注意!

・ストーリーが全体的に鬱いです。
・少しグロテスクな表現があります。
・独自設定が多量に含まれています。
・本家「東方奇縁譚」に登場はしているけどほとんど描写が無い(恐らく名前も設定されていない)人物が
 主人公のストーリーです(久櫛縁様に許可は頂いております)
・久櫛縁様の本家「東方奇縁譚」のイメージが崩れるのが心配な方はあらかじめ読むのをご遠慮ください。





 壁を叩く。段ボールを蹴る。役所からもらってきた生活保護の申請書を破る。
 机を投げる。壁に机が当たり音が響く。
 隣の奴には迷惑かも知れないが知ったこっちゃない。俺はもう終わった。俺の人生は終わりだ。

 5畳ほどの広さしかないボロボロのアパートの一室。数個の段ボールがあり、一つは蹴られてへこんでいる。
 壁には少しひびが入り、机の脚は折れていた。生活保護の申請用紙は無残にも引き裂かれて原形をとどめていない。
 
 俺は紙に火をつけた。赤く綺麗に燃えている。しかし、すべてが黒く焦げると火は消えた。

 俺は段ボールに火をつけた。火は上の段ボール、下の段ボールへと移っていき、少しすると中の大量の紙にも引火し、次第に炎は大きくなった。

 さらに少し観察していると壁や床にも引火し、部屋は真っ赤に染まった。

 ―――ウウウウウウゥゥゥ―――ウウウウウゥゥゥ―――

 !火災報知器が鳴り出した。俺は怖くなって逃げ出した。

 外を出ると音を聞いた隣の住人が部屋の前にいた。
 俺は考える間もなくそいつを殴った。何度も殴った。

 何度も殴るとそいつは動かなくなった。俺はまた怖くなって逃げた。

――

 走っている間、俺は昔の事を考えていた。
 昔の俺はどこにでもいる普通の人間だった。

 ごく普通のレベルの大学を卒業し、ごくごく普通の会社に入社した。
 その会社はそれなりに忙しいが、人間関係もそこまで悪くなく給料もそこそこ良かったので不満は無かった。

 だが、最悪の出来事が起きた。会社の車を運転しているときの事。
 親会社の合併で勤務先が変わり、書類の書き方が変わり、精神的に衰弱しきっていた俺は居眠りしてしまった。

「ドンッ」という大きな音で目が覚めた。車が壁に激突して、フロントガラスが粉々に砕けていた。
 今となってはそれだけならまだ良かった。俺は急いで外に出た。
「うわああああああああああああああああ!!」
 なんとそこには青年が仰向けで倒れていた。口から血を流し、服の一部も血で真っ赤になっている。
 そこからはあまり覚えていない。通行人がすぐに警察や救急に通報し、他の通行人が俺を押さえつけた。

 その後俺は警察に送られ、取り調べを受け、拘置所に入れられた。
 その時に警察官から「被害者は意識不明の重体だが、通行人の方がすぐ救急車を呼んでくれたおかげで死んではいない」
 と言われたがその時の俺の耳には入らなかった。

 結局被害者の青年は意識を取り戻し、特に障害なども残らなかったので、執行猶予付きの判決となり、俺は刑務所には入れられなかった。
 しかし、4000万円という賠償金を払うことになった。会社も懲戒解雇され、会社の車も弁償させられることになった。
 あいにく両親は俺が二十歳になる前に死んでおり、兄弟もいない。
 貯金も全て賠償金で消えて、元住んでいたマンションも競売にかけられ豚小屋のような汚いアパートに引っ越してきた。
 家具などももちろん差し押さえられ、生活保護の申請書をもらってきた。

 だが、懲戒解雇された30過ぎの人間を雇ってくれる企業などこのご時世あるわけない。
 昔の友人の世話になるわけにもいかない。そこで最終的に残った一つの手段を選んだ。

――「自殺」だ。

 考えてみれば人間なんてたくさんいるんだ。俺一人死んだところでどうという事は無い。
 楽しみや喜びを味わえなくなるデメリットより、悲しみや苦しみを味わなくて済むメリットの方が断然大きい。
 そう思い、先程俺は生活保護申請書を破り、ライターで豚小屋に火をつけたのだった。

