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ライルたちがアルヴィニア王国を訪れてから数日が過ぎた。
その間、アレンは騎士見習いとしての仕事をこなす日々。その他のメンバーは、ショッピングをしたり史跡を巡ったり……要するに、旅行気分で散々観光し倒した。
そんな中で、ライルもこの国のことが少しわかってきた。
この国は独裁国家だ。と言っても、悪い意味ではない。王に権力が集中している、ということだ。王族があくまで貴族の代表であるというローラント王国とはまた違った政治体制をしている。
アルヴィニア王国も、一昔前までは似たようなスタンスだった。それが、ここ数代の王の尽力で、王の力が増大したらしい。
今はいいが、将来、どうしようもない人物が王位に着いたら国が荒れるんじゃないかなぁ、とライルは人事ながら懸念していた。
そんな事を、だいぶ仲良くなった現国王カリス(娘が関わらなかったら非常に優秀な執政者だった……本当だって)に何気なく、聞いてみたライルは、その懸念が百パーセント杞憂だと言うことを思い知るのだった。
第81話「予兆」
「……民主主義?」
聞きなれない言葉に、ライルは鸚鵡返しで聞く。
現在、彼らはカリスの私室にいる。三時のお茶の時間――王様も休憩タイムなのだ。ルナは閲覧を許可してもらった禁書庫で魔法書を読み耽っているし、アレンは騎士団、クリスはフィレアに連れられてアレンの仕事振りの見物に行っている。
ここにはライルとカリスしかいなかった。ちなみに、せっかく帰ってきたのにどうしてパパをかまってくれないんだー!! とカリスが暴れたのは国の名誉のために揉み消されている。
一通りアルヴィニア王国を見て回り、特にすることもないライルはそんなカリスの話し相手を買って出ていたのだった。
これが、思いの他、ためになる話が多い。今も、カリスは王の顔で饒舌に語り出していた。
「そう。今の国々のように、王や一部のものがすべてを決めるわけでなく、国民から選出された複数の施政者が国を運営していくという体制だ。曽祖父の時代から、王族はそのための根回しに奔走している」
「それはまた……斬新なアイデアですね」
現在、世界の国々の九割は王制を敷いている。
魔物や魔族に対抗するには、どうしても強大なリーダーシップを握る人間が必要だったのだ。……しかし、五百年前、最後の魔王が滅びてからはそれらの活動は小規模なものとなっている。
おかげで、人類の国家群もどんどん成長している。すでに、王一人で国を運営するメリットは薄い、と見ているらしい。
「でも、すごい決断ですね……」
まさか、最高権力者が自らその権利を放棄するなど、常識からは考えられないことだ。
だが、そんなライルの簡単の声も、カリスは何てことないように一笑に付した。
「ただ単に、その方が国が発展すると判断した結果だ。私は平民の生活に憧れてるし、誉められることでもない。……まだ、仕事の合間に、私とリティで草案を纏めている段階だしな」
「二人だけで、ですか?」
「さすがにな。大臣や貴族連中なんかに反対されるのは目に見えている。この国は、見た目、王の支配は磐石に見えるが、裏はそうでもないということだよ。国だからね」
その言葉に、ライルは彼の王としての苦悩を察した。
そして、
「さて、そんな堅苦しくもつまらない話は脇においておいてだ」
カリスの顔が、はっちゃけモードに移る。
……これさえなければ、本当に尊敬できる人なんだけどなぁ。ライルは諦念と共に、そう心の中で漏らした。
「君に聞きたいんだが、ヴァルハラ学園でのフィレアの様子はどうだったかね!? あれのアレンとかいうやつ以外にも、よからぬ輩にちょっかいとか出されていなかっただろうか? ああ、いや、出されているに違いない。なんせフィレアは可愛いしべりープリチーだからなぁ! ああ、もう畜生、私のフィレアふぉーりんらう゛!」
