東方奇縁譚―愛死照外伝



「いい夢を見れる薬?」


私は目の前に居る青年を見た。


青年―――良也さんは上機嫌な様子で怪しい薬を掲げていた。


「そう! 睡眠導入と夢見をよくする薬! これがあれば不眠症とおさらばできる訳」


良也さんは怪しい薬をちゃぶ台に置いて、その『自信作』の説明を始めた。


「自分で試して見たけど、スッっと眠れたし、夢見もよかったよ」


夢の内容はその人の願望を映すらしい、彼が見た夢は夜の外の世界をゆっくり飛ぶ夢だったそうだ。


「睡眠導入効果とかの調整が終わったらパチュリーに評価してもらうつもり、霊夢も試して見てくれよ」


そう言って彼は瓶に入った薬を私に渡す、その薬は琥珀色をしていて、薬と言うよりは飴玉のような見た目だ。


「そうね、気が向いたら試して見るわ」


特別興味が湧いた訳では無かったが、彼のはしゃぎっぷりを見ると……突っ返すのも、なんとなく気が引けた。


「あぁ、飲みすぎるなよ? まだ調整しきれて無いからさ」


そう言って彼はお茶をすする、その後は特別何も無く、私の好きなお饅頭を買って来い、とか言いながら……何時も通りに時間は過ぎていった。





そして夜、私はもう寝ようと布団を敷いていた。


ふと、あの薬が目に入った、よい夢を見れる薬……。


―――ちょっと試して感想くらい言ってあげようかしら。


私は一つ薬を取り出して、口の中に放り込んだ。


口の中に甘みを感じる、あまりべたべたしない甘さだ。


―――本当に飴玉みたい。


気がつけば薬は完全に溶けていたようだ、そして私は布団に入り――――――





――――――目が覚めた――――――





――――――え?


暖かい太陽の光が顔に当たる。


私は体を起こし辺りを見渡した。


何時も通りの自分の部屋、何時も通りの朝、夢なんて見ていない。


―――担がれたのかしら。


それとも私には願望なんて無かったのか、どちらにせよあまり面白い状況ではなかった。


―――今日のご飯と掃除は全部良也さんにやらせよう、そうしよう。


そんなことを考えながら私は良也さんを叩き起こそうと部屋を出た。


……そして


「あ、霊夢、おはよう」


ニコニコ笑いながら良也さんが挨拶をしてきた、微かに香る味噌汁の匂い……朝食の用意はもうできているらしい。


私は『夢なんて見なかった』と良也さんに文句を言おうとした、でも――――――


「おはよう、良也さん」


――――――あれ?


私の口から出たのは自分でも驚くほどに明るい挨拶だった


「とりあえず顔を洗って、ほら」


「えぇ」


「今日の朝食は大根の味噌汁と漬物、あと鮎の塩焼きだから」


「あら? 鮎なんてあったかしら?」


「スキマが持ってきた」


「珍しいこともあるものね」


「何か裏がありそうで怖いんだけど……」


私は彼が持ってきた水で顔を洗い、彼が持ってきた手ぬぐいで顔を拭きながら今日の朝食について話していた。


――――――なにこれ?


私の意図した行動では無い行動をとる私。


疑問に思うと同時に何時も通りと言う感覚もある。


「それじゃあ、いただきます」


「いただきます」


私と彼はそのまま箸を持ち、朝食を食べ始める。


「ん、今日も美味しいわね」


「そう言ってくれると作り甲斐がある」


「昼は私が作るわ」


「んー……一緒に作らない? たまにはさ」


「あら、いいわね」


そのままほのぼのと朝食を終え、食器を片付ける。


そして良也さんがお茶を持ってきて、それを二人で飲む。


―――あたたかい


何か心に暖かい感覚を感じた。


そして何時もの通り、彼の肩に頭を乗せる。


良也さんは何時もの通り私の髪を手で梳く。


「今日はどうしようか?」


「……私はこうしていたいわ」


「じゃあ、そうしようか」


―――あぁ……愛されている……


良也さんの暖かい手が私の頬にすべる。


視線を絡める、何時も通り、彼に近づいて……――――――




――――――目が覚めた――――――




「あ……」


何時もの部屋、何時もの朝。


体を起こし辺りを見渡す。


「……夢?」


さっきまでの光景が夢であったことを少しずつ認識してきた。


そして……薬のことを思い出す。


―――うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!


