俺、ルーファス・セイムリート。現在、13歳。

ここ3年、精霊界で居候の日々を送っていた。もちろん、修行のためだ。今、世間を騒がせまくっている魔王を説得するために、ある程度の力を身につける必要があったためだ。(そこら辺の事情は、別の話を参照してもらいたい)

んで、その修行にも一区切りが着いたんで、人間界に戻ってきた。

 

ゆうしゃくんとなかまたち(運命の出会い……?編)

 

「で、これからどーするんですか、マスター?」

俺の頭の上に乗っかっているソフィア(今は人形程度のサイズ)が話しかけてくる。

すったもんだの末、なぜか、精霊王全員を契約してしまった。おかげで、戦闘力はかなり上昇したが、おまけでついてくるドタバタには困ったもんだ。

「とりあえず、路銀を稼がないとな。すぐ近くに、町がある。ギルド行って仕事をもらおう」

今いるのは、街道から少し離れた森だ。見覚えのある地形。確か、俺が精霊界に行く直前まで拠点にしていた町の近くだ。

「透明になってろよ、ソフィア。ついでに、これからは会話はテレパシーだ」

「は〜い」

素直に姿を消すソフィア。この状態になれば、普通の人間にこいつの姿は見えない。よほど、精霊と相性がよければ見えることもあるらしいが。

(うし、行くぞ)

(りょーかいです)

そして、町まで歩く。そこそこ大きな町だ。

関所で身元などをチェックされるが、冒険者ライセンスを見せて、事なきを得る。

 

冒険者、といえば聞こえはよいが、この時代、冒険者というのは要するに何でも屋だ。

ギルド、と呼ばれる仕事の斡旋所で、仕事をもらい、報酬の金を受け取る。その仕事は、迷子のペット探しから魔族退治までなんでもござれだ。

本来、冒険者というのは文字通り、旅をするもののことを指していて、ギルドでの仕事はあくまで路銀稼ぎの手段だったのだが、魔王が現れ、物騒になったこの時代、いろいろな事情が積み重なって、そっちの仕事をするのが冒険者の本分になってしまった。

 

……誰に説明してるんだろう?

(マスター)

(なんだ?)

(ギルドって、あれじゃないですか?)

ソフィアの指さす方向を見てみると、いかにもな雰囲気の漂う、竜をかたどった看板のついた建物があった。

 

 

 

 

 

ギィ、と立て付けの悪いドアを開けると、一斉に視線が集中した。

まあ、無理もない。こんなところに来る子供なんて、本当に数えるほどだ。店の中にいるのは10人ほど。どれだけ若くても20より下のやつはいない。13の俺が奇異に見えるのも当然だ。

その視線を無視して、このギルドのマスターの所へ進む。3年前から変わっていないようだ。

「久しぶり、フォスターさん」

「……ルーファスじゃねえか。なんだ、くたばったんじゃなかったのか。いきなり消えやがって」

「あいにくだけど、ピンピンしてるよ。……あ、オレンジジュースくれ」

無言で、グラスにジュースが注がれる。俺は一気に半分ほど飲み干した。

「……ふ〜。うまいね」

「世辞はいい。用件はなんだ」

「ああ。仕事ある? できれば、賞金首のモンスターでも紹介してくれれば、すぐ終わっていいんだけど」

「賞金首はいねえよ。最近、スゴウデのやつが来てな。片っ端からやっちまった。……それと仕事なら一つある」

残りのジュースを飲もうとしたら、さらに半分ほどに減っていた。じと目で、俺の肩にすわっている精霊を睨みながら、残りを氷ごと口に入れた。

「どんなやつ?」

「この近くの村からの依頼だ。詳しいことは向こうで話すそうだ。戦闘に長けたやつを送ってくれとさ。……それと、お前はピンの仕事しかやってなかったが、この仕事は複数で当たってもらう。どうだ、受けるか?」

ふむ……と考える。別に、一人で仕事をしていたのは、特に理由あってのことじゃない。それしかないんだったら、受けるのは別に構わないんだけど、

「ちなみに、報酬は?」

「10万。……ただ、仕事は5人でやることになる。分け前はそれぞれで話し合って決めなきゃならねえが」

「10万メルね……」

かなりの報酬だが、5人でわけるとなると、平等にわけたとして2万。……ま、いいか。

「わかった。受けるよ」

「よし。お前以外のメンバーはもう決まっているからな。そこのテーブルの4人だ。一人、若いのはさっき言ったスゴウデだ。……俺はお前の実力は知っているが、3年前とはここの顔ぶれも全然違ってる。なめられるのは覚悟しておけ」

