「何だ…あれは…」
「紅魔館の主で、吸血鬼のレミリア・スカーレットだよ。彼女がミサイルを撃ち落としたみたいだね」
にとりが零のつぶやきにすらすらを答える。だが零にとってそれはどうでもよく、目の前に人型が亜音速で飛んでいるという事が問題だった。
紅い瞳に黒い悪魔の翼。妖精―――それも虫の様な羽の生えた大人の女性―――をモチーフにしているフェアリィ空軍とはまるで真逆の、悪魔の少女。そんな人外としか思えない存在がメイヴの傍へと寄り、ライフカプセルに手を着けるのを冷たい目で零は見つめ、レミリアと呼ばれた少女が何かを喋っているのが見えた。
「何喋ってるのか分かんないね…」
スーパーフェニックスMk.XIのエンジン音と、ライフカプセル越しというのが重なって何を喋っているのか全く聞き取れない。だが零は雪風が何らかの反応を示している事にすぐに気付き、それがレミリアの言葉を唇の動きだけで翻訳しているというのが分かった。
<聞こえる?もし聞こえていたら頷き、聞こえなかったら首を振りなさい。或いは聞こえているが喋れない時は二回頷きなさい>
フェアリィ語でメインディスプレイに表示された言葉を見て首を振った時点で聞こえてるんじゃないかと思い、すぐにこれはちょっとした知恵試しだと気付いてから零は二回頷いた。
<了解した。何処か降りられる場所を見つけたらそこを指差しなさい。追随する>
「河城技師。これより帰還するが彼女を連れても大丈夫か?」
「え?うん」
にとりの了解を得てから指を差して山の麓の滑走路を示す。そしてすぐに進路を変更して雪風は妖怪の山にある小基地へと帰還していった。





