それは、ある日の昼下がりのこと。
 僕はいつものようにパチュリーにちくちくいぢめられながら勉強をして、いつものように紅魔館のお茶会に参加していた。

「ねぇ良也?聞きたいことがあるのだけれど」

 そう言ってレミリアは僕に話を振ってきた。

「なんだ?血の話なら聞きたくないぞ」

 ここに来ると二回に一回はレミリアとフランに血を吸われ、外に帰る頃にはいつもフラフラ。
たまに顔をあわせる田中と高橋には“いろいろ”な心配(嫉妬?)をされて困るのだ。

「違うわよ。それに、あなたに聞く気は無くても聞いてもらうからムダね」

 すました顔でカップを傾けるお嬢様は僕の意思をあっさりとスルーする。……わかってたけどね。

「それで聞きたいことっていうのは?」

「あなた、外の世界ではどうするつもりなの?」

 ??? よくわからん。

「どうするって、フツーにしばらくは大学生やるつもりだけど」

 大学を卒業した後のことはわからないけど、教師なんていいかなーと思ってたり。

「違うわ、良也。 レミィが言いたいのは年を取らなくなったからどうするのかってこと」

 紅茶を飲み飲み本をパラパラしていた我が師匠からの指摘。わからなかったの、と呆れた目線を送ってくるお嬢様。
あれっぽっちのセリフにそこまでの意味があったとは驚きである。

「あー、それだったら平気。永琳さんからもらった薬?があるから」

「なぜそこで疑問形が浮かんでくるのか気になるけれど。どんな風に平気なの?」

 こちらに目線すらくれずに聞いてくるパチュリー。 

「なんか飲むと年取ったように見せる薬を貰ったんだ。まだ確かめてないからわかんないけど」 

「へぇ、幻覚作用があるのかしら。でも効果は外部に働きかけているわけだし……」

 ぶつぶつ呟きながら自分の世界へと埋没していくパチュリーとは裏腹に、目を輝かせて僕を見つめてくるレミリア。
なんでだろう、嫌な予感しかしない。

「あとはそれを回避する術を身につけることね」

「僕の心読むなよ!ってか前にも似たようなこと言われたような」

 楽しそうに微笑んでるだけなのになー、レミリア。
背筋になんかクるものがあるっていうか。

「今度ウチに来る時にその薬をもってきなさい」

「お前、いったい何に使う――――」

 部屋の外から何やら激しいもの音とともに扉を豪快に開け放ち、僕の懐に飛び込んできたのは、

「良也ー!絵本読んでー!」

「うぉう?!」

 絵本を手に持ち満面の笑みを浮かべたフランだった。

「うぐぐ。フ、フラン。いま僕はレミリアと大事な話を……」

「だめー!お姉さまとばっかりずるいー!」

 完全だだっ子になってしまったフランをこのままにしておくのは危険だ、主に僕が。

 どうやって宥めようかと頭を捻っていると、レミリアが颯爽と咲夜さんを伴って部屋を出ていく。
あれ、咲夜さんさっきまでいなかったのに。 本当にこの人は謎すぎると思う。

「それじゃあ良也、頼んだわよ。もし忘れたりしたら……」

「わ、忘れたらなんだよ?」

 口の端を僅かに持ち上げて薄っすらと笑みを浮かべ、

「残念ね」

「何が残念なんだ?!」

 それだけ言い残してレミリアは去って行った。


























 フランに絵本を読み終えた後に気付いたけど、いつの間にかパチュリーがいなくなっていた。
そんなだから影が薄いって言われるんだぞ。






























「……はぁ。気が重い、なぁ」
 
 太陽が真上に昇る少し前、紅魔館へ向かって飛びながら先日のことを思い出していた。
荷物になるからお菓子は人里で売り払って、背負ったリュックには件の薬とお土産のチョコレート。

 紅魔館に近づくにつれ、嫌な感じがどんどん強くなっていく。
ロクな目に合わないことは分かっているのに、身体は自然とそっちへ向かってしまう。
……何故だろう。僕はマゾい趣味は持っていないと自負していたはずなのに。

……普段から霊夢や魔理沙にいいようにされているのは、そーいう趣味だからではなく!

「あれは年長者として、年下の者の面倒をみるという―――」

 自分で自分を弁護するという情けない事をしながら飛ぶことしばし。
ちょうどお昼になったあたりで紅魔館に着いた。……着いてしまった。


 さて、美鈴はっと。さすがにこんな時間で居眠りは……?
居眠りは……。
……。




 あえて遠まわしに言うなら、咲夜さんに見つかってはいけない姿の美鈴がいた。




 気持ち良さそうに眠っているし、起こすのかわいそうだし。そっとしておこう、うん。
……決してさっきまでは無かったはずの気配を感じてビビったわけじゃないからな!