……3年前、当時。俺はここのギルドでトップランクの冒険者だった。あの頃、ここに通っていた冒険者なら、俺の実力も知っているが、そうでないと、この年齢では侮られるのは目に見えている。

……まあ、結局は実力主義の世界だから、すぐに認めさせればよい。

「ちょっと待ってくれよマスター。俺たちゃ、ガキのお守りはごめんだぜ」

その四人の一人が、困ったように言う。どうも、この一人だけは、かなりの実力を持っているようだ。若いし(多分、20歳前後だ)。他の三人は、見た感じ雑魚。

「そうだ。足手まといはいらねえよ」

「大体、ライセンス持ってんのか、このガキは」

口々に、残りの三人も文句を言い出す。フォスターさんは、やっぱりという顔をして、

「心配することはない。こいつの力量は、俺が保証する」

「だけどよ……」

まだ、何か文句がありそうだ。

「……なら、試してみるか?」

いい加減、面倒になってきたので、すこし敵意をこめて睨む。瞬間、若い男だけは身構えた。しばらく、睨み合いが続く。店の他のやつらは、いきなり張りつめた空気に、戸惑うばかりだ。

「……ふん。なるほどね」

男は呟くと、視線を逸らした。

「おいマスター。こいつと仕事するの了解した」

「お、おいレイン。なに勝手に……」

「大丈夫。少なくとも、足手まといにはならないよ、こいつは」

仲間を諭すレインとか言う男。

そういうわけで、なんとか仕事にはありつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ルーファス」

依頼人のいる村に向かう途中の野宿、レインが話しかけてきた。他の三人、アルゴ、デービス、サイゴンはすでに眠っている。この三人は、もともとパーティーを組んでいるらしい。

「なに」

「お前、何歳だ?」

「13」

「若いな。なんで、こんな商売やってんだ?」

「……別に、一番向いているから。って、そーゆーあんたは何歳だよ」

「ん? 俺か。俺は20だ。っと、あと一ヶ月くらいで21になるか」

「あんたは、なんで?」

「俺もお前と同じだよ。向いてんだ、こーゆーの」

それきり、会話が途切れる。パチパチとはぜる焚き火を見ながら、なにか言葉を探すが、出て来ない。……そーいや、まともに人間と話をするのってずいぶん久しぶりだ。

(マスタ〜……眠いです)

いきなり、ソフィアがそんなことを言いだした。今は大体11時くらい。……ソフィアにはかなりキツイ時間帯だ。

(……だったら寝ろよ)

(でも、マスターが起きてるのに、私だけ寝るわけには……)

どーゆーこだわりだ。

「おいルーファス」

「なに、レインさん」

「レインで良い。……っと、それより、お前はもう寝ろ。見張りは俺がやっとくから」

「……ジャンケンで負けて、俺が2時まで見張りをするんじゃなかったっけ」

「子供はもう寝る時間だ。俺も、そのうち、あいつらの誰かをたたき起こして交代する」

そのあと、いろいろ文句を言ったのだが、思いの外強引に寝袋にたたき込まれてしまった。……まあ、いいか。確かに眠いことは眠いし、なにより……

(ぬー……。寝ちゃ駄目だ寝ちゃ駄目寝ちゃ…………………はっ!?)

こんなやつもいることだしな。

 

 

 

 

 

 

次の日、依頼の村に着いた。

しかし、まず目に付くのが壊れた家の数々とは、どういった事態だろう。多分、依頼と関係あるのだろうが、どうも様子がおかしい。モンスターや魔族が襲ってきたにしては、破壊場所が散発的すぎる。

「ようこそいらっしゃいました。まずは私の家へ」

この村の村長と名乗る人が、家に案内してくれる。俺はやっぱり変に見られたが、無視した。

「……で、早速ですが、依頼内容をお聞かせ願いたいんですがね」

アルゴが村長に尋ねる。俺とレイン以外の三人の中ではリーダー格らしいから、自然と、今回の仕事でもリーダー的な役割を果たしている。……が、はっきり言って、いやなやつだ。

