幻想郷の人里から離れた魔法の森。
 その森のすぐ近くにある古道具屋の『香霖堂』。
 スイスイと一緒に入るとそこに先客がいた。

「こーりん、珍しい客が来たぜ」

 魔理沙ことマリマリである。
 あの様子からしてここの常連らしい。

「んっ……おや、そちらの彼は? 見たところ人間のようだが?」

 あちらのお兄さんが土樹の言ってた森近霖之助さんかな?
 とりあえず、初対面にはいつも通りの挨拶が必要だ。

「初めまして、鬼心と言います。見ての通りの人間です」
「僕は森近霖之助。この香霖堂の店主をやっている。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。コリコリさん」
「むっ、それは僕のことかい?」
「さっきマリマリがこーりんって呼んでいたからコリコリで」
「そんな肩が凝ってるようなあだ名をつけられてもね。まぁ〜、君の好きなように呼んでもらって構わないが」
「あっ、土樹から紹介状をもらってます。どうぞ」

 土樹の書いた紹介状をコリコリさんが目を通す。
 あー、マリマリ。商品でお手玉遊びはやめたほうがいいぞ。
 ま、それで壊してもオレのせいじゃないから放っておこう。

「なるほど、自衛のためのマジックアイテムね。何か希望はあるかい?」
「希望といいますと?」
「武器で考えるならば、剣・斧・杖・槍などがあるよ」

 剣という言葉を聞いてみょんのことを思い出す。
 自分に合う武器を持って手合わせをするという約束をした。
 あの時はああ言ったけど、武器はどうも苦手なんだよな。

「うむむっ」
「君は、魔理沙と同じく無属性タイプの魔法使いらしいね。
 それなら、霊力の消費を抑えるマジックアイテムがいいと思うよ」
「へぇー、私と同じ属性なのか。そいつは初耳だぜ」

 とりあえず、武器は後回しにしてマジックアイテムを優先に考えよう。
 それだったらイメージとして持っているものがあるし。
 オレなりの要望をコリコリさんに伝えていくと……。

「そういうことなら僕が作ってあげるよ」
「いいんですか?」
「ああ、少し時間がかかる。それまで適当に店内を見て回るといい」
「ありがとうございます」

 コリコリさんが店の奥へと消えた。
 するとスイスイが人懐っこくオレの背中に乗ってくる。

「鬼心、これで少しは強くなれるといいね」
「なんだ、随分と鬼心に期待してるんだな」
「こいつは私に一撃をぶち当てた人間だよ。そりゃあ期待もするさ」
「スイスイ、あれはまぐれだって何度も言ってるじゃん」

 紅魔館に滞在していた頃。
 スペルカードの移動方陣でワープミスをしてスイスイの頭を踏んでしまった。
 あんなハプニングを一撃としてカウントされても素直に喜べない。
 その結果、3発を目標に当てろって約束を交わす羽目になったし。
 今でもスイスイとの実力差は明らかだというのに。

「マリマリはこの店によく来るの?」
「ああ、こーりんとは昔からの馴染みだからな」

 なるほど、コリコリさんはマリマリのお兄さんみたいなものか。
 あのコリコリさんは信用できる。
 危険を伴う相手じゃないことも能力で察知しているし。

「ところで鬼心、こーりんに何を頼んだんだ?」
「すぐにわかるよ。そんな大したものでもない」

 オレは基本的に道具に頼るようなことはしない主義だ。
 肉体のみで殴り合う接近戦が理想的。
 だけど、そうも言ってられないのがこの幻想郷の現状。
 トーピングスペルカードみたいに多少の妥協が必要となる。

「鬼心君、お待たせ」
「あ、どうも。スイスイちょっと離れて」
「はいよ」

 オレの手元にあるマジックアイテム。
 それは黒一色のデザインをした指なしの皮手袋だ。
 早速、両手にはめて試してみよう。

「動符『移動方陣』!!」

 霊力の消耗が激しい魔法を使ってみる。
 おぉー、かなり消費量が抑えられているのがわかるぞ。
 でも……。

「コリコリさん、重くない?」
「まぁ、君ぐらいの子なら大丈夫だよ」

 コリコリさんの後ろ首を跨ぐ感じでワープしてしまった。
 いわゆる肩車である。
 うむむ、ちゃんと術式を修正したと思ったのにな。
 まぁ、多少の誤差は仕方がないか。

「こーりん、あの手袋がマジックアイテムか?」
「そうだよ。デザインは彼の要望通りにしたけどね。霊力の消耗を最小限に抑えるマジックアイテムさ」
「抑えるだけか? 私の八卦炉みたいに火力アップはしないのか?」
「ああ、あくまでも霊力の消費を抑えるだけだよ。それ以外の用途はない」
「もっとサービスすればいいだろ」
「彼は自分の力にこだわっているからね。そういうことは望まないのさ。さて、鬼心君」
「なんですか?」
「そろそろどいてもらえると助かるのだが……」
「あ、ごめんなさい」

 肩車が心地よかったのでそのままだった。
 さて、次は武器についてだ。
 うーん、せめて持ち運びができるものであるといいが。

「じゃあ、私はそろそろ帰るぜ」
「マリマリ、さようなら」

 マリマリが立ち去るのを見送ってオレは武器コーナーを見る。
 どれもこれも持ち運びに不便さを感じるものばかりだな。
 隠し武器もあるみたいだけど、こういうのは性に合わないし。

