万事屋に二人の男がだらけきって死んだような目をしていた。

「銀さんヤバイですよ。
また家賃払えないで、たまさんからの連続エネルギー弾食らいますよ、このままじゃ」
メガネ越しに死んだような目を覗かせる新八に。

「仕事ねーし、そりゃ金もねーよ。
ぱっつあんよー、いっそお前が何か依頼しね?」

と、目が普段の二倍の死んでいるいる銀時が返した。

「依頼するよーな事ありませんよ。
大体給料も今月分貰ってないですから、金のかの字もありませんよ。
銀さんが銀さんに依頼したらどーです?」

「俺も何も困ってねーよ。金のねの字もねーよ」

と、新聞を読み出した。

「あれ、銀さん。そんな新聞取ってましたっけ? ブンブン新聞?」

「あー、何か今朝玄関に入ってたんだよ。
芸能欄のトップ記事はお通ちゃん妊娠だってよ」

「へー…、て何ィィィィィィ?!!!」

即時に携帯を取りだし、血走った目でまた叫んだ。

「どーなんだ!! 他の芸能ニュースは!!! 現在確認中? 知り合いの芸能記者に裏を取れ!」

「まーた、そんな事に血なまこになってんじゃーまだまだだな。
大人らしく、どっしり構えねーとよ。
えーと他は……結野アナ寿退社……寿退社ァァァァァ!!!!」

「まだか! お通ちゃんを妊娠させた非国民は誰だぁぁぁ!」

「嘘だぁぁぁぁ! 寿じゃねーよ!! 寿は三井君だけでいいんだよ!!
つーか、相手の極悪スリーポイントシューターは誰だぁぁぁ!」

そんな雄叫び二重奏の中、テレビの天気予報が始まった。

「あ、結野アナ! どーなんだ、嘘だと言ってくれぇぇぇぇ!」

「はい、お天気予報の前にまず伝えたい事があります。
ちまたに配られているこの文々新聞。
これに私の寿退社が伝えられているのですがー」

「どーなんだぁぁぁぁ!!」

「嘘です!」

「…マジ?」

「と、いいますか、全てが嘘ですので信じないで下さいね。お通ちゃん妊娠とかも嘘ですので、テレビ局に電話とかお控え願いますね。
私は皆さんにまだまだ天気をお伝えしたいので、ご心配なくご覧くださいませ。
では、今日の天気ですが…」


「嘘か…」
と銀時は呟き、
「嘘なんだな。確実なんだな」
と新八は電話に応えた。

「なんだよ。驚かせやがって」

「もし今、あんなの書いた奴来たら、ぶっ飛ばしてやりたいですね」

「いやいや、ぶっ殺していいんじゃね?」

「ですよねー」
 そんな時、ドアから勢いよく一人の少女が入ってきた。

「あややや、初めまして。
清く正しい新聞記者、射命丸文と申します!」

彼女は山伏の頭布を頭に載せた、変わった服装をしていた。

「いかがでしょうか、この度私が試供品として配りました文々新聞は!」

「えーと、何? 君これ配った。ふーん」

「はい! 配達から印刷、取材に文責まで全て私でございます!」

「えーと、お通ちゃん妊娠とか、結野アナ寿退社とか、もしかしてつまり、君書いた? ふーん」

「はい! それはもう!」

「へー、ふーん」「へー、ふーん」

 次の瞬間、その新聞記者が見たものは、言葉にできない程恐ろしい顔をした、二人の人間だった。

「てめぇぇぇぇ!!!」

「ぶっ殺ぉぉぉぉす!!!」

「下手な妖怪より凄まじい殺意と顔ですよ!
こんな反響も人間も初めてですけど!」

と、後退しつつ空中に浮かび距離を取る。

「ま、付き合っていたら大変な事になりそうなので、さよならー!」

幻想郷最速のスピードでかぶき町の空を駆け抜けて行った。

あの、妖怪より妖怪らしくなった二人を置き去りに。


「反響があるのはうれしいんですけど、新聞記事ひとつで幻想郷よりシャレにならない事が起きやすいみたいですね。
もう少し考えないといけないかな…」

 何かの機械の音がかぶき町上空で浮かぶ、射命丸の一人言を遮った。
それは回転する羽を高速で回す事により浮力を作り上げるらしく、重そうな鉄なのに空を飛んでいる事には目を見張った。
それ以上に驚いたのはあの二人がそれに乗っていた事だ。

「高速ヘリパイロットのお通ちゃんファンクラブ会員番号10番!
貴様には次回の握手会には最優先握手権を授けよう!!」

そうさっきとは違う竹刀を手にしたハチマキとハッピ姿のメガネが叫び、
「いー知り合いいるじゃねぇか、ぱっつあんよー。
さて覚悟するんだな、コノヤロー!」
木刀を構えた死んだ目の銀髪が強烈な殺気を向けてくる!

