「いててて……」
まだ体痛いな…。
僕が普通の人間だったらどうするつもりだったんだか。


あの銀髪の人、はるか彼方に吹き飛ばされて見つからなかったけど、大丈夫かな?
霊夢のやった事だから、命に別状はないだろうけど。




「あれ? 良也じゃん」
酒臭さと共に聞き慣れた声が聞こえた。

「って、萃香。来てたのか」
公園のベンチに座り、いつものごとく酒が無限に出る瓢箪を傾ける小鬼がいた。

「そりゃ神社に顔を出してみたら変な空間が空いていて、そこに霊夢が突入していたからね。
気になって入ってみたくなるじゃないか」

「僕も気になって入ってみたクチだけど。
ああそうだ、霊夢の居場所わかんないかな?」

「ん、あの変な金属製の塔の辺りを紅白の何かが飛んでいたから、それじゃない?」

「サンキュ。あいつなんか暴走気味で変なんだ。実際、ここの人間をスペルでいきなり吹き飛ばした。それに僕まで巻き込まれた」

「ありゃ、災難だね」

「全くだよ。できたらあいつ止めるの手伝ってくれないか?
僕一人じゃ止めれる気がしないし、このままだとまた誰かにスペル使うかも」

「異変とはいえ物騒だね。私だって知らないこの土地じゃ変な事しないよう気をつけてるってのに」
狼藉の象徴たる鬼がこうだってのになぜあいつはああなのか。

「いいよ。探すの手伝うよ」
「助かる。って、酒飲むのはまずいかも」
「なんでさ?」

再び喉に流し込む萃香。
いや、なんでってね。

「ちびっ子が何酒飲んでいるアルネ! このかぶき町の女王の神楽様が許さないアル!」
そう声がした。

だってお前、外見子供じゃん。




「おや、私に酒飲むなってのかい?!」
とやや怒気がこもる萃香。

「ちびっ子が飲むのはリポビタンDであるべきネ!!」
と、声の主。

僕たちに傘を向けつつ、チャイナ服を着た、オレンジ色の髪を両側のぼんぼりでまとめた少女だった。
年齢的には霊夢と同じくらいだろうか。

てかリポビタンDって。
あるのそれ。あとなんでそれ。

「あ、こら!」
「昼間っからこんなん飲んでいたら、マダオや銀ちゃんみたいな大人になってしまうネ!」

萃香の瓢箪に手を伸ばす少女。
そして引き離さないとする萃香。

「このぉぉぉ……」
「ふごごごご……」

……、あれ?
二人共全力で引っ張り合ってない?

青筋が一見細い四本の腕に走りまくってた。
え、この子もしかして鬼である萃香と同じくらいの腕力あるの?




「ちょっと二人共、お互い冷静に!」
「ふん!!」
萃香は引っ張り合っていた瓢箪を自分の手に戻す。

「ダメって言っているアルネ!!」
少女はすさまじい風圧の拳を繰り出し。

「させるか!!」
萃香はそれに対して拳で応じ、ドラゴンボールのような衝撃波が、拳が合わさった瞬間巻き起こった。
僕の話、聞いてない。




振り下ろした傘に瓢箪が迎撃し、拳がまた交差し岩石がぶつかり合った様な音が巻き起こる。
「おい、ちょっと待」
「おりゃぁああああああああ!」
「だからよこせつってるアル!」
二人の怒声。そして手、足、得物からマンガの効果音みたいな音が次々に発生した。
当然かき消される僕の声。


「地獄 『煉獄吐息』」
おい! お前がスペル使うな!
僕当た……、いたたた!!!

「ほあちゃあぁぁぁああ!」
と少女は機敏に弾幕を避けつつ持っていた傘より、銃撃。
仕込み銃、それ?

当たる僕。
だから痛いんだけど!!




ダメだ。逃げよう。
萃香の「迷惑かけないようにしている」とはなんだったのか。
確かに僕以外の周りには迷惑懸けてないけど。

二人共なんか楽しそうだし。
 でも僕の命がマッハでなくなる。
僕はそこから這々の体で立ち去ることにした。




怒号と衝撃波が公園に轟く。
遠目であの戦う二人は、幻想郷の人外が行うハイレベルの弾幕ごっこにも見えた。
あれはただのじゃれ合いなのかもしれない……。

ついてけねーよ。



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