良也は車の中で、ネロをなでている。雌の黒猫であるネロの毛並みは、綺麗でついつい良也はなでてしまう。今朝、アーカードに銃でぶち抜かれた事を忘れさせてくれるぐらいに、ネロは可愛かったのだ。

「良也、これから美術館に行くのにネロを連れてきて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ウォルターさんこの子めちゃんこ行儀がいいですから。なーネロ?」
「にゃー!!」

 良也の言葉に元気よくネロは鳴き声をあげる。それをみた良也は、顔をほころばせてネロの頭をなでた。ネロは気持ちよさそうに目を細めて良也の膝の上に座っている。

「良也、私もネロに触ってもいいか?」
「もちろん。インテグラ、ネロは頭をなでられるのが一番好きみたいだから」
「分かった」

 良也はネロを抱き上げて、インテグラの膝の上にのせてやった。インテグラの顔は普段と違って年相応に緩んでいる。

「まったく。良也、一応イスカリオテとの会談は公の場でのものだ。今はいいが、口調は注意しておけよ」
「わかってますよ。そう言った時は、インテグラに敬語をちゃんと使いますから」

 そう言って良也は苦笑する。組織としての立場が有る際に公の場に出る時は、インテグラに敬語を使わないとまずいことぐらいは良也にだってわかっている。

「にゃ」

ネロは暫くインテグラに撫でられていたが、良也の膝の上に移動すると、静かに眠りに就いた。良也はそれを優しく見つめながら、優しくネロの頭を撫でてやった。






 美術館についた一行は、静かにイスカリオテのメンバーを待ち構える。

(うん、早く帰ってネロの世話をしたい)

 約一名、自分の拾った黒猫の心配をしつつ現実逃避をする良也だったが、雑念を振り払うために頭を軽く振った。

 インテグラとウォルターの表情は、イスカリオテのメンバーが時間になっても現れないために苛立ったモノになっている。それを良也は、見つめながら異空間……倉庫に入れてある武器の確認をする。

(もってきたのはMP5K二つ。カグツチと銃剣十本。草薙の剣・レプリカ。弾は、MP5Kのマガジン二十本とカグツチの散弾とスラッグが二百発ずつ)

 銃のチョイスは素人である良也でも、確実に敵に命中させることが出来そうなものを持ってきている。流石に、銃の本格的な訓練をする時間までは用意できなかったのだ。

 良也が武器の確認を終えるのとほぼ同時に、男が二人能天気に会話しながら歩いてきた。良也はいつでも倉庫から武器を取り出せるように警戒を強める。

「あ、遅れちゃったかな」
「そのようですな」

 男二人は、やっちゃった、といった感じの雰囲気を出しながらそういった。インテグラの眉間に皺がより、氷のような表情になり始めたのを見つつ良也は、思わずこう言った。

「いや、遅れちゃったって…… 一応仕事の一環としてきてるんでしょうに。社会人としてどうなんですか?


 怒るでもなく、心底呆れたように良也が呟くと、男二人はキョトンとした顔になる。その反応に良也は、益々呆れ返った。

「くっく…… 13課の。こいつは、こう言う奴なのだ。あまり気にするな」

 その様子をみながら、インテグラは面白そうにそう言った。良也は訳も分からず首を傾げる。対して、イスカリオテの二人は不愉快そうに顔を顰めた。良也は無自覚に(空気を読まずともいう)相手の出鼻をくじいたのである。

 銀髪の男……エンリコ・マクスウェルが顔を盛大にしかめながら言葉を放った。

「イエイエ、彼ノ言っていることは事実デスカラ


 そこまで言うと、一度咳払いをしてこう続ける。人の良さそうな笑みを浮かべて。

「あらためてご挨拶を。イスカリオテの長をやっておりますエンリコ・マクスウェルと申します。以後よろしく」
「ふん…… 自己紹介などなんの意味がある? 用件をいえ」

 マクスウェルの慇懃無礼な態度に、インテグラは表情を氷のような冷たさのモノに戻して、用件を言うように促した。それでも、慇懃無礼な態度を崩さずに、あくまでもニコニコと笑いながら彼はぬけぬけと言葉を紡ぐ。

「まあまあ、そうめくじらを立てずに。今日は別に君たちと争いにきたわけじゃないんだ」
「信じられるか!!」

 インテグラは、声を荒らげて自分たちの受けた人的損害及び協定違反について問い詰める。だが、マクスウェルはそれを一蹴した。

「それがどうした。こちらが下手に出ていれば調子にのりやがる! お前たちのクソ雑巾共が、二人死のうが、二兆人死のうが知ったことか!!


 そこまで言って、マクスウェルは狂った笑みを浮かべながらこう言った。

「法皇猊下直々のご命令でなければ、薄汚い貴様らと話などしない! グダグダ抜かさずに話を聞け。異教徒のメス豚ども!!」

 マクスウェルの物言いに、良也は怒りを覚えて額に青筋を浮かべ、ウォルターとインテグラも顔を顰める。しかし、先に切れたのは良也でもウォルターでもインテグラでも無かった。

「メス豚? 流石は泣く子も黙る13課。言うことが違う!」

 インテグラの背後に控えていたアーカード。彼が真っ先にブチギレた。

「吸血鬼アーカード。ヘルシングのゴミ処理屋。殺しの鬼札! 生で見るのは初めてだ……はじめまして、『アーカード君』

「はじめまして、『マクスウェル』そして、さようならだ。貴様は、私の主をメス豚と読んだ。お前、ここからいきて帰れると思うなよ? ぶち殺すぞ人間!!」

(アーカード!? いくら怒ってるからってそれはダメでしょ!!)

