あの衝撃展開の後に、とりあえず良也は事情を説明して、ライドウの所属している機関の人に会うことになった。今は、ライドウの追っている事件の調査が終わるのを待っているところである。

「お待たせしました。それでは、志乃田の神社に向かいましょう」
「了解。ほんと、忙しいとこ手間取らせちゃったみたいでごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ。悪魔との戦闘を手伝って頂いたので、そのお礼も兼ねていますから」

 そう言うとライドウは、良也をつれて神社までの道のりを歩き出した。




 良也たちが駅まで歩き、電車に乗り、そして山道をあるいて到着した神社は、人の気配がない割にしっかりと手入れされていた。

「ここに、葛葉君の所属してる機関の偉い人がいるのか?」
「偉い人とはまた違う気がしますが、大体そのような認識であっています。あと、僕のことはライドウで結構ですよ


 ライドウの言葉に分かった、と良也は頷く。そんな良也を横目に見つつ、ライドウは神社の鐘を数回鳴らした。すると、突如として黒衣の女性がライドウと良也の目の前に現れる。彼女こそ、ライドウの所属している組織、ヤタガラスの使者を勤めている女性だ。

「なにようですか? 葛葉ライドウ」
「実は……





 ライドウは、ざっくりと事情を説明した。ヤタガラスの使者はふむ、と思案顔になる。

「なるほど、つまり彼はなんらかの要因で過去に飛ばされた、未来人という訳ですか」
「はい、そういうことになります」
「時間遡行がどのような要因で行われたにしろ、できるだけ速やかに元の時代へ戻っていただく方法を模索する必要があります。アカラナ回廊を利用するにしても並行世界への移動ならともかく、時間移動に使うには危険が多すぎますし……


そう言って、ヤタガラスの使者は良也を見やった。良也は、彼女にこう問いかける。

「ということは僕の扱いはどうなるんでしょうか?」
「そうですね…… 私たちの監視下に入ってもらいます。しかし、二度とあなたのいた時代の世界線に帰れなくなる可能性があります」

 良也は、ことがだんだん大きくなっていくことに思わず頭を抱えたくなるが、とりあえずヤタガラスの使者に説明の続きを促した。

「まず、帰れない可能性があるといったのは、並行世界のあり方に問題があるからです。例えば石ころ一つ誰かが蹴飛ばしたとしても、蹴飛ばさなかった可能性があるわけですからそれだけで世界は分岐してしまいます。そのように無限に分岐し続ける歴史の中で、あなたが自身のいた歴史にたどり着くのは至難の業と言えるでしょう」

 良也は、話を聞いているうちに目眩を覚えつつこう思った。

(帰れないのかもしれないのか…… あっちにいた人たちに会えなくなるのはいやだなぁ)

「ですが、この世界線があなたのいた歴史の世界線である可能性もあります」

 ヤタガラスの使者の言葉に良也は顔を上げる。彼女は続けてこう言い放った。

「あなたが遭遇したという神綺という存在の言葉が正しいとすれば、その存在はあなたが過去に存在した事を知っているということです。あなたがこの時代にきた世界線から、分岐した未来があなたのいた時代である場合は、八十年程後にアカラナ回廊を使用すれば分岐した地点が比較的近いので、あなたのいた歴史にたどり着くことができるかもしれません」

 ヤタガラスの使者の言葉を聞いた良也は、思わずよっしゃ! と声を上げる。可能性がゼロ出ないならなんとかなるかも知れないからだ。と、そこで彼女はこう言った。

「しかし、これにも問題がありまして。あなたがいた時代は八十年後ですので、あなたがそれまで生きていられるかどうか……

「あっ、そこは大丈夫です。僕、不老不死なんで」

 良也は、朗らかに笑いながらそう言った。帰れるかも知れないとわかって、テンションが上がっていたせいで良也は自分がとんでも発言をしたことに全く気づいていない。現に良也以外の面々は固まってしまっている。

とりあえずライドウが良也にこう問いかけた。

「あの、良也さん? 不老不死というのは……

「ああ、昔話に登場する薬を知り合いからもらっちゃって

「あっはい。もう大丈夫です」

 ライドウは額を抑えてそう言った。他の面々も頭が痛そうな表情である。ゴウトのような魂を動物の中にいれて何百年と生きている例も存在するため、良也の話も一概に否定できないのだ。

 テンションが上がってホクホク顔の良也以外は、痛いくらいの沈黙に包まれていた。流石に、話が進まないと思ったのかゴウトがヤタガラスの使者にこう言う。

「まあ、それはおいておこう。して、ヤタガラスの。こやつの処遇はどうするのだ?

「そうですね…… しかし、未来から彼が来たのであれば、みだりに顔や素性を晒さない方が良いかもしれません。時間遡行などというものは世界に大きい影響を与えかねないでしょうし」

 そう言ってヤタガラスの使者は黙り込んだ。そして、神社の蔵の中に進んでいき、何やらゴソゴソと探し物を始める。そんな突飛な行動をしだした彼女の意図を良也はライドウに問いかけた。

「あれって、何してるの?」
「僕にもちょっと、わかりませんね……


 そうこうしているうちに、黒衣の女性が手に何かを持って蔵から出てきた。

「そうですね。とりあえずこの時代にいるうちは、これをつけていてください」

 黒衣の女性はそう言って、狐のお面を良也に手渡した。それをまじまじと見つめながら良也はこう言う。

「ええっと…… これをつけて出歩けと?」
「そうです」
「ほかに何かあったりしません?」
「ひょっとこの面なら、蔵の中にありましたが」
「これでいいです……


 良也轟沈。あっけなくお面をつけて生活することが決定してしまった。ヤタガラスの使者は、微妙な気分になっている良也の胸中を知ってか知らずか、こう言い放つ。

「では、あなたの居住先ですが、鳴海探偵事務所とします。葛葉ライドウもそこで、暮らしていますので案内は彼に頼んでください」
「わ、分かりました」
「それともう一つ。あなたには偽名を名乗ってもらう必要があるので、名乗りたい名があるのなら、ここで言っておいてください」
「えっと…… じゃあ、無難に良って呼んでください」

