良也の行方不明が判明してから三日目。 今日も昼前から各方面の面々が博麗神社に揃っている。 「で、予想通り紫と幽々子はきてないのね。」 「幽々子様は急用で遅れるそうです。」 「紫のほうは・・・まあいつものことだな。」 ついでに言えば永琳たちも来てないわね、と霊夢は大きくため息を吐き、レミリアの方へと視線を向ける。 「まあいいわ・・・それはそうと、レミリア。あなたの方は大丈夫なの?」 「心配ないわ。フランも起きているし、美鈴もいつも以上に警戒してるから。」 「そう。それじゃあ、確認といきましょう。」 昨日、紅魔館を急襲してきた人物。魔理沙を除いて全員一つの可能性に行き当たった。 今日はその可能性について話してもらう為に集った。 「まず、あの敵は私やフラン。それに咲夜の能力が効かない。」 「・・・気付いておられたのですか。」 「ええ。敵が逃げた時と、あなたが戻ってきた時で表情が変わっていたもの。咲夜の時間の中でも動けたのでしょう?」 「あの者の太刀筋には私も見覚えがあります。」 「私も・・・最後の風が少し・・・」 よもや全員の仮説は同一のものであった。 「はぁ・・・やっぱり、そういうことなのかしら・・・」 「ん〜、霊夢。まだよくわからないんだが。」 魔理沙が未だに察せないのは仕方のないことだといえる。 魔理沙にとって、いや、全員にとって『考えられない』事態なのだから、それに確証もなく未だに可能性の域を出ない。 「簡単に説明するわ。香霖堂と紅魔館を襲撃したのは」 結論を口にしようとした霊夢。それを遮るように、何かが襖を破って突っ込んできた。 「おっと。」 たまたま直前上にいた魔理沙がそれを受け止める。 「まったく・・・霊夢が何かを話そうとするたびに邪魔が入るわね・・・あら?」 レミリアが魔理沙の懐にいるものに視線を向ける。 そこには、服が所々破れていて傷だらけの氷精、チルノがいた。 「チルノじゃない!?一体どうしたの?」 「・・・大丈夫だ。気を失ってるだけだぜ。」 全員破れた襖の奥・・・神社の庭を見据える。 砂埃ではっきりとは見えないが、そこには確かに人影が立っていた。 「・・・どうやら、パチェの推測は外れたようね。」 レミリアの呟きを合図に全員、居間から出る。 「まったく。香霖堂、紅魔館ときて次は私の神社・・・冗談にしても笑えないわね。」 「更に笑えない冗談を持ってきたわよ。」 霊夢たちの背後。大きく穴の開いた襖の方から紫が現れる。 「幽々子様?紫様と御一緒だったのですか。」 「ええ。ちょっと外の世界まで。私達も無関係とはいかなくなってしまったもの。」 「で、あいつは一体何者なんだ?」 ミニ八卦炉を敵に向けつつ再度質問する魔理沙。 「そうね、全員わかってはいるんでしょうけど・・・答え合わせは必要ね。」 幽々子は口元を隠していた扇子をぱちんと閉じ、敵を見据える。 「と、いうことよ。いいかげんその趣味の悪い服装はやめたらいかが? 良也。」 この紫の一言に、全員動じる事もなく身構える。 「・・・ふふ、あはははははは」 いきなり笑い始めた敵は、身に纏っていた覆面と黒の布を脱ぎ捨てる。 そこには、一月ほど前から行方を眩ましていた外来人。土樹良也がいた。 「いつから気付いたんだ?僕は一言も声を上げなかったし、顔を見られるようなこともしてないぞ?」 「あれだけ自分の力を見せておいて気付かれてないと思っていたの?私達も舐められたものね。」 レミリアが前に出る。 「良也。弁解の言葉はある?まあ、あなたにどんな理由があれど私の大切な友人を傷つけた罪は償ってもらうわ。」 「いやだなぁ。僕はレミリアだけに用があって行ったんだよ。そしたら美鈴たちが襲ってきたから抵抗しただけだ。」 「・・・香霖堂を襲ったのも・・・良也なのか?」 「さてね、準備運動程度の事だからよく覚えてないよ。」 「先生・・・一体なにを考えているんですか・・・」 「おいおい東風谷。そんなに睨まないでくれよ。 ・・・考えねぇ・・・まあ、強いてあげるなら・・・」 幻想郷を消すこと 「幻想郷を消す・・・ですって。」 