5年前。

父さんが生きていた頃。

僕はある村に住んでいた。

そこは本当に小さな村で、

子供は僕とあと一人、

同い年の女の子がいただけだった。

他に遊び相手がいないこともあって、

僕とその子はとても仲が良かった。

朝から晩まで、二人で遊び回った。

一日の最後に、さよならを言うと、とても寂しかった。

そしてあの日、父さんが、突然病気で死んでしまってから1週間ほどたったあの日。

僕は母さんと村を出ることになった。

村を出ることはどうと言うことはなかった。

でもあの子と別れるのは…

とても嫌だった。

何回も母さんにここに残ろうとお願いした。

だけど決して母さんは首を縦に振らなかった。

理由は今でもわからない。

そして今日、その子と再会した。

 

第4話「そして1日の終わり」

 

「ライル!?」

目の前にいる少女は、間違いなく僕の記憶にある子だった。

「そう、久しぶりだね」

(マスター、知り合い?)

シルフィが話しかけてきた。

(ああ、ポトス村にいた頃の友達)

「ライル!」

「ん?何だ?」

目の前には少し怒っているらしい、ルナの顔があった。

「全く…引っ越してから手紙の一つもよこさないで…一体何処で何やってたのよ!?」

「い、いや引っ越したのが、見事に誰も来ないような山奥でさ…手紙なんか送れるような状況じゃなかったんだよ」

しどろもどろになりながら必死で声を絞り出す。

ルナは、表面上はにこやかだが、すさまじいプレッシャーを放っている。

連絡を取らなかったことを怒っているようだ。

こういうときのルナには口答えしてはいけない。

その外見に似合わず、彼女は非常に凶暴なのだ。

幼い頃、たまたま虫の居所の悪かった彼女を、後ろから驚かしたとき、

無言で殴りつけられ、転んだ僕をゲシゲシと踏みつけた。

また、少し大きくなって、僕の方が力が強くなっても、その関係は変わらず、

彼女の類希なる魔法の才能は、僕の怪我をよりいっそう深いモノにした。

当時、僕は、自分が死ぬのは、絶対に、ルナの魔法でだろうな。と、考えていたモノだ。

(あの〜マスター?)

(何だシルフィ?)

思い出に浸っている僕の思考がシルフィによって現実に戻ってくる。

(詳しく彼女との関係を説明してくれるのはうれしいんだけど…マスター…やっぱりその思ってることを口に出す癖、直した方がいいよ。いつか身を滅ぼすから…)

な、なにぃぃぃぃぃ!!!!!!

ま、また同じ失敗を…

よくルナの顔を見てみると、その顔は怒りの色に染まっていた。

「…ライル……」

底冷えのする声で話しかけられ、僕はすぐにやって来るであろう衝撃に備え、

目を閉じ、自らの周囲に魔法で風の結界を張る。

一瞬で作ったので気休め程度の効果だが、多少なりとも身を守ってくれるだろう。

………

……

(あれ?)

だがいつまでたっても予想した衝撃はやってこなかった。

「さっき助けてくれたし、これでちゃらにしといてあげるわ」

おお!助かった!

う〜ん、歳月は人を変える。

昔のルナなら、今頃僕は黒こげになってるだろう。

「…でも次はないからね」

ぞっとするような笑みを浮かべ、ルナが言う。

訂正、あまり変わってはいないようだ。

「ほら、行くわよ」

「行くって何処へ?」

「忘れたの?」

あきれたようにルナが言う。

「街を案内するんでしょう?さっさと付いてきなさい」

 

 

 

「へ?じゃあルナもヴァルハラ学園にいるの?」

「そうよ。ヴァルハラ学園1年生」

話を聞くと、ルナの父さん(ジェフさんって言う名前だったっけ)がヴァルハラ学園の卒業生らしい。

それで娘のルナも勉強させようと、送り込んだというのだ。

「ライルもどうせ1年に転入するんでしょ?同じクラスになれるといいわね」

「うん」

今僕たちは、「トワイライト」という喫茶店にいる。

こぢんまりした店だが清掃が行き届いており、居心地はいい。

僕たちの他にも何人かの客が来ており、それぞれ思い思いの時間を過ごしている。

僕は紅茶。ルナはそれプラスチーズケーキを注文している。

ルナの案内でセントルイスの「北地区」を見て回ったあと、ここで休憩しようと言うことになったのだ。

ちなみにシルフィは別行動をとっている。

1人で、適当に見て回るらしい。

 

