「っーーーー!」


 数多もの霊弾が交差する紅魔館上空。

「美鈴!どいて!」

 先ほどまで敵と撃ち合っていた美鈴と入れ替わる様に、フランドールが突撃する。
 フランドールが本気で弾幕を展開すれば、レミリアや咲夜といえど苦戦を強いられる位に強い。

「うそっ!?」

 だが、そんなフランドールの超破壊力の弾幕を受けても敵は服の一部も綻んではいない。
 本気で撃った弾が全て効かなかったのだ。動きを止めてしまったフランドール。敵は見逃さずに高速の霊弾を数発撃ち込む。
 あっ、と表情を変えたのも束の間。一瞬でフランドールの目の前まで迫る。




「−バリアー−」




直前のところで、霊弾が弾かれる。


「パチュリー!?ありがとう!」
「単発だったから防げたけど、弾幕級になると流石に防げないわ。」
「もう油断なんてしないもん!」

 と言って敵に向き直すフランドール。

「本気で怒った! −禁忌『レーヴァ・・・」

 手を前方に翳しスペルを発動しようとするフランドールの脇を、一本の軌跡が掠める。その軌跡の先は槍の形を模していて、それは敵に向かっていく。が、あと少しというところで槍の軌道が曲がってしまう。曲がる直前、槍の先端と敵の間で何かぶつかった。硝子が割れるような音と共に槍は軌道を変え、地平の彼方へと消えていく。

「間に合ったようね。」
「お姉様!?それに、咲夜にこあも!」

 フランドールの背後からレミリアたちが到着。

「それにしても、一人相手にこんなに手こずっていたの?」
「仕方ないわ。なにせこっちの動きが何故か相手に知られているんだもの。」
「そうですよ〜。格闘にしても、私の攻撃が全て読まれちゃってて・・・」
「それに、私の能力が効かないんだよ!?」

 フランドールたちの攻撃を防ぎ、更には『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』が効かない敵など遭遇したことがない。レミリアと咲夜は敵がいた場所に眼を凝らす。先ほどの攻撃で煙が生じて見えにくくなっているが、時間と共に薄れていく。
 ゆっくりと敵の姿が現れはじめる。
 だが、その出で立ちは全身を黒の布で羽織り、覆面をしている。顔すら判別できないものだった。

「・・・それに、奴も本気を出していたわけでもなかったようですね。」

 咲夜が顔をしかめたまま言う。

「ええ、結局あの『剣』を使わせることはできなかったわ。」
「ここを襲ってくる目的もよくわからないんですよね・・・」

 ため息混じりに答えるパチュリーと美鈴。
 単身襲撃してきた敵は腰に一振りの剣を携えている。ちょうど、妖夢の楼観剣と同じくらいの長さだろう。
 その得物を抜かせる事も叶わずに、あしらわれている事になる。フランドールが苛立つのも仕方ないと言えば仕方ない。

「あの者が良也さん失踪の犯人かどうかも、襲撃の目的も、斬ればわかります。」

 そう言うと、妖夢は一枚のスペルカードを取り出し突撃した。

「人符『現世斬』!」

 妖夢が姿を消し、空中に一閃、光の軌跡が走る。
 一瞬後、十メートルは離れた位置にいた敵と妖夢の距離が零になる。

「何っ!?」

一瞬のうちに抜刀していた敵は、現世斬を見切り鍔迫り合いの状態にしている。

 現世斬は簡単にいうと、超神速の居合い斬り、である。軌跡が見える分回避されたり防がれたりすることもある
 (現に妖夢は過去に一度、霊夢と戦っておりその時はお払い棒を斬り落としただけで、霊夢に大きなダメージは与えられなかった。)
 その攻撃を、防ぐどころか妖夢の動きも捉えられてしまっている。動揺する妖夢の隙を見逃すはずもない。一時刀を引き再び斬りかかる。敵が黒塗り刃の刀を振るたびに、暗い剣閃が走る。
 使い手にもよるのだが、何かしらの力を持つ剣は剣閃が出るのだ。妖夢の白楼剣、楼観剣も同じだ。

(黒の刀?装飾も白楼剣に似ている・・・偶然・・・?)






