「猫耳デカワイイカラッテ、私ト同ジナンテ、思ッテンジャネーゾ!!」

「え、ええ〜? なんでいきなり怒ってくるの?」

 猫耳で残念な位顔の濃い女が、猫耳の少女に叫んだ。

ムッとした表情で、隣にいる九つの狐の尻尾をもつ女性が何か言おうとした時だった。

「オウ! タマ!
私トットキノ鰹節削ッテ、コノ子ニネコマンマナ!
次ハコンナニ優シクネーカラナ!! 覚エテオキヤガレ!!」

「はい、キャサリン様。ただいまご用意いたします」

コンピューターに通したような声の女性が答え、そしてカウンターの三人にそれぞれ大吟醸、油揚げ、猫まんまを出した。

三人共、似たような中華系統の不思議な服に、ナイトキャップの女性たちだった。


「キャサリン、裏からビール持ってきておくれ。たまは、上のロクデナシに家賃請求して。この間よりキツ目にね」

「マカセナ、オ登勢サン」

「では、お仕置き最強モードで対応いたします」

カウンター越しの様子を見ながら、日傘を傍らに置いた女性が言う。

「人間ではないけれど、妖怪でもないわね」

「異星人、ですか」

「猫耳の方はね。もう一人はロボット。外の世界でもあそこまでのはないわ。もちろん、魔法使いも妖怪も作る事はできないシロモノよ」

「それにしても、なぜこの世界に通じる穴ができたのでしょう?
この世界の者は幻想郷など知りもしないのに。
何より、穴をふさいでもまた新たに開いてきてしまうとは」

「さあ? 銀魂原作者クラスに何も考えていないこれの書き手が何とか捻り出すんじゃないの?」

「紫様、少々境界を弄びすぎです」

「それはさておき、良い世界なのよね。あなたが、橙を連れてくるくらい」

「そこは……、すいません。橙にもこの世界を見せてやりたかったので」

「いいのよ。そう思えるくらいの世界だもの」

多様な人、物、技術が入り乱れつつ独特な秩序が保たれている、このかぶき町。

徐々に幻想郷にも影響を受けつつある。

ここから持ち込んだ汚れを食べる植物を栽培したり、かぶき町での信者獲得に乗り出したり、特定のホームレスに襲撃をかけたり、それぞれだ。

 この三人はそんなこの町を調べにやってきたのだが。


 カウンター越しに黒い和服の五十代くらいの女性が話しかけてくる。

「三人共、かぶき町は初めてかい?」

「ええ、それでお話に来たのです。お登勢さん。ここでは顔役とお聞きしましたので」

「はン。私ゃ、ただの世話好きのババァさ。顔なんて言われてっけど、そうこうしてる内にいろんなモン背負っちまっただけさね」

「あなたに、と言うより、この世界についてです。どのような世界だと思っていますか?」

「バカな町だよ」

吐き捨てる様に言った。

「天人襲来して来たっつーので十分ワケわかんねっつーのに、イボが本体乗っ取ったり、腰蓑一枚の巨人が進撃っつーか股間丸出しでチン撃してくるわ、眉毛つながってゾンビ化するわ、宇宙ゴキブリが町覆うわ、メイドが冥土送りする勢いで町占拠するわ、性転換するビームが落ちてくるわ……、何がどーなってんだっつーの!
もう理解できねーよ! こんなん年に1、2回は起きんだよ!!
バカがバカやってバカな事になりやがんだよ!!!
ここはメッカか!!!! バカのメッカなのかっての!!!!!」

「イ、イボ………?」

「ほとんど想像できないのですが………」

「毎度毎度、クレイジーな奴が好き勝手やりやがってェェェェ!!
作者ァァァァァアア!! 恨みでもあるんかァァァァァアア!!
ゴリラの顔で鼻ほじくってんじゃねェぞゴルァァァァァアアア!!!」

「はい、境界を弄ぶのはそこまでね」

「紫様が言う資格はありません」

「あなたは逃げないのですね。この町から」

「逃げられるもんかい。どこからも弾き出されたはぐれが最後の最後にたどり着くのが、このかぶき町なんだ。
そんな奴らを放っておくのは性に合わないね。
現にここで働いているのは、指名手配されてた泥棒猫に、ご禁制のからくりさ。
それだけじゃない。どいつもこいつも向こう臑に傷をつけた奴がゴロゴロしてる。
天人と戦った侍共なんて正にそうさ。
今じゃ、大体家賃滞納してたり、テロリストやってたり、税金泥棒してたり、ロクな事してないけどね」