    東方×戦闘妖精雪風



     ≪戦闘妖精東方≫

       『不可知戦域』





「おかえりなさいませ、深井零大尉。貴方をお待ちしておりました」
小基地に帰還し、にとりと共に降りてきた零が最初に受けた言葉がそれだった。
目の前には狐を思わせる尻尾が九本生えたどこか中性的な顔立ちの少女。隣には先程の悪魔の羽が生えた少女が立ち、零はとりあえず真っ先に少女達に問うた。
「あんた達は?」
「失礼、自己紹介がまだでしたね。私は八雲藍。貴方をある御方の元へ案内したく、参上しました」
「私はレミリア・スカーレット。さっきあんたが飛んでいた辺りにある屋敷の主よ」
藍はどこまでも笑みを絶やさず、レミリアは自己紹介をしておきながらも鋭い視線を零に向けた。どちらも握手を求めて来ず―――レミリアはともかく―――どうやら藍はビジネス的な関わりしか持つ気は無さそうだと零は推測した。
「レミリアさんもご一緒願えますか?どうやら当事者達全員にまとめて話をしたいそうなので」
「当事者というよりは、少しでも現状に咬んだ者全員か…仕方ないわね。深井零、着いてきなさい」
どこか諦めた口調で零を促す。そして藍がタッチパネルを操作するかの様に手慣れた手つきで空間に指を突き、その場の空間が裂けて暗黒の空間が姿を見せた。
「私の能力の一つです。一種の[超空間通路]と認識していただければ結構です」
声には出さずに驚愕していた零に藍が手短に説明する。そして藍が先導し、それに続いてレミリアと零も空間へと足を踏み入れた。そしてその先に見えたのは―――
「―――なっ…!?」
かつて零と最も親しかった人間、ジャック…ジェイムズ・ブッカーのオフィスと全く同じ空間だった。だが全く同じ場所ではない証に乱雑に並べられた椅子にはにとりを始めとした河童技師達が座っており、ジャックがいつも座っていた席には金髪の女性が背を向けて座っていた。
「ようこそ、深井零大尉。この部屋はお気に召しましたかしら?」
「あまりいい趣味とは言えないな。あんたは?」
女性が回転椅子を回して零と正対する。そして不敵な笑みを浮かべると、重々しく口を開いた。
「初めまして…私は八雲紫。貴方にある事を依頼したく、ここに呼んだのですわ」
藍に用意された椅子に座り、勝手知ったる動作で壁のスクリーンに身体を向ける。紫もそれを待っていた様に零が座った瞬間に部屋の照明を落とし、スクリーンを起動させて説明を開始した。
「今から一週間と十二時間前、妖怪の山麓の河童工廠付近にフリップナイト型FRX-99が不時着し、その四時間後にFFR-41MRが幻想入りを果たしました。そして本日1754時、ジャムと思われる存在とメイヴが交戦、これを撃墜しています。何故深井大尉が幻想入りを果たしたかは既に見当がついていまして[超空間通路]破壊の際の核爆発からメイヴを掬い上げようとした結果、偶然この幻想郷への道が開いて突入してしまったと考えられます。しかし、ジャムと思しき存在が何故この幻想郷に現れたのかは謎に包まれています。そこで―――」
そこで一度言葉を切り、零の顔を横目に一度見てから再び話を始めた。
「―――深井大尉には、このジャムと思しき存在の調査をお願いしたいのです。彼等が何処から来て、何の為に此処に居るのか…それを調べて欲しいのです。かつて深井大尉が戦っていた『ジャム』と呼ばれる存在に関しては先程配らせた資料の通りですが、正直言ってそこまで分かっていないというのが現状です」
「補足として、今回の件に於いて幻想郷の人間達には手出し無用と予め通達してあります。それは博麗の巫女と言った、所謂解決屋達も例外ではありません。どうにも今回はきな臭い空気が漂っておりますので、まともな人間の参加者は深井零大尉のみとさせて頂きます。ちなみにこれには幻想郷の人間ではB-501の繰り出す高G機動に耐えられないという事も含まれています」
指示棒を持った藍が幻想郷地図の映し出されたスクリーンで博麗神社や人里を示す。そこに―――
「きな臭い空気とは?」
壁に背を預けながら腕を組んで話を聞いていたレミリアが手を上げて質問をした。それに一度紫を見てアイコンタクトで指示を仰いでから藍がすらすらと答えた。
「今回のジャム…『リゼンブルジャム』は、どうやら深井大尉を追ってこの幻想郷にやってきた可能性があります。また、リゼンブルジャムもジャムとは違う、全く別の何かである可能性も十分に考えられます。その証拠にB-501に搭載されているジャムセンスジャマーと呼ばれる、ジャムを感知すると起動する視覚迷彩が反応しなかった事が挙げられます」
その言葉を聞いて雪風が戸惑う様にUnknownからEnemyへの切り替えに一瞬だけ間を置いたのを思い出す。もしかしたら、雪風はあの時点で既に相手がジャム以外の何かである事に気付いていたのかもしれないと零は思った。
「しかし、調べてみない事には何も分かりません。なので我々八雲は深井大尉にリゼンブルジャムの調査を依頼したいのです。このまま放っておけば、幻想郷そのものに害を成す恐れもありますので…お願いできますか?深井大尉」
「…仮に受けたとして、俺への報酬は?」
ほぼ無表情に逆質問する零。しかしその質問に答えたのは藍ではなく紫だった。
「元の世界への帰還及び、貴方の望む現象事象を一つ、叶えて差し上げます」
「俺の望む…現象事象…?」
「ええ。例えば帰還後、億万長者になりたいだとか、これ以上考えられない程の幸福な生活を送りたいだとか…」
「なら、俺の望みは一つ。ジャックに会わせてくれ」
あくまで淡々と答える零。しかしその内側には人間でただ一人だけの、そして最も親しかった友人ともう一度共に過ごしたいという、零にしては熱い想いが込み上げており、その想いは無表情な零の瞳に火を灯す程密かに、はっきりと滲み出ていた。そして紫もその想いに気付いたのか、スクリーンを停止させた後に扇子を広げて口元を隠した。
「なら、交渉は成立ですわね。次の出撃は翌日0900時で、偵察任務に丁度いい人材を後席に当たらせます。河童達はそれまでにFFR-41MRの整備を、その他は別命あるまで普段の生活をしていて頂戴。以上、解散」
紫の号令に従って藍の開けた異空間を使って住処へと戻っていく他の当事者達。零も腰を上げて雪風の元へ向かおうとしたが、その前に紫が話しかけてきた。
「この部屋の事だけど、貴方の記憶をちょっと覗かせて頂いたわ。私の力を使えば全宇宙を一つの物質に統一する事も、無から物体を作りだす事も出来るし、こうして他人の記憶を除く事も出来る」
「やはり、あんたはあまりいい趣味をしていないな。明日は0900時でいいんだな?」
突然完璧なフェアリィ語で話しかけられた事に少々驚きながらも言い返す。
「ええ。0900時に出撃をお願い。私の選定した後席要員は時間に遅れる事はまず無いから安心なさい。最も、ちょっとうるさいかもしれないけどね」
そう言ってほほ笑む紫を見て、どこかクーリィ准将に似通った物を感じながらも零は藍が開けたままにしている雪風の待つハンガーへの通路へと入っていった。