セントルイスは東西南北4つの地区に分かれており、その中心にローラント城という配置になっている。

ここは、王都と言うだけあって、非常に活気のある街で、とてつもなくでかい。

世界でも屈指の規模の街なのである。

北地区には、ヴァルハラ学園の他、魔術師ギルド、兵士の寄宿舎、フィンドリア国立公園などがあり、

城に続いているフィーラル通りには、多くのお店が並んでいる。

ライルたちがいる「トワイライト」も、フィーラル通りに面した店の一つである。

 

「そういえばローラさんは元気?」

ルナが無邪気に聞いてくる。

「え……と…」

なんと言ったらよいか迷う。

だが迷ってもしょうがないので率直に言うことにした。

「母さんは…2年前に病気で死んじゃったんだ」

「え?」

ルナが僕の言葉を理解するのに数瞬の時を要した。

彼女は母さんによくなついていたので、ショックも大きいだろう。

「そう……」

とたんにルナの表情が沈み込む。

何となく声がかけずらくて、会話がとぎれる。

言い方がまずかっただろうか?

お互い無言のまま、注文した物が運ばれてくる。

そうするとルナは下げていた顔を上げ、無理に笑顔を作って言った。

「さ、早く食べましょ。ここの紅茶とケーキはちょっとした物なのよ」

「う、うん」

僕の場合、食べるんじゃなくて飲むのだが、さすがにそれについては突っ込まなかった。

運ばれてきた紅茶(レモン)をすする。

ルナが言うだけあってとてもおいしい。

僕も結構紅茶を煎れるのは得意だが、やっぱり本業の人にはかなわない。

「本当おいしいな」

「でしょ?」

ルナはとりあえずは元気になったようだ。

喜々としてチーズケーキをパクついている。

だけどやっぱりその笑顔は少しかげりが見えた。

 

 

 

注文した物を平らげ外に出ると、もう日が沈みかけていた。

今はだいたい5時前後くらいかな?

