魔術師、というのは現代ではもう数えるほどしか残っていない、と言われている。

 そも、遥か過去、秘術というものが登場して以来、魔術の有用性は地に落ちた。それも当然で、魔術というものは極少数の資質のあるものが厳しい修行の末やっと会得できるというものだ。

 病人など、極端に生命力の低下している者を除いた誰もが使える秘術の利便性には到底敵わない。

 大きな間違いである。事に、戦場においては。

「縛れっ!」

 フィーの叫びが世界を震わせる。魔力の指が、地面を撫でる。

 まるで星がその言にしたがったかのように、土くれの鎖がブロンテスの足を縛った。

 顔無し巨人の動きが止まる。その巨体に比べ、なんともか弱そうに見える鎖は、フィーの魔力により今や何者にも千切れぬ鎖となっている。

 身動きできないと判断するや、ブロンテスは真正面にいる俺達にその内蔵火器を向けた。

「守れっ」

 再び、フィーの叫び。自在に蠢く地面が隆起して、俺達を守る盾となった。

 たかが土の塊、吹き飛ばすのはわけもないはずの秘術で強化された砲弾が、その盾に完全に防がれる。

 それはそうだろう。たかが銃弾程度の小さな物体に刻んだ秘術では、魔術を突破するほどの貫通力は到底得られない。

 それが、秘術と魔術の大きな違いの一つ。

 秘術を魔術に置き換えるならば、秘術式は呪文や図形といった術そのものの効果を表すもの。秘術式が刻まれるミスリルは、魔術師の肉体となる。

 多くの人は、秘術式の方に眼を奪われがちなのだが、意外と重要なのはミスリルのほうで、単純な話、ミスリルに込められる魔力には限界がある。要するに、規模のデカイ秘術を発動させようとするならば、相応にデカイミスリルの塊に式を刻まなくてはならない。

 ただ、人間の場合、これに上限がない。いや、あるのかもしれないが、限界まで行った人間は歴史上存在しない。少なくとも、ブロンテスの最大出力よりはずっと上だ。

つまり、である。秘術という『余計なもの』を挟まない魔術師たちは、(無論、彼らのレベルにもよるが)それだけでブロンテスが内蔵している秘術に匹敵、あるいは凌駕するほどのポテンシャルを持っている。

 古代文明に曰く、最高位の魔術師は、単体で国を落とすことも可能だという。

「いっきますよぉっ!」

 フィーが、杖を構える。銀の地に金の装飾が施された優美な一振り。しかし、ただの飾りではない。フィーの魔術行使を補助し、世界に命令を下す媒体となる、「魔術師の杖」だ。

 その杖の先端に、炎が凝縮していく。通常の赤い炎と違い、その色は紅。自然界には存在しない純粋な炎、真火。温度は極高温。本来ならば、炉などの大規模な秘術施設でしか生成、制御は出来ない。

「真火砲ォ!」

 まんまかよ、と突っ込みたいのをぐっと堪える。魔術において言葉は重要だ。意味は、端的であればあるほど良い。

 それに、その威力を見てしまっては、俺はなにも言えない。なんでオリハルコン製のブロンテスの指が消し飛んでるんだ。普通の熱でどうこうなるような素材じゃねぇぞ。あれくらったらたかがタンパク質の塊(注:人間とか)なんて消し炭すら残らないって。