「……はい。実はですね……そこの窓から外を見てくれませんか?」

不審に思いつつも、言われたとおりにする。見ると、十代後半くらいの女性が、子供達と遊んでいた。

「依頼というのは、あそこの女を殺してもらいたいんですよ」

一瞬、なにを言われたのかわからなかった。他の四人も当惑した様子だ。そりゃそうだろう、人殺しはごく一部の犯罪者の場合を除いて、冒険者には御法度だ。そんなことをしたら、すぐにライセンス剥奪されてしまい、監獄にぶち込まれる。

「……理由を聞こうか」

「アルゴ!」

レインが叫ぶが、アルゴは「お前は黙ってろ」と、言い、村長と向きなおった。

「皆さんも、この村の惨状はご覧になったでしょう。この村の家は実に三分の一が半壊、もしくは全壊状態です。そのすべてがあの女の仕業なのです……!」

興奮状態で言う村長。

「そんなことするような人には見えないけど」

「ガキは黙ってろ」

俺が口を挟むと、すぐさまアルゴが睨みつけてくる。……やっぱ、いやなやつだ。

「ええ。確かに、わざとではないのですがね。あの女は、もともと魔力が強いらしく、感情が高ぶると、すぐに爆発を起こしてしまうんですよ。昔はかわいいもんだったんですが、成長と共に強くなり、最近ではちょっとした攻撃魔法より強いものになってしまいました。今までも、退治しようとすると、すぐに暴走して手がつけられません」

そこで村長は一度言葉を切る。俺たちの顔色を見て、付け加えるように言った。

「報酬は10万ということでしたが、倍の20万だします! あの疫病神を退治してください!」

20万、と言う言葉に、アルゴ達の目が変わった。お互いに、顔を見合わせる。

「……ちゃんと、俺たちがやったって事は黙っててくれるんだろうな」

「それはもちろん」

……なにやら、妙な方向に話がまとまってしまった。

(ちょっとマスター……この人達、本気ですか?)

(見ての通りだな)

(おかしいですよ。そんなこと……)

(心配するな。俺がさせない)

……って! すでに、アルゴ達は外に出ていた!

「くそっ」

俺の脳裏には、五年前、姉が魔王と化したときの記憶がよみがえっていた。どこか、あの時と、似ている。

 

 

 

 

 

外に出てみると、アルゴ、デービス、サイゴンは、例の彼女を包囲していた。

「どけ、レイン。邪魔すると、お前ごと叩き斬るぞ」

「お前ら正気か?」

唯一、レインだけがその女の人を守るように立ちふさがっている。

「正気も正気さ。村を破壊した『モンスター』を、その村人の依頼で、俺たちが殺す。……なにか問題あるか?」

平然と言ってのける、アルゴ。……どんどん、俺の思考が危険領域に突入していくのがわかる。

「あ、あの……」

「心配するな。あいつらくらい、わけない」

不安げに、レインの後ろに立つ少女に、優しく声をかけるレイン。……なんつーか、演劇のワンシーンみたいだな。

「言ってくれるじゃねえか、レイン。お前は前から気にくわなかったんだ。いくら、お前が強かろうと、こっちは四人、そっちは一人だ。勝てると思ってんのか?」

「四人……?」

いつの間にか、俺も数に入れられているらしい。

「小僧! 1万くらいはわけてやるから、少しは役に立てよ!」

……はあ。

「いっぺん、死んでこい」

こちらに背を向けているアルゴの後頭部に回し蹴りを叩き込んだ。かわすことも出来ずに、昏倒してしまうアルゴ。

……よわっ!

「貴様! なにしやがる!?」

「俺は、どっちかというと、レイン側だ。あんたらの意見には賛成できない」

「やっぱりな。ルーファス、お前はそう言うやつだと思ってたぜ!」

嬉しそうに叫ぶレイン。

「レイン! お前もはしゃぐのは早いぞ! 2対2とはいえ、片方は確実に足手まといなんだからな!」

……足手まといって、やっぱ俺のことか?