そろそろ寮の方に帰っていい時間だ。

「ルナ」

「なぁに?」

一応ショックから立ち直ったらしいルナが、こちらを向いて言う。

「僕はそろそろ寮の方に帰りたいと思うんだけど」

「そう。じゃ、行きましょ」

そう言うとルナはヴァルハラ学園の方に向けてとことこと歩き出す。

「あれ?ルナもこっちの方に住んでるの?」

「何言ってんの。私も寮に住んでるに決まってるじゃない」

少し呆れたようにルナは言った。

まあルナも実家はポトス村にあるし当然か。

そこらのアパートを借りるより寮の方がよっぽど家賃は安いんだし。

「そうだ、少し寄るところがあるから先に行っててくれない?すぐに追いつくから」

「あ、うん。じゃあゆっくり行くよ」

「おっけー。さっさと用事済ませちゃうからね」

言うが早いかルナは駆けだした。

商店街の奥の方だ。

この時間は結構人通りが多いので通行人にぶつかったりしている。

ああいうところはあまり変わっていないなぁ。

少しルナを観察したあと、僕はヴァルハラ学園に向けて歩き出した。

少し周りを見ながら歩いていると、別行動をとっていたシルフィが戻ってくるのが見えた。

「やっほー。マスターげんきぃ〜?あれ?あのルナって子に逃げられたのかな?」

「何を言ってるんだおのれは」

ちなみに今は商店街もぬけて、辺りに人がいないので普通に声を出して会話をしている。

「マスター、あの子はどうしたの?」

「ああ、ルナはなんか用事があるとかでな。すぐ追いつくってさ」

「そう」

シルフィと2人で歩き出す。

すると唐突にシルフィが聞いてきた。

「そういえばさぁマスター」

「なんだよ?」

「ポトス村にいた頃ルナに魔法ぶっ放されてたって本当?」

「ああ」

嫌な思い出だ。

何度死にかけたかわからない。

「ルナは特に火系の魔法が得意でな、よく黒こげにされてたよ」

ちょいと感傷的になる。

今となっては懐かしい日々だ。……二度と戻りたくはないが。

だがルナと会ってしまった以上、少し…いや、かなり難しいかもしれない。

「苦労してたんだねマスター…」

そうこう言っている内にヴァルハラ学園に着いた。

その向かいにある寮の門の前にジュディさんがいた。

「ライル君少し遅刻よ。ま、良いけど…」

と、少しゆっくり来すぎたか。

まあジュディさんは怒ってないようだし、いいか。

「じゃ、早速部屋に案内しようかな?」

ジュディさんが僕について来るように言う。

と、その時後ろからルナが追いついてきた。

「ライルー!ちょっと待ちなさい!」

ドゴゴォォォと効果音が聞こえそうなくらいの迫力でルナが走ってきた。

「はぁはぁやっと追いついた…」

「大丈夫、ルナさん?」

ジュディさんが心配そうに駆け寄る。

僕はと言うとルナの手にある物を見て固まっていた。

「何?ライル君、ルナさんをナンパしたの?」

「違います!ただ同じの村に住んでいたってだけで…」

「ああ、そうなの」

ルナとジュディさんがなにやら話しているようだが僕の耳には届かない。

僕はあまりの事態にまともに物を考えられなくなっているみたいだ。

(ど、どうしたのマスター?)

(ああすまんちょっと放心してしまった)

とりあえずシルフィの言葉で意識を取り戻す。

「ん?ライル、なんだか顔色が悪いよ?」

「いや、何でもない…それよりルナその手に持っているのは何かな?」

その物体を指さしながら聞く。

「見てわからない?食材よ、夕飯の。あんたの分も作ってあげようと多めに買ってきてあるの」

や、やはりかぁぁぁーー!!!

「ああ、そういえばライル君には言ってなかったわね。この寮は基本的に食事は自分で作るの。一応食堂はあるけど…やっぱりいろんな事を身につけといた方がいいからね」

ジュディさん。そういうことはもっと早く言って欲しかった。

「そういうこと。で、しばらく面倒だから作ってなかったんだけど、ライルと再会したことだし、久しぶりにごちそうしてあげようと思ってね」

ルナの言葉に、僕は自分人生が今日終わりだと確信した。

(マ、マスター大丈夫なの?一体どうしたって言うのよ?マスターってば!!)

(うう…シルフィ…短いつきあいだったが楽しかったよ。じゃあな)

(な、何言ってんの)

(ルナの料理はな…文字通り殺人級なんだ!!!ジェノサイドコック・ルナとまで言われていたんだぞ!!!!)

そこでシルフィが慌てて、

(マ、マスター!!声!出てる!!)

振り向くと鬼のような形相をしたルナが立っていた。

「ラ〜イ〜ル〜。次はないって言ったわよねぇ?」

たらりと、汗が流れるのがわかる。

ヤバイ。冗談じゃなくヤバイ。

言うなればドラゴンの巣に裸で飛び込むくらいのヤバさだ。

 

「殺ス!!!」

 

だっしゅ!

身の危険を感じ、僕は走った!

後ろでルナの詠唱が聞こえる。

『すべてを燃やし尽くす力持ちし火球よ、我が思うがまま敵を討て!』

くっ!

ほとんど勘だけで真横に転がる。

『ファイヤーボール!』

一瞬後、僕がいたところに普通の人の何倍もの威力があるファイヤーボールが突き刺さる。

ドガァ

「だぁぁぁぁぁぁ!!」

爆風に吹き飛ばされてごろごろと転がる。

次の詠唱が来た!

『すべてを滅ぼす炎の力よ、彼の一点にて集い、その力を解放せよ!』

まずい!

『風の精霊よ、我に高き跳躍の力を与えん!』

間に合え!

『エクスプロージョン!』

『ハイジャンプ!』

ドカーン!!

間一髪、ハイジャンプの魔法で空中に逃れる。

下を見てみると、爆発によって見事なクレーターが出来ていた。

「甘い!!」

『雷よ我が名に於いて、天空より落ちよ!』

げっ!この体勢は…狙い撃ち!?

『サンダーボルト!』

ズシャーン!

空から落ちてきた雷が僕を直撃した。

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

ペチペチ

………ん?

「起きろー」ペチペチ

何だ?

