「うぅ…ツライぃ………」

昼下がりの午後。
僕は永遠亭に向かっていた。
理由はいくつかあるが、まあ身体の調子が優れないっていうのが今の一番の理由だ。
実のところは、鈴仙にこの前の看病のお礼をしに行くつもりだったのだが(看病に来た理由はアレだったが、一応これからも世話になるだろうから、礼節は重んじておきたいのだ。)、途中で突然調子が悪くなってしまったのだ…
引き返す事も考えたが、どうせ診察してもらう事になるだろうから、行った方が早いと判断した。
なので、早いところ行って、永琳さんに薬を貰いたいのだ。
で、現在、僕はフラフラと迷いの竹林の中を飛んでるわけだけども…

(さっきから速度が落ちてきているな…)

明らかに遅くなっている。
意識も朦朧として、焦点が定まっていない。
気持ちの悪い、落下感に似たようなものまで感じる始末。
ふと、一瞬だけ焦点が合うと、地面が目の前にあった。

「…んえ?」

ドグシャアッ!!という強烈な音と衝撃で、僕の意識は途絶えた。




「───知らない天井だ」

「知ってるでしょう」

む、寝覚め早々にツッコミか。
…そういえば知っている気がする天井だな…
この天井は…永遠亭の治療室か。
あれ?でも、僕は…

「倒れたんだっけ?」

「そうらしいわね、てゐが見つけて、ここまで運んでくれたのよ」

「そか、感謝しとかないとな…」

ホント、今回に限っては、あの悪戯兎に感謝しなければ…

「それに、鈴仙にもな」

「…なんで私に?」

「また、看病してくれてたんだろ?」

額に乗っている濡れタオルを指差して言う。

「そ、それは医師として当然のことで…別に感謝される程の事じゃないわ」

「それでも僕は…っ痛!?」

ベッドから、身体を起こしながら喋ろうとしたら、背中に痛みが走った。

「…まだ無理に動かない方がいいわ。今日は薬だけ飲んで寝てなさい」

水の入ったコップと、薬包紙に乗った錠剤二錠を持ってきてくれる鈴仙。
多分、1つは痛み止めで、もう1つは風邪薬だろう。

「…そ、そうさせていただきます…」

やっとの事で上半身だけを起こして、錠剤とコップを受け取り、薬を飲む。
…しかし、鈴仙には世話になりっぱなしだな。僕。
いつか、絶対にお礼をしなければな…と考えた所で当初の目的を思い出した。
僕は、鈴仙にお礼をするためにここに来たんだった。

「そ、そうだ鈴仙、僕のリュックはどこ?」

「ベッドの横にあるでしょう?」

言われ、少し体勢を変えてベッドの側面を探る。

「あった……あれ?」

あった。確かにリュックはあった。あったのだが…

「鈴仙、リュック開けた?」

「私は触ってないわ、興味ないもの」

見た感じ、明らかに持ってきた時より体積が少ないのだ。
開けて中を確認すると、けっこう持ってきた筈のスナック菓子の類が全部無くなっていた。

「…てゐ」

「ああ、何か珍しい物を持ってると思ったら…」

「………まぁいいや、元からあげるつもりだったし…」

元々、鈴仙だけにお礼をしたら輝夜やてゐは文句を言うだろうと確信していたので、てゐ用にお菓子を持ってきたのだ。
てゐ用以外のが無事だから良しとしよう。

「ほい、鈴仙」

リュックから、鈴仙の為に用意したお礼の品を差し出す。
小さく四角い薄めな箱だが、一応リボンもあしらわれていて、そこは洒落ていると思う。

「え?」

「これ、今までのお礼として…」

「あ…うん」

少し驚いていたようだが、受け取ってくれた。
その場でゆっくりとリボンを解き、箱を開ける。
箱の中には、半円の形をした、手のひらサイズの櫛が入っていた。

「あ…これって…」

「そ、櫛。鈴仙て、髪綺麗だから良いかなって思ってさ」

一寸高かったけど、今までの礼ならこれくらいが丁度良い。

「え……う…」

良し。任務完了。これでフラグでも立てばなぁ…
ま、僕はどこぞの幻想殺しじゃないし、諦めてるけど。

「…あの、良也…ありが──」

鈴仙が何か言いかけた時、治療室の襖がものっそい勢いで開き…

「見たわよ、良也!」

永遠亭のお姫様がご登場遊ばされた。
─その登場に合わせて、鈴仙がビクッてしたのが可愛いかったが。

「…輝夜、治療室なんだからもう少しおとなしく入って来ような」

「そんな事より良也! イナバ逹にプレゼントがあって、この私にプレゼントが無いなんて事あり得るのかしら?」

予想通りの反応をありがとう、輝夜。
プライドが高いんだか、益に敏いんだか。

「大丈夫。そう言うと思って用意してある」
 
「あら? 随分と用意がいいわね、良也」

リュックから、中に星が4つ入った丸い琥珀色の玉を取り、渡す。
僕の家から持ってきた物なので、包装もされていないが…

「わあ…」

「…綺麗ね…宝玉?」

「そんな大層なモンじゃないよ」

そう、大したことはない。昔買ったゲームに付いてきたオマケだ。

「気に入ったわ、ありがと良也」

「そうかい、そりゃ良かった」

輝夜は、貰うもん貰って、さっさと治療室から出て行ってしまった。
ま、輝夜のワガママが四星球1つで解決したなら安いもんだ。

「………」

…で、鈴仙が何か俯いてる訳だけど、この理由は大体把握している。
だから、フォローを入れておく。僕自身のためにも。

「鈴仙、僕は鈴仙の為にお礼を言いに来たんだ。
 櫛だって、一番時間をかけて選んだし、言っちゃ何だけどお金も一番かかってる」

「……ぇ?」

櫛1つで6000円とか…もっと高いのもあったぞ。
流石京都の老舗『寿櫛園』のブランド櫛といったところか…

「てゐにあげた…っていうか盗られたお菓子は安物ばっかだし、輝夜にあげた四星球に至ってはタダだぞ」

「そう…なんだ…」

「そう。それを言っておきたかった」

良し。フォロー完了。
もう、そろそろ身体がキツいから寝よう。

「じゃ、僕はもう寝させてもらうぞ」

言うが早いが、僕は布団に入り込み目を閉じる。

「あ、うん…おやすみ、良也」

「おやすみ」

目を閉じて暫く経って、寝過ぎたせいか中々寝付けない僕の耳に、鈴仙の小さな声が聞こえてきた。

「私の為、か……ふふっ」

どうやら櫛は気に入ってもらえたらしかった。


あとがき
構想5時間。
全5〜6日構成で書き始めたら、1日が意外に長くなってしまったので、1日毎に投稿する事に致しました。

妄想小説ばっかり書いていた私が、アドバイス頂きました『過程を大事に』をコンセプトに書いています。

しがない携帯厨ですが、これからも何卒、アドバイス等よろしくお願い致します。



戻る?