第弐章 黒白の魔法使いと風祝。ついでに魔法使いな蓬莱人



「ただいま〜」
「おかえり〜」
 弟の理斗に声を掛け、私は自分の部屋に入って私服に着替えた。それから机に向かい、本を読む。ここ最近の日課だ。
私は紫という偉い妖怪に魔理沙の名前を与えられたらしい。でも、名前だけで魔法は使えない。歴史に出てくる魔理沙はすっごい魔法使いだってのにな。
だからだろうか。魔法に対する憧れは強くて、魔法が使えないのにグリモワールを読む日々だ。
でも、そこらの古本屋で買えるものじゃ大したことは載ってないんだけどな。
 そういや、紅魔館の中には図書館があって、とんでもない数の蔵書があるって聞いたことがあるな。ん〜、いつかいつものように借りに行くか。
ん? いつも? なんでいつもなんだ? 私は行ったことなんて無いはずなのに……
「いや、いつも行ってたぜ」
「え?」
 声が聞こえる。誰だろうと思って振り返ったら……私? 私がいる……でも、着ているのはいかにも魔法使いといった感じのものだけど。
「だ、誰?」
「な〜に、私はお前さ」
 いや、わけわかんないんだけど。それに何が楽しくてそんなに笑ってるのさ?
「すぐにわかるさ。だって、その時が来たんだからな」
 そいつは笑いながら私に向かって飛んできて……それでそいつと私は重なり合って――
「あれ?」
 ふと、目を覚ます。いつの間にか眠ってたのか? それにしても変な夢を……なんだこれ?
私の中に私じゃないものがある? 知らないはずのことを知っている? これって、魔法の知識だ。でもなんで? 私が使えないはずの魔法の知識まである。
いや、使えるじゃないか。私は……そうだ。だんだん思い出してきたぞ。そうだ、私は……
「まったく、パチュリーやアリスも無茶な魔法を創ったもんだよな。ま、だからこそ私もこうしていられるわけだ」
 あっはっはと笑ってみる。て、笑ってる場合じゃなかった。私がこうしてるってことは、異変が起きるってことなんだしな。
それに良也も来ているはずだ。霊夢に抜け駆けされないようにしないとな。となれば――
「悪い。ちょっと出掛けてくるぜ」
「あ、姉ちゃん……って、なんで箒を持っていくのさ?」
 箒を持って外に出る。理斗に不思議そうな顔をされたが、魔法使いが箒を持つのは当たり前だろ?
「じゃ、行ってくるぜ〜」
「あ、姉ちゃんって、ええ!?」
 箒に乗って空へと舞い上がる。理斗がなんかうるさいけど。ま、いっか。さてと、良也。待ってろよ〜。



 家に帰り、巫女衣装に着替えた私は境内を掃いていた。ただ、この姿を霊夢と魔理沙が見たら、それが巫女服なの? って言われちゃったけど。
ま、確かに見た目は巫女服には見えないよね。でも、これは守矢神社に代々伝わる巫女服なのだからしょうがない。
 ふと、神社を見てみる。私が生まれ育った守矢神社。同時に神奈子様と諏訪子様が住まわれる場所でもある。
神奈子様と諏訪子様は私を良くしてくれた。早苗の名を与えてくれたのもお二方だった。そのことには凄く感謝している。
でも、時々疑問にも思った。なぜ、私に早苗の名を与えてくださったのか? どうして――
「それはあなたが私を受け継ぐ者だからです」
 声が聞こえ振り返ってみる。そこには私がいた。着ている物も一緒の私が……驚いた。驚いたけど、わかってしまった。この人は私なんだと。
「時が来ました。この幻想郷に再び異変が起きようとしています」
「そのためにあなたはこのような形で私に受け継がせるのですね?」
 その言葉にその方はうなずいた。この方はいつか起きるであろう異変の為に秘術を創り上げ、今こうして現れた。私に受け継がせるために――
そして、私達は重なり合い……気付けば、私の前には神奈子様と諏訪子様が立っていた。
「お久しぶりです。神奈子様、諏訪子様」
「久しぶり……ていうのも、なんかおかしなもんだけどさ」
「いいじゃんそんなの。こうして会えたんだしさ。私も嬉しいよ」
 神奈子様が苦笑する横で諏訪子様が喜んでいました。そう、私は戻ってきた。正確には少し違うのですけど。
でも、私がこうしているということは――
「起きるのですね。異変が……」
「わかっていたとはいえ、早苗には苦労を掛けるね」
「いえ、私達が動かなければならないのはわかっておりましたから」
 どこか悲しそうな顔をされる神奈子様にそう答えておいた。そう、私がこうしているということは、私達が動かなければならないという証拠。
決して神奈子様のせいじゃないから。
「じゃあ、行ってきます」
「うん。私達もあなたの両親に話してから向かうわね」
「はい、お願いいたしますね。諏訪子様。では、行ってまいります」
 お二方に頭を下げてから、私は空へと飛び上がる。向かうのは博麗神社。私がこうしているのなら、霊夢と魔理沙もいるだろうから。
だから、私も向かう。起こるであろう異変を解決するために――
 それと先生に再び会えることを密かに楽しみにしてますけど。