「サイゴン……お前、ものすごい勘違いしてるぞ。言っただろ、こいつは少なくとも足手まといではない。むしろ、お前よりかはよっぽど強い」

「ふん……じゃあ、そのガキの強さでも見せてもらいましょうかね」

サイゴンはバカにしきった顔で、俺に対してずかずかと歩いてきた。

「ビビって動けもしねえか」

サイゴンは鼻で笑うと、手に持った槍で突いてきた。

「よっと」

ぴっ、と人差し指と中指の間で、槍を挟む。

「な、なに!?」

サイゴンが槍を持って力を込めるが、槍は全然動かない。……こいつも弱いな。

「寝てろ」

空いている方の手で、サイゴンの顔面にパンチ。あっさり気絶した。

「へー。強いな!」

「わかっててけしかけただろう、レイン」

「まーな。相手するのも面倒だし」

さて、残りはデービスだけ。

「ひっ……!」

今更にビビっている。

「てい!」

そして、俺の必殺、踵落としで気絶させた。

 

 

 

 

 

「……で、あなたたち、誰なの」

件の女の人……メイさんとかいうらしいが、その人がかなり不審げな瞳で俺たちを見た。……ま、しょうがない。見覚えのないやつらがいきなり喧嘩を始めたんだからな。

「正義の味方だ」

「……アホ?」

いたいツッコミ。冗談で言ったのだろうが、レインは相当傷付いた様子だ。

「そうじゃなくて、俺たちは、冒険者。ここの村長から……あんたを殺すように頼まれたんだ」

今度は本当のことを言うレイン。

「……へえ」

「驚かないんだ」

「まーね。最近、村の人達が殺気立ってるし、あ、これはまずいかなーとは思ってたんだ」

と言いつつ、近くの森の方へ歩いていくメイさん。

「お、おい。どこ行くんだよ」

「ちょっと知り合いにお別れを言いに。そろそろ、この村にいるのも限界だし」

なんでもないことのように言うメイさん。多分、覚悟はしていたんだろう。……にしても、あっさりしすぎていると思うが。

「なによ。なんで着いてくるの?」

「だってさ。あの森、モンスターとかも出そうだし、女の子一人じゃ危ないだろ」

「いつも行ってるから平気よ。で、そっちのあんたはなんで?」

いきなり話を振られる。いや、別にすることもないから行くだけなんだけど。

「なんとなく」

無難に答えておく。

そうこう言いつつ、森に入った。……入ると同時に、ウッドウルフに襲われる。

「いわんこっちゃない」

レインと俺は構えて、迎撃しようとするが、

「『ファイヤーボール!』」

その前に、メイさんが魔法で撃退した。

「魔力を暴走させるって、聞いていたけど」

「キミ……ルーファス君だっけ? 勘違いしてるよ。私は、確かに、取り乱したりすると爆発起こすけど、別に普段は普通に魔法も使えるのよ」

「ふーん」

そういうことなら、どうやら、癖が出来てしまっているようだ。

魔力ってのは、そう簡単に暴走しないものだが、この場合たぶん、本人が無意識下で爆発させているのだろう。小さい頃に確立されてしまった癖だと思う。

……とか、そんなことを考えていたら、一軒の家に着いた。

メイさんはためらいもなく、扉を開けるが、なにやら、この家には強力な結界が敷いてある。……一体何者だ? ここの住人は。

中に入ってみると、一人の老人が、メイさんと話していた。

「ヴァイスさん。突然なんだけど、私、村から出ることにしたから」

「そうか。まあ、いつかそうなるんじゃないかと思っていたが……」

そこで、老人は俺とレインの方を見る。……あ、耳がとがってる。この人、エルフだ。

「こいつらは誰だ? もしかして、メイの恋人と子供とか?」

バキッ! と、メイさんが捻りのついたいいパンチをその老人に喰らわせた。……大丈夫か、おい。もろに鳩尾にきまってたぞ。悶絶してるし。

「私はこんなでっかい子供のいる年齢じゃないし、こんな男を恋人にするほど男に飢えちゃいないわ!」

俺の方はともかく、レインに対する言い方はひどい。……あ、傷付いてる。

「いたた……もうちょい老人を労らんかい。まあ、それはそうと、メイが出ていくんだったら寂しくなるな。儂も引っ越しするかな」

「てゆーか、あんた誰だ。どうして、エルフが里から出ている」

レインの言い分ももっともだ。普通、エルフは一生を森深くの里で過ごし、滅多なことでは人間の世界に出てくるなんて事はない。こんな人里近くに住居を構えるなんて前代未聞だ。

「儂か? 儂はヴァイスだ。なんでここにいるのかっていうと、ちょっと逃げててな」

(ヴァイスって……!)

なにやら、今まで黙っていたソフィアが驚く。

(なんだ、どうした?)

(ヴァイスって確か、エルフで最高の魔導士ですよ。聞いたことあります)

(は……? このじいさんが?)

