夏の風物詩と言えば花火。俺的にこれは譲れないところだ。

読者のみなさんに説明しておくと、この世界の花火は普通のものと魔法で作るものの二種類がある。

しかし花火を魔法で再現するのは色々大変だからあんまり主流とは言えない(大きな光を生み出す魔力量、それを花火の形にする制御能力が必要なのだ)。

それでも、毎年セントルイスでは王家主催の盛大な魔法花火大会が宮廷魔術師総出で行われる。一人一人の魔法の個性が出て面白いらしい。

もちろんだが、俺は見るのは初めてだ。夏と言えばなにをおいても花火な俺としては非常に楽しみだ。

 

第16話「ルーファスのデンジャーな夏〜花火大会編〜

 

「もう明日ですね」

「そうだな」

そう、冒頭の説明にあった花火大会は明日なのだ。

「楽しみですね」

「楽しみだ」

どうも、最近毎日リアの家に入り浸っているような気がする。最初は宿題を協力して片付けるためだったのだが、学年のトップクラスが二人いるので速攻で終わった(実を言うとリアの学力は非常に高い)。

それでも、寮でぼーっと過ごすのもあれなので、毎日リアと茶を飲んで過ごしているのだが、最近一つ気になることがある。

夏休みに入ってから精霊王達がほとんど来なくなったのだ。仕事が忙しくなったのか、と考えたが、今は夏。火の精霊王フレイあたりは忙しいだろうが、他の面々はそこまで仕事に追われるなんてないだろう。

……なんかとてつもなく嫌な予感がする。この時代に目覚めて以来の超巨大な嫌な予感。外れて欲しい。つーか外れろ。

「どうしたんですか?」

「……いや、明日の花火大会はどんな感じかなって」

「きれいですよ」

「だから、具体的に」

「なんていうか……とても。そう、とてもきれいです」

思わず頭を抱えてしまう。どうしてこいつはこう……。いや、こいつに聞いた俺が馬鹿だったんだな。

「……なんか馬鹿にされているような気がするんですけど」

「気のせいだ」

リアは納得いかないようだったがしぶしぶ引き下がった。

「そういえば、今日のお昼は豚肉のしょうが焼きでもしましょうか」

「いいんじゃないか?」

精霊王達(つーか、ソフィアとアクアリアス)が来なくなったことで俺の食事がピンチになった。

そんなつもりはなかったのだが、リアの家にいるうちに昼飯、夕飯はこの家で食うようになった。こいつの親父ゼノも最初は良い顔しなかったけど、最近は諦めている。

いかんいかんとは思うのだが、こいつの料理はうまいし、タダでいいですよ、と言ってくれるし……。それに尻尾を振りながら愛想を振りまく自分がいることも事実である。

こういうのをなんて言うんだったか……餌付け?

「違う!」

「えっ?別のメニューがいいんですか?」

「……いや、そうじゃない。ちょっと自分自身の突飛な考えに突っ込みを入れただけだ」

「はあ。よくわかりませんけど、そういうことにしておきます」

うむ。素直なやつは好きだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言うわけで花火大会当日だ。

会場のフィンドリア国立公園では出店が所狭しと立ち並んでいる。

「あ、金魚すくいがありますよ」

「……そうだな」

リアはそれはもうおおはしゃぎ。でかい子供を相手しているようだ。少し目を離すとどこに行くかわかったもんじゃない。

今回も、金魚すくいの屋台に突っ込んでいった。少しは俺の存在を覚えていて欲しい。

苦笑しながら俺も金魚すくいの屋台に向かってみると……

「なにをしとるんだ、お前は」

その屋台の主人はアルフレッドだった。

「見てわかるだろ。小遣い稼ぎだ。毎年の恒例なんだよ」

「はあ、そうなんですか。じゃ、私一回やります」

クラスメイトを見ても動じた様子はなく、リアは20メルをアルに渡してあの金魚をすくうやつを受け取る。

「そういえば、お前生きていたのか」

「なんだよそれ」

「だって、前の海水浴ん時……」

その話題をだしたとたん、アルの顔が青ざめていく。

「お、おい、どうした?」

「………………思い出させるな」

いったい、サレナはアルになにをしたのだろうか。まあ、聞かない方がいいようだけど。こいつがあの時の俺の行動についてなにも聞かないところを見ると脅迫を受けたことは確実だが。

「あう〜〜」

そんな話をしている間にも、リアの果敢な挑戦は続いていたらしい。

間の抜けた声に反応して振り向いてみると、

「一匹もとれてないじゃないか」

そう、一匹もとれないうちにリアの網は破れていた。

「……けっこう難しいんですよ」

「そうは見えないが」

隣の子供の集団も、それぞれ一匹か二匹くらいはすくっている。これはただリアが不器用なだけだろう。

「だいたい、金魚なんかどうする気だ。飼うのか?」

「……考えてませんでした」

だと思った。

「じゃ、俺たちは行くから。頑張れよ」

「ああ。そうだ、これをやるよ。出店のタダ券だ。もらったはいいけど、どうせ俺は使えないしな」

受け取ると、食べ物屋のタダ券だった。たこ焼き、たい焼き、綿菓子……

「おお、サンキュ」

「気にすんな。まあ、お前らはデートを楽しんでこい」

………はい?

