side とある青年 午後11時。すでに辺りは真っ暗で、電灯の黄色い明かりだけが寂しく光っている。 人とも滅多にすれ違わず、青年の足音だけが響いている。 青年の夢はゲームクリエイターだった。 大学生の時も趣味でゲームを作っていて、卒業後はそれなりに有名なゲーム会社に就職し、 念願のゲームクリエイターになることができた。 しかし現実は思い描いていたものと少し違い、青年は心から幸せではなかった。 そんな中、灰色のビルの影にうっすらと朱色に光るものが現れた。 それは鳥居だった。 「…こんなところに神社なんてあったっけ?」 青年は吸い込まれるように神社の鳥居をくぐった。 青年がくぐると、鳥居は初めから何もなかったかのように消えた。 side 良也 週末、僕はいつものように幻想郷に来た。 もちろん、人里で売るためのお菓子とみんなで飲むためのお酒を持って、だ。 「おーい、霊夢ー。来たぞ。」 「あら、良也さん。お酒はそこに置いておいてちょうだい。」 …みんなで飲むんだからお前一人で飲むなよ。 「そんな事わかってるわよ。今日も人里にお菓子を売りに行くんでしょう。」 「心を読むな、心を!」 「うるさいわね。あ、もうそろそろお昼だし、昼ご飯を作ってちょうだい。」 「はぁ…。」 まあいつも昼ご飯を作るのは僕だし、わかっていたので調理場へ向かう。 すると、遠くの空ほうから何かがこちらへ向かってくる。 恐らく高確率で魔理沙だろう。それか射命丸か無いと思うけどレミリアか… 「よう!邪魔するぜ!」 予想的中。来たのは"自称"普通の魔法使いだった。 「やっぱり魔理沙だったか。せっかくだから一緒に昼ご飯食べない?」 「お、いいぜ。ちょうど腹が減ってたんだ。」 「そうか、じゃあ僕は料理を始めますか…。」 僕が調理場に向かおうとしたその時、 「良也さん、外来人よ。」 「ん?」 霊夢が指差すほうを見ると、僕と同じくらいの年齢の眼鏡をかけた青年が唖然とした表情で突っ立っていた。 「…面倒ね。良也さん、行ってあげて頂戴。」 「はいはい。」 霊夢は明らかに面倒くさそうなので、僕がその青年に近づいた。 青年の第一印象は…細い。 青年はかなり細かった。ちゃんとご飯を食べてるのか心配なくらいガリガリだった。 「…霊夢…魔理沙。」 「え?」 いきなり声を出したと思ったら、青年が霊夢と魔理沙の名前を言った。 「いや…でも何で腋が出ているんだ?そもそも何故巫女服がスカートなんだ…? 魔理沙も何で金髪なんだ?」 いきなりブツブツと独り言を言い出した。正直ちょっと怖い。 「あのー…ちょっといいですか?」 「…あ、はい!あ、あの僕も色々と聞きたいことがあるんですけど…。」 青年はかなりパニクっていた。今思えば僕も初めて幻想入りした時はパニック状態だったからな…。 「えーっと…まず何で霊夢や魔理沙の名前を知ってたんですか?」 考えられるのは、前に霊夢と魔理沙に会ったことがあるかもしくは霊夢と魔理沙に会ったことがある人から話を聞いたかだ。 すると、青年は急に黙って少し考えこんだ。 「い、いや…ほら不思議な夢の事を"霊夢"って言いますよ…ね?」 苦し紛れの言い訳だ。僕でもわかる。 「じゃあ何で魔理沙の名前を知ってるんですか?」 すると青年はまた黙ってしまった。何か言えない事情があるのか。 これで少なくともただの人間ではないことはわかった。 「まあとりあえず中に入ってください。ちょうど昼ご飯を作ろうと思ってたので。一緒に食べませんか?」 「えっ、昼?」 すると青年は急につけていた腕時計を確認した。 「今は夜中じゃないんですか?」 腕時計を見ると、針は午後十一時を指していた。 「えっと…今は正午ですけど。」 「な!?ちょっと今日の日付を教えてくれないですか?」 「…20××年×月×日×曜日ですけど。」 思わず第○○期と言いそうになった。僕もだいぶ幻想郷に染まってきたな。 「19××年×月×日×曜日じゃないのか…まさかタイムスリップだなんて…しかも…はぁ…。」 青年は落ち込んではいるが顔は笑顔だった。恐らくこの非現実的な状況に心の奥ではわくわくしているのだろう。 僕も初めて来たときはそうだった。タイムスリップではないけど。 すると、上空からバチバチと音がした。見上げると霊夢と魔理沙が弾幕勝負をしていた。 「だ…弾幕…。まさか本当に…。痛っ。」 