悪いがとても見えない。確かに、この家に張ってある結界はすごいが、今までのやりとりを見ていると……

「……逃げていたんだが、どうやらたった今見つかったようだ」

いきなり、ヴァイスさんが目を細め、遠くを見る。

「ヴァイスさん……? 見つかったって?」

「メイ。それと、お前さん達も。巻き込みたくないから早く逃げろ。あいつは、儂が引き受ける」

もう、俺も気付いた。超強力な魔族がこの家に近付いている。もうすぐそこだ。ここまで近付くまで気付かないとは。

「水くさいぜ、じいさん。俺も手伝うよ」

レインが言うが、ヴァイスさんは首を振って、

「悪いが、普通の人間の手に負える相手ではない。かえって足手まといだ」

「だけどな。一人でどうこうできる相手じゃなさそうだけどな?」

「ちょっと! 私を置いてけぼりにしないでよ! 一体、どうなってんの!?」

メイさんは、全然わかってないようだ。

「……ヴァイスさん、俺も手伝おう」

「無茶言うな。お前みたいな子供が……」

「だけどな、じいさん。どうも、簡単に逃がしちゃくれないようだぜ」

次の瞬間、家が吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァ〜イス〜? やぁっと見つけたぜ。ちょろちょろ逃げ回るのもこれまでだぁ!」

仁王立ちしている魔族が叫ぶ。……俺がこれまで会ったどの魔族より、強い。それだけは間違いない。

「……ソドム。貴様……」

「おぉーーっと。怖いなぁ。俺がお前の住んでた里を壊滅させたの、まぁーだ怒ってんのか? 過ぎたことをいつまでもぐちぐちと。今の人間界で最高の魔法使い、ヴァイス。お前さえすぐに殺されてりゃあ、あそこまでしなくてもよかったんだ。いや、本当よ?」

下卑た表情を見せる魔族。ソドムというらしい。

ちなみに、俺たちはちゃんと無傷だ。メイさんがすこしかすり傷を負った以外、ピンピンしている。

「でぇ? そこの三人は誰だ? もしかして、お友達かぁ? なら、殺しとかなきゃねぇ」

「……! くっ、『エクスプロージョン!』」

ヴァイスさんが魔法を使うが、ソドムはあっさりかわし、俺たちの目の前に来た。

「じゃーね」

そして、爪を振りかざし、俺とレインとメイさんを殺そうとする。

……が、そう簡単に殺される俺たちではなかった。

次の瞬間、魔族が吹っ飛ぶ。

「がぁ!?」

そして、俺とレインが剣を構え、ヴァイスさんの隣に立つ。

「お、お前達……」

「だから、手伝うって言っただろ? 普通の人間じゃないんだ、俺は」

「俺もね。子供だと思って甘く見ないで欲しい。……で、あれは何者?」

そこで、先程吹っ飛ばした魔族が起き上がり、凶悪な瞳で俺たちを睨んだ。

「クックック……。その質問については俺が自己紹介してやろう。俺は魔王様直属、ヘルキングスの一人、ソドムだ。よろしく、勇敢な人間共」

「魔王直属……?」

「ああそうだよ、小僧。なにか言いたいことでもあるのか?」

言いたいこと。いや、聞きたいことは一つだけ。

「魔王は……いや、エルム・セイムリートはどこにいる」

「なんでその名前を知って……」

そこで言葉を句切り、魔族は俺の顔を見て、言った。

「なるほど。お前がルーファスだな? 魔王様の弟とかいう……」

周りが一斉に驚く気配がしたが、無視だ。

「そうだ。質問に答えろ」

「さあね。俺からは言えねえな。自分で探せよ」

「なら、力ずくで吐かせるまでだ!」

そして、俺はソドムに駆け寄る。戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

(も〜! マスター、いきなり突っ込むなんて無謀すぎです!)

(えーい! やかまし!)