 鍔迫り合いの状態から仕切り直し、弾幕ではなく剣術の勝負に出る妖夢。

 鈍い金属音が響く中で、レミリアたちは時計台の前に集まる。

「いいんですか?一人で戦わせても・・・」
「構わないわ。剣には自信があるようだし。」

 心配そうに妖夢の一騎打ちを眺める美鈴。
 それに、気になるトコがあるしね。と呟くレミリア。その表情は真剣そのもの。

「気になる所・・・ですか?」
「ええ、今の奴の動きを見ても、何処かぎこちない。これは本気を『出していない』のではない。」
「それは、本気が出せない。ということかしら?レミィ。」
「ええ、あなた達と違って自分で調整できていないように見えるわ。」

 気付いてたの?と、少し驚いた様子のパチュリー。

「私だけじゃないわ。咲夜も既に気付いていたわよ。」
「はい、先ほどの妹様のこともですが・・・パチュリー様も美鈴も、一枚もスペルカードを使っていませんね。」
「パチュリー様が『手の内を見せない相手にこちらの手を見せる必要はないわ』と言うことなので。」

 美鈴が付け足すように言い加える。
 伊達に『動かない大図書館』の二つ名を持っているわけではない。みすみす敵に情報を与え不利になるようなことはしない。今までの戦いも被害を最小限に抑えるように立ち回っていた。
 それは永い年月で裏付けされた、確かな知識によるのものだ。

「相手が本気を出せない理由はわからないままだけどね・・・」
「まあ、結論を出すのはもう少し後になりそうよ。」

 全員が、え?という顔をしたのと同時に、永遠亭へ向かった霊夢たちが到着する。

「あら?まだ戦っているの?」
「それに、相手はたった一人じゃないか。」
「レミィにも同じことを言われたわ。」
「それに妖夢も、ついて来てないと思ったら・・・レミリアたちのとこにいたの?」
「眼には眼を、剣術には剣術よ。」
「小悪魔の様子を見た限り、かなり強いみたいだな。」

 小悪魔のあの時の急ぎよう、更には劣勢とまで伝えられているのだ。
 そんな事を言いつつ魔理沙はそわそわしている。

「ああ、そういえば。小悪魔には細かい事情は伝えてはいなかったわ。」
「・・・どういう風に伝言させたのよ・・・」

 呆れたように言い放つ霊夢。その横を魔理沙が飛び出していった。

「魔理沙!?」
「移動してばっかで苛々してたんだ。アイツに一発ブチかまさなきゃ気が済まないぜ!」

 妖夢!どいてな!といいながら、高密度の弾幕を放つ。
 先程まで敵と斬り合いをしていたのだから、すぐによけれるわけがない。徐々に弾幕が黒ローブの敵と妖夢を包み込んでいく・・・

「妖夢さんまで巻き添えにするつもり!?」
 (えっ?妖夢・・・?)

 早苗の声で魔理沙がはっとする。
 妖夢は敵の動きに集中しつつ防御の姿勢をとる。回避に専念していれば敵に斬られる。かといって敵を意識していると魔理沙によって撃ち落とされてしまう。
 敵も刀を構え防御の姿勢をとろうとする・・・が、構えていた刀からおぞましい程に黒い霊力が溢れ出している。

 その直後、黒い霊力を纏った刀を一振り。

「くっーーー!」

 正面に構えていた妖夢は急降下しその剣閃を避ける。
 そのドス黒い霊力の剣閃は、魔理沙の放った弾幕を正面から包み込む。そして、何も無かったかのように弾幕と剣閃が収束し・・・消えた。

「魔理沙の弾幕でも・・・通じないようね。」
「ちょっと、アレ本当に人間なの?」
「霊夢には霊力以外の力を感じるのかしら?」

 時計台から見ているパチュリーが驚いた顔で呟く。
 魔法の技術や知識ならともかく、「魔法も弾幕もパワーだぜ。」が格言と化している魔理沙の弾幕は簡単には相殺できない。だが、相手はたった一振りで全ての弾をかき消したのだ。
 霊夢も信じられないといった様子で、レミリアに聞く。
 レミリアの言っている通り、敵からは霊力以外の力は感じない。この時点で妖怪であるという可能性は無い。あとは魔法使いや半妖といった種族の可能性もあるが、判断する材料が無い。

(私の弾幕が・・・あいつと互角だっていうのか!?)
(あれほどの弾幕を・・・一瞬で!?)