「んっ? これはなんだろう?」
「なにか見つけたのかい?」
「これ、なんですか?」

 剣の柄だけのものが置かれている。
 それをコリコリさんに見せて説明を求めた。

「ああ、それは『創造の柄』と呼ばれているアイテムだよ。
 持ち主の力を吸い取ってイメージに合う得物に変化するんだ」
「ちょっと試してもいいですか?」
「いいけど、店内のものを壊さないようにね」
「わかってます」

 オレは店を出て外で試すことにした。
 まずは柄を握り締めて、剣をイメージしてみる。
 柄に霊力を吸い取られていくような脱力感があった。
 その直後、電撃を帯びたかのような剣が出てくる。

「この手袋のおかげで、思ったより消耗が少ない」

 今度は鞭をイメージしてみる。
 剣から長めの鞭に変形していくのを確認した。

「おぉー!! すげぇー!!」

 自在に変化する道具に感動してしまう。
 使うたびに霊力を消費するけどメッチャ楽しいぞ。

「よし!! 長い長い棒になれぇ〜!!」

 周りを見ずに長い棒にした次の瞬間。

「がっ!!」

 台車を引く土樹の顔面に命中。
 彼はそのままバタンと倒れてしまった。

「……ふぅー、相手が土樹でよかった」
「よくないよ!! 危ないじゃないか!!」
「わ、悪かったよ。ほらっ、手を貸すから許せ」
「まぁ、これぐらいのことは日常茶飯事だから気にしないけどさ」

 倒れた土樹の手を引っ張って起こしてやった。
 土樹はコリコリさんの店に用があるらしい。
 
「いらっしゃい、良也君。なにか珍しいものはあったかい?」
「まぁ、一通り集めてみましたよ。でも、無縁塚まで使いに出すのは勘弁してほしいです」
「いやぁー、君ならやってくれると信じていたよ。
 今度、お礼としてアリス君に1/1早苗たん人形を作らせて君にあげよう」
「いりません!! 僕の教え子の人形なんか作らないで下さい!!」
「僕は『萌え』の探求をまだ続けていてね」
「もうやめたほうがいいと思いますよ」

 なんかよくわからない話をしている二人。
 話題に入れないので、スイスイの相手をしようと思ったが。

「スイスイがいない?」

 またどこかに消えてしまったのか。
 紅魔館の時もそうだったな。
 どこかに行くなら一言ぐらい声を掛けてほしいものだ。

「ところで鬼心君にマジックアイテムは?」
「ああ、さっき渡したところだよ。鬼心君、その武器は気に入ったのかい?」
「はい、この手袋と一緒ならそれなりに消耗を抑えて使えるから良いですよ。
 持ち運びにも便利ですし、こういうアイテムがあるなんて知りませんでした」
「あははっ、そんなに喜んでもらえると僕も嬉しくなってしまうね」
「良かったね鬼心君。あ、そうだ森近さん」
「なんだい?」
「幻想郷の地図を呼び出すアイテムとかってありません?」
「それなら、これなんてどうだい?」
「ただの黒い布きれにしか見えないけど?」

 うん、オレも長い布にしか見えないな。

「これを頭に巻くとね、いつでも地図を思い浮かべることができるんだ。
 現在地とか、次に行きたい場所とかがわかるようになっている」
「それは便利ですね。鬼心君、これも持っていくといい」
「いいのか? オレはお金がないのに」
「ああ、そのことなら心配いらないよ。彼が――」
「森近さん、それは言わない約束でしょう」
「おっと、そうだったね」

 やっぱり、土樹が立て替えていたのか。
 まぁ、地図だって生き残るためには必要なものだ。
 特に森とかで迷った時なんかは重要なアイテムとなる。

「土樹、この借りはいずれ返す」
「気にしなくてもいいのに。まぁ、機会があったらね」

 霊力の消耗を抑える『指なしの黒い皮手袋』。
 地図を思い浮かべることができる『黒いハチマキ』
 得物を自由自在に変化できる『創造の柄』。
 いずれも大切に使っていくことになるだろう。

「鬼心君、次の行き先とかは決めてるの?」
「いいや、スイスイの行く所をついていくだけだから」
「それじゃあ、永遠亭はまだ行ってない?」
「永遠亭って?」
「旅館のような診療所だよ。今後のためにも一度行ったほうがいい」
「たしかにオレみたいな人間には医者が必要だな」

 餞別にもらった傷薬も残り少なくなってきたし。
 怪我の治療で医者を頼ることになるだろうと予想がつく。

「そういえば、萃香は? 一緒じゃないの?」
「また勝手にどこかに消えたんだよ。どうせ酒目当て……コリコリさんの酒が危ない!!」
「ぷはっー、掘り出し物の酒は珍味でいいねぇ」
「スイスイ、いつの間に!? あーもう手遅れか!!」

 無断で酒を飲むなんてやってはいけないことだよ。
 オレはスイスイに代わってコリコリさんに謝罪する。
 コリコリさんが苦笑しながら許してくれた。

「萃香、あまり鬼心君に迷惑かけるなよ」
「良也も一杯どうだい?」
「もらおうか」

 切り替えはやっ!! もっと説教しろよ!!

「やれやれ、君も大変だね」
「コリコリさんもマリマリの相手で大変では?」
「もう慣れたよ。いつものことだしね」
「オレは……あまり慣れたくないな」
「嫌でも慣れさせられると思うよ」

 つーかあんたら、店内で飲むな!!
 他にお客さんがいないからまだマシだけど。
 とにかく、次の行き先は永遠亭で決まりだ。



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