 しかし、その戦果にフィーは不満なのか、唇を尖らせてこちらを恨めしげに見てきた。

「硬いですね……まったく、ゼータさんのご先祖様も、厄介なものを作ってくれたものです」

「フィーーー! それはオフレコだっつーのっ」

 その言葉に、呆けていたアルの瞳に力が戻る。

「ゼータさん……地元に帰ったら、国からの召喚を楽しみにしていてくださいね?」

「待て、もう時効だ。第一、俺の先祖ではあっても、俺自身がやったわけじゃあ」

「そんなんが通用するとでも? なんなら、危機報告義務を怠ったとか適当な理由をでっち上げることも出来るんですよ」

「でっち上げかよ」

 なんて話していたら、小さい炎がこっちに飛んできた。

「ぅあちっ!?」

「女の子が頑張っているのに、なに二人して呑気な話しているんですか」

 そういうお前も、こんな状況なのに律儀に文句はつけるんですねっ。

「とりあえず、二人は逃げてください。アレはわたしが片をつけます」

 ぐっ、と自分の杖を握る手に力を込めるフィー。その背中は、なんかやたら男らしくて頼もしい。

「逃げろっつーなら、その前に俺達を連れてくんなよ」

 いや、いくらスゲェ力持っているとしても小娘一人に任せっきりにするほど俺も落ちてはいない。……う、嘘じゃないよ?

しかし、実際問題……

「うーむ」

 足元を縛られ、その場に縫いとめられているブロンテスを見る。

彼奴めは、俺が吹っ飛ばした頭がなくてもちゃんとこちらを把握するセンサーを備えているらしく、フィーと睨み合って(眼がないが)いた。

 全長何メートルあるんだコイツ。こんなんに、ちょっと銃を持ってるだけの普通人である俺が立ち向かう? インポッシブル! ありえねぇっ! つーかフィーの足を引っ張るのが眼に見えてる。

「わりぃ、フィー。そういうことなら任せた。俺は逃げる。アル、手伝ってやってくれ」

 無言で石つぶてが飛んできた。躱したと思ったら、途中で軌道が変わって頭に当たった。……コレも魔術か? 魔術なのか?

「逃げてどうするんですかっ!」

「いや、お前さっき自分で……」

「単なる言葉の綾ですっ。それより、ハーヴェスタ行って、お母さん呼んできてくださいっ」

「あ?」

 見ると、フィーがやたら苦しそうにしている。

 ……なんだ?

「こいつ、止めるのも限界なんですよぅ! お母さんなら、こんなやつ指先一つでダウンさせちゃいますが、わたしじゃ勝てないっぽですっ!」

 あ、もしかして、まだブロンテスの足元の鎖でやつと綱引きやってたわけか?

 じゃあ、魔術で突っ込みなんて入れるなよ、などと指摘したら、また条件反射で無駄な力を使ってきそうなので、俺は口をつぐんだ。

 ……にしても、オリヴィアさんも魔術師なのか。いや、魔術ってのは世襲する例が多いらしいから、決して変じゃないんだが……魔術師って言うより、魔女じゃないのか、あの人は。

「わかりました。私がひとっ走り行ってきましょう。ゼータさんはここに」

「アル?」

「怪我をしていても、多分ゼータさんよりは私の方が速いです。ゼータさんは、フェアリィさんに付いていて上げてください。その方が元気が出ますよね?」

 ニヤリ、と意味ありげな笑みを浮かべ、フィーにウインクしてみせるアル。

「あ、アルさん! こんな時にそんな話っ!」

「いえいえ。魔術に関してはさわりを少しだけ齧った程度ですが、なんでも精神状態にかなり左右されるそうじゃないですか。元気な方が、良いですよね?」

 フィーはなぜか顔を赤くしながら、

「もう、好きに言ってくださいっ!」

「はいはい。……それよりフェアリィさん。オリヴィアさんも、別に呼びに行かなくても、そろそろ騒ぎに気付いてくれるんじゃないでしょうか? もう既にハーヴェスタから見えてると思いますし」

「無駄です。お母さんは朝に弱いんです。どんな騒ぎになっても自力じゃあ昼になるまで起きません」

 だからお願いします、と頼むフィーに、アルは上官に対する礼で持って答えた。

「じゃあ、ゼータさん、あとはよろしく」

「フィーに言ってやれ、それは」

 今の俺の立場は傍観者A。もしくは応援者Aである。何かを期待されても困る。

 と、言おうとしても、既にアルは走り出していて、その背中はどんどん小さくなっていっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜」