「粗茶ですが」
「あ、お構いなく」
「ただいま〜……って、あれ? お客様がいたの?」
 お母さんが良也さんの前にお茶を置いた時、詠奈が帰ってきた。最初は良也さんを見てたけど、なぜか私を見て怪訝な顔をしている。
私の顔になにか付いてるのかしら?
「お姉ちゃん……だよね?」
「それ以外の何に見えるっていうのよ?」
「いや、だって……なんか、こう……雰囲気が――」
「あ〜、確かに違和感感じるかもな」
 どうやら、詠奈には私が違って見えるらしい。良也さんもなぜかうなずいてるけど……ま、そうかもね。
私は今の霊夢であり、過去の霊夢でもある。今と過去……その2つが重なり合ってる状態だ。ま、そのせいで私も少し混乱が残ってるけど。
それで違和感が出てるんでしょうね。けど、今思うととんでもないこと考えたもんよね。自分達で選んだとはいえ。
「あ、えっと……それであなたは?」
「おっと、君にはまだ名乗ってなかったね。土樹 良也です」
「これはご丁寧に。私は……ツチキ リョウヤ?」
 あ、お母さんと同じ反応してる。しっかし、良也さんも有名人になったもんよねぇ。いや、前々からそんなもんだったけどさ。
「え? え? ええぇ? マジで!?」
「一応、本物よ」
「一応って……」
「あの……良也さん……と霊夢はどんな関係なのですか?」
 驚いてる詠奈にそう言っておくんだけど、なぜか良也さんがツッコミを入れてきた。なによ? 事実は事実でしょうが?
そんなことを考えたら、お母さんが気になったようでそんなことを聞いてくる。私と良也さんの関係。といったら一言なのよね。
「夫婦よ」
「待て。その言い方は色々と誤解を生むぞ」
 そのまま答えるんだけど、良也さんが文句を言ってきた。なによ、本当じゃない。今じゃなく、過去の話だけどさ。
「ちょ、ちょっと! それってどういうことよぉぉぉぉぉぉ!!?」
「ま、待ってくれ! ちゃんと話すから落ち着いてください! お願いしますからぁぁぁぁぁ!!」
 お〜、詠奈が怒り出して良也さんの襟首つかんでぶんぶん振ってるわ。詠奈のあの表情見たの初めてかも。
「お前だけのってわけじゃないだろ?」
「あら? 嘘は言ってないわよ?」
「でも、全てを話してるわけでもありませんよね?」
 聞こえてきた声に答えてやると別な声からツッコミが入ってくる。顔を向ければ箒にまたがった魔理沙と早苗が空から下りて来る所。
やれやれ、2人が来る前に色々と話したかったのに。
「え? あ、魔理沙さんに早苗さん、こにち……って、飛んでるぅぅぅぅぅ!!?」
 あ、詠奈が驚いてる。そういや、2人は元々は飛べなかったしね。それはそれとして、いい加減離さないとと良也さん死ぬわよ。死ねないけど。
「2人とも、遅いわよ?」
「そういうなよ。これでもすっ飛んできたんだからな」
「そうですよ」
 魔理沙と早苗が不満そうな顔をしてるけど、すぐに笑顔を向けてくれる。私もお返しに笑顔を見せてやった。
久しぶりの再会……ていうのは、おかしいけど。感じとしてはそんなもんだ。
「え? なに……何が起きてる?」
「あ、あの……そろそろ離してくれると……うれし……い……」
 詠奈が呆然としてる目の前で良也さんが落ちた。いや、あれは死んでるかも。
「どうやら、揃ったようね」
 声が聞こえたんでみんなでそっちに顔を向けると、そこには紫に守矢神社の二柱がいた。役者が揃ったって所かしら?
「紫様!? それに神奈子様に諏訪子様まで!? なぜこのような所に」
「なぜって? 用事があるからに決まってるじゃない。ねぇ、霊夢?」
「ま、そうよね。私達にあんたらも来たってことは、そういうことなんだし」
 お母さんが驚いてるけど、紫が言うに揃ったというのはそういうことだ。でなければ紫は来ないでしょうし、私達もこうしてここにいないしね。
「ち、ちょっと霊夢! 紫様達になんて口を――」
「いいのよ。私と霊夢との仲なんだしね」
 お母さんがなんか戸惑ってるけど、紫は気にして無いといった様子。でも、頼むからその胡散臭い笑みはやめろ。
「あ、あの……なにがどうなってるの?」
 詠奈、戸惑ってるわね〜。あ、良也さんを落とした。すっごい鈍い音したけど、反応が無い所見ると死んでたわね、やっぱり。
「そうね……あなた達にも知ってもらわなきゃならないわ。200年前になにがあったのかを」
 扇子の先を口元に当てながら、紫はそんなことを言い出した。なぜ、私達がここに集まったのか?
それは全て200年前に起きた『博麗大異変』が全ての始まりだったんだから――



 キャラクター紹介
 霧雨 魔理沙
霊夢と同じく上白沢学校に通う中学生。魔理沙の名前は紫から与えられたものの本人は魔法は使えない。
しかし、歴史に出てくる魔理沙を尊敬しており、憧れからかグリモワールを読みふける日々が続く。
今回のことで急に魔法を使えるようになったのだが――
父、由蔵。母、美玖。弟、理斗の4人家族。

 東風谷 早苗
霊夢と同じ上白沢学校に通う中学生にして守矢神社の巫女。早苗の名は守矢神社の二柱によって与えられた。
特別な力は無いものの、神奈子と諏訪子が自分に色々としてくれるので尊敬している。
魔理沙と同様に何かしらの力を得たようだが――



 あとがき
というわけで、2話目はいかがだったでしょうか? 進みはグダグダですが^^;
次回は『博麗大異変』のお話です。200年前に何が起きたのか? それが明かされます。
それによって明かされる霊夢達の異変。ついでに良也との夫婦宣言の意味も明かされる。
というわけで、次回をお楽しみに〜……してくれますよね?(おい)

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