「………なんじゃこりゃ」

 良也は呆然としながら目の前の惨状を見つめた。警備兵の訓練をみるというだけのことだったはずだ。だが、目の前には泣き叫びながら逃げ惑う兵たちの姿。そして、その視線の先にはアーカードがいた。


なぜか、手足の生えた走り回る棺桶の上で、模擬弾いりのトミーガンを乱射しながら。

「ちきしょう!! あたらん!! なんで棺桶のくせにあんなに速いんだ!? もっと銃弾と霊弾で弾幕を張れ!! ってぎゃあああああああ!!!!!!」
「捕まえたぞ。どうした? この程度で捕まるようでは吸血鬼相手に勝つことなどできんぞ?」

 アーカードは、いい笑顔で兵士を次々と投げ飛ばし模擬弾で気絶させながら棺桶の上で高笑いしている。兵士たちは、実弾をうっているのだが全く当たっていない。しかも、棺桶も動き回りながら時々、手刀で兵士を気絶させていっている。

 何故だろう、これは吸血鬼のスピードに対応できるようにするための真面目な訓練のはずなのに、ギャグにしか見えない。走り回る棺桶がシュールすぎるのだ。

「うん。僕は何も見なかった。そろそろ休憩も終わるし屋敷に戻ろう」

 軽い現実逃避をしながら、良也は屋敷に戻った。

(ああいうことにはかかわらないのが一番だ。買い出しの準備をしよう)

「良也か、訓練の様子は……」
「僕は、なにも見てない

「いやお前さっき……」
「僕はなにも見てない、聞いてない。 Do you understand?


 良也は、通りかかったインテグラの言葉にそう返した。良也は公の場では、堅苦しい言葉遣いでインテグラと会話するがそれ以外では、砕けたしゃべり方をしている。いろいろとアウトなものを見たせいで、砕けたどころではなく、失礼なものになっているのだが、インテグラも窓の外を見たせいで何も言えなくなった。

「あーその、なんだ。……なんかすまん」
「いいよ。あれぐらい慣れないとここでやっていけない気がするし。今から買い出しにいってくるんだけど、食材以外で何か必要なものってある?

「私からは特にないな。ウォルターにも聞いてみたらどうだ?」
「ウォルターさんからは、煙草と髭剃りを頼まれたよ。僕も煙草とワインを買うつもり」

 良也はそう言うと、苦笑いをしながらこう続ける。

「なんかここにいると、あれに巻き込まれそうなんだよね。長年の勘が僕にそういってる」
「いや、いくらなんでもそれは…………」

「マスターちょっと聞きたいことが」
「婦警!! お前も訓練を手伝え。いや、その前に良也を呼んで来い!!!」
「いやあの……………」
「さっさと行け!!」
「わかりました!!」

 遠くからそんな声がきこえたので、良也は脱兎のごとく駆け出した。セラスが途中で追ってきたので、霊力でリミッターを外し、全力疾走をして逃亡する。

「まってくださーい!!」
「待てと言われて待つやつはいない!!」
「本当に勘弁してくださいよ! 怒られるのはわたしなんですよ!?」
「いやいや、僕も仕事が遅れるとウォルターさんにばらばらにされるから無理!! そもそもあんなギャグ漫画みたいな訓練には参加したくない!!!!


 良也は、さらに速く走った。どうやら、良也のリミッターを外した走行速度は、セラスよりもちょっと早いらしい。セラスが徐々に引き離されていく。だがまあ、それでもアーカードのスピードには及ばないのだが。






「ぜー はー ぜー はー ゴホッ! かはっ!! ふー、何とか市街地まで逃げれたか」

 良也は、とりあえず買い物をすることにした。近くの店で、食材と頼まれたものを買い出した。生き残った警備兵は十九名。さらに、ウォルターとインテグラ、セラス、アーカード、良也が加わるので、相当な量になっている。

(そういや、セラスのやつ最近食が細くなりだしたな。やっぱり血を飲んでないせいで、血を飲めと生存本能が働き始めてるのか? ということは、そろそろまずいんじゃないか?)