青年は腰を抜かして尻餅をついていた。 昼ご飯を作り終えたので、上空で弾幕ごっこをしてる二人を呼び、ご飯を食べ始めた。 呼ぶために僕が空を飛んだ時も青年は驚いていた。まあこれは初めは誰でも驚くよね…。 食卓は僕、霊夢、魔理沙、青年の四人で囲んでいた。 「おいしいですね。」 そう言いながらも青年はあまり箸が進んでいなかった。 「まだありますよ。お替りはどうですか?」 「いや、遠慮しておきます。普段からあまり食べないので。」 うん、見るからに食べ物をあまり食べなさそうだ。 「食べすぎも問題ですが、食べなさすぎも問題ですよ?」 僕が少しからかうように言った。 「ん、大丈夫です。もともとあまり食べないのでで。」 …まあ見た目からそんな感じがした。 「大学の時は何も食べない日もありましたから。」 「えっ!?」 青年が苦笑いしながら言った。だいぶ落ち着いてきたみたいだ。 「そんな食生活で良く体が持ちますね…。僕は大学の時に比べたら量は少しは減りましたけどね。」 「大学の時…?今は何をしているんですか?」 「あ、高校の教師をしてます。」 「…教師だったんですか。全然見えませんでしたよ。」 「ははは、よく言われます。」 「良也さん。話すのもいいけどそろそろ外来人を外の世界に戻したほうがいいんじゃないかしら?」 つい話しすぎてしまった。最近あまり同性と話してなかったからな…。 「えーっと、じゃあそろそろ帰ります?」 すると、青年は慌てた。 「待ってください!まだ幻想郷に居させてください!」 ここが幻想郷だって事を言ったっけ? 「なあ、良也。せっかく外来人もいることだし、今から宴会しないか?」 魔理沙が僕が持ってきた酒を手に取って言った。 「魔理沙。宴会は夜からだぞ。」 「いいじゃないか。開始時間を早めたってことで。」 …まあレミリアや幽々子も酒を持ってくるだろうし。 「よし、じゃあ始めようか。えっと…そういえば名前を聞いてなかったですね。名前は何て言うんですか?」 「あ、僕は…太田といいます。」 「太田さんですか。僕は土樹良也といいます。それで、太田さんは酒を飲めますか?」 「…もちろんです!ぜひ!」 お、酒が好きみたいだ。 「じゃあどっちがたくさん飲めるか勝負…なんてします?」 冗談で言った。でもこれが後であんなことになるなんて…。 「あ、はい。いいですよ。」 「頑張れー!良也ー!」 「いや、こっちの外来人もなかなかやるわよ。」 気づいたらすでに日が沈んでいて、みんな集まっていた。 これまで僕と太田さんの勝負は互角。でも僕は2、3回死んだ。文字どおりの意味で。 それに対して太田さんは酔ってはいるが、飲み続けている。この人の肝臓はどうなってるんだ…。 というより本当に人間なのか? 「霊夢〜、お替り〜。」 「魔理沙、お替りをくれ。」 わかりづらいが上が太田さんで下が僕だ。 文字から見てわかるけど太田さんは完全に酔っている。 「残念だけど、もう酒は無いわよ。」 「お前らが全部呑んじまったんだぜ。」 …え?そんなに呑んだか。そういえばなんか眠くなってき…た……。 …ん?なんかまぶしい…。 「おはよう、良也さん。ほら、さっさと起きて片づけを手伝いなさい。」 「…ん?ここは?」 「寝ぼけないで。良也さんは太田って外来人と飲み勝負をしてたのよ。」 思い出した。うっ…頭が痛い…。 起き上がって見渡すと、すでにみんなは帰ったようだ。 霊夢が一人で片づけをしている。…あれ? 「霊夢、太田さんは?」 「あの外来人なら幻想郷について詳しく知りたいとかで人里に行ったわよ。…ホントに覚えてないの?」 全く覚えていない。というよりあんだけ呑んでおいて二日酔いもないのか…。 「うん…すまない。詳しく教えてくれ。」 一応頼んでみる。 「面倒よ。自分で行ってきなさい。」 まあ予想はついていた。 頭痛も収まってきたので、少し空を飛んで人里までやってきた。そういえば昨日菓子を売るのをすっかり忘れてた…。 里のみんなには申し訳ないことをしたな。 「おや、良也君。昨日はお菓子を売りに来なかったな。何かあったのか?」 慧音さんとばったり会った。 「すいません。昨日はちょっと事情により来れなくて…。来週は絶対来るのでそう里の人に伝えておいてください。」 「ふむ…わかった。伝えておこう。ところで…」 「どうかしましたか?」 「さっきまで、寺子屋に太田という名前の外来人が来ていたのだが…。」 …太田さん、寺子屋に行ってたのか。 「で、今はどこにいるんですか?」 「幻想郷の歴史を知りたがっていたので少し教えた後稗田邸に行ったが。」 「ありがとうございます!じゃあ行ってみます。」 阿求のところか。とりあえず行ってみよう。 そういえば、今何時なんだ?昼くらいか?まあ、いいか…。 稗田邸に着き、扉を叩こうとすると、ちょうど太田さんが出てきた。 「あ、土樹さん。こんにちは。」 「…こんにちは。」 "こんにちは"じゃねぇよ…と思いながらもとりあえず挨拶した。 幻想入り二日目にして幻想郷に馴染みすぎだろ…。僕はもっと混乱してたぞ。 「阿求さんの資料を見せてもらってだいぶこの幻想郷についてわかってきました。」 だから"この"幻想郷って何だよ…。そろそろちゃんと聞いてみよう。 「太田さん、さっきから言ってる"この"幻想郷ってどういう事なんですか?あと何故霊夢と魔理沙の名前を知っていたんですか?」 僕がそう言うと太田さんの表情が曇った。 「まあ、こんなとこで立ち話もなんだからカフェにでも行って話しましょう。」 ちなみに、これは太田さんのセリフ。 ホントに何者だこの人…。(カフェの存在は慧音さんから聞いたらしい。) 「ご注文はいかがなさいますか?」 「ビールを二つ。」 「かしこまりました。」 何故か太田さんが注文をする。金を払うのは僕なんだけどな…。まあたくさん持ってるからいいけど。 それにまた酒を飲むのか…。 「それで、どうして霊夢と魔理沙の名前を知ってたんですか?」 僕は太田さんに睨むように視線を送る。 太田さんは少し考えた後何かを決意したかのように目線を送った。 「…わかりました、言います。実は――」 太田さんが言おうとした時、太田さんの足元に穴が開き、太田さんは落ちて行った。 「…スキマか。」 こんな事をできるのはもちろんスキマしかいない。 「ウフフ、ご名答。」 隙間からスキマが出てきた。店内は騒然とした。 「スキマ。何でいきなり太田さんをスキマ送りにしたんだ?もう少しであの人が何者かわかるとこだったのに。」 するとスキマは扇子で口元を隠しながら言った。 「まったくあなたは何もわからないのね。彼は普通の外来人じゃないわよ。」 「それくらい僕だって気づいてるよ。太田さんは何故か霊夢と魔理沙の事を知ってたし…。」 他にもところどころ不可解な言動があった。 「…そういえば彼はゲームを作るのが趣味みたいよ。」 いきなり何を言い出すと思ったら…ゲーム? 「恐らく彼は幻想郷の事をゲームにするわね。」 まあ、外の世界から見たら幻想郷はゲームの世界みたいだもんな。 「でも記憶を消したんだろ?」 「記憶は消してないわ。」 え?何で? 「彼は普通の外来人じゃない…と言ったわよね。」 「ああ。」 さりげなく心を読まれているがもう慣れたからスルーする。 「彼は…外の世界とはまた別の世界から来た人間よ。」 「は?」 「簡単に言えばパラレルワールドね。」 「…。」 信じられないが、これならタイムスリップも一応説明がつく。 もしかしたらそっちの世界の幻想郷に行ったことがあるのかもしれない。 「なにか勘違いしているみたいね、良也。彼の世界には幻想郷は無いわ。」 「どうしてそんなことがわかるんだよ…。というかそれだったら 霊夢と魔理沙の名前を知っていた理由が説明できないじゃないか。」 と、僕が言ってもスキマは口元を扇子でかくして胡散臭い笑みを浮かべてるだけ。 「ウフフ、良也。この世界を作ったのって誰だと思う?」 え? 「幻想郷を作ったのはスキマだろ。」 そういうと、スキマは呆れたような顔をした。 「…もういいわ。あ、そうだ良也。」 「ん?」 「彼にゲームを作るのを許可したときに条件を一つだけ付けたのよ。」 …条件? 「『そのゲームに良也だけは登場させちゃダメ。』ってね。」 そう言ってスキマは隙間に消えた。 【あとがき】 かなり矛盾が生じてたりしますが、そこは僕の力量不足です。すいませんでした。 「太田さん」の正体については…おまかせします。oyz 意見・批判・感想・続編希望などはhttp://clap.webclap.com/clap.php?id=rond(Web拍手)まで。 |
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