 フィーが脂汗を垂らしながら奮闘している。

 実際、余裕がないんだろう。ブロンテスを縛っている土の鎖は、最初の数を数本減らしている。奴に、引き千切られたのだ。

 弾を撃ってこないのは、無駄弾を嫌ったのか、射出する魔力もケチっているのか、どっちかだろうか。

「一旦開放して、攻撃なり撤退なりしたほうがいいんじゃないのか?」

 このままじゃジリ貧である。

「無理です。私、真火砲以上の攻撃魔術知りませんから」

 ほとんどダメージがなかった上に、攻撃系は防御系に比べて慣れてないせいでやたら魔力を食うらしい。撤退は論外。こいつのサイズからすれば、眼と鼻の先にハーヴェスタの町があるのに、ここを譲れるか、と強い意思を込めた口調で断言された。

「やれやれ……」

 俺としては、最悪ハーヴェスタに被害が及ぼうが逃げ出す心算だったのだが、アテが外れた。

 流石に、フィーにこんな風に言われては、逃げることは出来ない。それは、すごく格好悪い。

「じゃあ、ちょっと悪あがきでもするか」

 銃を取り出し、残り五発となったタスラム弾頭をセット。たった五発。だが、威力だけならフィーの真火砲とやらとそう大差はない。

 要は、これだけでは致命傷は与えられないってことだ。だけど、だ。

「フィー。余裕がある分だけでいいから防御頼むな」

「え、っと。ゼータさん、もしかして、なんですけど」

「俺の銃の腕を信じろ。俺はこれ以外に取り得がないんだぞ」

 ブロンテスの火器の口径は俺のそれよりずっとでかいので、そん中にぶち込むのは……まぁ簡単とは言わないが、不可能じゃない。うまくすれば、頭を吹っ飛ばした時みたいに大ダメージを期待できる。

問題は、こっちが一発撃ちこむ間に向こうは何十発と撃ってこれることなんだが、そこは俺の運のよさと逃げ足の早さと、フィーの魔術に期待しよう。

「そんな日常生活で一切役に立たない技能の自慢はいいです。それより、本気ですか?」

「本気も本気だ。子供にばっかり戦わせて、大人はその後ろで見物なんて、格好悪いだろ」

「子供って言わないでくださいっ! もう大人ですよっ」

 ある一部分が子供だとは言わないでおいてやろう。

「まあ、任せろ。もし死んだら、お前を恨んで化けて出てやるから」

「んもうっ! もし死んだら、わたしの使い魔として生き返らせますからねっ!」

 何を馬鹿な、と思ったが、そういえば魔術にはネクロマンシーという術があったはずだ。死体を用いて、ゾンビを作り出す魔術。生前の人格なんざ残らないので、蘇生とは違うが、それでも自分の死後の肉体の扱いがそんなのでは成仏しきれない。

「それは怖い。ぜひとも頼む」

いつもの馬鹿話をしているせいか、緊張感を持ちながらも、ちゃんと身体はリラックスしてよく動く。

「さて、流石にこれはマジで命がけだな」

 手に馴染んだグリップを握りなおす。

「俺の弾、五発。全弾ぶち込んでやるから、覚悟しろコラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る。走る。走る。