 魔理沙と妖夢が険しい表情で敵を睨みつける。すると、急に妖夢たちに背を向けて飛び出していく。

「逃がさないぜ!」

 撤退しはじめた敵を追撃する魔理沙。妖夢も追いかける。

「ーーーーウィンド・・・」

 追撃されるのを見越してか、追いかけ始めた二人に合わせスペルカードを使われる。

 不意に二人の前に風の刃が迫る。

「「この程度っ!」」

 不意打ちとはいえ流石に幕でもないただの魔法には当たらない。が、避ける先避ける先に次から次へと刃が迫ってくる。しかし、二人が箒・刀で薙ぎ払うといとも簡単に消滅してしまった。どうやら威力自体はたいして高くないようだ。
 だが、薙ぐため速度を緩めたため、完全に逃げられてしまった。

「くそぅ・・・逃げられたぜ・・・」

 悔しがっている魔理沙をよそに、妖夢が考え込む。

(あれは・・・もしかして・・・?)

「完全に逃げられたようね。」

 突如後ろから咲夜に声を掛けられる。

「咲夜?いつの間に?」
「それはともかく、二人とも紅魔館へ戻って下さい。お嬢様が呼んでいます。」

 レミリアが?と首を傾げつつも紅魔館へと引き返す。






「やはり、逃げられてしまったのね。」
「なんだ?まるで私たちが追いつかないのを知っていたみたいじゃないか。運命を見たのか?」
「いいえ、どうやら奴にも私たちの能力が効かないようなの。だから、この戦いに関する運命は操れないし、見れないわ。それにあなた達にも、追い付けはするでしょうけど止めることはできないわ。」
「レミィ。あなた、何か知っているの?」
「まだ七割、といった所かしら。確証になるものは何もないのだけどね。」
「じゃあその七割でも聞かせてもらえないかしら?」
「霊夢に同感です。私自身も、少し思う所があります。」
「私にも、聞かせてくれませんか?」
「私も聞きたーい。何でこんなことになってるのか全然わかんないんだもん。」
「「え・・・、え?」」

 状況についていけなくなって混乱している美鈴と小悪魔。
 フランドールは素直にわからないといって、レミリアに説明を求める。

「霊夢、貴女なら薄々でも、わかってきている筈よ。」
「・・・・・・でも、こんなことをする理由が無いわ・・・」
「ん?霊夢も何か知っているのか?」
「半霊はどう?」
「さっきの鎌鼬といい、剣の太刀筋といい・・・概ね同じ考えです。・・・・・・それと、私の名は妖夢です。」
「早苗。何か気付いた?」(無視ですか・・・)
「あ、はい。妖夢さんと同じように、さっきの風にちょっと・・・でも、確証はないしそれ以外は・・・」
「パチェ?貴女はどうなの?」
「今の戦いで五、六割ってところかしらね。・・・霊夢らと同じように半信半疑・・・いえ、2信8疑なのだけれど。」
「そう・・・いずれにしても。話をするのは明日にしたほうがいいわ。」
「なんでだ?今話してもいいじゃないか?」

 未だに話の意図がつかめない魔理沙。
 とはいっても、あの敵について話していて、想像以上に深刻な話だというのはわかる。が、それ以上の意味はわからない。好奇心の塊の魔理沙にとってここで引く理由は無いだろう。
 レミリアも魔理沙の性格くらいは知っている。混乱しっぱなしの二人は放っておきながら話を続ける。

「有耶無耶な事象を説明するほど暗愚ではないわ。それに・・・」
「それに?」

 興味津々で聞き返す魔理沙。レミリアも言葉を続ける。

「・・・私自身も疑いの方が強いからよ。」

 妖夢はおろか、霊夢やパチュリー、レミリアまでもが疑ってしまうくらいの『仮説』

「まあ、詳しい話は明日にでもさせてもらうわ。今は全員解散なさい。」
「・・・まあ、明日教えてくれるんならいいけど、また襲ってくるんじゃないか?」
「それは大丈夫だと思うわ。」
「あら?パチュリー、何か確証でもあるの?」