普段は飄々として胡散臭い態度の紫が、それを微塵も感じさせないほどの怒気を発する。 「そうさ。例えば、こんな風に・・・っさ!」 左手を上に翳す良也。その手のひらに巨大な霊弾が現れ、それを自分の背後の森に放り投げる。 ズズズ・・・という鈍い音と振動。霊弾を投げられた森に巨大なクレーターができる。 「でも、そのためにはスキマ達が邪魔なんだよ。」 更に両手を前に突き出し、森を破壊した時より倍以上の強大な霊弾を生成していく。 「ちょっと!?あんなものぶっ放すつもりなの!?」 「ははは、これくらいなら避けられるだろう?」 驚愕の表情を露わにする霊夢に対し、狂気にも似た笑顔で霊弾を強化し続ける良也。 確かに、良也の言うとおり避けるだけならここにいる全員できるだろう。 居間には気を失っているチルノがいるが、彼女を連れ出すのも難しくはない。しかし、良也が本当に『幻想郷を消すこと』を目的としているなら、あの霊弾は避けることはできない。 この場所、博麗神社は博麗大結界の中心。実際は霊夢と紫がいれば結界の再構築はできるのだが、この神社もろとも土地を消滅させられると結界の固定が出来ず非常に不安定なものになってしまう。 つまり、結界の崩壊による幻想郷消滅が目的である良也の攻撃は、全て受け止めるか相殺させるくらいしか方法はない。 「今の先生は正気を失っています!やるしかありません!」 早苗が覚悟を決め、懐からスペルカードを取り出す。 それを皮切りに、その場にいる全員が臨戦態勢に入る。その時 「・・・ちっ」 突如良也の手元の霊弾が歪み始める。 「これだけ抵抗されちゃ・・・仕方ない・・・な。」 良也はすぐさま踵を返し、飛び立つ。 「「待ちなさい!」」 霊夢、早苗が良也を追いかけようと飛び始める・・・が、目の前に現れた隙間によって阻まれる。 「紫!邪魔しないで!」 「駄目よ。これからあなたたちには聞いてもらう事があるわ。それに、魔理沙で追いつけないなら鴉天狗でも良也を追いかけるのは難しいわ。」 「先生・・・どうして・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 * * * 「・・・・・・・・・・・・」 神社の居間。全員を重い沈黙が包む 「・・・あれは、本当に良也さんなの?」 ふとした、霊夢の疑問の声が沈黙を破る。 「誰かが良也に変装してるってことか?」 「いえ、そういうのじゃないんだけど・・・何か・・・こう・・・」 「何処から説明すればいいのかしらね・・・」 珍しく考え込む紫。その横で幽々子が簡潔に伝える。 「あれは間違いなく良也よ。ただ、中身は別物だけどね。」 「幽々子様。一体それはどういう事でしょう?」 「身体は私達の知ってる良也なんだけど、精神は別人ってことよ。」 「別人?誰かに憑依されてるのか?」 「憑依・・・というよりは乗っ取られる、でしょうね。」 魔理沙の疑問に紫が返す。 「乗っ取られるって、一体誰が良也なんかを乗っ取るのよ?」 レミリアが疑問に思うのも無理はない。 この幻想郷で憑依の類が出来るのは、竹林の蓬莱人、藤原妹紅ただ一人だからだ。それに妹紅ならば良也に憑依しないほうが強い。 他に考えられるのは魔法や呪術だが、良也は自身の能力のためそういったものには滅法強い。というよりは無効化されると言っても差し支えない。 「誰が・・・っていうより、人じゃないのよ。良也の腰に下がっていた刀。あれが原因よ。」 何時の間にやら扇子を取り出していた幽々子。 「あの黒い刀。やはりあれは・・・」 「妖夢の考えている通り。あれは先代の庭師、つまりあなたの祖父が使っていた一振り『黒楼剣』よ。」 「あの・・・では、その黒楼剣という刀が先生の意識を奪っている。ということですか・・・」 「幽々子のところはそんな妖刀みたいな物もあったの?」 霊夢の妖刀発言で紫以外の全員が幽々子に視線を向ける。妖夢も不安な表情で見ている。 「あら。別に始めからそんな物騒な代物だったわけじゃないわよ。」 「先代の庭師やら黒楼剣やら・・・わからないことばかりだぜ・・・」 「じゃあ、それを踏まえて説明したほうがいいかしら?」 