 怪我をした脇腹が痛む。辛うじて皹で済んでいるけれども、それでも一歩踏み出すたびに倒れこみそうな激痛が走る。

 常備してある痛覚を和らげる薬を飲んでいなかったら、とっくに限界を超えていただろう。

 でも、足を止めるわけには行かない。残してきたゼータさんとフェアリィさんが心配だ。

 特にゼータさんは、絶対に無茶をやらかす。彼一人であるなら、危なくなったらとっとと逃げ出すだろうから心配要らないが、フェアリィさんが一緒だと話は別だ。

 ほどなく、街の入り口に辿り着く。

 本当に、殆ど離れていなかったらしい。見ると、まだ朝早いながらも、何人かが近くに迫っている巨大ゴーレムに気付き、騒ぎ始めている。

 あまりあのゴーレムの存在が広まるのはよくない。後で、適当に噂をもみ消さなければならない。

 ……こんな時でも、仕事の事を忘れない自分に、僅かに嫌悪を感じる。

「いや、これも余計な考えだな。今は、」

 意識して声を出し、目的を明確化する。

「今は、オリヴィアさんに事態を伝えるのが最優先だ」

 オリヴィアさんも魔術師だという話だ。エルラント家の一族は魔術師、という情報が心のメモ帳に書き込まれる。

……いけない。流石に、あの母娘のことは報告を控えよう。

仲間には甘いとよく言われるが、男性であるゼータさんはともかくとして、女性である二人は裏切れない。これは私の矜持の問題だ。

考え事をしていると、すぐに風月亭に付く。中に入る前に後ろを見て、ブロンテスの位置を確認。……どうやら、まだ動いてはいないようだ。

全速力で一階のオリヴィアさんの部屋に向かう。

「……む」

 承諾もなしに女性の部屋に入ることに僅かに抵抗を感じるが、そんなことを言っていられる状況ではない。思い切ってドアを開けた。

 中央のベッドで寝ているオリヴィアさんへ、慌てて駆け寄った。

「オリヴィアさんっ! 起きてください」

「ん〜?」

 大声で呼びかけるも、起こすんじゃないとばかりに、オリヴィアさんは布団を被って音を遮断しようとする。

「お願いしますっ! 朝早くに申し訳ありませんが、一刻を争うんです!」

「あ〜」

 ……声だけでは起きそうもない。仕方なく、肩を揺さぶった。

「オリヴィアさんっ!」

「……なに〜、ってアルさんじゃないですか」

「よかったっ! 実はですね……」

 ぼんやりとオリヴィアさんは窓を見る。

「もう明るいじゃないですか〜。……夜這いならぁ、日が沈んでいるうちにお願いしまスゥ〜」

 最後は既に寝息になっている。……というかっ!

「違います! そんなことをしにきたわけじゃありません! ゼータさんが大変なんですよっ!」

「ゼータさんん? またフィーにボコられたのぉ?」

「そうではなく! 秘跡に隠してあった巨大ゴーレムが起動して、今ゼータさんとフェアリィさんが足止めしているところで……」

 ああ、もうっ! 慌ててしまって、うまく情報を整理できない!

「あ〜、ゴーレムね、ゴーレム……」

「オリヴィアさん、お願いしますから起きてくださいーーっっっ!」

 私の悲痛な叫びが、朝の風月亭に響いた。殆ど同時くらいに、遠くから破裂音。

 まさか、と窓に駆け寄って、外の様子を見てみると……腹部から煙を上げているブロンテスの姿が遠くにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いいいいい、一発クリアー!」

 自らを囮にして、ブロンテスの銃口を開放させた俺は、その中の一つに見事銃弾をぶち込んで誘爆させてやった。

 スゴイゾー、俺。さすがだー!

「一発クリアは良いですけど、早く逃げてくださいっ!」

 阿呆か、フィー。逃げれるモンだったら、とっくに逃げとるわい。

 いやはや、フィーのフォローがなかったらこの時点で死んでいる。

一発ぶち込んでやったのは良いが、その後に来た掃射から逃げるのが難しい。幸いにも、フィーが操ってくれた土の盾が守ってくれたので、撃った直後は大丈夫だったのだが、フィーもそんなに余裕があるわけではなく、射撃が途切れた合間を縫って後退している最中だ。

 だからさぁ、ブロンテス。君もそんな律儀に追撃しなくていいんだって。

「ゼータさん! とりあえずここまで……」

 フィーが、自分で作った壁の後ろで手招きをする。

 んなのわかってんの。そこまでいきゃあ安全だってことぐらい! でも、あれですよ。そこまで行けないように撃たれているんだから仕方ないだろっ!

