「それで、紅魔館ってのは近いのか?」

俺はチルノについて行きつつ、質問する。

ちなみに今俺達は空を移動している。歩いていったら時間がかかるということなので、飛べ、だそうだ。

あの妖怪から逃げるときは無茶苦茶な飛び方になったが、やってみれば意外とできるものなんだな。空を飛ぶというのも。

逃げるという考えのみだから吹き飛ばされたが、純粋に空が飛びたいと思ったら、重力がなくなったように浮いた。

チルノは『最近の人間ってみんな飛ぶのね』って言っていた。

この世界の人間はみんな飛べるのか? それとも、普通は飛べないのだろうか。

「飛んでいけば近いわ。目立つし、すぐわかると思う」

ほう、まぁ館といわれるくらいだから結構大きいんだろうな。

しかし、そんな館に人間は一人しかいない、か。

他には誰がいるんだ? 妖怪か、妖精か。それ以外の何かか。

妖怪だったらどうするか。その人間が操られているだけとかも考えられるからなー。

妖精だったらたぶん平気だよな、チルノを見る限りは。

むぅ。まぁいざとなったら逃げるしかないか。

「そういえばあんた、能力で飛んでるのよね? どんな能力なわけ?」

ん? 能力?

「いや、確かにそうだが、能力があるのが普通だったりするのか?」

そうでなくてはさらっとそんな言葉は出てこないよな?

チルノも何かの能力もちなんだろうか。俺の力のように。

……妖精ってだけで何かしらはできそうだけどな。普通に飛んでいるし。

「そうねー。あたいは“冷気を操る程度の能力”だし、他にも結構能力持っているのはいるわ」

氷の妖精らしい能力だなぁ。

しかし、俺の能力か……。

「ぶっちゃけよくわからん」

「……なんで? 自分の能力じゃないの?」

いや、確かにそうなんだが。俺ができるのは雨を降らしたり晴れにしたり、日光を自分の右手から浴びせるとか、知ったばかりだけど風を起こすとか。この程度だからな。

ついさっきまで風を起こせることすら知らなかったのに、自分の能力を把握しているわけがないって。

そんなことをチルノに伝えてやると。

「天候を操る程度の能力? んー、でもなぁ」

悩みだした。いや、そんな考えなくてもいいと思うんだけど。

たしかに天候もある程度自由に変えられるけどさ、今は重力を無効化している感じがするし、これは天候関係ないよな?

「ま、わからないならわからないでいいんじゃないか? いずれわかったら教えてやるからさ」

この世界にいる限りは会うことは可能だろうし。

何より俺がまた話したいと思っているし。

「ん、じゃあよろしく。……っと、見えてきたわよー」

お、あれか……、屋根が真っ赤だな。なるほど、“紅”魔館ね。赤い紅い。

「それじゃあ降りるか」



◇◇◇◇◇



地に降りて、紅魔館に近づいて、逃げ出したくなった。

門番がいた。いや、それだけならいい。でも。

「妖怪かよ……!」

気配は完全に妖怪だった。しかも闇を操っていた妖怪よりも力が強いように感じる。

「どうしたの? 震えてるけど」

「い、いや。大丈夫だ、さ、行こう」

声は震えてなかったと思いたい。

あの妖怪は話が通じるといいんだが……。

だが、門番をするくらいだし、問答無用で撃退しに向かってきたり……。

いやいや! そんな後ろ向きな考えじゃダメだ! とにかく話してみないことは進まないんだからな。

そして、門番に近づく。

「紅魔館に何の御用ですか?」

っ! あぁもう! 声を聞いただけで緊張してどうする!

「あ、あぁ。俺は外来人というものらしくてな、ここには人間がいるらしいから話を聞いてみたくてな」

多少声が震えてしまったがなんとか会話はできるようだ。相手も問答無用で襲ってきたりしない。

「……外来人の方でしたか。でもそれでしたら人里の方へ向かわれたほうがいいのでは?」

いや、確かにそうなんだがどう行けばいいかわからないし。

しかし館に入れてくれる様子はまるでないな。やはり人里を探すしかないか?

だけど、探している間に夜にでもなってしまったら危険すぎるし。

「美鈴。彼はお客様よ。“お嬢様”のね」

っ!? いきなりメイド姿の人が現れた。

どうやったかはわからないが、能力とかいうやつだろうか。

いやそれよりも。彼女は人間……!

「お客様、ですか?」

「えぇ。お嬢様がそう仰ったわ。外から来た人間が妖精と一緒に来ると」

そのお嬢様が誰だか知らないけど、これなら入れそうか? ついでに彼女の話を聞きたい。

何故俺がここに来ることがわかったかは謎だが。それも能力なのだろうか。

だとしたら本当に能力ってなんでもありなんだな。

チルノの能力が非常にかわいく見える。

と、そんなことを考えている間にメイドさんと門番は話を終えたようだ。

「それではお嬢様のところへ案内するわ。貴女はどうする?」

「あたい?」

メイドさんがチルノに聞いてきた。チルノは俺の道案内のためについてきてくれたんだが、どうするんだろうか。

「あたいは帰るわ。これから大ちゃんと遊ぶ約束だし」

大ちゃん? 友達だろうか。そっか、帰るのか。

「それならここでお別れだな、チルノ。また会いに行くよ。今日はありがとうな」

「気にしなくていいわよ。あたいもあんたと話せて楽しかったし」

そう言ってくれるとありがたい。

そうしてチルノと別れ、俺はメイドさんと一緒に紅魔館の中へ入っていった。

それにしても人間は一人だってチルノは言っていたし、お嬢様は何者なんだろうか?

人間であるメイドさんが仕えているわけだし、そんな危険じゃないとは思うけど……。



◇◇時は少し前に遡る◇◇



「咲夜」

「なんでしょうかお嬢様」

まだ昼過ぎだというのにお嬢様からお呼びがかかった。

なにかあるのだろうか。

「数時間後、外から来た人間がここ、紅魔館を訪れるわ。妖精と一緒にね」

外来人が、ここへ? しかも妖精と一緒に?

「来たなら私の元へ案内なさい」

「畏まりました。しかしその人間には何かあるのですか?」

外来人とはただの人間のはず。どんな理由で幻想郷へ来たかはわからないけど、お嬢様が興味を持たれるようなことではないはず。

「そうね。どんな理由で幻想郷へ訪れたか聞きたいの。おそらく八雲紫に連れてこられたのでしょうけど。それにその人間の運命が途中から見えない。それが気になるのよ」

お嬢様の力で見えない? 確かに気になるかもしれない。

「それに人間にしては大きな能力を持っているようね。貴女ほどではないにしろ」

大きな能力。どんなものだろうか?

とにかく後数時間、夕刻か。待ってみましょう。その人間を。





――あとがき――

はい、短いですね。

実はこの三話。一回書き上げたんですが、気に入らず全削除し、完全に書き直しました。

ちょーっと無理がある感は書き直しても残っていますが、気にしない方向で!

チルノが途中から空気だった……、あ、中国の出番はとりあえず終了。短っ!(笑)

それではまた第四話でお会いしましょう。しゆーあげいん!



主人公の能力。

天候を操る程度の能力?



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