 良也の視線の先でアーカードは、銃を構えてマクスウェルの眉間に狙いをつける。それを見たマクスウェルは愉快そうな笑みを浮かべて、指を蠢かせながらこう言った。

「おお、恐ろしい恐ろしい!!あんなに恐ろしいボディーガードに銃を突きつけられていては話もできんな。ならば、こうしよう。拮抗状態を作るとしよう」

 マクスウェルは指を鳴らすと共に叫び上げる。

「アンデルセン!!」

 通路の奥。そこから、アンデルセンがゆっくりと、銃剣を手にして歩いてくる。まっすぐ、アーカードの元へ。

アンデルセンが銃剣を、アーカードはにやりと笑いながら銃を互いに突きつけながら言葉を交わす。

「クククク……そうでなくては。そうであろうとも。さあ!! 殺ろうぜ、ユダの司祭!!

「ハハハ…… この前のようにはいかないぞ、吸血鬼!


 まさに、一触即発。さすがに良也は、まずいと思い二人を止めにかかる。

「アーカード、ストップ!! こんなとこで戦うな!! 美術品に傷が付いたら弁償しなきゃいけなくなるから!!


 良也の言葉に、空気が凍りつく。それをいいことに、良也はアンデルセンにもこう言い放った。

「アンデルセン神父も!! もし美術品に傷つけたら、億単位の賠償請求をヴァチカンに送りつけますよ!!


 良也の言葉に、アンデルセンは思わず唸る。そんな事をされれば、確実に13課の経費が足りなくなるのが明白だからだ。

「……ここは武器を引くしかなさそうだな」
「どうやらそのようだな。しかし、アンデルセン。ここは、わざわざ私たちを止めに来た、お節介な男に礼をするべきではないか?」

 アーカードの言葉を聞いたアンデルセンは、ニタァっと笑った。

「ほう? それはなかなか素敵な案じゃないか」

 アーカードとアンデルセン。二人は愉快そうな笑顔を浮かべながら、良也の方を向いた。

(あるぇ? なんか、デジャブを感じるぞ? なんか、輝夜と妹紅の殺し合いを仲裁した時みたいな―――――)

 そこまで考えた良也は、顔を青くして逃げようとするが時すでに遅し。二人は、既に拳を振り抜いていた。

 ズガン!!

およそ、拳で殴りつけたとは思えないような音と共に、良也は宙をまう。そして、三回転半してから地面に激突し、さらに数回バウンドして地面を滑り、ようやく止まった。

「帰って寝る」
「アーカード? 護衛は?」
「アンデルセン抜きなら、ウォルター老と良也で充分…… いや、それ以上だ。しかし、昼間に起きていたせいで非常に眠いな


 アーカードは、そう言うと本当に帰ってしまった。

「機関長。先にローマに帰ります」
「そ、そうか」
「いい博物館だ。次は、孤児院の子供たちを連れてきましょう」
「りょ、了解した


 アンデルセンも美術館の外へと歩みをすすめる。

 残ったのは、ウォルターとインテグラ、ボロ雑巾のようになった良也。そして、マクスウェルとその付き人一人である。

「ああ、その…… 私たちは、あくまでも話をしに来たのだ。外のカフェテリアで話すというのはいかがかな?」
「いいだろう。しかし、お互い大変な部下を持つと苦労するな。えぇ?『オス豚』?」
「さっきのお返しか…… まあ、我慢しましょう」

 それを見たウォルターとマクスウェルの付き人は、溜息を吐く。ウォルターは、良也に近づいてこう言った。

「な、ナイス仲裁だったぞ」
「ありがとうございます…… でも体中痛いです」





カフェテリア。そこで、インテグラとマクスウェルが顔を突き合わせて話し合っている。そこで、マクスウェルの口からミレニアムについての情報が語られた。

曰く、ミレニアムとは、計画名及び部隊名。曰く、かつての大戦にて暗躍したドイツの極秘物資輸送の人員たちであること。

その情報が、語られるに従い、インテグラと良也、そしてウォルターの中にある疑念が生まれる。なぜ知っているのか? と。それを、察したのかマクスウェルは、笑いながらこう言った。

「なんで知ってるのか? と言いたそうな顔だね。手助けしたのさ。我々が強力にね」





「どうやらたどり着いたようですな。彼らは。……作戦を急がせましょうか?」
「いや、それはいい。それよりもお茶が欲しいな」
「楽しそうですね。代行」

 痩せ気味な男が、太った男に向かってそう言う。太った男はニヤリと笑いながらこう返した。

「ああ、とても楽しい。ヘルシングに入ったイレギュラーは、実に面白い。化物に近い性質を持ちながら、消して人間としてのあり方を失わない。そんな、男が現れたんだ。楽しみだった闘争がより素敵なモノになると思うのは、仕方がないことだろう?


 太った男は愉快そうに笑みを深める。この先に待ち受ける闘争に、心を躍らせながら。






あとがき

今回、良也はボケとツッコミで大忙しでした。しかし、前半部のネロの話は書いてて和みました。猫はいいですね本当に。

美術館の会話については、常識的な事を良也が言ってるだけのはずなのに、周りがあれなので良也の方が浮いているかんじがしましたね。

前回のあれは、ちょっとネタの練りが甘かったです。演説部分の二次創作をしている人は絶対に考えたことがあるであろうネタなので他の人が書いてた場合はそっちの方が上手いと思います。

次回予告 ワイルドギースのメンバーや良也の訓練があったり、酒を呑むお話の予定



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