注:オリジナル解釈多目。
  むしろほとんどパラレルワールドになってるかもしれません。










 最近、お姉ちゃんが変なのよ。

 変と言っても別に、とりたてて奇矯な行動を取ったりとか、おかしな言動をするわけじゃあなくて、さ。

 えと………そうだね、一番大きいのは、今までなら用がなければできるだけ出向こうとすらしなかったはずの、地上によく足を運ぶようになったことかな。
 地上っていうと、私はともかくお姉ちゃんには良い思い出がない場所のはずなんだけど。

 表向きは私の迎えって言ってるし、まあ、それは事実。
 お姉ちゃんが迎えに来てくれるのは……まあ、うん……別にいいんだけど、ね?


 でも、そのときに決まって同じ事を言うのがいただけない。

『今日は良也さんは来ていないんでしょうか?』って。

 勤めてさりげなさそうに聞くんだけど、すぐに肩を落とすことになるから
 普通の魔法使いとかがニヤニヤすることになる。



 そう、土樹良也。アイツだ。
 お友達相手にアイツ、なんていってたらお姉ちゃんに叱られるかもだけど、この問題に関する限り、私だって内心穏やかじゃあない。

 例えば、この前のおゆはんのとき、良也が美味しいって言ってた餡かけチャーハン。それを4日続けて作ったりとか。

 ちなみにそれ、毎回ちゃんと味変えてて、2日目なんて冒険しすぎで最悪だったし。
 うん、チャーハンにフルーツはないよね(笑)。ちなみに私はそこで恒例のプチ家出。後の話はお燐に聞いたんだけど。
 あの異変以来、ご飯はみんなで食べることが多くなっているんだから(とはいえ私はいないことのほうが多い)、
 我が家が誇る地底のHことお空以外のみんなにはもう魂胆バレバレである。


 ちなみに良也の泊まる客間はいつのまにかお姉ちゃんが掃除当番になっていたりもする。
 3時間かけてどんなに綺麗にしたのかと思ったらほとんど変わってなくてびっくり。
 お姉ちゃんは部屋の中でなにをやっていたのだと小一時間問い詰めたい。


 てゆーかさ、何処の恋する乙女だよお姉ちゃん。
 表面上は隠してるつもりなのが我が姉ながら正直可愛い。

 そして、それに気がつかない当の鈍感男は10回くらい死ぬと良いと思うよ。むしろモゲロ!
 いやいや、人生そんな消極的なことじゃいけません? じゃあモぐ? にゃ、いっそ摩り下ろしちゃう!?
 半ばくらいにまで摩り下ろしたら、再生速度と同じペースで、鮫皮おろしで摩り下ろし続けるの。素敵よね?

 ……まあ、お姉ちゃんが嫌がるから殺らないけどさ。

 ちっ命拾いしたな小僧。
 なんて、帽子のつばを人差し指で持ち上げてポーズ。パーンッ!



 でも考えてみたらこれ、お姉ちゃんにとっては初恋なのかなぁ?


 まだまだ私達がか弱くて、あちこち逃げ回りながら暮らしてた大昔のころ

 なんとか戦うだけの力を身につけたと思ったら地底に封印されて、
 元から裏しかないような旧都(当時は旧じゃなかったけど)のさらに裏っかわで策略縦横陰謀無尽にブイブイやってたころ

 そして、ついこの間まで。異変前までの、ペットに囲まれながら地霊殿に篭ってたころ


 ああ……そりゃまあ、恋愛の機会なんてないね。
 お姉ちゃんのお陰でお気楽にやってた私でさえ、そんなのなかったくらいなんだし。


 ただでさえ私達覚妖怪は嫌われ者だ。人からも、他の妖怪たちからも。
 友達になれたと思ってた子が、私達のことを知ったとたん、ばっちぃものを見るような目で睨んで逃げてったり、石を投げてくるくらいには、ね。

 それを考えれば、祝福してあげなきゃなんないんだろうなぁ。祝ってやる、畜生め!


 ま、相手としては悪くないよね。良也は良也でお姉ちゃんのことを慕ってるし、敬ってくれてさえいるしさ。

 人間だけど不老不死というのも得点高い。

 一番大きいのは、心を普段は読めないこと。
 だから、お姉ちゃんを嫌う理由がない。
 しかも、良也にその気さえあれば、一時的に心が読めるようにすることもできる。
 私とは違ってね?
 生粋の覚妖怪であるところのお姉ちゃんにとってはいろいろ嬉しい相手なんじゃないかな。

 ある意味、お姉ちゃんにはぴったりなのかも?