「いらっしゃいませ、良也様。手荷物をお持ちいたします」

「いや、これくらいは自分で持つよ。それよりレミリアは?」

 いつも通り咲夜さんの出迎えを受けて、いつも通りの言葉のやりとり。
……たまには咲夜さんに持ってもらおうかな。んで荷物の中にプレゼントを仕込んでみたり。


 やめやめ。キザすぎて僕には無理だ。どうせレミリアやパチュリーに笑われるのがオチだろうし。
それに何をプレゼントすればいいのかもわからないし。
……ヘタレとか言うな。


「お嬢様でしたら今は……」

「待っていたわよ、良也。」

 声のした方に顔を向けてみれば、階段の踊り場で待ち構えるレミリアの姿があった。
ここにきて僕の背筋に走る危険信号はクライマックス。
……逃げてもきっと、回り込まれるから無駄なんだろうな。


「それで、ちゃんと持ってきたわよね?」

 妙に念押ししてくるが、あの薬のどこがレミリアの琴線に触れたのかイマイチわからない。
忘れると怖いから前日の準備段階でリュックに入れてきているあたり、僕のチキンぶりがうかがえる。


「ほら、これがそうだ。」

 ほい、とレミリアに瓶を渡す。

「青い方が一年分加齢して、赤い方が若返るんだって」

 僕の説明を聞いているのかいないのか。なんかもう試したい!と羽根をバタつかせ全身でアピールしているレミリア。
この辺フランとあまり変わらないので、やはり姉妹なんだなぁと思う。

「じゃあ、良也。いつもの部屋で待ってなさい。咲夜」
「はい、お嬢様」

 そしてレミリアと咲夜さんの姿が見えなくなって。
気がつけば、紅魔館のロビーに放置されていた僕。
……一応お客さんだよね、僕?































 いつもみんなでお茶会をしている部屋で何をするでもなくぼけーっと待つことちょっと。
お手製の魔道書でも読んで復習を、と思っていると部屋の外から声が。

「待たせたわね」

 ……? レミリアの声のはずなのになんか違和感を感じる。
なんだろう、いつもよりも落ち着いた感じというか。

「失礼いたします、お嬢様」

 咲夜さんが扉を開くと、そこにいたのは……

「………………れ、み、りあ?」

 僕と同じか、ちょっと下くらいの見た目になったレミリアがいた。

「え、あ、お、おお?」

「ふふ。どうしたの、良也?」

 僕は何も言えない体たらくだった。なんつーのかヤバい。
とにかくヤバい。輝夜とは別ベクトルで美人すぎる。

 肩口にかかる程度だった綺麗な水色の髪は背中の中ほどまで伸びていて、
背の高さは僕の目の位置に頭のてっぺんがくるくらい。
スタイルの方は言わずもがな、さすが外国人というべきか。

 とにかく、凄まじいレベルの美人さんにレミリアはなっていた。

 そして顔が近かった。ちょ、近い近いって!
思わず体をおもいっきり仰け反らせたものだから椅子ごと転倒する僕。
大人っぽくなった美貌を歪めて子供みたいに腹を抱えて笑うレミリア。
そして冷静にレミリアの横でいつもどおりに仕えている咲夜さん。
……どこのカオスだ、いったい。















「……レミリアがやりたかったのはコレか」

「さぁ? どうかしらね」

 ひとしきり笑って治まったのか優雅に椅子に腰かけ、咲夜さんの淹れた紅茶を嗜むレミリア。
絵になりすぎていて直視できない。 あと近いのも困る。
いつもなら僕の向かいに座っているのに、今日に限って僕の隣に座っている。
咲夜さんがいないからって、ちょっと羽目を外しすぎな気がする。


 ……なんか、居心地が悪い。
たまに横目でチラ見すると、レミリアもこっちを流し目で見るものだからすぐに目をそらしてしまう。
おかげで挙動不審だ。そして、そんな僕を見てレミリアは忍び笑いを漏らしている。

 ……なんか、すんごく居心地が悪い。
具体的に言うと、東風谷の前で森近さんにギャルげーの話を持ち出された時よりも。



「あぁもう、なんなんだよっ。なんでレミリアはそんなことになってるんだよっ!」

「あら、察しが悪いわね。あなたの薬を飲んだからに決まってるじゃない」

 わかってるよ、そんなコトっ。でも言わずにはいられなかったんだっ。

「まさか、僕をからかうためにこんなコトしたわけじゃないよな?」

 まさかレミリアが僕をからかうためだけにこんなコトをするとは思えないけど……

「そうよ」

 って、おーいっ!