   ***


「レーザーシステムの出力はこれでいいんだな!?」
「大体1.8倍の出力で大丈夫だと、上からのお達しだ!」
「零が乗り込むだけになる様に整備点検は入念に!」
翌日。出撃時刻の少し前になり零は雪風が最終点検を受けているハンガーへと足を運んでいた。既にフライトスーツに身を包み、ヘルメットを脇に抱えて出撃準備は整っている。
「あ、零!レーザーシステムの出力調整終わったよ。これで一撃で撃墜出来る筈」
走り寄ってレーザーについての事をにとりが伝え、零は一度頷いただけで乗り込み用梯子へと向かう。しかし梯子を上る前に嫌でも目に付く物が零の動きを止めた。
「ほっほー!これが外の世界の飛行機と呼ばれる物ですか!いいですねー!いいネタになりそうです!」
一眼レフで、更に写真機というやけに古風なカメラを手に写真を撮りまくる一人の少女。しかも何の推力も無しに雪風の周りを縦横無尽に飛び回り、あらゆる角度から高速で写真を撮っているが、時折カリカリというフィルムを捲き上げる音が聞こえ、どうやら使用者の撮影速度にカメラが追いついていない様だった。
「あ、零さんおはようございます!私が本日この機体の後席要員を任せられた、射命丸文です!」
「…何をしている…?」
やや呆気に取られながらも零が問う。確かにフライトスーツに身を包んでいるところを見ると紫が選定した後席要員で間違いないのは分かるが、何故雪風を何枚も激写しているのかが理解出来なかった。
「写真撮ってます。これでも私は文々。新聞の記者ですから、いいネタが目の前にあるのに取材しない訳がありません!」
「記者?」
その言葉を聞いてかつて後席に乗せたアンディ・ランダーを思い出す。彼と共に飛んだ時、初めて不可知戦域に足を踏み入れたが、今回も場合によってはそうなるのだろうかと何処か的外れな事を思いながら零は梯子を上がって前席シートに身体を収めた。
「今回の出撃内容については既に聞いてます。が、その合間にちょっと私に付きあってくれませんか?」
「何に?」
ヘルメットとマスクを装備しながら問う。ついでに文にもヘルメットとマスクを装備する様に促してから文の答えを待った。

