それはとある休日、爺ちゃんの家に行った時のことだった。
「……でね、最近は魔法を使うためのスペルカードを作ってる」
 爺ちゃんに幻想郷の話をしてから数か月に一回のペースでこうしてあちらでの生活を相談にきていた。もっとも相談とはいっても雑談ばかりで深刻なものなど何一つない。
「スペルカード?」
「うん、こういうのだけど」
 そういってポケットの中からいつも持ち歩いている数枚のスペルカードを取り出す。
「霊気なんかをため込んだり、特定の術を込めたりするんだけど」
「おお、なんか昔そのようなものを妖怪が使っていた気がするのう。
 しかし、気がためられるとな」
 爺ちゃんはそう言って何かを考え始めた。
「良也」
「なに?」
「それ、わしでも作れるかの?」
「たぶん、できるとは思うけど……」
 爺ちゃんだって昔は気弾なんてものが撃てたんだし、できないことはないだろう。それに微弱だけど霊力が爺ちゃんの中にあるのが分かる。幻想卿の連中に比べたら雀の涙だけど、一般人に比べたらはるかに多い。
「でも、なんでまた」
「そうさのう。あえていうなら武人としても意地かの」
「意地?」
「ああ、良也に話した通り、わしも昔は気弾を使えた。その力を使い問題ごとを解決したものじゃ。
 しかし、いつからかの、日に日に一日に使える気弾の量は減り、威力も弱くなり、しまいには撃てなくなってしまった。
 自らの身につけた技を失う喪失感は武人として耐えがたいものじゃった」
 だからその力を取り戻したいのだと爺ちゃんはいう。
 自分には武人としての短たるかなんてものはわからないが、爺ちゃんの無念さだけはよく伝わってきた。ここは孫として一肌脱がねばいけないだろう。
「うん、爺ちゃん。まかせてよ」
 後に僕はこのことを少しだけ後悔することになる。



 数ヵ月後のある日。僕は再び爺ちゃんの家に来ていた。縁側に二人並んで熱いお茶をすする。
「そこで、わしは言ってやったんじゃ。お前は次に『そんな馬鹿な』と言うと」
「うお、爺ちゃんかっこいい」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
 今話しているのは爺ちゃんの昔話し。幻想卿での冒険談だ。話を聞いてみると想像以上の爺ちゃんの強さに正直ビビる。爺ちゃんもこの話を真面目に信じてくれることがうれしいのか、いつもより饒舌に話をしていた。
「なに自分に都合のいいとこだけ話しているのかしら。
 失敗談の方が多いでしょうに」
 しかし、そこに水を差すのが一人現れる。突然の訪問だが、相手が誰だかわかっている。ここに割って入ってくる人物を僕は一人しか知らない。
 声をした方を見ればいつの間にか現れたのか、スキマがとなりでお茶を飲んでいた。ご丁寧に自分用にお茶菓子も用意している。
「八雲紫。現れよったな」
「そんなに邪険にしなくてもいいでしょうに。それと自分のかっこいいところだけ聞かせるのもどうかと思うわよ。
 例えばここに当時の新聞があるんだけど」
 何か可笑しいのか胡散臭い笑みを浮かべたスキマは新聞を一つとりだした。見出しにあるのは『青年の恋破れる』というものだ。
「今日、一人の青年の思いは玉砕した。その青年の名前は……」
 スキマはそこにある文章を喜々と読み上げていくのだが、
「『武符、覇王気弾』」
 その手にある新聞は一筋の閃光とともに消え去ってしまった。その光線はさながらレーザーのようであり、僕の魔法より威力が高い。光りの元を見れば、そこにあるのは拳を突き出した爺ちゃんの姿があった。
「あら、突然気弾を使うなんてひどいわね。新聞が破けちゃったじゃない」
 それに、昔より威力が上がっているように見えるけど」
「一週間かけて作った術符じゃ。当然じゃろ。男子三日会わざれば即ち刮目して見よといものじゃ」
「ふふふ、あの時は脱兎のごとく逃げ出したのに」
「今こそはあの時の借りを返してやる。表に出えい」
「あ、あの二人とも……」
 ただならぬ形相の爺ちゃんとそれを笑顔で返しながらも不穏な空気を纏うスキマ。あわてて二人を止めようとするが、二人ともこちらの話なんて聞く耳を持とうとしない。
 その後のことはあまり思い出したくない。えぐられた庭だとか、弾幕の壁だとか。結果はやはりスキマの勝ちだったとだけ言っておく。



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