土樹良也と巨乳剣士

第二話 巨乳剣士が幻想入り?




 夜明けだ。
 カーテンから差し込む日光で僕は目を覚ました。

「……昨日は大変なことがあったなぁ」

 思い出される昨日の会話。『神殺しの人造人間』こと柳場楓が話したことは僕のこの数年の人生よりさらに激動に満ちたものだった。つか、どこのアニメだよそれ。
 僕は隣に目を向ける。空っぽになった布団。
 昨夜楓が「寝るぞ」と言ったとき、僕は風呂場に寝ると言ったのだが、楓は気を使うなとばかりに押入れから布団を2つ引っ張り出した。
 女子と並んで寝るのなんて幼稚園のお昼寝以来(幻想郷での事故を除く)だし、僕だって健全な男子だからかなり緊張したが、そんなことはなかった。
 HAHAHA☆僕にそんな度胸があると思ったのかい?

「自分で言ってて本当に悲しくないのか?」
「……そんなにも僕って心を読まれやすいのかなぁ?」
「心は読めないが、首からプラカードを下げているようなものだな」

 背後からかかった言葉に僕はげんなりしつつ返す。そしてそのまま振り向いた――のだが、

「服を着ろっ!!!」

 肉体強化+時間加速を駆使し音速を超えるスピードで首を前に戻す。
 それも当然。背後に立っている楓はショーツだけの姿で下ろした髪を拭いていたのだから。

「あ、風呂借りたぞ」
「そう返すのか!?」

 あまりにも早く回したせいか、流石に首が痛い。首を右手で撫でながら僕は叫ぶ。

「仕方ないだろ。服は着ていたものしか無かったし、バスタオルがどこにあるのかは流石に分からない。というか家主に無断で使うのは失礼だろ」
「家主に無断で家に入り、漫画を読み漁っていたやつが言うセリフか!!」
「そんな昔のことは忘れたね」
「お前昨夜100年昔のことを話してただろ!! っていうか、それ以前に女性なら恥ずかしがれ!!」
「そんなこと言われても、自分の体であってそうでないからなぁ」

 ああもう疲れてきた。幻想郷に行っていないのにこんなに疲れたのは栞ちゃんが誘拐されたとき以来だな。

「ところで良也、何か服貸してくれ。私の袴は洗って干してあるからな」
「ああもう分かったよ。そこのクローゼットにいろいろ入ってるから好きなのを着ていいぞ」

 はーい、と楓は応えてからクローゼットを開く音がする。
 その間僕は枕カバーを外したり布団を畳んだりしておく。

「良也、こっち向いていいぞ」
「ああ、ちゃんと服を着た――わけじゃないじゃないか!!!」

 これまたびっくり仰天。
 楓はおそらくこの世の男性の夢であろう格好――裸ワイシャツで椅子に座っていた。

「もっとちゃんとした服を着ろ!」
「私って洋服嫌いなんだよなぁ」
「だからってそのチョイスはおかしい!」
「何だ、お前はこんな美女が裸ワイシャツでいることが嫌なのか? 良也はあれか? ホモか? 残念だが青いツナギは持ってないなぁ」
「俺は断じてホモではない!! あと、なんでそのネタを知っている!?」

 まさか楓が好んであの青いつなぎのいい男♂の漫画を読んでいるとは思えない。

「まあ簡単に言ったら、暇つぶしだよ。鉄腕ア○ムの頃からよく漫画やアニメも見てるし、ネットもよくやるぞ。要するに、私もオタクってわけ」

 意外だ。てっきりそういうのには興味がないとばかり思っていた。

「ちなみにヌコ動最古の動画とされてるあれ、私が投稿者」
「マジで!!?」
「嘘」

 嘘かよ。
 もう本当に今朝から楓に振り回されっぱなしだ。まるでレミリアや輝夜や諏訪子を相手にしているかのよう。
 そこでふと気がついた。

「体、それ本当に作り物なのか?」

 昨日楓が言ったこと、さらなる力と不老不死を得るために自分の体を改造した挙句、ついには完全に新しい体に魂を移植したということ。
 なのにその体は人間のように滑らかで綺麗だ、と純粋に僕は思う。

「最近の科学者があらゆる細胞を作ることができるようになったって発表しただろ? 私はそれを100年ほど前にやっただけだ。作り物であっても細胞は細胞だろ?」
「ハチャメチャな……」
「魔法使いのお前がそれを言えた身か?」
「言えません」



 そんなやりとりをしつつ、僕は布団を片付け、2人分の食事を作って食べた。

「で、楓はこれからどうするんだ? 幻想郷には来るのか?」

 僕が切り出した話題に楓は意外にも渋ったような表情をする。

「まあ、行っても構わんのだが、アイツがな……」
「アイツって?」
「お前の後ろにいるやつのことだ」

 後ろに、いる……? ハッ!!

「回避が遅い」

 聞きなれた天敵の声。それと共に頭上に金ダライが落ち、意識が飛びそうになる。

「ス、キマ……テメェ……」
「あら怖い」

 飄々と言いながらスキマは倒れた僕の上に立つ。痛いから降りろと念じるがスキマは僕に見向きもしない。

「八雲……」
「久しぶりね、楓」

 おぅ。どうやら2人はお知り合いのようで。

「50年ぐらい前にそこの八雲と死合しただけだ」
「私はただ幻想郷に彼女を誘っただけよ」
「で、断った私を無理やり連れて行こうとしたんだろ」
「そんなことあったかしら?」
「とぼけるな」

 楓はスキマをキッと睨みながら魔力を増大させていく。
 スキマも不敵に微笑みながらその妖力を増大させていく。
 そしてどうすることもできない僕は、肉食動物の前の小動物さながらブルブル震えていた。
 だってさぁ、僕がこれまであった中で最強クラスの二人が睨み合ってるんだよ? こりゃ死ねるね。死ねないけど。

