「暇だ・・・」


別に暇なのは今に始まった事じゃないけれど、唐突にこの退屈衝動は襲ってくる。
やっぱり蓬莱人にとって退屈はとても厄介なものだ。
ここ最近は異変も起きてないし、そろそろ僕の退屈が限界に達してきていた。


「よし、こういう時は何処かへ遊びに行こう」

思い立って僕は床から飛び起き、とりあえず博麗神社の方向へ飛んでいった。








「お〜い、涼夢、居るかい?」

「あら、良也さん。お久しぶりです」

博麗神社の境内には、今代博麗神社巫女の博麗涼夢が居た。

「どうしたんですか?今日は」
「いやー、最近特に事件も起こらなくて退屈が限界になってきたから遊びに来たんだ」
「あまり事件ばっかり起こってもらっても困るんですけどね」

異変や事件の解決を仕事とする博麗神社巫女は苦笑しつつそう答える。

「だけど良也さん、独りで暮らしてて寂しくないんですか?」
「そりゃ、寂しい時もあるよ。だけどやっぱり僕の居場所はあそこであるべきなんじゃないかな、って思う」
「別に神社に来てもらっても構わないんですよ?私にとっては貴方は先祖に当たる人なんですから」
「だけど神社に妖怪が住み着いてるっていうとやっぱりおかしいじゃないか。それにこうやって時々会いに来る方が一回一回の時間を大切にできるし」


僕が幻想郷に来て数百年が経った。
八意印の年齢詐称薬を使って外界に暫くは居たけど、結局あれから数十年も経たない内に僕は外界で『死んだ』。
勿論いろいろと細工はした。永琳さんに協力してもらって、何やら怪しげな薬を使って心臓の鼓動を止めたり瞳孔が開いた状態にしたり・・・。
あの時一番辛かったのが蚊に刺された所が痒いのに身動きできなかった、って所だ。畜生、冬に葬式をすればよかった。もしくは感覚遮断薬も使っておくべきだった。
まぁ、いろいろあって幻想郷に来た。そして霊夢と結婚をし、子供を育てて過ごした。
霊夢の死後も僕は暫く博麗神社に住んでいた。途中で一回僕が異変の原因になってしまった事があったけど・・・。
しかし、それから何十年か経ったある日、スキマから自分が妖怪になった、という事を告げられた。
どうも長い間幻想郷に留まっている間に僕の世界に幻想郷の妖気とか霊気とかが貯まりに貯まってそれが原因で妖怪化した・・・らしい。
妖怪化した後、僕は神社を離れ、何処か適当な森の中に萃香達の協力で家を建て、其処に住み着いた。理由はさっき述べた通りだ。
それで時々この神社とか人里、紅魔館、白玉楼、永遠亭、守矢神社、地霊殿、命蓮寺などのいろんな場所に遊びに来る生活を送っていた。


「別に誰も気にしないと思いますけど。人里の人も貴方が妖怪でも構わないと思ってるらしいですし、私も居てくれた方が寂しくなくて済みます」
「折角の提案だけど、もう決めてしまった事なんだ。一つの世界を背負う僕は何処かへ偏っていてはいけないと思うようになったし」
「そうですか・・・」
「今の幻想郷は平和だと思うよ。各所で戦いが起こることも無いし、前みたいに『退屈だから』という理由だけで異変を起こす連中も少なくなったし。
 そこにわざわざ波紋を広げるような行動を起こすことをしなくてもいいと思う」

僕は幻想郷の中でも異質・・・いや、幻想郷そのものだから皆とは違うのだと思う。
長い時を経て、僕の能力は『幻想郷を操る程度の能力』に変わった。ただ単に僕の『世界』が『幻想郷』という世界と同化してしまっただけなんだけど。
とは言っても大した事は変わっていない。相変わらず運命操作とか読心とかいった能力は通用しないし、規模が変わっただけだ。
あの吸血鬼も『幻想郷』の運命を変える事はできないし、『幻想郷』の心を読んだり狂わせたり、死へ誘う事なんかもできない。ただそれだけだ。
皆とは違うと思っていても、皆は僕を受け入れてくれる。本来、受け入れる側の筈の幻想郷を・・・。









それからも、最近起こった他の場所での出来事とかについて、涼夢と話し合った。
僕は元々は一般学生だったから、人とのコミュニケーションはやっぱり必要のように感じる。
昔の霊夢と相変わらず、代々博麗の巫女は僕が妖怪だろうが世界を背負っていようがおかまいなしに接してくれる。当然涼夢もだ。
僕はそういった態度が好きだ。霊夢の面影を残しているから僕は神社が一番落ち着けると感じるのだろうか。




「・・・さて、今日はお邪魔したね。僕の退屈しのぎにつき合わせちゃって悪いね」
「いえ、気にしないで下さい。もう少し来てくれてもいいんですよ?」
「その気持ちに感謝するよ・・・。それじゃ、また」






そうして僕は自分の家へと帰り、再びいつもの日常が流れていく。
神社では涼夢と話し、紅魔館では血を吸われる事は無くなったがフランやレミリアとのお茶会をし、白玉楼では幽々子にからかわれる。
永遠亭でも永琳さんに怪しげな薬を薦められ、守矢神社で早苗を加えた神三柱とふざけ、地霊殿や命蓮寺でも何かと騒ぐ。
やっぱり幻想郷には平和が似合う。弾幕勝負もまた一興。
『平穏な世界の象徴』土樹良也は幻想郷での日常を、時には退屈に襲われながらも過ごしていく。
そうやって過ごしていくのも悪くないかな。




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