 そうじゃなきゃお燐だってあの二人のカップリングを推したりしない。
 小ずるい算段もあるみたいだけど、だからって冗談でもお姉ちゃんのためにならないことを口にする子じゃないし。


 でもさでもさ―――










「――――で、結局」

 ふ、と顔を上げると呆れたような表情の、

「貴女は何が言いたいのです?
 私に面と向かい合っておきながら、私よりも多く口を動かした生者なんて、本当に久しぶりですよ?」

 閻魔様が、お茶を飲んでいた。










「貴女は少し自分勝手が過ぎる――――地霊殿のそこかしこに漂う怨霊と同じ存在に堕したくなければ――――

 ――――そうですね、あの二人のことで思い悩むのは今の貴女にできるうってつけの善行ですか。ああ、喜ばしいことですね。

 貴女の姉は確かに私の古馴染みですが、私はこうしたことにはあまり詳しくない。
 私に出来る助言は、貴女が苦しむ機会を奪ってしまうことになりかねない。

 悩み煩悶し失敗し、絶望することすらも、貴重な経験ですよ。
 かつての貴女はずっと姉に守られていたのだから、今、姉のために傷つくのも一興と思いなさい」


 そう言い放つと、閻魔様はスタスタと人里にお説教しに行ってしまった。


「むぅ………」


 流石にお見通しだわ。閻魔様。

 結局私は、お姉ちゃんを誰かに取られたくなくて。
 でもそうやって、私の我がままでお姉ちゃんを犠牲にするのも、もうイヤなのだ。










     *   *   *   *   *   *   *   *   *   *










 私がいつものようにおゆはんの支度をしていると、居間のほうでパタパタと足音がした。

「こいし?」

「ただいまー」

 やはり妹だったようだ。居間に入って来る勢いがあまって不思議な踊りを踊っている。
 確か以前、『荒ぶるグ○コのポーズ 西風の舞』とか言っていた格好だけれど、たぶん言った本人も覚えてないだろう。

「お帰りなさい。
 今日のおゆはんはハンバーグよ、和風の」

 あと、大根と茸の炊き合わせと、小松菜のおひたし。

 そして茶碗蒸し。これ、お空も大好きだけど、他のみんなも結構好きなのよね、これ。
 味付けはいつも通り。
 この味加減に到達するまでにはずいぶん試行錯誤をしたものです。

 デザートにはミルクプリン、と。

 お漬物はどのくらい切っておこうかしら。
 山芋の漬かり具合が丁度いい頃だけど……あっさりめの今日のご飯にはあんまりあわないかもしれないわね。
 酒の肴には丁度いいのだけれど……
 でも精がつくものだから、やっぱり切っておきましょう。

 お燐が最近ちょっと疲れてるみたいだから、スルスルッと食べられるものでまとめてみたのだけれど……
 良也さんが来てくれるかもしれないと思うと人肉を使えないのがちょっと残念ね。
 みんな好きなんだけれど、こればっかりは仕方ないわ。


「ねえ、お姉ちゃん」


 手を止めて振り返ると、いつものようにいつのまにか、真後ろにいたこいしが。

 いつになく真剣そうな顔をした妹が、まっすぐに、私を見つめていた。

 ―――珍しい、何かあったのかしら。

「お姉ちゃんはさ」

 何でもなさそうな声音と、真剣そうな顔で質問をつづりだす。


「……ええ、何かしら?」

 続く言葉は、最近私が敢えて意識に上らせまいとしていた言葉だった。


「良也のこと、好きなの?」

「う……それは」


 慌てて何か言おうとすると、
 こいしは何故か傷ついたような顔をして私の言葉を止めた。


「あ、いいよ、いわなくても」

 私が小首をかしげると、こいしはくるっと表情を一変させて笑顔になった。


「えへへ……お姉ちゃんは、可愛いなぁ」

「こいし? 何かおかしなものでも食べたりしてないわよね?」

「うん、ここんところ、フルーツ(笑)入りのチャーハンくらいしか食べてないよ。おかしなものなんて」

「う……あれはまぁ……悪かったわ……」

 あれはあれでもう少し上手くやれば食べれるものになったと思うんだけど……
 チャーハンのほうを甘味に合うようにするか、まだ未熟で固く、甘味より酸味の強い果物を使えば……
 まあ、やろうとしてもすぐ止められちゃうでしょうけど。


 溜息一つ。


「でも、今度から失敗作はちゃんと私一人で処分―――」

「しなくていいって」

 妙に勢いづいた語調で私の言葉が割り込まれる。


「?」

「お姉ちゃんの御飯、美味しいもん」

 ぱっと花咲くような笑顔を浮かべる妹。
 この子の考えが分からないのはいつものことだけど、今日はいつもに増して変ね。


「こいし、地上で何かあった?」

「ううん、何にも♪」

 妹の口調はいつだって軽い。

「ただ――――傷ついてみるのもいいかなって、思っただけ」


 ――――そう。

 何だか心配になるようなことを言ってるけど。
 どうしてだか、大丈夫そうな顔をしてるから。

 この子の好きに、任せましょう――――

 そう思って、何故だか、ちょっとだけ、嬉しくなった。










 ――――まあ、その結果与えられた好機につい飛びついて恋愛の工程を一気に飛ばしてしまうことになるのですが……


 少なくとも今はまだ、別の話ということで……




















◆後書き
 動きがあるものが書きたかったけど結局動きませんでした。南無。



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