※本作における良也の設定が奇縁譚と異なっております。 紅魔館。 周囲からはそう呼ばれている紅い館の広大な庭にて、現在華やかなパーティが開かれていた。それ自体は大して珍しい事ではない。しかし今回は身内によるいつものパーティでは無く、内外問わずあらゆる客を招待しての大々的なパーティだった。 「どう?中々盛り上がってきてるでしょ?」 パーティの主催者の一人である悪魔、レミリア・スカーレットが口を開く。いつも通りの金色で縁取られた紅い羽織を着込み、その手には紅いワインの注がれたグラスが握られている。 「寧ろ今回の内容で盛り上がらないパーティを俺は知らんがな」 対して、その隣に居たのは黒いコートの下に山伏の着物と袴を纏った青年、神田修平であった。十五年程前は外の世界の住人だったが、紆余曲折を経て今は鴉天狗となり幻想郷で暮らしている異歴の外来人である。手には何も持たず、ただ腕を組んでいるだけだ。 「折角の結婚式なのに、皆浮かない顔してるってのはどうかしてるだろ?」 「フン、それもそうか」 会話が途切れる。しかしそこに別の人物の姿が現れた。 「御飲み物は如何でしょう?」 「よ、こあちゃん。俺はいつものココアで」 「畏まりました」 紅い髪を靡かせながらこあと呼ばれた悪魔が歩き去って行く。いつもはメイド長である十六夜咲夜がこの任を負っているのだが、現在後釜となる人材の育成中で姿を見せる事はあまりない。その代わりとして元はパチュリー・ノーレッジの使い魔であった小悪魔がメイド長の代理を務めているのだった。 「そういえば、アンタの奥方はどうしたの?まさか来てないって事は無いでしょうね?」 「ウチの嫁さんならただいま主人の歯止め役という任務を絶賛遂行中だ。全く、あの人の食い意地はどうにかならんもんか…」 そう言いながら修平がある一つのテーブルを指差す。その先には既にテーブル一つに配置出来る食事の全てを平らげて尚隣のテーブルにまで侵攻している亡霊、西行寺幽々子とその付き人、魂魄妖夢の姿があった。その中には他にも見慣れた面子がちらほらと見える。 「…あれも一つの虐殺になるのかしらねぇ…」 その光景を見て流石のレミリアも呆れ返る。しかしその呟きに誰かが答える間もなく、会場が歓声で染まり始めた。 「ようやく主賓の登場らしいな」 大衆の見つめる先を見て修平が呟く。その視線の先には銀色で縁取られた、レミリアと同じ型の羽織を着込んだ悪魔の妹、フランドール・スカーレットと、その小さな手に自身の手を握られている少年とも青年とも取れる男の姿があった。 Ryoya vew. 「なんか…緊張するね…」 「そう?私はしないけどな」 少年の手を握りながら喜々とした様子を隠そうとしないフランドール。しかしその手が握る相手の顔はイマイチ優れず、その先にある特に大きなケーキに書かれた文を見て少々硬直している様にも見えた。 ≪Happy Wedding!! Ryoya×Flandre≫ そう、この結婚式は紛れも無く彼とフランドールの為の結婚式であり、今宵二人は夫婦となる為の誓いを立てる予定になっているのだ。 しかし実際のところとしてはこれはフランドールの姉、レミリアによるお見合い結婚の毛色が強く、フランドールはともかくとして良也の方は複雑な心境というところであった。 「良也君、妹様。ご結婚おめでとうございます」 「うん、ありがとう!」 先程修平に注文されたココアを乗せたワゴンを押して出てきた小悪魔がフランドールと社交辞令を交わす。ちなみに良也はレミリアによって拾われた教育係という、こちらもまた異色な経歴を持っており、それが理由でこうしてフランドールと結婚させられるハメになっている。 しかし何故小悪魔はココアを運ぶだけなのにワゴンを押しているのか?それは修平が時折リットル単位で飲み続ける程ココアが好きだからである。現に今も大型のメーカーにマグカップが一つだけという非常に珍妙な光景がワゴンの上に広がっている。 「それにしてもお嬢様から許しが降りてよかったですね。妹様、良也君の事が大好きでしたからねぇ」 「そうね。あいつがこうも簡単に許しちゃうとは思わなかったわ」 「僕は明らかに陰謀めいたものを感じる…」 二人が談笑している後ろで呟く。