「私の取材にです!」



「すごい!外では自分で飛べない代わりにこうやって飛ぶんですね!」
キャノピー越しに下界を眺めながら文が叫ぶ。その声をBGMにしながら零がいつもの偵察任務の様に情報処理を雪風に任せて操縦をしていた。が、ここはフェアリィ星でもなければ零の知る地球でも無い幻想郷。得られるデータといえば<ド田舎>だけな上に操縦と言っても幻想郷の外周をただ回るだけの為、ほんの僅かに機体を傾けて自然にゆっくりと旋回するのを監視するだけだった。
「それにしても随分とゆっくり飛んでいる様に思えますが、今どれぐらいの速度なんですか?」
「巡航速度の1300mile/hだ。km/h換算ならおよそ2100km/h。現在高度は58000ft。m換算ならおよそ17700m。速さは里換算なら半刻で534.8里の移動速度で、高度は町換算で162.3町と言ったところだな」
「半刻で534里!?それはすごいですね!」
メイヴのメインディスプレイに即座に表示された雪風の計算結果を零がフェアリィ語から日本語に訳す。里や町など、聞いた事もない単位だったが文に対してはその方が通じると雪風は判断したのだろうと零は胸中で結論付けた。
「そんな事より、ちゃんと任務はこなしているのか?」
淡々と文の質問責めに答えていた零が今まで気になっていた事を口にする。すると文は相変わらずの垢抜けた声色で即座に答えた。
「大丈夫です!後席の操作云々に関してのマニュアルは既に読み終えてますから、操作や読み取りに困る事はありません!」
「マニュアル?」
「紫さんが用意してくれたんですよ。まぁ正規品じゃないと思いますけどね」
と文が軽口を叩いた時、雪風がアラームを発して何かを発見した事を二人に告げた。
「あや?」
「雪風が何かを発見した。これより高度を下げ、機体を傾けて目視確認する」
という零の宣言に文は何事かを口にしようとした。だが直後に繰り出された機体が垂直降下しながら前転をするという機動に舌を噛みかけ、この瞬間に主翼が前進翼状態から後退翼状態に変化した事に気付いても声を発する事が出来なかった。
「どうだ、何か分かるか?」
「あやややや…私とした事が、これしきの動きで黙ってしまうとは…えーっと、何やら箱を積み重ねて作った土俵の様な、割と大きい台が見えます」
「何…!?」
箱を積み重ねて作った土俵の様な物と聞いて即座にジャム・ブースターの垂直離陸用ベースを思い出し、零も首を捻って確認しようとした。だがその瞬間に台と呼ばれた地表が内側から崩れ、中から黒い巨大な何かが飛び出し、それを見た瞬間に零はマスターアームをONにした。
「エンゲージ!リゼンブルジャムだ。それもブースタータイプ、数は三。あと十数秒で同高度に到達するぞ」
「あ!見てください、何かを切り離しましたよ!」
ライフカプセル下面を構成しているホログラム越しに文がブースターの切り離しの瞬間を目撃する。だがそれと同時に雪風の空間受動レーダーが新たな反応を捉え、敵機発見のアラームを鳴り響かせた。
「十時方向にタイプ2、こちらも三機。何処かに向かっている様だが、この先に何がある?」
空間受動レーダーが敵機形状を把握し、ライブラリの中で最も似通った形状をしているジャム・タイプ2がボギーの正体だと雪風が零に主張し、その飛び方から何処かへ進路を向けて向かっていると判断して文に問う。
「この先は確か博麗神社が…っ!深井大尉!すぐに連中を撃墜してください!」
「博麗神社?あそこをやられるとどうなる?」
突然声色を変えた文に疑問を感じながら、同高度に達したタイプ1のミサイルをバレルロールからのフック機動で引き離し、機体を無理矢理捻じ込んで正面に捉えたリゼンブルジャムをレーザーで一機撃墜する。
「あそこをやられると幻想郷を護っている二つの結界の片方、博麗大結界が崩れて幻想郷は文字通り半分丸裸になってしまいます!何としても攻撃を阻止してください!」
幻想郷を護っている結界の片方がやられて、半分丸裸になる。何処かで聞いた様な話だと思いながら零はエンジン操作を行って機速を一気に上げる事にした。
「燃料が持てばいいがな」
<RAM-AIR>と表示されてエンジンの吸気系統に機体上部のラム・エアインテイクが追加される。次いで胴体左右部分に装備されたドロップタンク(外付け式の燃料増加槽)を投棄し、急激に上がる機速に合わせて揚力が無駄な抗力に化けない様に主翼が直立して雪風はロケットエンジンでも搭載したかの様な速さでタイプ2の編隊に後方から突撃して行った。