 霊夢が問いかける。

「妹様たちとの戦いで消耗しているから・・・ですよね。」
「正解よ。」

 横から小悪魔が答える。
 いくら被弾していないといっても、妹様やレミィの攻撃を流す障壁、魔理沙の弾幕の相殺、逃走時の風魔法、と結構な力を消費している。更には本気が出せないのであれば、短期間で再び襲撃なんてできないはず。

 と、パチュリーが補足説明をする。

「それに、境界の妖怪や亡霊の姫あたりが何か嗅ぎ付けているかもしれないし。なによりフランたちの回復を優先させるわ。」

 正体は分からないが、とても強力な力を持っている。本気を出せていなくとも逃げる事が出来るほど余裕がある。
 こちらの損害がかすり傷程度で済んだのが幸いといったところであろう。レミリアがそう言い残し紅魔館へと戻っていく。
 咲夜やフランドール、パチュリーもそれに続き戻っていく。

「そういえば、紫。まったく見てないわね。」
「相変わらず神出鬼没なやつだぜ。・・・ん?中国は休まないのか?」
「はい。私は警備の仕事がありますし・・・人間と違ってこの程度の傷ならすぐに癒えますから。」
「こういう時って人間じゃないのは便利よね。」

 霊夢の言葉に苦笑で返す美鈴。
 明日、博麗神社に来るように伝えておいて。と、美鈴に伝え自分も帰路に就く。魔理沙も同じ方角に自分の家があるので霊夢に続いて飛び立つ。

「では、私は白玉楼に戻ります。幽々子様が待っているでしょうから。」
「ええ、それと・・・幽々子には『明日にでも全て教えなさい』って伝えておいて頂戴。」
「伝えてきます。私自身も聞きたい事があるので。」
「良也がいない事にあの黒いのが関わってたら、簡単には解決しなさそうだぜ・・・」
「「・・・・・・・・・」」

 魔理沙の一言で二人は沈黙する。

 その後、これといった会話もなく三人は別れる。


(良也さんが・・・?まさか・・・でも・・・)






   *     *     *






「危ないわね・・・」
「?なにが危ないの?お姉様。」
「大方、さっきの三人のことでしょう?」

 紅魔館のとても大きい廊下を歩きながら問答する。

「半霊の方はあれはあれでいつも通りかもしれない。霊夢や魔理沙に至っては判断力が鈍っていたわ。焦っても仕方ないというのに・・・」

 妖夢の場合は「辻斬り事件」があるため斬れば分かる。という短絡思考は変わっていない。強いて上げるなら、逃げられてから様子が変わった。
 魔理沙も、味方が見えなくなるほど焦れていた。まあ、本当のところは本人しか分からないのだが。
 霊夢。彼女は三人の中では一番分かりづらかった。普段から紫が出たり消えたりするのはいつものこと。霊夢は『なんとなく』、つまり持ち前の勘で紫の存在を認知していた。だが、今回はその『なんとなく』も感じないくらい周りが見えていなかった。

「パチェ。貴女も、焦るあまりに弱みを見せないようにしてよね。」
「わかっているわ。レミィも、焦って『いきなりスペルを使う』ようなことはしないでね。」
「っ!?わかっているわ!」

 微笑しながらパチュリーが言葉を返すと、レミリアの肩が跳ねる。

「あれ?そういえば、咲夜はどこ行ったの?」

 ふと気付き辺りを見回すフランドール。

「咲夜さんなら、先ほど門のほうへ向かわれましたよ?傷薬を持って。」

 フランドールにそう説明する小悪魔。全員の表情が微笑に変わる。










・・・こうして、二日目の夜が過ぎていった・・・













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あとがき

いつまでたっても「黒楼剣」の名が出てこない・・・
次こそは必ず出ます。本当に!
実は容量がT、Uと比べて1.5倍まで突っ込んでみました。

勘のいい人(?)ってゆーか大体の人は先の展開が見えてしまったかもしれませんね(苦笑)

そうなんです。じつはk「人符『現世斬』!」  ピチューン


みょんの口調に揺らぎが・・・とりあえず、次からはこの口調で統一。

書けば書くほど制限がかかっていく・・・全部自分の無計画さが原因なんですけどね・・・

早苗は空気(コラ
萃香?そういえばいない。

例によって、何かありましたらどんどん仰ってくださると嬉しいですよ?
人称とか、話の構成とか、現世斬の解釈についてとか・・・
|∀・)




2009/10/25 関根



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