ちらっと紫のほうへ視線を向ける幽々子。 紫は「仕方ない」と言わんばかりのため息で返した。 「黒楼剣はね、『人の想いを絶つ』刀として、大体300年くらい前の先代庭師の魂魄妖忌が使っていたの。」 「この白楼剣と対をなすような刀ですね。」 「名前的にはそうなんだけど・・・白楼剣は黒楼剣の後釜として造られたのよ。」 緩やかな口調は変わらず、しかし淡々と幽々子は語る。 妖夢と同じく妖忌も二刀流の剣士だったという。 黒楼剣、楼観剣という二本の長刀を扱うため妖夢とは少々型が違っていた。 当時の冥界や幻想郷は現在ほど安定しておらず、妖怪などの無法者が多かったという。その無法者の中には人間もいたらしい。妖忌は人間であったにも関わらず常人離れした剣術を扱い、数多くの無法者を斬り捨てていった。 だが、斬り捨てていたのはあくまで妖怪だけで、人間相手の場合は黒楼剣で野心のみを斬り捨てて人里へ追い払っていた。 はじめは何ともなかったのだが、次第に黒楼剣に黒い霊力を帯びるようになってきた。 後からわかった事で、黒楼剣は想いを斬り捨てているわけではなくその負の想いを刀身に取り込んでいるようなのだ。 気が付いたときには既に鞘に収めても溢れ出るくらいに霊力が強くなっていた。 妖忌が行方を眩ました時、黒楼剣も楼観剣も残していた為、妖夢に継承させようとも考えたが当時の妖夢があまりにも未熟だったため紫との相談の末、外の世界に置くことにしたという。(実際に危険があるかは分からなかったが念のためという幽々子の配慮) 後に変わりになる一振り白楼剣が妖夢に与えられた。 「・・・と、こんなところかしら?」 「だとしたら、良也さんは何処で黒楼剣を見つけたのかしら?」 「恐らく、無縁塚よ。何かの拍子にこっちに流れ着いたようね。」 「・・・黒楼剣の過去についてはわかりました。が、少々謎な部分があります。」 レミリアの横で直立姿勢のままで話を聞いていた咲夜が疑問の声を投げかける。 「今の良也さんはその黒楼剣に意識が奪われていますが、当時の妖忌さんは何故意識を奪われなかったのでしょう?」 「それは、多分良也の力のせいね。」 「力?でもそれって『自分だけの世界に引き篭もる程度』の能力のことだろ?こういうものは効かないんじゃないのか?」 「確かに『外から』良也に干渉するだけなら効かないわ。だけど良也は黒楼剣を装備してしまっているの。」 「つまり、部屋の外と中じゃあ効き目が違うのよ。」 紫の説明に続くように幽々子が要約する。 「先生が乗っ取られたというのはわかりました。ですが、妖忌さんが無事でいられたのは・・・」 「話は最後まで聞きなさい。」 びしっと早苗に視線をやる紫。 早苗は、はいっといわんばかりに背筋を伸ばし姿勢を正す。紫が説明を続ける。 「黒楼剣が霊気を放出してるっていうのは話したわね?」 「ああ、黒い霊気だったぜ・・・」 魔理沙や妖夢は近くで見ていた分鮮明に覚えている。 ものすごく強大で、真っ黒というよりは淀みきった黒の霊気。 「あれは霊気っていうよりは、思念のようなものなのよ。」 「思念?黒楼剣が斬り、取り込んでいるって言っていた野心とかのこと?」 「そうよ。」 霊夢の問に一言で答え、そこから先は再び幽々子に任せようとした。が、幽々子が「今度は紫の番よ」とでも言いたげな笑みを送っている。 「はぁ、その思念は全てが邪念といってもいいわ。なにせ幻想郷でろくでもないこと考えていたものなんだから。」 「ただ黒楼剣を使っただけでは『禍々しい雰囲気の刀だ』くらいで済むでしょうけど、良也の能力下だと邪念が部屋の外に漏れないから良也は取り込まれてしまったと考えられるわ。」 「ふーん、その黒楼剣とやらは良也以外には乗り移れなかったのね。」 「あくまで推測なのだけれどね。」 ここまでくるともはや何処からが推測だったのかわからなくなる。 だが、敵が良也であるのは間違いない事実。 「では、どうすれば良也さんを助けられるのでしょう?」 「決まっているわ。その黒楼剣とやらを壊せば済む話でしょう。」 