レインと一緒に、剣でソドムを攻撃しながら、ソフィアに言い返す。

「どけ!」

ヴァイスさんの声に、その場を飛びさる。一瞬後、

「『カタストロフィー・アッシュ!』」

ヴァイスさんの魔法がソドムに直撃。そこで一時後退する。

「ったく! さすがは魔王直属ってだけあるな。俺、あんなに強いの初めてだよ」

レインが真っ先に文句を言う。

「がたがた言わないで、傷を見せなさい。左腕にちぎれかけてるじゃない」

「なんだよ、メイ。このくらい、大丈夫……」

「なわけないでしょ。『すべての神々に請い願う。傷つきし勇者に、癒しの雫を与えたまえ。ホーリーティア』」

レインの左腕を光の粒子が囲んだかと思うと、次の瞬間には、ちぎれかけていた腕が復元していた。ホーリーティア。最上級に位置する回復魔法。教会の司祭クラスでも、使えるものはほとんどいないはずなんだが……。

「お前……」

「私は白魔法が得意なの」

得意というレベルじゃないぞ。

「暴発させるくせにか?」

レインの不用意な発言に、メイさんの拳が唸る。

「ぐはっ!?」

……さて、ソドムはどうなってるんだろう。

ヴァイスさんの魔法による煙が晴れると、何事もなかったかのように立つソドムの姿があった。

「やれやれ。あれだけの魔法が直撃して無傷?」

「そりゃそうだ。里が襲われたとき、儂も命からがら逃げるのが精一杯だったんだからな。もともとやつは、神話時代の魔王の一人だ。そう簡単に倒せる方がおかしい」

……じゃ、その元魔王を使役している姉さんの力って一体どれほどなんだ?

「……俺はここで止まるわけにはいかない」

(マスター……?)

(ソフィア、アレを使うぞ)

(でも! まだ未完成で、制御が甘いって……)

(このままじゃ全滅だ。仕方ない)

「わかりましたよぅ」

言いながら姿を現すソフィア。

「ソドム。あんたはここで殺す」

「おい! ルーファス! 一人で出るな、死ぬぞ!!」

レインが叫ぶが、俺は死ぬ気はない。

「貴様……もしや、ソフィア・アークライトか。まさか魔王様の弟と……」

ソフィアの姿を認めたソドムが驚いたように言った。

「ええ、契約しました」

「馬鹿な! 人間と精霊王が!?」

「おかしいことじゃないでしょう? 先代の精霊王も当時の勇者と契約していました。……ただ、その時は一人ずつでしたけど」

「その時は……だと?」

「ええ。マスターは、私以外の全員とも契約しています」

驚愕に、目を見開くソドム。……あいにくだが、構っているヒマはない。集まってくる光精霊の制御に忙しいのだ。

「『すべてを輝きで満たす数多の光の精霊らよ』」

「それだけじゃなくて、マスターは、精霊王の力を使ったオリジナルスペルも開発しているんですよ」

「『古の聖なる契約の元、我ルーファス・セイムリートが命じる』」

「っと、『我ソフィア・アークライトも命じちゃいます』」

……こら、ソフィア。一気に緊張感がなくなったぞ。

「『悪神を貫く光の矢。魔を打ち払う破邪の剣。光を汚す者を滅ぼす閃光よ』」

ソフィアの名を借りて、精霊を制御していく。……ソドムはいつの間にか前線に立っているレインと、後方から攻撃魔法を放つヴァイスさん、そして、白魔法で援護するメイさんが押さえていた。

ついさっき会ったばかりとは思えない連携だ。

「『はるかな昔からこの世に秩序をもたらす、その真なる力を解放し、我に敵対する者共全てを討ち滅ぼせ』」

呪文は完成。あとは、放つだけ。……なのだが、もうすでに俺の周りを旋回する光球を制御するのは限界だったりする。暴発したら、この森くらいわけなく吹っ飛んでしまう。……まずい。本当に、もう限界だ。

(はぁーい、マスター)

(……シルフィ!?)

(なんか、大変そうだったから、みんなで助けに来たわよ)

もう駄目だ、と思った所で突然現れたシルフィの後ろには、他の精霊王が揃い踏みしていた。こいつらが制御を手伝ってくれ、魔法を放てる状態になった。

「『……デッド・シャイニングスター!』」

次の瞬間、ソドムは地上から消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、これからどうするんだ?」

レインが、話しかけてきた。

「別に。修行しながら魔王……姉さんを探すよ」

「俺も着いていっていいか?」

「……なんで」

「面白そうだから。一人より二人の方がいいだろ? 修行も効率よくなるだろうし」

「その理屈なら、二人より四人の方がよくない?」

振り向いてみると、メイさんとヴァイスさんが立っていた。

「どうせ、私も行くところなんてないしね。回復魔法でなら少しは役立てると思う」

「儂も似たようなもんだ」

俺は万感の思いを込めて呟いた。

「……勝手にすれば」