なにか電波でも受信したかのように身悶えするその姿は、先程まで熱く国の将来を考えていた人とは別人だ。かなり程度の高い駄目人間。
この人、多重人格かなんかなんかじゃなかろーか、とライルが心配するのも致し方ないところなのである。
「落ち着いてください。フィレア先輩は大丈夫でしたよ。あの人に手を出すような勇気を持った人はいませんでしたから。僕の知る限り」
「そうか。なるほど……つまり、あのアレンが私のフィレアに対して小賢しくも独占欲を発揮して、並み居る男ども千切っては投げ千切っては投げしたのだな? う~む。そう考えると、あの男にも蟻の糞程度の存在価値はあったということか」
「い、いや、まあ……」
ライルとしては曖昧に頷いておくしかない。
正確に言うと、そのアレンに対して技の実験台と称する虐待をかましていたから、彼女にちょっかいかける人間がいなかったのだが……それを説明しても、カリスが聞き入れるとは思わなかった。むしろ、娘に対して「私なら、喜んでこの身を実験台に捧げるぞ!!」とでも言ってにじり寄りそうな気がする。
見た目、完璧犯罪だよなぁ……
そんな事を思っていると、部屋に王の補佐官であるリティが入ってきた。その手にうずたかく積み上げられた書類を持って。
「王。これが夜までに目を通してもらいたい書類です」
「……まあ、ヴァルハラ学園の男たちも、残念だったな! だが、遠巻きに見るなら良いが、こうやって図々しくも実家にまで押しかけてくるとは……やはり、アレン許すまじ! いっその事、正式に騎士団員にして、どっかの国に飛ばして……」
「こちらが、市民からの要望書。こちらは失業者対策の公共事業に関する書類。そしてこれが来期の税の徴収についてで……」
「そうだ。それがいい。合法的に手っ取り早くアレンのやつをフィレアから引き離せるではないか! よーし、せめてもの情け。どっかの貴族の娘との婚姻でも取り付けてや……」
そこまで妄想を膨らませた時、リティが書類の説明を終え、カリスの襟を捻り上げた。極限まで顔を近付け、ドスの利いた声で告げる。
「く・れ・ぐ・れ・も! よろしくお願いしますね?」
瘴気まで漂ってきそうな気迫に、さしものアルヴィニア王国国王と言えどもコクコクと頷くしかない。
「わ、わかった。リティ。ではこのお茶を飲んでから……」
「ただでさえ、貴族たちに良く思われていないんですから。仕事だけはキチンとこなしてもらわないと困りますよ?」
疑問形でありながら、その裏で『これ以上サボる気なら、“イワす”ぞコラァ』という気迫が漲っている。
「さてと。じゃあ、私の方の仕事は一段楽したから。ライルくん、お父さんの相手も疲れただろうし、今度は私とお茶しない?」
美人の申し出だ。ライルとしては断る理由はない。つーか、先程のやり取りを見ながらも断れるほどの勇気はライルは持ち合わせていなかった。
ここで断るのは、勇気ではなく蛮勇だ、とライルは確信を持って言う次第である。
へこへこと、接待ゴルフに行く中間管理職も真っ青の腰の低さで、ライルはリティについていく。
残されたのは、机に広がる書類を、渋々を片付け始めたカリスだけだった。
一方、アレンを含めた騎士団は、アルグラン近くまで来ていたオーガの群れの討伐をしていた。
このことが知られたのが、つい今朝のことである。宮廷魔術師の遠視によって発見されたオーガたちを倒すため、急遽討伐隊が編成され、驚くべき速さでその群れの掃討にかかったのである。
……ちなみに、なぜかフィレアとクリスという王族も参加していた。
「えいっ」
「『レイ・シュート!』」
それが、他の騎士とも遜色のない活躍を見せるのだから、騎士団の王族への評価が高いのも頷ける。
そんな二人を半ば呆れながら見つつ、アレンは自身も剣を振るうのだった。