「ライルー」

「へ?」

「あ、やっと起きた」

「ルナ?」

「全く…あの程度で気絶するなんて、鍛え方が足りないよ」

ああそうか、最後のサンダーボルトを食らって気絶したんだな。

っていうか…

「言うことはそれだけか?」

「はは…ゴメン。でも元はと言えばあんたが悪いんだから。まあおあいこと言うことで…」

はぁ、言い訳の仕方も変わってないな。

「ふふ…元気でよろしい。でもルナさん?周りに被害が大きい魔法は使わないって約束したじゃない?」

ジュディさんがのんきに言う。

エクスプロージョンによって出来たクレーター。

結構直すのに時間がかかるだろう。

(そういう問題じゃないような…)

シルフィがこめかみに汗を流しながら言う。

(マスター本っっ当に苦労してたんだね)

(ああ…)

「さてと、ライル君?」

今度はジュディさんが話しかけてきた。

説教は終わったらしい。

「なんスか?」

もう肉体的にも精神的にも疲れ切っているのだが。

「とりあえずあなたの部屋に案内しましょう。ルナさんも一緒に来るわよね?」

「はい!」

ジュディさんに案内されて、向かって右側の建物に入る。

ちなみに四階建てだ。

左側が女子寮、こっちは男子寮らしい。

ジュディさん曰く

「だけど別に10時までは出入り自由だから」

との事だ。

そして四階の一番奥の部屋に通される。

中に入ってみると結構豪華な部屋であった。

キッチン、バス、トイレ付。部屋はリビングと寝室の二つ。

どちらもそこそこ広い間取りだ。

「荷物はもう入れてあるから」

ジュディさんの言葉通りリビングには僕が預けて置いた荷物があった。

「さてと。じゃあ座りましょう。話したいこともあるし」

「あっと、その前に…」

「なにルナさん?」

「夕食を…」

「だぁぁぁぁ!やめれ!」

僕が叫ぶとルナはむっとして。

「なによ、私も五年前とは違うんだからね。あのころよりずっとおいしく作れるんだから」

いや信用できない。

でも面と向かって言うと、またぼこぼこにされるし…

そうだ!

「いや僕が作るよ。ここは僕の部屋になるんだし、お客様に作らせるわけにはいかない」

「そう?むー、まあいいわ。期待してるからね」

やった!納得してくれたみたいだ。

「じゃあこの材料、使っていいから」

と、さっき買ってきたらしい食材を渡される。

「じゃあ少し待っててね二人とも。パパッと作っちゃうから」

「うん。ライル君ヨロシク」

ジュディさんの応援を受け僕はキッチンに入った。

「ふむ…」

とりあえず手持ちの食材をチェック。

「………」

思わず絶句してしまった。

まず目に入ったのは肉と野菜。

まあこれはいい。

次に卵や牛乳。

これも認めよう。

だがなんなんだ!この「マンドラゴラ」ってのは!

こいつは確か毒薬とか作るための魔法薬じゃないか!

おまけに見るからに毒々しい色のキノコ。

僕の記憶が確かなら、こいつは確か下痢を引き起こすキノコだったはずだ。

他にもとても料理には使いそうにない物騒な雰囲気の代物がごっそりと………

やはりルナに料理をさせなくてよかった………

(………)

さすがにシルフィも固まっている。

(マスター…これ…)

(なにも言うな……)

思わず涙がこぼれそうになった。

リビングでジュディさんと楽しそうに話しているルナに呪いの言葉をかけてから、まともな食材を選んで調理にかかった。

とりあえず調味料も一通りそろっている。

ふむ……どうするかな?