「なんだそれは」

「男と女が二人で遊びにでかければそれはデートだろう」

いや……違うとは言わないが。

「そんなんじゃない」

妙に照れくさくて、俺は早足でその場を立ち去った。

 

……ちなみに、リアを忘れて歩いてしまったので、後からものすごい怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、アルからもらったタダ券で食べ歩きをしていると、

「むむっ!貴様はルーファス!!」

ものすごく久しぶりの登場のダルコに遭遇した。

忘れている人も多いだろうから、説明しておくが、リアに惚れているクラスメイトで俺を目の敵にしているオーバーリアクションが得意のやつだ。

「お前、そんなに一言一言気合い入れて疲れないか?」

「おお!リアさんもご一緒でしたか!いやいや、終業式以来ですな!お元気でしたか!?」

無視かよ。

「はい。元気でしたよ」

「それはなにより!で、どうでしょう?これから僕と回りませんか!?」

……俺の存在をまるっきり無視することにしたらしい。あとで、少し『お仕置き』が必要みたいだな。

「えーと、嫌です」

「は?」

「私はルーファスさんと二人で回りますから、嫌です」

ダルコは引きつった表情で無視していた俺に向きなおる。

……いや、それは逆恨みというものじゃないだろうか。俺にはなんの責任もないし。リア本人がきっぱり嫌だと言っているんだからここは引き下がるのが男らしいのでは……

もちろん、そんな理屈はこいつには通じない。

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

目に涙を浮かべながらダルコは俺に殴りかかってきた。

…………はあ。

「ふっ!」

短い息と共に、一瞬でダルコの懐に潜り込み、ボディに一発。

「ごふっ!?」

さらに首が下がったところで突き上げるようにアッパー。

それで完全にダルコはノックアウトした。

……こいつに同情しないでもないが、俺は自分が襲われかけて優しくできるほど出来た人間じゃない。

「ダ、ダルコさんどうしたんでしょうか?いきなりルーファスさんに突っ込んでいって……」

本気で言っているこいつが怖い。

それはともかく、さっきのやりとりで思いっきり注目を集めてしまった。これはまずい。下手したら自警団にでも連れて行かれるかもしれない。

そうなると、あんまり面白くない事態になる。

「逃げるぞ」

おろおろしているリアの腕を掴み、とりあえず会場を離れる。祭り客がたくさんいて脱出は結構難しかったが、そこはそれなんとかなった。

フィンドリア国立公園を出て、ひっそりした街道を走る。

「ま、ここまでくれば大丈夫だろ

「る、ルーファスさ〜ん」

……リアはへろへろになっていた。普段あんまり運動していないからな。

「い、いきなりなにするんですかぁ」

「あそこにずっといるわけにもいかないだろう」

「それはそうですけど……。そろそろ花火が始まる時間ですよ」

そのセリフとほぼ同時に遠くの方でどーんという音が聞こえた。

「けど、今戻るのはすこしまずいし……あ、そうだ」

「え?どうしたんですか?」

「考えてみれば会場じゃないと見えないってわけじゃないだろ」

「でも、ここからだと建物が邪魔でよく見えませんよ?他の場所もだいたいそうです。あの公園じゃないと」

わかってないやつめ。

「……ちょっと失礼……『ハイジャンプ』」

リアの腕を掴み、ジャンプ。

「はわ!?」

ここらへんで一番高い建物の屋根に見事着地。

いきなりの展開にリアは目を白黒させている。

「ここからならよく見えるだろ?」

「は、はい確かに……。でも、事前に言って下さい。びっくりしたんですから……」

非難するような瞳からさりげなく目をそらし、花火が上がっている方向を見る。

「おお、見ろリア。綺麗だなあ」

「……はい、そうですね」

まだ不機嫌っぽいが、なんとか許してくれたらしい。

そのあとは並んで座って花火を鑑賞した。一応、逃げるときも片手で掴んでいたたい焼きを食べながら。

 

 

 

 

 

 

 

「……終わりましたね」

「ああ」

一時間ほどで花火は終わってしまった。しかし、宮廷魔術師総掛かりとは言え、よく一時間も花火を上げ続けられたな。

「……そういえば、リア。お前の好きな色はなんだ?」

「え?んーと、ピンクでしょうか?」

「そうか」

「なんですか、急に」

不思議そうなリア。まあ、ちょっとしたプレゼントだ。

「聞くが、今日の花火だが誰が、どうやって上げている?」

「え?確か宮廷魔術師の人が魔法で……」

「そう、花火ってのは魔法でもできるんだよ」

ピンク色の光球を作り出した俺を見て、やっとリアは意図が分かったらしい。

「見てろよ。特大のを上げてやる」

直径50cmほどの光球。しかし、これにはさっきまで上がっていた花火の何倍もの魔力がこめられている。

「いっけーー!!」

上空に向け光球を飛ばす。数秒の飛行の後、花火としては前代未聞の高度でそれがはじけた。

ド――――ン!!

「わあ……。すごいですね」

夜空をいっぱいに埋めるピンク色の花火にリアはうっとりとしている。

俺はと言うと……

「………(汗)」

ちょっと調子に乗りすぎてしまったと後悔していた。

この花火なら、セントルイスとは言わず、ローラント王国全土で見ることが出来るだろう。それほど巨大な花火。誰が上げたんだと騒ぎになるに決まっている。

「……ま、たまにはいいか」

どーせ、気付かれやしない。上げた場所は特定できるかもしれないが、俺がやったという証拠なんてどこにもないんだから。

「と、ゆーわけでここを離れるぞ」

「え?なんでですか」

「『え?』が多いぞ。いいから離れるんだ。じゃないと、俺が上げたってばれる」

そして、なに食わぬ顔で会場に舞い戻った。案の定、騒ぎになっていたが俺たちに注目するやつなどいない。この騒ぎのおかげでさっきのダルコとのことなどまったく忘れ去られているし……。

ま、その後俺とリアは再び出店を堪能したわけだ。

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