レミリアが腰を上げ外に出る。 「レミリア。何処に行くの?」 「館に戻るわ。良也が逃げたのなら、見つけられないでしょう?」 萃香や魔理沙、早苗たちが幻想郷中を捜しても見つけることができなかったのだ。 現段階では良也から出てくるのを待つしかない。 「そりゃそうだけど、二人だけは危険だと思うぜ?」 「私とお嬢様では、良也さんには勝てないとでもいいたいの?」 「勝てないわね。」 紫がそう言い切ると、レミリアの視線が鋭くなる。 「私が良也如きに勝てない?最近の妖怪は冗談も言えるようになったのね。」 「冗談じゃないわ。それに、天狗や鬼、霊夢でも勝てないわ。」 「おいおい、いくら良也が強くなったからって、霊夢が勝てないって断言できるほどの力は感じなかったぜ?」 「断言する要素は二つあるわ。まず、弾幕ごっこではなく殺し合い。そして相手が良也である事よ。」 みんな『良也』に攻撃できるか? 普段から良也に対してそのような扱いはしているが、当然のごとく殺意はない。 しかし、向こうは殺す気で来るのだからこちらも相当の力で戦わなければやられるのは明らか。それも強大な力を持つ相手ならば尚更だ。 というのが紫の言い分だ。 「・・・相手が誰だろうと、私に牙を向ける者には容赦はしないわ。」 そういい残し、レミリアと咲夜は神社を後にする。 「あなたたちも選びなさい。良也と戦う覚悟を決めるか、幻想郷とともに消えるか・・・」 「もちろん、すぐにとは言わないわ。次に良也と会う時までに決めればいいの。」 幽々子が腰を上げる。 「さあ妖夢。わたしたちも帰るわよ。」 「あ、はい・・・」 幽々子たちも引き揚げ、居間には四人だけになった。 「私も戻るけど、霊夢、早苗。あなたたちは特に注意しなさい。」 「え?霊夢さんはわかりますけど・・・私?」 「そうね、早苗も一応幻想郷の巫女なんだから、良也さんに狙われるわね。」 幻想郷を覆うほどの結界を張るには、中心となる場所にも力がなければならないらしい。 その場所が神社なら申し分ないという。 「だから、早苗自身も危ないけど、守矢神社も狙われるわ。」 「とはいっても、早苗のところには神様が二人いるからな。霊夢のところよりは安全だと思うぜ。」 「人の家を危険地帯みたいに言わないでくれる?」 とにかく、暗くならないうちに帰りなさい。と子供に言い聞かせるかのような台詞を言い残しスキマに消えていく紫。 「なら、私も帰るぜ。」 箒を手に、立ち上がる魔理沙。 「魔理沙は、決めたの・・・?」 小さな声で、霊夢は聞く。 「戦わなきゃ、私たちがやられちまう。でも、私たちが戦うのは良也とじゃない。」 魔理沙は言葉を続ける。 「良也を取り返すために、私は戦うぜ。みんなだって、そのはずだろう?」 「・・・魔理沙のいう通りね。」 魔理沙の答えが、霊夢の迷いを晴らす。 「あ、私も途中まで一緒に帰ります。」 魔理沙と早苗。二人が神社を去ってゆく。 「・・・さて、道具の整理でもしてようかしら。」 まだ日は沈みきっていない上に、あんな事があっては寝るに寝れない。 それに、チルノの様子も看なければいけない。 霊夢は神社の中へと入っていく。 (良也さんは・・・必ず・・・) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき はい、今回は敵の正体と諸悪の根源「黒楼剣」の過去話になります。 博麗大結界、みょんの祖父、黒楼剣については超妄想設定です。 もこたんの憑依能力は「そんなことが出来たような・・・」という朧気な記憶のせい。 バンバン話が飛びつつ先に進んでいるので、穴がいっぱいあるやもです^^; ここで折り返し・・・予定。なまじ最後を決めたら、繋げるのは意外に難しい 川orz 辻褄が合わないこと、変な設定は随時指摘受付中です。 少し時間がかかるかもしれませんが、「黒楼異変X」で再びお会いしましょう。 See you again! 2009/10/30 関根 |
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