 

 

 

「へえ、結構おいしいじゃない」

僕が作ったのはオムレツ。

我ながら結構うまくできた。

「ライル君、なかなかやるわね」

「はは、どうも」

ジュディさんも満足してくれたようだ。

うっしゃ。

シルフィはキッチンで僕が作ってやった小さめのオムレツにパクついている。

「で、食べながらで良いんだけど、聞いてくれる?」

僕が了解の意を示すとジュディさんは話し始めた。

「ヴァルハラ学園のことについて説明しとこうと思ってね。まず、ヴァルハラ学園は総生徒数約400人。内9割がセントルイスに住んでいて、寮生活者は1割しかいないの。1年生から3年生まであって、それぞれ30人くらいのクラスに分かれている。

始業は8時30分、SHRのあと9時から1時間の授業がまず3時間分、間に10分くらい休憩を挟んで。そのあとは1時30分まで昼休み。そのあと授業を2時間して終了よ。そのあとにクラブとかする人もいるけど…でもこれはあくまで目安だから教師の判断で、適当に時間とかはいじくれるわ。教科ごとに設定した単位さえ取ればあとは自由だからね。1日中戦闘訓練なんて事もあるわ。まああなた達1年生はヴァルハラ学園に入ったばかりだし、最初は学園の規定のままでしょうけど。まああとは武器の携帯がOKって事くらいかな?何か質問はある?」

そこまで言ってジュディさんが聞いてきた。

「えっと…武器の携帯は自由って、危なくないですか?」

「ああ、まあ、今まで問題は起きてないし、大丈夫でしょ。それに武器って言うのは体の一部になるくらいなじんでないと」

…まあいいか。

「他には?」

「……特にありません」

「はいはーい!」

ルナが手を挙げて声を張り上げる。

「はいルナさん。何でしょう?」

「ライルのクラスはどうなるの?」

「それは明日のお楽しみと言うことで」

「えぇ〜教えてくださいよ〜」

「まあまあ」

ルナとジュディさんの口論を聞きながら食器を片付ける。

(マスターおいしかったよ)

(そりゃどうも……)

シルフィも食べ終わったらしい。僕の方に食器を持ってきた。

じゃぶじゃぶと洗う。

(ふう、少し疲れたよ)

(そんなことで明日から大丈夫なの、マスター。しゃっきりしなさい)

(はいはい………)

そんなことを話していると洗い物も終わった。

手を拭きながらリビングへと戻る。

もう口論も終わったようだ。

「あら、ライル君ごくろうさま」

「はい」

「じゃあライル、私達はもう帰るからね」

時計を見るともう9時。結構時間がたってたんだな。

「うん。じゃあね」

そういうと二人は玄関の方に歩いていく。

と、何かに気づいたようにジュディさんが振り向いた。

「そうそうこれを渡し忘れていたわ」

そういって懐から何冊もの本と剣と服、鞄を取り出す。

「……何処に入れていたんですか?」

「まあ細かいことは気にしない、気にしない」

細かいことなのだろうか?

「これ、貴方の剣。昼にチェックのために預けてた物、私の所に届けられたの。それから、これは教科書。明日忘れずに持ってきて。この学園指定の鞄に入れてね。制服はあるけど、式典とか以外は別に服装は自由よ。実際普段の日に制服を着てくる人なんて皆無だから」

「了解」

そして二人は今度こそ帰っていった。

何というか……疲れた。早く寝よう。

「シルフィ、僕はもう寝るから」

もう誰もいないので声を出してシルフィに呼びかける。

「うん、私も寝ようと思ってたトコ」

昼に買ってきたナイフを、枕元に置く。

そして部屋に備え付けてあったベッドに潜り込む。

すぐにシルフィがベッドに侵入してきた。

「おい」

思いっきり気合いを入れて睨む。

「何をしている」

「だって私の寝るところないんだもん」

しれっとシルフィは言ってのける。

「潰してしまうだろうが」

シルフィの大きさは人形程度。寝返りを打った拍子に潰してしまうことは十分考えられる。

「じゃあ……」

そういってシルフィは目をつぶる。

シルフィの体か光ったと思うと一瞬後には僕の目の前にはルナより10cm位小さい女の子がいた。

「お前なあ」

こいつはシルフィである。

僕が人間モードと呼んでいる姿だ。

どっちが本来の姿と言うことはないらしいが、人間界に存在するための消費魔力を押さえるため普段は小さくなってる。

まあ、どちらにしても魔力自体にそう大差はないそうなので、小さい方になっているのはそっちの方がお気に入りだからだろう。

「これなら大丈夫でしょ」

………まあいいか。

これがシルフィ以外ならとても冷静ではいられないが、所詮たかがシルフィだ。

「おやすみ」

「ああ、おやすみ」

そして疲れもあったのか、僕はすぐに眠りに落ちてしまった。

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