しかしその言葉が二人に届く事が無いまま小悪魔は注文主の元へとワゴンを押して行き、更に面倒だからと式の進行役を全て丸投げされた現博麗の巫女がこの後の予定を確認しに近寄ってきたところでフリータイムは終了となった。地味に尻にひかれそうなタイプである。 Syuhei view. 静寂。大量の人妖問わない存在が集まっている庭園を覆っているのはその二文字だけだった。そしてその存在全員の視線がある一点に注がれ、その一点には一人と一組の夫婦が立っていた。 「新郎良也よ。今此処にて新婦フランドールに誓いの言葉を立てよ」 「はい!えっと…I 良也 take ズィー Flandre Scarlet to be my wedded wife, to have and to ホールド from this day フォワード.」 現博麗の巫女の言葉の後に続いた、幻想郷では異国の言葉となっている英語の誓いの言葉。生粋の幻想郷育ちの彼にとっては言いなれない言葉であり、ところどころ日本語発音になっているのはご愛嬌と言えた。 「新婦フランドールよ。今此処にて新郎良也に誓いの言葉を立てよ」 「Yes. I Flandre Scarlet take thee Ryoya to be my wedded husband, to have and to hold from this day love.」 流れる様な。そんな例えが適切であるかどうかも怪しくなる程の流暢な英語がフランドールの口から響く。それは一つの甘露となって良也の心を刺激し、式の事など関係なしに今すぐ抱き締めてキスをしてやりたいという衝動が走ったが、それをすれば歯止めが利かなくなると自身に言い聞かせて何とか持ち堪えた。 「よろしい。では、誓いの口付けを」 言葉に続いてフランドールの腰に手を回し、もう一方の手で顎を持ち上げる。フランドールもそれに合わせてゆっくりと目を閉じ、今二人の唇が、一つに繋がった。 「ぅぅ…ゲフン、失礼…よろしい、ではこれにて良也、フランドール両名の婚姻の儀を終了いたします。末永く、お幸せに…」 キスの瞬間を少々羨ましそうに見てから博麗の巫女が終了を告げる。その時を待っていたかの様に場がどっと沸き、フランドールがいきなり良也に抱き付くという自由っぷりを見せた。 「なんだか、懐かしい光景ですね」 「そう言えば俺達にもあんな頃があったんだよなぁ」 本格的に式が始まった頃に修平の隣に控えていた妖夢が言い、修平が答える。彼等が出逢ったのはもう十五年以上も昔で、それなりに落ち着きを見せてきているのだが、周りにしてみればまだまだ砂糖を吐きそうな程に仲は熱い。正式な婚約こそしてはいないが、所謂内縁夫婦の状態である。すると妖夢が修平の左手に自らの手を絡ませ、更に身体を寄せてきた。それに応える様にして修平も少しだけ身体を妖夢の側に向け、誰にも気付かれる事無くほんの少しの間だけキスをした。 それは、二人だけの秘密の合図。 「ん…すいません、なんだか妬けちゃって…」 「そうか。可愛い奴め」 少しだけ赤くなっている妖夢に修平が微笑みかける。最早ただのバカップルだ。 「そういえば、今回の結婚はあの吸血鬼が独自に計画した物だと小耳にはさんだのですが、修平さんは何かご存知ですか?」 「今回のか?さぁて、どうだろうな。知ってるかもしれないし、知らないかもしれない」 明らかに何かを知っている顔で質問に応じない修平。しかしこれは何をしても喋る気は無いという事を妖夢も熟知していた為それ以上聞く気は無かった。 「…なんだか、最近本当に紫様に似てきましたよね…?」 「まぁ、親子だし」 他愛も無い受け答えで躱す。しかし修平は何かを知っているなどという程度ではなく、事の発端から全てを知っていたのだが、それを知るのはもう一人の共犯だけであった。 Ryoya view. 初めて二人が出逢ったのは、十年近く前の雨の日だった。 まだ幼年の域であった彼は里の人間に捨てられたのか、それとも外の世界から彼だけが幻想入りしたのかは定かでは無いが、雨の中渋々門番をさせられていた紅美鈴によって発見されて館の中へと連れ込まれた。そしてそこで当主のレミリア・スカーレットの命によって当時のメイド長、十六夜咲夜の手によって育てられると同時にレミリアの妹、フランドール・スカーレットと生活圏を同じくされる事となった。 ただの人間にしてはあまりにも危険すぎるレミリアの判断。