将軍家剣術指南役柳生家の武器庫より、家宝である一本の刀が出された。

その昔、将軍直々に奉下されたという刀を当主・矩輿は箱より取り出し、日に照らす。

 刀の銘は瀬麗武。選ばれたセレブにのみ持てる刀であり、この刀を守り伝えることこそがセレブの証であり、義務であると心に思いつつ、手入れをしようとしていた時だった。+

 空から何か落ちてきた。

そして手には刀がなかった。

矩輿はサビたネジを無理矢理回す様に首を回す。

 刀が刺さった人がいた。

深々と左胸に刺さった人の姿が。

白く長い髪に数カ所のリボンを結び、何枚かの符を縫い付けたズボンのような物をはいた少女だった。

白いシャツの下からは、血液がどくどくと流れ出てきている。心臓を貫いているのは確かだった。


「マ……マネーを…、マネーを……出せぇぇぇ!! マネーで覆い隠すのだぁぁぁ!
このご婦人を覆い隠せぇぇぇぇ!!!」

「パパ上、一体何事ですか。騒々しい」

右目に眼帯した人物が来た。跡取りである九兵衛である。

「男根の建立技術に進展でもあったと言うのですか」

「九兵衛ェェェェェ! いきなり何口走ってんだぁぁぁ!!
つーか、デッコボッコ教の時、やっぱり女の子として生きるとか言ってたじゃん!!」

なおこの九兵衛、女性である。

「しかし、アレはアレで素晴らしいものです」

「それはともかく、瀬麗武が! 我が名刀瀬麗武が!」

「それでしたら、パパ上の後ろで」

「おりゃあああ!!」

「と、天へ投じられましたが」

「ちょ……えええええ!?」

白く長い髪で、符を付けたズボンの、左胸に赤い染みを付けた、あの少女だった。
「今何を……その前に何で生きて……?」

ドサッとまた何かが落ちてきた。

「いったいわね! 何すんのよ!!」

また少女が落ちてきた。

黒い長い髪で桃色の上着を着ていて、刀が頭の右から左に貫通していた。

「アレだよね! アレって何ってナレだよね! 手品的なアレだよね!」

「こ……んの!」

「抜かないでェェェ! 頭から何か出てきてるじゃん! モザイクだよ、モザイクが何かのアクセサリーみたいになっているんですけど!
出しちゃいけない物が出てきちゃってますけど!!」

そんな叫びに一切かまわず二人は殺意と言葉を交わす。

「そっちが先にやってきたんじゃないの! 何言ってんだよ!」

「先にこんなモン投げてきたのはそっちだっていってんの! 食らいなさい!」

ザク!
「やったな!」
ドス!
「そっちこそ!」
グサ!

「やめてェェ! 家宝を投げないでェェェ! その前になんであんたら平気なの!

思いっきり深々と刺さっているんですけど!
モツが! ハラミが! ホルモンが!! 飛び出しちゃってますけどぉぉぉぉ!!!
モザイクいくらあっても足りねーよ! どんな18禁だよ!」