 良也の返答を聞くと、ヤタガラスの使者は神社の方に戻ろうとする。が、ゴウトがそれを呼び止めた。

「まて、ヤタガラスの。話したいことがある。ライドウはそやつを事務所まで連れて行け」
「わかった」

 ライドウはそう返事を返すと、良也を伴って神社から去っていった。それを見届けたゴウトは、ヤタガラスの使者に向かってこう問いかける。

「率直に聞くが、あの男を事務所に向かわせたのは何故だ?」
「そうですね、彼の時間遡行には上級悪魔が関わっていると思われます。それも、生きた人間を他の時代に追いやれるほどの」
「なるほど、奴をライドウのそばに付け、その悪魔の正体を見破ろうというわけか。それにあの男は嘘を付けるようなやつではなさそうだったから利用できそうだったからな


 ゴウトの苦々しい声にたいして、ヤタガラスの使者は静かに頷いた。

「ええ、わざわざ過去に彼を送るということは、過去の自分に接触させたいはずですから。もっとも、この策はその悪魔が本当に彼の時間遡行に関わっていれば成り立つ話ですが」
「別の原因があると?」
「分かりません。何せこのような事案は、普通ありえませんので」

 そう言って、ヤタガラスの使者はその場から姿を消す。まるで最初からその場所に何もなかったかのように。ゴウトは、それを見送って小さく鼻を鳴らすと、その場から立ち去った。





 ところ変わって、ここは鳴海探偵事務所。良也が住み込むことになる場所だ。ちなみに、お面をつけているため、道中奇異の視線を集めまくっている。

「ここが鳴海探偵事務所です。僕がお世話になっている鳴海さんがいます。……お世話をしていると言った方がいいかもしれませんが」
「なんか、その所長にいいイメージが浮かばないんだけど……

「やるときはやる人なんですが…… 基本的にちゃらんぽらんな人でして」

 ライドウの哀愁漂う声に、良也は若干引きつった顔になる。

(大丈夫なのか? この事務所……)

 一抹の不安を覚える良也だが、事務所内に入るとほぼ同時に声がかけられた。

「ようこそ鳴海探偵事務所へ…… って、なんだ、強盗か!?

「へ!? あの、違います!!

「うそつけぇ!!


 事務所の所長…… 鳴海は素早く良也に接近するとその腕を締め上げる。

(!? なんだこの人!! 昼行灯って感じの動きじゃないぞ!? 昼行灯があんな動きできるわけ…… あ、霊夢はできた。って、いだだだだ!)

 良也は、突然の攻撃に思考が麻痺して変な事を考えているが、次の瞬間腕に激痛が走ったので、それは中断させられる。それ以上いけない、と言われそうな角度で腕をひねり上げられている良也の後から事務所に入ってきたライドウは、それをみて事情を察したのか、鳴海に向かってこう言った。

「鳴海さん。彼は不審者じゃなく、今日からここに住み込むことになった良さんです」
「あ、ほんとに? ああっと、良だっけ? その悪かったな。締め上げちまって

「あ、いえ。大丈夫です。こう言った理不尽な対応にはなれてますし、こんなお面をつけてる奴が入ってきたらそりゃビビりますよ」

 うずくまっている良也がそう言うと、彼をバツが悪そうな顔をした鳴海が手を差し伸べて立たせた。そして、一旦落ち着いてからライドウが事情を説明する。



「まじか…… こんな貧乏事務所にまた人が増えるのか…………


 鳴海は、頭が痛そうな様子でそう言った。それに対して、やや辛辣な声でライドウはこう返す。

「事務所が貧乏なのは、鳴海さんが仕事を真面目にしなかったり、ツケで食事をするからでしょう…………

「……そんなことより!! これから住むことになるんだ。自己紹介をしようぜ!」
「うわぁ……


 思わず、良也は声をあげる。

(なんだろう。この人から、ダメ人間臭がする)




 その後、自己紹介を軽く済ませて、全員眠りに……

「だめだ。眠れん」

つけていない。少なくとも良也は起きていた。

「どうしよう…… 事務所の周りでも見てこようかな? ちょっと外に出たくらいでなんか起こるとは思えないし……


 そう言うと、良也は事務所から出ようとした。が、何も言わずに出て行くのもどうかと思い、事務所の長椅子でウトウトしているゴウトに声をかけた。

「あの、ちょっと外を散歩していきたいんだけど。いいかな? 眠れなくて」
「む…… そうか。だが遠くまで行くなよ?」

 ゴウトは、そう言うと眠りにつく。ゴウトの返事聞いた良也は、ゆっくりと事務所から出て行った。


 良也が出て行ってからしばらくして、眠りに就いたはずのゴウトが目を開ける。

「さて、良の奴が言っていた悪魔が、あやつに接触するやもしれん。良には悪いが今から付けるぞ。ライドウ」
「分かった。ゴウトは先行して良さんをつけてくれ。良さんをつけているお前を僕が付ける」

 良也の起きだした気配で眠りから覚めたライドウが、ゴウトと共に良也を追いかけた。



 こうして、良也の長い夜が始まる。




あとがき

久しぶりに話を書きました。最近クトゥルフ神話TRPG系の動画にはまって各時間が取れなかったです。良也を速く悪魔と遭遇させたりしたいのですが、導入部分がなかなか進みません。もうひとり、あるキャラを登場させるつもりです。



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