 吸血鬼とは、血を飲まなければ体を健康に保つことが難しくなる。だから、セラスは異常なのだ。彼女が吸血鬼としての異能を使えないのは、血を飲んでいないから。このままだと近い将来、吸血衝動がおこり惨事になりかねない。

(まあ、アーカードがいるから大丈夫か。にしても、荷物が邪魔だ。適当な路地裏に入って、異空間に収納するか)

 思い立ったが吉日とばかりに、良也は路地裏に入った。

「にゃー」

路地裏で荷物を収納した良也の耳に、弱弱しい猫の鳴き声が聞こえた。猫好きな良也は、放って置くこともできず、その声の主を探し始める。そして、発見したのは黒い毛並の猫だった。腹を空かせているのか、どこかぐったりとしている。

「いけない、早くなんか食わせないと……!」

 良也は、魚の缶詰を取り出すと、それを開けて猫に食べさせてやった。初めはゆっくりと食べていたが、途中から早くなり、しまいにはぺろりと平らげてしまった。それを見た良也は、猫を撫でた。猫も嬉しそうに喉をならしながら、目をつむる。

「あ、そろそろ帰らないと。じゃあな猫さん。もうあんなになるまで飯を食わないことがないようにしろよ」

 良也はそういうと帰ろうとした。したのだが……

「にゃぁ……」
「うっ! そんな目で見るなよ…」

 猫は良也と離れたくないのか、彼にすり寄り、彼を見上げた。良也は心を鬼にして、ねこから離れて歩き始めるが、猫がどこまでもついてくるので遂に折れた。

「わかったよ…… 連れてってやるからこっちに来い」
「にゃーん!!」

 猫は嬉しそうに尻尾を振って、良也に走り寄った。その猫を良也は抱き上げ、肩にのせてやると、また嬉しそうに鳴き声をあげた。

(この子の名前どうしようかなぁ。せっかく連れてくことにしたんだし、いい名前つけたいな)

 もう、バリバリその猫を飼うつもりの良也は、名前を考え始めた。肌寒い季節になってきたので、猫を肩にのせ、あったまりながら歩いていった。







「良也、その肩に乗っているのは猫か?」
「いや、それ以外に何に見えますか?ウォルターさん」
「飼いたいのか? その猫」
「もちろんです」

 良也の力強い返答に、ウォルターはどうしたものか、と頬をかいた。猫を飼うにしてもインテグラの許可がいるし、飼うとしたら面倒を見る人が必要だ。だが、許可を取りに行ったらあっさり許可された。

「その猫の名前はなんていうんだ?」

 インテグラは目を輝かせながらそう聞いた。どうやら彼女も、良也並の猫好きだったらしい。

「えっと、安直だけど黒という意味の言葉である、ネロっていう名前を付けた

「そうか、いい名だ」

 と、その会話が終わったあたりから、急にネロが扉に向かって威嚇をし始めた。そこから現れたのは、セラスだった。

「猫がいるって聞いて来たんですが…… って可愛い!!」

 セラスは、ネロに触れようとしたが思いっきりひっかかれた。さすがに、セラスもショックを受けたようだ。

「猫だから、きっと人外に敏感なんだよ! きっとそう!!」
「セラス嬢、あまり落ち込まないでください」
「セラス、気を落とすな」

 三人がセラスを励ますために色々な言葉をかけた。それでもズーンとした雰囲気がセラスの周りに漂っていた。

「そうだ!! アーカードでも試してみよう!!」
「いや、やめておけ。昔あいつが猫を撫でようとしたとき拒否られて、拗ねたことがあったんだ。あの時はまわりに被害がでたが、今はちょうどよいストレス発散するところがあるからな………」

 そういって、インテグラは良也を憐れみの目で見つめた。

「もしかしなくても、ネロをアーカードに遭遇させないようにしないと僕に被害が…?」

 インテグラは、重々しく頷いた。ちなみにその後、ネロがアーカードをひっかいたので、その八つ当たりに、良也が霊力なしでアーカードと素手で勝負するという苦行が行われたという。

「不幸だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」






あとがき
今回は、ほのぼの話の路線で話を書きましたがいかがでしたか?ちなみに、最後の絶叫はもちろん良也のものです。次回はワイルドギースの面々がでてきます。



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