「ぉおっ!?間に合いますか!?」
「この距離と相対速度なら大丈夫だ。十分やれる」
エシュロン編隊(正三角形状の並び方)で一路博麗神社へと向かっているタイプ2三機に迫る。それに気付いたのか、下側に突き出ている垂直尾翼を可変させて無尾翼形態へと形を変えて増速を開始したが、雪風からレーザーが一射されて右側の一機を撃墜した。それに合わせて残りの二機が何度かシザーズ機動をしてからエレメント編隊(人差し指と中指の先端と同じ並び方)を組んで更に増速。雪風もそれを追い、更に一射して左に着けていた敵機を撃墜した。
「あと一つ。でももうすぐで博麗神社です!」
残ったタイプ2が突入角度四十度で博麗神社に突撃しようと一度背面飛行をして機首を下げる。だがラム・エアを吸入してエンジン出力が桁外れになっている雪風の方が速く、神社まであと10kmという所でレーザーにより撃墜された。
「撃墜出来ましたか…これは後で博麗の巫女にどやされそうです…」
空になった胴体下部のドロップタンクを投棄し、ラム・エアインテイクを閉じて通常戦闘速度域にまで減速すると同時に主翼が通常の位置に自動で戻る。しかし、たかが数十秒の超音速レースでいつの間にか博麗神社近くにまで来ている事よりも、近い将来に博麗の巫女にどやされる事の方が文にとっては思考の優先順位が高かった。
「リゼンブルジャム・タイプ2の全機撃墜を確認。これより残ったリゼンブルジャム・タイプ1二機を―――」
撃墜する。と零が言おうとした瞬間、ブザーが鳴ると同時に雪風が何らかのデータを現す二進数の数字列をディスプレイ上に表示した。
「どうしたんですか?」
文の言葉も耳に入れずに表示されているデータを食い入る様に零が見つめる。データリンクを使った編隊飛行用のデータ……以前スーパーシルフに姿を似せたジャムが行った物と同じ……
「雪風、お前はこれをどう判断する?」
<彼等は私達と直接的に交渉しようとしていると思われる。私は彼等からの通信波を受信していたが、人類…ひいては人智の範囲に収まる通信波では無かった為深井大尉の指示に従い、彼等を暫定的に敵と判断していた>
MAc ProUを即座に起動して雪風がディスプレイを通して答える。そして今更ながらに零は雪風がリゼンブルジャムをUnknownと表示している事に気付いた。
「お前は奴等がジャムや、それに似た何かであると気付いていたのか?」
<気付いていた。そして彼等はジャムや、それに近しい者では無い事にも気付いていた。だが彼等は我々が理解出来る、所謂言語を持ち合わせていないと思われるが、データリンクを送ってきた以上は何かしらの交渉方法を確立したと考えられる>
雪風にも理解出来ない通信波。言語を持ち合わせていない。その二つの要素がファーストエンカウント時の雪風の一瞬の戸惑いの原因かと零は理解し、自分に課せられた任務はあくまでリゼンブルジャムを調べる事だと思ってから雪風の次の言葉を待った。そして、雪風が出した言葉は―――
<...The Order...>
指示を。ただそれだけだった。だがある意味ではそれこそが零の望んだ雪風の答えであり、零は即座に雪風に指示を出した。
「…深井大尉より雪風。対空、対地、電子戦の戦闘態勢を取れ。これより彼等の誘導に従って飛行を行う。もし何らかの形で相手からの攻撃が認められた場合は即座に対抗せよ。ただし、離脱する時は必ず俺と後席の射命丸文を回収しろ。以上だ」
<Roger>
「深井大尉!一体何が起こっているんですか!?」
全く説明されずにいよいよ苛立ち始めた文が大声を張り上げる。
「ミス。取材用のカメラは持ってきているか?」
「え?まぁ、持ってきてますけど…」
「それを使ってリゼンブルジャムの正体を掴む。ジャミングされて何も写らない可能性は高いが、やらないよりはマシだ」
アンディ・ランダーと共に不可知戦域に足を踏み入れた時の事を思い出しながら文に指示を送る。文も今回の出撃の目的を思い出したのか、即座にどこからか例の写真機を取り出していた。
等速水平飛行を行っている雪風に先導する様に二機のタイプ1が雪風の斜め前に着く。そしてまるで塗りつぶされる様に空の色が一変していくのを零は冷めた目で見ながら語りかける様に呟いていた。

「行くぞ、雪風」











                              MISSION CMPL...



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