あれが自分の願望なのか!? いや、まって、確かに暖かかった。


今まで感じたことの無い安らぎ、暖かさ、たしかに心の底から私は幸せだった。


愛されていたし、愛していた――――――


「霊夢ー? 起きたかー?」


「うひゃあぁ!?」


良也さんの声が聞こえる、もう起きていたのか!


「ど、どうした? 何かあったか?」


「な、なんでもないわ、なんでもない……」


今は彼の顔を見たくないし見られたくない!


「そ、そうか……僕、これから人里に行って来るから」


「え……?」


「今日は早めに菓子売りするんだよ、昼は向こうで食べてくるから」


「あ、あぁ……そう」


そういえばそんなことを昨日言っていたような気がする……どこか寂しさを感じながら私は返事をする。


「朝食は作っておいたから、大根の味噌汁と漬物と鮎の塩焼き」


「分かったわ……」


「それじゃあ行ってきます」


彼の飛んで行く気配を感じる……そして彼を感じられなくなった。


「…………」


何か、心にぽっかり穴が開いたような、そんな虚無感が私を支配する。


―――やめやめ


私は気を取り直して、朝食を食べようと部屋を出た。


ご飯はあまり美味しく感じなかった――――――






ぼーっとすごしていたらもう夕方になっていた。


―――良也さんはまだかしら?


ずっと彼のことを考えていたような気がする。


―――お昼は何を食べたのかしら?


自分の昼食は何を食べたか覚えていない。


「あ……」


遠くに何かが見える、あれは……


―――良也さんだ!


「ふぅー、ただいま……っと」


彼が何時もの様に着地する背中のリュックはほぼ空のようだ。


「お帰りなさい、良也さん」


「ん、ただいま、霊夢」


―――あれ?