――

 自殺の名所と言われる青木ヶ原樹海の前までやってきた。
 途中で誰かが声をかけてくれるんじゃないかという淡い期待もあったのかもしれない。
 いたるところに自殺をやめるように催促する看板が置いてあるが、正直まったく意味は無い。
 なけなしの金で買った酒をイッキ飲みする。あいにく酒には弱くなく、イッキ飲み程度では死ねない。
 だが、徐々に酒が回って頭がボーっとしてきた。俺は遊歩道を外れ、森の中へと入っていった。

 森の中は薄暗く、じめじめしていた。ふと立ち止まり、辺りを見回す。
 木、木、木。360度すべて緑色だ。
 と思っていると急に鼻につく強烈な臭いがした。とっさにそっちに目をやる。
 …白骨。人間の骨だ。男か女かも若者か老人がも分からない。まさに墓場だ。この世の終着点だ。
 俺は再び歩き出した。
 
――

 そろそろいいだろう。歩きすぎてもう足も動かない。俺は地面に寝そべった。

――ああ…

――ああ……

――ああ………

――やっと死ねる…

――……死ねる?

――思えばどうして俺は死にたくなったんだ?

――少し前はいたって普通のどこにでもいる人間だったじゃないか。

――どうしてこんなことになったんだ?

――……

――……そうだ。

――アイツだ。

――あの青年があそこにいたからいけないんだ。

――俺はただ疲れて眠ってしまっただけだ!運が悪かったんだ!

――俺は悪くない。なのになんで俺の人生をつぶされなきゃならないんだ!!

――被害者の青年は特に障害が残るわけでもなく、元通り大学に復帰して青春を満喫しているんだ!一年卒業が遅れたところで関係ない!

――おまけに莫大な慰謝料までもらって幸せか!!今頃アイツは俺の事なんて忘れてるだろう!

――目の前にアイツがいる。あの日、俺が衝突した青年がいる。

――そいつは綺麗な少女たちに囲まれて笑っていた。まるで俺を嘲笑うかのように。

――自分の中にこみ上げてくる憎しみが抑えきれなくなってアイツに殴りかかった。

――見事アイツの腹にヒットし、アイツは痛そうにうずくまった。ざまあ見ろ。そんな痛み俺の受けた屈辱の比にもならない。

――俺は周りにいた少女たちに押さえつけられた。皆、少女のくせにものすごい馬鹿力だ。

――ん?急に辺りが真っ暗になった。意しきが…もうろうとしてきた。…あレ…ココハドコダ?


「午前2時32分、放火と傷害の容疑で緊急逮捕する!」

俺は男に押さえつけられていた。男…警察だ。俺はまた逮捕された。


――


最初に俺が殴った男は、打ち所が悪く死んでしまったらしい。
俺が燃やしたオンボロアパートも、あの後どんどん火が燃え広がり結局全焼したらしい。
執行猶予中の犯罪で、人が一人死んでおり、アパートに放火もし、犯行も悪質とみなされ、
"無期懲役"という判決が下った。


――


――…結局あれが夢だったのか現実だったのかもわからない。

――本当に樹海に行ったのかどうかすら覚えていない。

――死ぬ間際に見せた幻覚なんだろうか。それとも本当に起きたことなんだろうか。

――今の俺に確かめるすべはない。狭く暗く何もない独房でできることなど…

――あった。

――1つだけあった。

――1つだけ確かめる方法があった。

――俺は服を脱ぎ、一本の紐のように繋ぎ、鉄格子に固く結んだ。

――さあ、確かめに行こう。現実なのか幻想なのか確かめに行こう。





















―――そして俺は"首に紐をかけた"














あとがき

この小説を読んでくださりありがとうございました。心からお礼申し上げます。

この主人公の男は、本家「東方奇縁譚」第一話のみ登場しております。

最初の注意書きの通り、賠償金、刑期、境遇、性格などほとんどの部分は独自設定です。
(賠償金についての久櫛縁様の回答は『ノーコメント』となっております。[2011年7月21日Web拍手返信より])

法律にもそんなに詳しくないので、細かいところなどは見逃してもらえると幸いです。

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