「このおおぉぉ!」

「くたばりなさい!」

いつしか闘う二人の体は宙に。

白い髪の少女に至っては背から炎の翼を羽ばたかせる。

「なにそれぇぇぇ!
燃えるから降りてきてぇぇぇ!!」


「お師匠、お二人がいました。決闘の真っ最中です」

「あー、モツとかハラミとかホルモンとか出ちゃってるねー」

「こら、てゐ。おいしそうな表現しないの。
どこからあの刀持ってきたのかしらね。あのお屋敷のじゃなければいいけど。
それにしても、激しすぎね。止めに入るわよ」


木を伝い跳んだ一つの影が割って入った。

飛び交っていた刀はその影の手に収まった。

九兵衛である。

「これは我が一族の宝。このように扱うものではない。返して貰う」

「決闘の邪魔を……」

「するなぁ!!」

二人より、九兵衛に向かい弾幕が展開される。

「ちょ……、何?
エネルギー弾? 拡散連続エネルギー弾んんんん?」

九兵衛は神速とさえ言われる動きで、冷静に無駄なく動く。

手にした家宝の刀で弾幕を切り捨てつつ、一つの部屋へ入った。

「九兵衛ェェェェェ!! それ指南役としてどーなのよ!!!」

そして部屋からバズーカを発射した。


 火薬を増量したバズーカの弾が大きなキノコ雲を作り、その跡には白と黒の長い髪の少女二人が横たわっていた。

「バズーカって、柳生家にあったっけ? つか、普通使う?」

「粉みじんにするのによいので、主として東条の嫌がらせを爆破するために使っています。
柳生家に侵入し、家宝をないがしろにした者に対する制裁としては妥当でしょう」

「でもコレ殺したよね。どーすんだよ」

「一体何事ですか!
カーテンのシャーってなる所が気になってロフトから帰ってみれば!」

長い金髪の細目の男が来た。東条である。

「由緒正しい庭が! 屋敷が! まるでテロに遭ったかの様ではありませんか!
かつて許婚を取り返しにきた者たちの一件より酷い惨状ですよ!!
唯一素晴らしいのはこの爆心地に残るお人形さん二体!
等身大リアルドールではありませんか! 通販でも手に入りませんよ!!」