この二人の後ろには何かゆらゆらうごめいている。

「な、なんですか。後ろにいるのは」

「後ろ? 後ろにはなぁ、……気持ちだよ。ファンのな」

「テメーに驚かされた、怒りが、僕らの背を押しているんだ」

二人の殺気がより強大なものになっていく。

「食らうんだな…」

「思い知るがいい…」

「「ファンという気持ち悪くも、力強い存在の力を!!!」」

「ちょ、これはマズイですね!」
スペルカードを取り出し、
「使わせてもらいます『疾風 風神少女』」
そこから弾幕を広げる。

だが、この二人は。
「おらぁ!」「おりゃぁあ!」

「え、だ、弾幕を足場にしてこっちに来る? そんなバカな!」

「俺たちと、数多くのファンの!」

「怒りを思い知れぇぇぇ!」

木刀と竹刀が一閃ずつ射命丸を襲う。
辛うじて避けるが余裕はない。

「く! こんな人間いるなんて…」
銀時が、口を開く。

「あ、新八君」

「はい、銀さん」

「足場ないよね」

「はい、もう何もないです」

次にこの二人がした事は、声にならない叫びを挙げて、落下する事だった。
「そうだった。この世界の人間は空を飛べないんでした。
次からはもう少し考えて記事を書かないと。
にしても、怖かった…」


「止まれェェェ! 止まりやがれェェェェ!」

あの射命丸という新聞記者は、今度はパトカーに追われていた。

「あやや。ちゃんと本当の事を書いたんですけどねー」

瞳孔開き気味の男がハコ乗りで叫ぶ。

「警察として、真選組として、書かれちゃ困るんだぁぁぁ!!」

「一般女性に対するストーカー行為なんか、書かなきゃ駄目でしょうに」

「それをバラすなぁぁぁ!」

「違うぞ! 君もトシも! 俺はただ純粋な愛をお妙さんに届けたくて…」

「下着一枚に全身チョコレート塗って、忍びこもうとした時点で犯罪ですけど」

「言うなっつーの!! あと黙れ、変態ゴリラァァァ!」

「あと、無敵少女が真選組に稽古つけている記事なんて、なかなか良いかと」

「私としては嬉しいけどねー」

と、伊吹萃香。

「その前になんでテメーが乗ってんだぁぁぁ! このアル中幼女ぉぉぉ!」

「元上司に媚び売ってるだけだろーけど」

「そんな事ないですよー」

「世間体悪いんだよ! 写真で隊員山積みにしてその上で酒飲んでるから!!」

「あと、あんぱん中毒者の記事とか」

「君は…あんぱん…何を…あんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱん」

「ザキィィ、お前も黙れェェェ!」

「よーし。10数えてやるから、その間に止まれよー。いーち」

バズーカ発射。射命丸をかすめて、その辺に着弾。爆発。

「おいいいぃぃ! 沖田ぁぁぁ!!」

「にーい」

さらに発射。

「さーん」

なおも発射。

「何してんですか!? 明日のトップ記事ものですよ! 私に書けっていっているようなものですよ!」

「何してんだよテメーもぉぉぉ!」

「総悟ォォォ! 今、グラサンのマダオが爆発に巻き込まれてたんですけど!」

「テメーが逃げている間にどんどん人命が脅かしていって、良心に訴えようっつー作戦でさぁ」

「お前も何もすんなぁぁぁ!」

そんな事を尻目に。

「あやや。面白いですね、この人たち。
あなたが気に入った理由がわかりましたよ」

「でしょ。暇したら来るといいよ」

射命丸と萃香は話し、
「では、私はこれでー」
と、再び幻想郷最速のスピードでかぶき町の空を飛んでいった。

「待てェェェ!」

「あんぱんあんぱんあんぱん」

「しーい」

「総悟ォォォ! 撃つなぁぁ!」



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