煙草の煙を吐き、言う。
「ただ、そんなゴロツキがいざって時に動くんだ。
人が、町が傷ついた時、いの一番に現れて、誰よりも傷を受け、何よりも頼りになるんだ。
私一人、シッポ丸めて逃げられるかい」

「藍様、幻想郷みたいな世界ですね」

橙が言った。


「幻想郷……? 聞かない星だね。あんたらの故郷かい?」

「ええ。ここと同じく行き場を失った者を受け入れる世界です」

「そいつぁ騒がしいだろうねぇ」

「紅い霧が立ちこめたり、冬が終わらなかったり、夜が明ける事なく続いたり、大変ですよ。
その度に働かない巫女や、泥棒同然の魔法使いなんかが解決に動きます」

「穀潰しがいざって時に頼りになるってかい。かぶき町と変わらないね。
あんたらの星の住民がこっちに越してきても、かぶき町のバカ共とうまくやっていけそうだね。
どんな奴でも受け入れる。命懸けて受け入れようとする。きっとそっちもそうなんだろ」

「ええ、そういう事です。この世界と同じくね。そしてこの世界と同じくいい所ですよ」

「確かに、そうですね」

「紫様、藍様、私もそう思います」


「コノキャサリン様ヲ、ナメンジャネーゾ! コノガキャァァァァ!!」

猫耳の女に、紫色の傘を手にした赤青オッドアイの少女が引きずられてきた。

「お、驚かすつもりが、ぎ、逆に驚いちゃったぁぁ……」

とつぶやきながら。

「何失礼ナ事イッテヤガンダァァァ!
皿百枚洗ウマデ、ユルサネーンダカラナ!!」

「ひいぃぃ……」

「あ、唐傘お化け」

「紫様、どこかで見た顔が来ましたが」

「あ、スキマ妖怪? なんでここに……痛!!」

上から道路標識が落ちてきて、直撃。

「何してるのかしらね。この妖怪は」

「オラァァ!! 手ェ休メテンジャネーゾ!」

「ひぃぃ……顔怖……ひぃぃ……」

再びコンピューターの様な声がしてきた。

「お登勢様、ただ今戻りました」

「お帰り。例によって払う金はないってかい」

「はい。しかしそれとは別に、迎撃モードに入ります」

「ああ、例のね。お願いするよ」

「はい、それでは迎撃モード移行します」

と、窓を開けバットを手にし、構える。

「……何が起こるのかしら」

「見てればわかるさね」

不意に、新聞が窓から飛び込んできた!

それに合わせて、たまのバットがヒット!

新聞は入ってきた窓に吸い込まれ、遠くで「痛!」と聞こえた。

「ホラ、最近文文新聞とか言うのが飛び込んでくるからね。ここらじゃ打ち返しているんだよ。
いつかは懲りて、投げ込む事もなくなるだろうしね。警察なんかはバズーカで撃墜図っているよ。
流れ弾が危ないっつーのに」

ふと口にする。
「幻想になったものを受け入れるのが幻想郷。全てを受け入れようとするのがかぶき町ということね……」


「それでは、おあいそを」

「はい、毎度」

「ありがとうございました」

二つの女性の声。

それに続いて。

「休ムンジャネーヨ!!」

「ひぇぇぇ……はいぃぃぃ……」

と、怒号と悲鳴が聞こえてきた。

それを後に、三人は店を出た。

 店の二階では、幻想郷の新聞記者が新聞を投げつけては、そこの住民と思しき三人に打ち返されていた。

「どうなさるつもりですか? この世界と幻想郷の関係を」

「様子見ね。穴をいくら塞いでもすぐ開いて来るんじゃどうしようもないし。原因もはっきりしないんじゃ」

「影響はこれからも出てきますね。悪い影響じゃなければいいのですが」

「まあ、今は悪い傾向はないし。あなたは橙と見て回ってきなさい」

「紫様は?」

「寝るわ。冬も近いし。何かあったら起こして」

何か言いたそうな藍の横で、「楽しみですー」と橙が言った。



戻る?