暖かさを感じない……なぜだろう……


「あ、霊夢、僕今日はもう帰るよ」


「え……?」


あぁ―――愛されていないんだ―――


「んー、さっき思い出したんだけど、明日早いんだった」


「そう……」


「んじゃ、来週霊夢の好きなお饅頭買ってくるよ」


「ありがとう」


またなー。そう言って彼は結界を飛び越える……


また、心に穴が開いた、大きな穴が……


「…………」


―――今日はもう寝よう、そうしよう。


布団を敷きそのまま入る。






「眠れない……」


喪失感、とても大きな喪失感に襲われ眠れない。


気がつけば外はもう、真っ暗だった。


私は枕元の瓶から琥珀色の薬を二つ取り出し口に入れる。


―――あぁ……甘い……


やはり気がつけば薬は溶けていて、ゆっくりとまどろみの中に落ちて行って――――――



――――――目が覚めた――――――



そっと目を開けて回りを見渡す。


良也さんが机の前で何かをしている。


―――あぁ、また夜更かししたのね……


「りょうやさぁん?」


私は彼を呼ぶ、彼は少し疲れたような表情をしながらこちらを向いた。


「あぁ……霊夢、おはよう」


良也さんはそのまま伸びをしてこちらに体を向け


私の首にペンダントを着けてくれた。


「ん、似合ってる、やっぱりデザインは森近さんに頼んで正解だった」


「もう、無理しなくてもいいのに……」


とても暖かい気持ちが溢れてくる。ペンダントの飾りを触りながら顔が崩れるのを我慢する。


「でも、今日で1年経つし、プレゼントはしたかったんだよ」


「もう……だからって体を壊さないようにね?」


「分かってるって」


そう言って良也さんは笑う。


そのまま朝食を作って、二人で食べて、ゆっくりして。


二人で掃除して、お茶を飲みながらゆっくりして。


二人で空を飛んで、少し弾幕ごっこをして―――私の圧勝だったけど。


お昼は人里のカフェ、そのまま買い物をして……


あっという間に一日が終わって……二人で一緒に布団に入って……



――――――眠った――――――



「…………」


―――冷たい


夢が終わった、現実だ


良也さんがいない、愛してくれない現実……


喪失感に耐えながら一日を過ごして……


眠れなくて……琥珀色の飴を三つ食べて……



――――――目が覚めた――――――



良也さんと朝食を食べて


良也さんとゆっくりして


良也さんと掃除して


良也さんと昼食食べて


良也さんとお茶を飲んで


良也さんと夕食食べて


良也さんとお酒を飲んで


良也さんと――――――




――――――眠った――――――


りょうやさんがいない、あいしてくれない……


あれ? わたしはさっきねた……


そうかこれはゆめなんだ、あくむなんだ……


ゆめでねればおきられる、そうだ、あめをたべよう、そうしよう


あまくておいしいあめをたべよう、おいしいからよっつたべよう


あぁ、おきられる……



――――――めがさめた――――――


りょうやさんとちょうしょくをたべて


りょうやさんとゆっくりして


りょうやさんとそうじして


りょうやさんとちゅうしょくたべて


りょうやさんとおちゃをのんで


りょうやさんとゆうしょくたべて


りょうやさんとおさけをのんで


りょうやさんと――――――



――――――めがさめた――――――


またこのゆめだ、さむい、くるしい、りょうやさんがいない、あいしてくれない、あめをたべようそうしよう、あまくておいしいからいっぱいたべよう


これでめがさめる、そうだめがさめるめがさめる



――――――メガサメタ――――――


リョウヤサントチョウショクタベテ


リョウヤサントユックリシテ


リョウヤサントソウジシテ


リョウヤサントチュウショクヲタベテ


リョウヤサントオチャヲノンデ


リョウヤサントユウショクタベテ


リョウヤサントオサケヲノンデ


リョウヤサント――――――


――――――ユメヲミタ――――――


サムイクルシイリョウヤサンアイシテクレナイアメヲタベヨウイッパイアマイイッパイメガサメルメガサメルアクムガサメル



――――――めガさめタ――――――


りョうやサンとチょうショクたベテ


リョうヤさンとユックリしテ


リョうヤさんとソうジして


リョウやサんとチゅうショくタベて


りょウやさんトおチャをノんデ


リョうヤさンとユウショくたベて


リョうヤサんとおサけヲノんで


リョうやさんと――――――



――――――ゆメをみタ――――――




「あれ? 霊夢、どうしたんだ?」


「そんなにお饅頭楽しみだったのか?」


「今日はついでに日本酒とお茶も買ってきたぞ?」


「結構高かったんだからな? それなりには味わって…………」


―――リョうヤさン……ゆメでもずっトいっしョよネ……?


















あとがき

もーーーーーーーーーーーーしわけございませんでしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!(飛翔土下座)

霊夢編と書いておきながら、他の編を作る予定は一切無かったりします。

なんだか、あとがきに説明が必要なぐらい、描写が足りない気がします……が、これが限界です!

後、良也くんの口調がしっくりこないような……? ま、まぁ勘弁してください……

さらに後半読み辛そうですね……仕方なかったんや……自分の腕ではこうするしか表現できなかったんや……

でも、病み霊夢が書きたかった!

……これは『やんでれいむ』なんですかねぇ?(やくでれいむ……?)


書いた流れ

奇縁譚三次創作書いてみよう!
      ↓
やんでれいむも書きたいなぁ……
      ↓
一気に内容を考えて文章にした
      ↓
(見直して)え?なにこれは(ドン引き)←この辺で熱が冷却
      ↓
これヤンデレじゃなくてヤクデレじゃね?←いまここ!


そんなこんなで東方処女作&初めての三次創作でした!


素敵な原作、素敵な奇縁譚に最大限の感謝を!

それでは!



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