しかし彼女の眼は運命を視る事が出来るという事もあり、少々の不安を抱きつつも咲夜はレミリアの指示に従い、彼女が土樹良也と名付けた幼年の教育を引き受ける事となった。 結果としてその時のレミリアの判断は正しかったのか、彼と妹はまるで兄妹の様に親しく過ごし―――十年という歳月こそ掛かったものの―――彼の存在のお蔭か、フランドールが有する最大の不確定要素であった四重人格とも取れる不安定な精神も落ち着きを見せる事にある程であった。そしてその功績を認められると同時に彼はフランドールの教育係を任される様になり、そしてこうして正式に結婚する程となっていったのであるのだが――― 「良也…どうしたの?」 「ん?あぁごめん、考え事してた。どうしたの?」 先程からあまり顔色の良くない良也の顔を覗き見ながらフランドールが声をかける。 「うぅん。特にどうって訳じゃないんだけど…あまり楽しそうに見えないから」 「え?そうかな…やっぱり、ちょっと緊張してるのかも…」 ちゃっかりケーキを食べていたフランドールの疑問をややぎこちなく受け流す。しかし当の本人としてはある種気が気でなかった。 彼は、確かにフランドールを愛していた。 しかしその愛は自らの家族に対しての物であって、恋人に寄せる甘い物とは言えなかった。だがフランドールが本気で自分に恋している事も知っていた彼は、生来の優しさもあって彼女の想いを断るという決断は出来ず、自身の気持ちをずるずると引き摺ったまま今日まで来てしまっていた。別に悪い気はせず、むしろ満更でも無いのだが、さてどうしたものか……… 「…良也」 「え?」 袖を強く引っ張られ、ようやくフランドールの様子が少々おかしい事に気付く。実際には彼の方がよっぽど様子がおかしかったのだが――― 「ちょっと、一緒に来てくれる?」 「え?あっと…ちょっと!?」 フランドールの強い力によって無理矢理会場から強制退場させられる事となった。そして成されるがままに連れて来られた先はいつもは美鈴が門番職を全うしている正門前であり、会場の者達が二人の会話を聞き取る事はおよそ不可能な場所であった。 「一体どうしたのフランちゃん…いきなり連れ出したりして…」 「良也は、私の事どう思ってるの?」 相手の質問を掻き消す様にフランドールが強い語調で詰め寄る。 「どうって…一体何の事…?」 「私の事…本当に好きなの…?」 「え…?」 予測はし得たが、即座に回答を出す事の出来ない質問に思わずどもる。そしてそれと同時に自分はフランドールの事をどう思っているのかを改めて考え直していた。 フランドール・スカーレットは確かに可愛らしく、とても魅力的な少女だ。ある日突然付き合って欲しいと言われたら誰だって首を縦に振る程に。そして自分は長い間彼女と生活を共にし、外面以外の様々な部分に対しても好意を寄せているのも確かだ。 しかし、長い間共に居続けたが故に彼女に家族愛以外の想い―――時には欲望に近い想い―――を抱くのは正直無理な話だった。 一体どう答えればいいのか、彼は分からなかった。だから彼は本気でフランドールが憤慨する前に正面から抱き締めた。 「むぎゅっ!?」 「ごめんフランドール…君の事は確かに好きだ。でも、自分でもよく分からないんだ…」 フランドールの独特な翼が困った様に上下する。 「フランドールの事は、誰よりも好きだ。館の皆の誰よりも。でも、この気持ちが恋をする相手に対してのものなのか、分からないんだ…」 自分を責め立てる様に吐き出し続ける。その言葉に何処か懺悔の様な色も感じ取れ、フランドールに嫌われる事を覚悟の上とでも言いたげな口調だった。しかし――― 「…そうだったんだ…なら…」 「え?」 フランドールの言葉の続きを聞こうと抱き締める力を緩める。だがその瞬間こそフランドールの狙っていたものであり、その隙を突いてフランドールからキスをした。 無理矢理押し付ける強引なキス。しかしそれを押しのける訳にも行かず、仮に抵抗したとしても簡単に抑えつけられる事も分かっていた為に受け入れるしか無かった。そして数秒程度しかない長い時間の後、唇を離してフランドールが言葉を発した。 「分からないなら、探せばいいんじゃない?」 「探す?」 「うん。きっと、そういう運命だったのよ。