「実戦で少しは剣も鈍るかと思ったけど、そんなこと全然ないな。本当に新人か、お前?」
「小さい頃から、親父にモンスターがいっぱいいる森とかに放り込まれたりしてましたし。修行とか言って」
近寄って様子を見に来たゼルヴィッチに、そう返す。
きっと、彼はいざと言う時、アレンをフォローする気でいたのだろう。いくら訓練で強くでも、実戦ではからっきしということはよくある。
フィレアとクリスになど、常に三人の騎士がいつでもフォローに入れる位置にいる。いくら強くても、王族に万が一があっては、騎士団の責任問題となるのだから、これは当然のことだった。それならば、最初から参加させなければ良いという話だが、二人は『僕(私)たちの国を守るためなんですから。手伝いくらいさせてください』と、無理矢理ついてきたのだ。
「それ、本当に親のやることかよ……」
「あとで知りましたけど、近くで見守っていたらしいですし。その修行で、骨折以上の怪我を負った記憶もありませんし。そんな無茶でもなかったスよ」
「そうかよ……ほん、っとうに有望な新人だな!」
ゼルの剣の一振りで、数匹のオーガが纏めて切り裂かれる。その剣閃に、アレンは気の流れを感じていた。
気功と剣術の組み合わせはクロウシード流の十八番だ。負けるわけにはいかないと、アレンは思い切って振りかぶる。
「剛雷戦牙!」
ただ気を込めただけの斬撃。だが、その一撃は目前のオーガを一刀両断にしただけでは飽き足らず、地面に触れた途端、その破壊力を開放し、周囲の敵を吹き飛ばす。
「って!? アレン、破片が飛んだぞ!」
「そのくらい、避けて下さい!」
「ぐぁっ!? な、生意気な新人め!」
まるで競争するかのように、アレンとゼルはオーガを狩る。
当初は百匹近くいたオーガたちも、戦闘を開始して十分ほどのこの時点で、すでに半分ほどに数を減らしているのだった。
そして、上空でシルフィとガイアがその様子を見守っていた。
「ヒュウ。やるねえ、お前ンとこの兄ちゃん」
口笛を吹き、アレンの技量を素直に褒めるガイア。
「あんたの国の騎士団も、ずいぶんとやるわね」
「まあな。この国の実質的な戦力は、あいつらだけだからな。一応、軍隊もあるにはあるけど、錬度が低いし、ものの役に立たん。……まあ、だから大臣なんかに押さえられてるわけだが」
忌々しそうにガイアが吐き捨てる。
ガイアはこの国を愛していた。これでも数百年、この国を見守ってきたのだ。その国の病巣とでもいえる連中を、好きになれるはずもなかった。
「で、お前んトコのマスター、使えるのか?」
「一応、答えはYESだけどね。私はこういうことに関わってほしくないんだけどなぁ。大体、私らが口出すことでもないでしょうが」
「んなことはわかっている。それに、まだ俺も疑惑の段階なんだ。あくまでも保険だよ」
「保険、ね」
シルフィは、自分のマスターとはまた別の、保険に数えられている少女を思い浮かべた。城を自分で半壊にするような保険と言うのもどうかと思う。
「で、何匹くらいいると思う?」
シルフィは、きっ、と南の方角を睨みつけ、ガイアにたずねた。
その方角は、このオーガの群れがやってきた方角でもある。その方角には、大きい森があり、そこにモンスターが大量にいる事を、シルフィの超感覚は捕らえていた。
「ざっとオーガが三千、その他雑多なモンスターが千ってとこかな。騎士団が総勢で百人。一人頭四十匹か……ちーとキツイかな」
アルヴィニア王国の騎士団は確かにレベルが高いが、誰も彼もがゼルやアレンクラスの達人と言うわけではない。オーガはもともと、かなり強い部類のモンスターだ。これだけいると、その掃討はかなり困難な任務になる。
「自然発生だと思う?」
「五分五分。俺も疑惑の段階だっつったろ」
意味深な会話を続ける二人の下で、アレンたちが勝ち鬨を上げていたのだった。