ありがとな。助かったぜ」

「あの、大丈夫ですか? 病院行った方が……」

「金ねーよ。保険証もねーよ。仕事も住むところすらねーよ。ついでに明日への希望すらねーよ」
話が何か重いよ。

「それにかぶき町じゃこんくらい普通だ。誰も騒がねーよ」

……確かに、誰も来ない。
都市部なんだし、人が集まるだろうに。
仮に人間の里で人外同士のケンカが始まれば危険のないような距離でみんな観察しそうだし。
慧音さんが来て止めるまで遠巻きに見守る形かな。

 でも、ここじゃそんな気配すらない。
それだけここの人たちにとってこういった物はいつもある事なのだろうか?
……大丈夫か? この街。




「いただきまーす」
がっぷり
少女の声と噛みつく音が聞こえてきた。
男の頭には、真っ黒な球体がくっついている。
「今度はなんだぁぁぁあああああ!!
暗黒大陸、謎の球体植物兵器のプルトンんんんんんんん!!!?」
割と最新のジャンプもあるのここ?

って、ルーミア。来てたのか。
日中だから闇を球体状にまとっているんだな。
「あれ、この匂い。あなたも来てたの? あげないよ」
と僕に気付くなりルーミア。ガリガリと頭蓋骨に噛みつく音を鳴らしてきた。

「うーん。
良い感じに出世していたのに、仕事のミスでクビになってそれ以来うだつが上がらない感じ。人生棒に振ったダメダメ人生。これからもいい事全くなし。
まさにまるでダメなオッサン、略してマダオって味わいがなんとも」

「俺の人生テイスティングで当てるなぁぁあああ!!
痛いんですけどぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
ルーミアお前、そんな能力あったっけ?

って、そんな場合じゃない。
「『光符 スタンライト』」
「うわ! しまったぁー、おいしそうな略してマダオに気を取られすぎたぁー!」
直撃して、目がくらんだ様子のルーミア。ダメージは大きそうだ。
いや、この人を呼ぶのに略してマダオってなんだそれ。

「もういっちょいくか? おい」
新たな光符を手に僕。

「うー、おぼえておきなさいねー!」
そう言い残しルーミアは退散した。

「生きるってきついモンだよな。実際」

さらに出血しつつ、サングラスを再度かけ直す略してマダオ……じゃなくて男。
「いや、いいんだけどね。
マダオって神楽ちゃんにそう呼ばれて以来、みんなからそう呼ばれてるから、いいんだけどね」

なにげに酷いな、あの子。




「つーか、また助けられちまったな。お礼できるもん何にもねーけど、ありがとな」
しかし、丈夫だなこの人。
あれだけ囓られて、割と平然としてるよ。

「いや、いいですよ。
そうだ、空飛ぶ紅白の何か見ました?」
この人、霊夢目撃してるかも。

「紅白? あれじゃね?」
空を指さす男。
まさか……?
上空に霊夢がいた。
そして、弾幕を爆撃してきた。
ちょっと、おい!
「え? いや。何コレ?」
伏せて……、いや間に合わな……。

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
「またか……あああああああ!!」

とまたしても巻き込まれる僕。
マダオと呼ばれている男が集中的に狙われたようだ。
上空からは「あ、間違えた。まあいいか。巻き込んだの良也さんだし」と声がした。
間違えたですますな。こら。




その後ついでとばかりに、萃香と神楽って子にも爆撃加えた霊夢。
しばらく昏倒してた二人だが、起き上がるやいなや闘いを再開してた。

「酢昆布はちびっ子のおやつアルネ!」
「酢昆布はつまみだぁぁ!」
などと言いながら。
もはやどうでも良いことで争ってるな、あの二人。


そしてマダオは二人の闘いにも巻き込まれた。
神楽って子に萃香に向かって投げつけられ、

「ちょ……神楽ちゃんんんんん?!」

萃香に殴り飛ばされた。

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」

悲鳴が長くいつまでも続いた。




どこまでついてないんだろう。
僕よりついてない人を初めて見た気がした。



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