良也は、私と結婚する事で、恋愛をするって事は何なのかを探すっていう、そういう運命…」 運命。それは館の主レミリア・スカーレットの本分とする物。実際の所どこまで運命を操れるのかはイマイチ不明だが、自分は既に彼女の手によって運命を操作されている可能性が非常に高い。となれば、恐らく自分が成すべき事は一つなのだろう。 「運命、か…うん。何か、難しく考えてた自分がバカみたいだ」 「そうよ。それと、日本じゃこれを付ける習慣が無かったわね」 そう言ってフランドールが何かを取り出す。それは一組の指輪であり、俗に言うエンゲージリングという物だった。その片割れを良也に渡し、互いに額を付けて婚姻の祝詞を詠み、指輪を左手薬指へとはめた。 「I Ryoya take thee Flan to be my wedded wife, to have and to hold from this day forward.(私、良也は貴女、フランを妻とし、この日より大切にし続ける事を誓います)」 「I Flan take thee Ryoya to be my wedded husband, to have and to hold from this day love.(私、フランは貴方、良也を夫とし、この日より愛し続ける事を誓います)」 それは、二人にとっての…本当の誓いの言葉。 Vew of Remilia &... 「ようやく落ち着いたわね…」 月明かりの差し込むテラスに配置された椅子に腰かけ、机に置かれた紅茶を飲みながら言葉を続ける。 「あの子の精神はもう昔の様な迷宮では無いわ。四つの人格がよりハッキリと別れ、今どの状態なのか、どうすれば違う人格になるのかが分かりやすくなった。そして何より、“自分”を持つという精神が現れて誰かに利用されるという心配もまず無くなった。これは、私があの子を地下に閉じ込めておく理由が無くなったも同義なのよ」 月光に照らされる一対の黒い翼。その元には紅い羽織を着た少女が椅子に鎮座し、更に言葉を続けていた。 「本来なら私の力のみで、それももっと永い時を掛けて完遂する筈だった事。それが、私が土樹良也と名付けた少年によって恐ろしく早い段階で完遂を遂げた。そもそもあの子を落ち着かせる為には≪人間≫であり、≪強く、安定した精神≫を持ち、≪長い時間を共に過ごす≫という条件を満たさなければならなかった………そしてそこに最後の条件≪男である≫事が必要だった。部分的になら咲夜でも貴方でも可能な事、でも全てを満たしているのはあの男だけだった」 飲み干したティーカップを机に置く。そこに控えていた小悪魔が近寄り、無駄の無い手つきでティーカップを下げた。 「あの時、私が名付けた時に運命は正しかった。全ては私のシナリオ通り…残るは私のストレス発散ってところかしらね…ねぇ、シュウ?」 そう呼びながら彼女、レミリア・スカーレットは左手側へと顔を向け、その先でテラスの柵に腰かけていた鴉天狗、神田修平に視線を向けた。 「ストレス発散ねぇ…ま、俺に出来る事と言ったら何時起こるか分からないイレギュラーに備えて、戦いの経験を積むだけなんだがな…」 「だからストレス発散なのよ。この幻想郷じゃ、命を賭した殺し合いを出来る相手はあんたしか居ないから。それにあんたが居なければ、私は弟妹の心という物をずっと勘違いし続けるところだったわ」 「そうかい。そりゃよかったな。それじゃ…」 椅子から立ち上がり、紅い槍を発現させて修平へと槍先を向けるレミリア。それに応える様に修平も背中の両刃大剣『業炎』の剣先をレミリアへと向けた。 「さあ、始めようか…Raven!」 「お好きなように…Vampire!」 一瞬だけ槍先と剣先が触れ、火花を散らした瞬間に二人が音速を突破するかの様な速さで外へと飛び出し、瞬きする間も無く修平が大剣で斬りかかり、レミリアが槍でそれを受け止めた。だが次の瞬間には修平の姿が無く、大剣を天高く投げると同時に懐に手を突っ込んで格納されている背中の翼から羽を数枚もぎ取り、指の間に挟まった羽が投擲用の小刀に変わると同時にレミリアへと投げ付けた。 対するレミリアも即座に修平の動きに反応し、指先に現れた紅い針状の弾で小刀を撃ち落すと共に右手に持っていた槍を投げ付ける。しかし槍が修平を捉える事は無く、大剣を回収した修平が弾け飛ぶ様な瞬発力でレミリアの横へと迫った。 