「ま、今日は喧嘩する気はないわよ」

 珍しくスキマが両手を挙げて降参の意を表する。
 楓は暫く睨んでいたが、スキマ産の殺意が小さくなった(でもまだある)ので彼女も大人しく殺意を弱めた(でもまだある)。

「まあ、良也と接触した時点でお前が来ることが分かってたよ」
「あら、そうなの?」
「こいつの魔法の師匠はパチュリーだろう? あいつが幻想郷に行ったことは知ってたし、だから良也も幻想郷に行ってるんだろうなってな。どういう原理化はさっぱりだが」
「それは私でも理解不能だわ」

 何やら僕抜きで話が進んでいる様子だ。僕ってホント空気だなぁ。

「それで、今回こそ幻想郷に来てくれるのかしら?」
 
 どうやら本題に入ったらしい。

「なあ八雲、どうしてそこまで私に拘る? 人から外れたモノや人外は私の他にもごまんといるだろ?」
「理由は単純。貴方があまりにも規格外だからよ」

 規格外?

「貴方は生まれつき持った能力がある。その程度ならまだいいのだけれど、貴方はそれを使って世界の真理を知りすぎた。その結果が今の貴方の力。言わば貴方は世界の『特異点』なのよ」

 スキマはやっと僕の上から降り、楓に一歩近づく。ふぅ、流石に重かったな。それに肋骨にヒビが入ってるな、この痛みは。
 そんなことを考えつつも二人の会話は続く。

「そんなの私自身がよく理解してるさ。それにお前が私を付け狙うのも予想はしてた。要するに、私をお前の箱庭に入れて監視しておきたいのだろう? お前と、今スキマの中にいる九尾。そして博麗の巫女で」
「話が早いこと」

 うわぁい、話について行けなくなってきたー。
 つまりスキマは物語とかに出てきそうな最強キャラを監視したいから幻想郷に誘ってる、と。

 楓は暫く考えていたが、

「分かった、今回はお前に大人しく従おう。こっちの世界もそろそろ飽きてきたからな。まあ、来月のラノベは気になるが、それは良也に任せてもいいのだろう?」

 急に話を振られて一瞬焦ったが、僕は慌てて頷く。
 どうやら戦うことなく楓は幻想入りを承諾したらしい。

「ただ、一週間待っててくれ。色々と処分したり、準備しなくちゃいけないからな」

 楓が思い立ったように後付けたがスキマはいいわ、と一言だけ言った。

「それじゃあ良也、私はちょっと準備してくるからな。来週、外側の博麗神社で落ち合おう」

 来週なら丁度幻想郷に行く予定だった日だ。

「分かった。それじゃ、また一週間後に」

 楓は軽く手を振り、玄関から外へ出る。
 気がつけばスキマもおらず、完全に一人だ。

「兵どもが夢の跡……か」

 さて今日はこの後どうしようか、と暫く悩んでいたが、いきなり玄関のドアが開いた。

「すまん。着替えるのを忘れていた」












 そして一週間が過ぎた。
 僕はいつも通り、リュックにお菓子を詰め、電車を乗り継ぎ歩き、外の世界の博麗神社境内で楓を待っていた。
 10分経っただろうか、空に袴を着たポニテの女性がこっちに向かってくるのを見た。

「一週間ぶりだな、良也」
「この一週間どうしてたんだ?」

 僕は下ろしていたリュックを背負い問う。

「まあ不用品を売ったり、その売った金でいろいろ買ったりもしたな。そうそう、来週発売の欲しいラノベや漫画もリストアップした。これがそうだ」

 手渡されたのは一枚のメモ。そこに描かれたものの中に、僕も好きなものが入っている。

「はい、了解した。報酬は酒だからな?」
「分かっている。まあ、なるべく早く何か職につくよ」

 雑談をしながら僕と楓は結界に近づく。

「これが博麗大結界だな。まあ現の存在ではない私なら通れるだろう」
「それじゃあ行きますか、幻想郷に」

 そう言って僕は目を瞑る。思い浮かべるのは幻想郷の光景。霊夢に魔理沙、妖夢、東風谷、他にも多くの人妖たち。



 そして僕ら二人は――幻想郷に入った。













あとがき

駄文失礼しました、フィリです。
結構急ぎ足だったかな? 巨乳剣士シリーズ(笑)の第二話ということで書かせていただきました。

さて今回はオリキャラの柳場楓について軽く説明したいと思います。

楓は江戸時代の名もない農村生まれという設定。幼い頃に家族を盗賊に殺され、ある藩の有力な剣術指南役の武士に拾われたという過去を持ってます。
そして楓は拾ってもらった武士と一緒に長崎・出島へ出たとき、その能力(何の能力かは次回に)を使い、そこにあった魔道書を解読して魔法を使ってしまいました。
楓はもっと魔法を学ぶため、当時は死罪にも値する外国への留学を決意。
そして渡ったオランダからヨーロッパを巡って魔法使いとして大成するわけです。

ホントにどこかのラノベにいそうなキャラ設定でサーセンwww

まあそのあとになんやかんやありまして(神を倒したり、人造人間になったり、パチュリーと接触したり、紫とタイマン張ったり)、現在に至るわけです(笑)
詳しい説明は追々していこうかと。



さて、今回も久櫛縁には大きな感謝と、900万ヒットという快挙に祝福を。
これからも素晴らしい小説を期待しています!
そして、続き(があれば)を読んで頂ければ幸いです。



ちなみに今回ずっと楓は裸ワイシャツでいたりw



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