「それ死体ィィィイイイ! 現実逃避してんの? わかってやってんの? それともただの変態?」

「いや、この質感はまさに本物。特にこの胸の……」

 突如、ものすごい音と共に東条の体が浮いた。

あの二人の少女の拳が東条の顎を跳ね上げた。

「くたばりなさい」

という声が重なり、同時にスペルカードを取り出した。

「『虚人 ウー』」「『神宝 ブリリアントバレッタ』」

今まで以上の大量の弾幕が美しく重なり合い、展開された。

だがその弾幕跡に東条はいない。

「誰だよ!」

「あいつを助けたのは!」

「若ぁぁぁぁ! 助けて下さり、至極恐え……」

九兵衛に助けられたものの、投げ飛ばされる東条。

彼女は男性に触れると誰であろうと、投げ飛ばす。

「あ”あ”あ”あ”あ”! 潰れるぅぅ!!」

「取るハメになったら貰い受ける。
この狼藉者。確かにこの門弟の者が無礼を働いたが、それ以上の事をやってくれた。
覚悟するのだな」

「何言ってんの?」

「許さない。そいつは……!」

「はい、これで終わりよ。二人共」

その声と同時に、長い白と黒の髪の、少女たちの頭に矢が刺さった。

「いやアレだよね、死んだよね。モザイク出てるし、改めて死んだよね」


「あ、永琳来てたの?」

「効くな。この矢」

と、頭から血を流しつつ、矢を抜く二人。

矢を放った左右で青赤に分かれた服を着た女性は言う。

「全く、周囲の迷惑を考えなさい、二人共。メチャクチャじゃない」

頭に兎の耳がある二人が、空から降りてくる。

「あーもー、大変だねこりゃ」

「その前にてゐ。この世界に通じる穴の事、なんで言わなかったの?」

「う、いや、それは……」

「知らせてくれれば、二人もここには来なくて、このお屋敷も無事だったかもしれないのに。考えなさいよ」

矩輿の叫びが轟く。

「全くどうするつもりですか! このセレブたる柳生家に与えた損害は大きいですぞ!!」

「ここの修理の弁償はいたしますので、どうかお許しを。ほら、姫様と妹紅も」

「許さない……!」

「あいつだけは……殺す!」

二人はまだまだ殺意を持っていた。

「ちょっとどうしたっていうのよ二人共。あなたたちが悪いのよ」
「私の胸を……」

「弄びやがって……!」

「あらそう。それは、あのもだえ苦しんでる長髪?」

「し、師匠!」

「ヤバイよマズイよ! 早く逃げて逃げて!!」

「え…ちょ……うそ……」

スペルカードが取り出された。

「『天網蜘網捕蝶の法』」

美しすぎる弾幕の跡に残ったのは、爆撃されたような焦土だった。

かつての日本庭園はどこにもない。

「耐えた? まさか……」

いや、一カ所だけかろうじて残っていた。

九兵衛と東条だけは、立っていた。

そして、二人が持つ刀は弾幕が止んでしばらくして、折れた。

「若ぁ! ご自分の刀を私に貸して下さるとは! この喜び、どうお返しすれば……」

再び東条は投げ飛ばされ、股間を強打した。

「あ”あ”あ”あ”! 折れた、折れたぁぁぁぁ」

「お返しとして貰い受ける」

「って九兵衛! それ瀬麗武!我が家宝の瀬麗武ぅぅぅぅ!!
折れ曲がってるぅぅぅぅ!!!
なんて事をををををを!!!!」

「ちょっと永琳どうするの。私と妹紅より被害出しちゃってるわよ」

「次は大丈夫。ちゃんと息の根止めるから……」

「うどんげ! お師匠に能力使った?」

「使うわけないでしょ! 師匠止めて下さい!!」

「永琳にスペル使うか…? 輝夜と組まれたら負けるな……」

「来るなら来るがいい。男根と言うバベルの塔を建立するまで負ける訳にはいかないからな」

「この人には能力使った?」

「使ってないはずだけど……、自信ない」

「若! この東条どこまでもついて行きますわ!」

そんな中、「おーい」と声がした。

小柄な老人の声だ。

「パパ上!」

「おじい上!」

「先代!」

先代当主、貧木齋だ。


「パパ上! 一体、この騒動の中一体どこにいたのですか!」

「いや、おっぱいのでかい、大きな鎌持ったねーちゃんが来てよ。話してたら眠いっつーから布団出してやったんだわ」

「って何してんですか! つーか、それ不審者!!」

「この騒動の中、熟睡してんのな。ありゃ心臓つえーわ。見習わねーと」

「アイツか」

「アイツね」

「アイツかしらね」

「アイツかなぁ」

「アイツでしょうか」

と同時に察した5人。

「そんな事言ってる場合じゃないですよ! 見て下さいこの惨状!!
これは賠償として十分なマネーを……」

「一番の惨状、オメーじゃね?」

「え?」

「当主のオメーが何もしねーで叫ぶだけって、ヤバくね?
無駄な叫び声ばっか聞こえてきたぞ」

「いや、その」

「この様が幕府にバレるのが一番マズくねーかよ」

「う、その……」

「ちゅーことで、ねーちゃんたちよ。
ナイショな。それで手を打とうや」

「おじい上、それならば僕から条件があります。そこの天人の看護師と思しき方にですが」

「看護師ではなく薬師ですし、天人でもないのですが。何でしょう」

「男根の建立、もしくは移植についての情報を交換したい。そちらにはどのようにしているのだ?」

「狂気にかられているわね。優曇華、能力使ったでしょ」

「使ってません。使ってないはずなのですが……」

「若ぁ!この私の折れた一物をお使いください!」

「あ、私からの条件です。あなた、死んで下さい」

「え? あ”あ”あ”あ”あ”!!」

東条に弾幕が襲い来る。

「永琳! 死んじゃうって」

「姫様を汚した輩には当然の罰ですよ。まだ足りないくらいよ」

「師匠! 師匠が一番狂気に刈られています!」

「あーもー、どーしよーもないねー」

「庭が! 屋敷がぁぁ!!」

「いや、意外とアートな感じが良くね?」

「この不安定な地盤が足腰を鍛えるには良いかもしれません」

「だろ、九兵衛」

「だろじゃねよぉぉぉおおお!!!」

「……バカらしくなった。私は帰るよ」

こうして決闘は終わった。



「オチがそれかよぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」



戻る?