「ぅらぁ!」 左手に持った大剣で繰り出す鋭い突き。だがレミリアはそれを手の平に一瞬だけ作りだした魔力の盾によってピンポイントで弾き、デーモンロードウォークと呼ばれる動きで修平に体当たりを掛けた。しかし弾かれた瞬間に次の相手の動きを予測していた修平は紙一重で体当たりを躱すと同時にレミリアの背中に蹴りを浴びせ、その反動で距離を取って右手で四つの小刀を投げ付けた。レミリアはそれを吸血鬼故の運動能力で回避、更に羽織の内側に備え付けられたホルダーからナイフを抜き出し、自らの血を付着させて修平に投げた。 投げられたナイフに付いた血から更に血が拡散し、殺傷能力のある弾となって修平を面制圧する。それを躱すのは不可能と判断した修平は大剣を回して防御、そしてその際に剣に炎を纏って逆手に持ち替えてから全力で振り抜いた。すると炎が一つの剣戟となってレミリアに襲い掛かり、次の手段を講じていた彼女に強制的に回避という選択をさせた。いや、させる筈だった。 「その程度か、レイヴン」 レミリアの周囲に紅いフィールドが形成されて炎を完全に防ぐ。その内側に居た彼女は完全なる無傷であった。 「何だぁ?プライマルアーマーだとでも言うのか?」 「そのプライマルアーマーとやらが何なのかは知らないけど、銀でも持ってこない限りこの盾を破壊する事は不可能よ」 「そうかい。なら―――」 大剣を背中に戻して両手で羽をもぎ取り――― 「鴉天狗の最大腕力で、防ぐ物ごと沈めてやる!」 限界まで振りかぶってから修平が小刀を投げ付けた。 投擲時に音速の壁を突破した証の轟音と立ててレミリアへと小刀が飛んでいき、紅いフィールドに突き刺さる。そして僅かに投げるタイミングをずらして投げられたもう一組の小刀が突き刺さった小刀の後ろに直撃し、その勢いも得て、突き刺さっていた小刀がフィールドを貫通してレミリアに襲い掛かり、ギリギリで回避行動を取ったレミリアの白い頬を掠めた。だが全力投擲の反動として修平が体勢を立て直すのに一瞬隙が生まれ、それを見逃さなかったレミリアが好機と言わんばかりに両手に紅い剣を発現させて上空から襲い掛かった。 それに気付いた修平が牽制として最速で小刀を投げる。だが素早く投げる事だけに集中しすぎていた為に投げた時点でレミリアは直撃コースから外れ、振り降ろされた右手の剣によって再び手に取った大剣が弾き飛ばされ、左手に具現化した霊刀『凍雲』を抜刀してレミリアの両手の剣と何度も切り結び、一瞬の隙を突いて右の剣を鍔元から斬り飛ばした。 刀身の消えた剣を即座に棄て、後退する修平を追って肉薄するレミリア。その際に修平が霊刀を鞘に納めて抜刀の姿勢に入っている事を確認すると、抜刀の直前で上に跳び上がってから左の剣を修平が抜刀した霊刀を斬り上げるのと同時に振り降ろし、剣先が修平の胸を僅かに捉えるのを手の感触で知った。 「このくらいっ!」 レミリアが体勢を立て直す前に左肩を蹴って自分の間合いを確保する修平。そして更にレミリアと何度も切り結ぶ。 「腕力で俺が負けている!?ぬぇいっ!」 レミリアの渾身の突きを紙一重で躱し、こちらを向くと同時に修平が霊刀を振り降ろして残った左の剣を切断する。 「なんとっ!?」 両手の剣が容易に両断された事に驚きながらも修平の腹にパンチを繰り出し、更に脇腹にキックを入れる。最早互いに武器を生み出し、振るうだけの余裕は無い。 「ぬぁあ!」 修平が左手で正拳突きを繰り出し、レミリアの頬を捉える。だがその手も戻す前にレミリアの右手によって掴まれた。 「それでこそ…私のライバルよ!」 叫びながら仕返しと言わんばかりに左ストレートを繰り出して修平の頬を打つ。だが次の一手を繰り出す前に修平の右足による蹴りがレミリアの脇腹を捉え、その際に放された左手で何度もレミリアの頭を殴り付けた。 「ガンダムファイトォォォ!!!」 「ぐっ!図に…乗るなぁ!」 更に殴りつけようとしていた修平を振り払う様に紅い奔流がレミリアの身体を包む。そして奔流が消えて一瞬だけ膠着状態に陥った後、互いに槍と霊刀を持ち、互いの限界速度で一瞬だけ交差した。 今宵の戦いは、そこで幕を降ろした。 Fin. |
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