(注:この作品は、小説家になろうで活動しているcrow(ID:116025)本人がこちらの管理人に依頼して投稿させていただいたものであり、無断転載ではありません) 人生は山あり谷ありと言うけれど、全くその通りだ。というか山と谷しか存在しなかった。小さい頃は虐待されて育ち、高校ではいわゆるボッチだった。その高校は志望校を落ちて、二次募集で入った学校。そこでなんとか勉強して看護学校に進学。辛い実習と国家試験を乗り越えて晴れて看護師になったと思ったら、今度は他人のミスを押し付けられて人殺しに仕立て上げられた。後でそれは誤解と判明したものの、誤逮捕で丸一年をブタ箱で過ごした。そのせいで仲良くなっていた彼女にも逃げられた。 「ついてないよなぁ…」 一応そのあとは警察を訴えて結構な額の慰謝料をもらったが、それも後述の理由で消し飛んだ。どこの病院に就職を希望しても名前を書くだけで落される。年金もそれほど積み立てれてないので、老後は厳しい物になるだろう。 いっそのこと看護師の体力を活かして転職すべきかとも考えたが、病院と同じく評判が下がると言われて落されるのがオチだろう。 ついでにこんな私を囲ってくれた祖父も治療の甲斐もなく去年肺癌で逝去してしまった。高い金を払って祖父を任せたというのに、そこらに転移して手遅れと。なんとも、悲しい事だ。保険金は碌でなしの父親の元に。家は治療費をチャラにする代わりに買い取ってやったが、築百余年の田舎の家は一人とペットで過ごすには広すぎる。 妹に結婚祝いとしてくれてやろう。ペットの世話も、きっと美味くやってくれるだろう。 「よし、決めた」 そうと決まれば話は早い。とりあえず妹に「かねてからの夢であった、世界遺産巡りをしてくる。まずは国内から」とメールを送り、家と口座の金は全て妹に託す。ただし親父にはびた一文渡さず、敷居も踏ませるな、と一通りの書類を書き終えてからはした金と最低限の旅行用グッズを持って玄関を出る。と、そこは竹林だった。 「あれ?」 左右を見渡すが、その左右も濃密な竹林。 「…え?」 後ろを見れば、見慣れた我が家。えっと、私の家の前は確か県道だったはず。その向こうには水田が並んで、さらにその向こうに川が。 間違っても竹林なんかなかった。世界遺産巡りに行こうと思ってたのに、どうして竹林旅行なんかに? とりあえず妹に目的変更の知らせを入れなければ。 今時はやりのスマートホン。ではなく、間違えて世界遺産旅行用に購入したイリジウム衛星携帯電話を取り出してしまった。衛星携帯電話をポケットに戻し、今度はちゃんとスマートホンを取り出す。 「圏外……」 まあ、圏外なら圏外でもいい。それならばこのイリジウム携帯の出番…… 「使えない…だと?」 そんな馬鹿な事があってたまるか。『たとえエベレストの頂点でも使えます』と言われて買ったのに、エベレストでなくこんな竹林でダウンだと? そんなものか! 所詮は売り文句か!! 「くそ、騙された!」 仕方ない。仕方ないから家に戻ろう。私の人生、本当に躓いてばかりだ。不幸の星の下に生まれたとしか思えない。 躓き人生に、家ごと幻想入りが追加されました。 (第一話、了) 第二話 さて、どうしようか。今まで不幸続きだったとは言え、さすがに見知らぬ場所に家ごと拉致された。あるいは転移? するなんて事態に遭遇したことなんてなかった。私か某ラノベの主人公くらい不幸に慣れていないと発狂するんじゃないか。 「ついてないな」 しかし、家があるのはまさに不幸中の幸いか。家がどうしてここにあるのかはわからないが、考えても仕方のないことだ。それにしても腹が減った。 「…飯の準備でもするか」 夢なら腹も減らないだろうし、これは夢ではないということだろう。腹が減っては戦は出来ぬとも言うし、とりあえず腹ごしらえをしてからどうするかを考えるとしよう。つい昨日買い物してきたし、レトルトカレーでも食べよう。 と、レトルトカレーを温めようと思った矢先、ここで重要な問題が一つ出てきた。 電子レンジに冷凍ご飯を入れて温めようとしたら、電気がつかない。電化製品によってサバイバル能力を削り取られた現代人にとってなんと辛いことか。 仕方ないので蒸して解凍することにする。 が、今度は水が出ない。コンロはガスがあるからまだしばらくは大丈夫だろうが、水が出ないのは困る。食事は一週間なくても死なないが、水は三日飲まなければ死んでしまう。 ならば探しに行かねばなるまい。水を求めて放浪する。これが世紀末というやつか。 「いや、違うだろ」 世紀末なら核戦争で世界が全て荒地に変わってないとだめだ。そしてモヒカンがバイクに乗って火炎放射器で汚い爺さんを消毒して、数少ない汚染されていない綺麗な水を求めて殺しあっていなければならない。こんなのは少々キツイだけの現代生活であり、少し工夫すればどうにでもなる。大昔の人間はこういう生活をしていたのだから、私にできないはずがない。 「こんなの、かつての災害の時に比べればなんでもないさ」 過去の天災のことを思い出し、断水断線電気無しのときどうしたていたかを考える。幸いガスならある。さっきコンロが点くかどうか確かめた。除草用のバーナー(火炎放射器)のガスもある。今心配すべきことは少ない。 あのときは川の水をバケツにくんで、布で簡単にろ過して、加熱殺菌してから飲んでた。今回も同じ方法でいこう。周りは竹林だし、川はなくとも地下には水があるのだろう。今後この竹林に住むことになることを考えれば、井戸を掘り水を得ることも視野に入れておくか。しかしまずはいたずらに労力を消費するよりも湧き水を探すべきだ。とりあえず家の周囲を探し、なければ竹林の中へ繰りだそう。 「で、運良くありましたと」 家の周りを一周したら、なんとまあ都合のいいことに台所の裏口を出たところに、澄んだ湧き水がありましたとさ。これなら井戸を掘らなくてもよさそうな。それに、今の時期ならタケノコも生えてるだろう。とりあえず今日は家の中に何があって何が無いかを確認して、後日家を中心に歩きまわって人が居ないか探しに出よう。 第二話、終了。 |
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