「冗談よ。まぁ、半分くらい、といったところかしら」

 カチャリ、とカップを皿に戻したレミリアは、少しうつむいていた。

「良也。 私は、なに?」

「なにって、吸血鬼だろ?」

「そう、私は吸血鬼。 永遠に幼い赤き月」

 そう呟いたレミリアを見て、僕は閃くものを感じた。

「レミリア、お前……」

「今度は察しがいいのね。 あなたのそういうトコロ、嫌いじゃないわよ?」

 力なく微笑んでいるレミリアは、いつもの姿よりも大人びているのに、迷子になった子供のように見えた。

 もうあなたは違うけれど、と前置きして

「人間は成長するわ。それはある一点を超えれば老いと言われるようになってしまうけれど。けれど私は、私たちは永遠にこのまま」

 レミリアは自分の両の手のひらをじっと見つめて

「人間なんて私たちからすれば儚い生き物よ。だって、ただ生きているだけで死んでしまうんだもの」

 妖怪はみんな、人間とはくらべものにならないくらいの寿命の者が大半だ。
レミリアのような所謂、大妖怪などに分類されるような者たちは生き続ける限り、生きていられる。
 けれど人間は、生きていてもいつか必ず死ぬ。 逃れようのない現実だ。

「だから、最近たまに思ってしまうの。もし私が人間だったらどうなっていただろう、って」

 霊夢や魔理沙に会ったのがきっかけかもしれないけれど、もしかしたらあなたが原因かもね
そう言って微笑むレミリアは、けれど泣きそうな声で

「もしわたしが、あなたくらいの年齢になったら、なんて軽い気持ちで薬を飲んだけれど。思っていたよりもずっと辛いわね」

 ありうるはずのない未来を見せられたみたいで、泣いてしまいそう

そしてレミリアは両手で顔を覆ってしまった。











 僕のキャラじゃないとは思うけど、

「ほら、隠さなくてもいいから。僕の肩でよかったら使ってくれ」

僕はヘタレかもしれないけれど、目の前で泣いてる女の子を放っておくほど落ちちゃいない。
胸は、ちよっと抵抗あるからダメだけど肩ぐらいなら貸してあげられる。 


 レミリアをあやすように僕が背中をさすってやると、顔を覆っていた手で僕の顔を優しく挟んだ。
あ、なんかちょっとヤバい。 雰囲気的になんかアレな感じで非っ常によろしくない!

 「レ、レミリア? あの、ちょっと落ち着いて。な?あの、ほらこういうのは……」

 とテンパっている僕をよそにレミリアの顔が近付いてくる。
近い近い近い! さっきと同じような距離だけど顔がヤバい!
美少女の泣き顔が危険なものだっていうのは知ってたけどっ!
こんなかたちで、しかもリアルに体験するのはちょっと勘弁してほしい!

 そしてもうちょっとでぶつかる(何がとは聞くな)―――って時に、レミリアの目が変わった。
なんというのか、それは見覚えのある目だった。



……有り体に言うのであれば、そう。 例えば僕の血を吸う時に見せるような捕食者の目だった。



「ふふふ。 甘いわね、良也。こんな簡単に引っ掛かるとは思わなかったわ」

 ニヤリとした笑みを浮かべるのは、やっぱりいつものレミリアだった。というか、だ。

「だ、騙したな!僕の純情を弄んだな?!」

「あら、私はただ、あなたがこういった状況で相手にどんな事をするかのテストをしただけよ?」

 じたばた暴れながらレミリアを引き剥がそうとするが、まったくビクともしない。

「もう少し強引にしても大丈夫だとは思うけれど。たとえば妖怪の山の巫女になんてどうかしら?」

 なんかアドバイス的なことを言ってるが、遠まわしにいつぞやの血の味のことを指しているのは間違いない。

「だぁーっ! もう、離れろーっ!

「だぁめ。 この前はいただけなかったもの。 今日はたっぷり飲ませてもらうから、覚悟するのね」

 耳に息を吹きかけながら、いつもより艶のある声で囁いてくるレミリア。
……不覚ながら、グっとくるものがあったのが我ながら情けない。

「上手にシテあげるから。ほら、おとなしくなさい」

「ぅうっ。や、やめろって……」

 まるで消毒するみたいに僕の首筋にレミリアは舌を何度も這わせると

「気持ち良くしてあげる」

そして、僕はわずかな痛みと何とも言えない恍惚感を感じて意識を失ったのだった。























































「……………………ありがとう。良也」

気を失う寸前に聞こえた声と、頬に感じた感触はなんだったんだろう……?




















あとがき
 
 はじめまして、ダイソンと言います。SSを発表するのは初めてなので、誤字脱字に文法の間違った使い方もあると思いますので、
そういった御指摘・ご批判はいつもおまちしております。

さて、この作品のコンセプトは「ロリがだめなら、ロリじゃなくせばいいじゃない」です。
我らが良也クンは良くも悪くも常識人です。非常識な体ですが。
なので見た目:ロリじゃなくせば万事オッケー! みたいな、頭の悪い思いつきから筆は動き出したのです。

 次にメインを張るのは一体だれになるんでしょうか? 皆さんのご意見もお待ちしております。

―――私、ロリコンじゃないはずなんだけどなぁ―――



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