 ええい、制御機構は暴走するくせにに、戦闘ロジックだけはしっかり詰め込んでやがるっ!

「い、ちか、ばちかぁっ!」

 射撃の間隙の一瞬に、後ろ――ブロンテスがいる方を振り向いて銃を構える。

 ロクに狙いをつけられぬまま、一射。

「あったれぇぇぇーー!」

「……当たるわけないです」

 ぼそっ、と呟いたフィーの心のないコメント通り、俺の撃った弾丸は、惜しくも銃口をそれ装甲部分に。当たった箇所は多少削れているが、内部の炸薬を誘爆させた場合と比べてダメージ量はずっと少ない。

 しかし、それで怯んだのか(ゴーレムに怯むというのがあるかは知らないが)、なんとか俺はフィーのいるところまで下がることが出来た。

「し、しししし、死ぬかと思った!」

「よかったですね。死ななくて」

「感動薄っ!」

 まだ心臓がバクバクいっている。

 フィーの作った壁を突破することは出来ないと判断しているのか、その後ろまで逃げた俺にブロンテスは追撃してこなかった。

「でも、これで残り三発か」

 もう一度突っ込むのは、ちょっと御免だ。大体、一発うまく当てたとは言っても、多少大きな穴をぶち空けてやったというだけに過ぎず、ブロンテスを崩すことは到底不可能だ。中枢を叩かないと、ブロンテスは止まらないだろう。

「……中枢、か」

 設計書を読んでいるので、位置は分かっている。俺達人間と同じ、心臓の位置だ。

ちなみに、破壊した頭部は、元々人が乗り込むコックピットにする予定だったらしいので、重要なパーツは入っていなかった。

あんな欠陥兵器に人を乗せようとした俺の先祖の頭の発酵具合はこの際無視するとして、残りの手玉三発で中枢を叩けるか、と俺は考え速攻で却下。

例え、タスラムが十発あっても特別堅固な外装で覆われた中枢部分は叩けない。

「ゼータさん。あと五分もちそうにないです」

「マジで?」

「はい。さっきゼータさんが前に出ているときは抵抗が薄くなっていたので、もう一回突撃してみる気ありませんか」

「却下だ。大体、数十秒も稼げねぇだろう」

「いえ、数十秒あれば、お母さんが来る可能性も高くなりますよ」

「いくらなんでも、命を賭けるには分が悪すぎる。あの人の寝起きの悪さは、俺も知ってるぞ」

 しかし、抵抗が弱くなっていたのか。……まぁ当然だ。ブロンテスが駆動しているのはあくまで秘術によるもの。銃を撃つ、というアクションをする以上、そちらに魔力を取られて、抵抗が薄くなるのは道理。

「……ん?」

 そう、結局のところ、ゴーレムが動くのは秘術の力によるものだ。足にある『足を動かす』という秘術に魔力を通して歩きもするし、火器に刻まれている『弾を撃つ』という秘術に魔力を通して弾丸を発射する。

 そして、その魔力はすべて内蔵のバッテリから供給されている。

 バッテリ自体の破壊は、中枢と同じ理由で不可能だが、魔力を通している秘術式自体は別だ。

「おいおい、アホか」

 言うが、脳内で何回もブロンテスの設計図と実際の外見を比べて、不可能じゃないとわかってしまう。

 結局のところ、人型をしている以上、足がないと満足な移動力は発揮できない。つまり、『足を動かす』という秘術式を破壊してしまえば、ハーヴェスタまで侵攻される危険はぐっと低くなる。

 破壊するのは重要な文字だけで充分。それならタスラムの破壊力で充分。

 問題は、その『重要な文字』がある位置が結構足の中心近くであり、三連射してもその文字を破壊できるかどうかが微妙であること。だが、もっと至近距離なら、可能性はぐっと高まる。

「おいおい、命がけですか」

 でも、今度のコレは割りと勝算はデカイ。俺はちょっと震えながら、フィーに作戦を説明し始めた。