個別ルート編、告白前の妖夢視点verです。
前回のヤンデレ話を猛省し、今回は青春な甘々を意識してみました。
ちょっと短めです。
私は剣を構える。迷いを断つために。
正眼で構えて、一足一刀の間合いで相手と対峙する。私の所持している白楼剣は迷いを断つ剣だ。
その当人が迷い戸惑っていると、他人の迷いを断つことはできない。今の私は他人から見れば、剣を構えて、目を閉じて立っているだけだろう。何もしていないように見えるが、自身の迷いを断ち気持ちを切り替えるために、瞑想をしている。その間、最近の出来事に想いを馳せた。
人を斬るということは、覚悟が必要である。そのため、一度決めて行動したら、後悔をしない。
迷うことは許されない。自分で抱えた信念には疑問はいだかない。それができなければ剣を持つな、と教えられた。だから、私は、毎朝、必ず瞑想をしている。未熟だからそうしないと、どうしても一日の中で覚悟が揺らいでしまう。今よりも、もっと未熟だった頃は頻繁に起きていたことだが、ここ数年は、朝に瞑想をすれば、一日、覚悟が揺らぐことはなかった。
だが、この2ヶ月ほど、どうしても心がざわつき覚悟が揺らいでしまう。
理由はよくわからない。自分の心の変化を理解してみようと努力を重ねたが、結局、わからなかった。
訊くは一時の恥訊かぬは一生の恥。守るべき主人に頼ってしまうのは情けない話だが、未熟な私一人では、どうしようもなかった。その時、幽々子様はやさしい笑顔を浮かべて指針を示してくれた。
『ふふふ。迷うということは、贅沢なことなのよ、妖夢。生きている人間にしかできないことなの。死者に迷うことはできないわ。だから、しっかりと迷ってみて。あなたは考えることが苦手でしょ?だから、ゆっくりと迷い考えることは、とても大切な事よ』
『ですが、迷っていては剣を振るうことができません。そう教えられました』
私がそう答えると、幽々子様は、人差し指を顎に当て上を向いて少し考えてから、助言してくれた。
『そうねぇ・・・。なら、他人に剣術の指南をしてみたらどうかしら?指南するだけなら、剣を自身で振るうことはしなくていいし、他人を指南すれば、自分の迷いに気づけるかもしれないわ。最近は、良也がよく遊びに来るから試してみたら?』
『そうですか?・・・・・・でも、そうですね。わかりました。今度、良也さんに稽古をつけてみます。最近、剣術の稽古もしていないようですし』
相談して良かった。少し迷いが軽くなった。来週末は宴会もあるし、その時、良也さんに進言してみよう。
行動の指針ができた。それに、この気持ちが続けば迷いを断てそうだ。私はお辞儀をして、その場を去ろうとすると、声をかけられた。
『それに一人で迷うより、二人で迷うほうが、面白そうじゃない?」
『はぁ、そうなんですか?』
でも、時々、幽々子の言うことは、理解出来ない。
週末になり、宴会の日になった。
幽々子様に相談してから、迷いを断つことができ、剣も振れるようになった。
だけど、なぜ、迷いを断つことができたが、自身の心の変化を理解ができない。でも、良也さんに剣術の指南をすれば、気がつけるような気がする。
私は宴会の準備を手伝うために、少し早めにこちらにきた。宴会で出す料理を作るためだ。
私は台所で料理を作り始めている。幽々子様は巫女と居間でお茶を飲んで談笑しいるようだ。ここまで声が聞こえてくる。良也さんは、まだいない。それがわかると、最近よくあるように、心がざわつきそうになった。私は包丁を握りなおして、料理に集中することにした。うん、大丈夫、心のざわつきは収まった。
しばらくして、居間から良也さんの声が聞こえてくる。どうやら、来たみたいだ。この料理を作り終わったら、挨拶をしにいこう。そう考えていると、後ろから声をかけられた。
「よう、妖夢。一週間ぶり」
今は鍋を火にかけているが、少しぐらいなら目を離しても大丈夫だろう。
「こんにちは、良也さん」
振り向くと、両手に宴会の必要な荷物を持っている良也さんがいた。
私の隣までやってきて、荷物をおろして会話を続ける。
「わるいな、妖夢。一人で宴会の準備をさせて。ったく、霊夢や幽々子も少しくらいは準備を手伝えよ」
「いえ、私は客ですし、幽々子様に仕えている身なので。良也さんも居間で休んでいていいですよ?」
「僕はいつもやっているし、いいさ。それにこっちに来たときは、掃除・料理は僕の担当になってるし・・・」
「・・・まるで夫婦みたいですね?」
良也さんは、長年、連れ添った夫婦みたいなことを言う。何故か、私は心が激しくざわついて、つい、言葉を遮ってしまった。言葉も、少し、刺々しくなってしまた。そんな私を見て、良也さんは慌てた様子で、
「僕と霊夢はそんな関係じゃないさ。そうだな・・・。手のかかる妹みたいな感じかな?僕は外の世界にも妹がいるし。異性として意識はしてないよ」
「本当に?でも、それは・・・」
家族ように大切に思っているということなんじゃ・・・。そう、私は口に出しそうになったときに、良也さんは大きな声を出した。
「・・・って、鍋が吹きこぼれてるぞ!妖夢」
「・・・・・・あ!?忘れてた!っっつ・・・!!!」
そんな考えに気を取られていたためか、私は反射的に鍋の蓋に手を伸ばしてしまった。
指に鈍い痛みが走る。かるい火傷をしてしまったみたいだ。良也さんは、そんな私を見ながら、さっきより慌てて、台所をうろうろしている。
「大丈夫か?妖夢。すぐに水で冷やしたほうが、でも水瓶にほとんど水がない・・・。あぁ、そうだ。妖夢、手をだしてくれ」
一通り台所を見て回って、なにかを思いついたみたいだ。私は言われたとおりに手を出した。
その手に良也さんの手がそっと添えられた。
「ひゃ!?」
いきなり手に触れられたので、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「びっくりしたか?魔法で冷やしているんだ。酷い火傷じゃなくて良かった。妖夢の綺麗な手に後が残ったら大変だし」
良也さんは魔法を使っているためか、私の顔色に気づいた様子がない。真剣な面持ちで言葉を紡ぎながら、添えていた手を軽く握る形にした。冷たくて気持ちいい。火傷した手が楽になってきた。顔の熱といっしょに、激しくざわついていた心も落ち着いた。手を握られていると、とても安心してしまう。昔、祖父がまだいたとき、軽い打ち身のときは手を添えられて、痛くなくなったのを思い出した。
「ありがとうございます、良也さん。少し楽になりました。でも、私の手はそんなに綺麗じゃないですよ?」
私は握られていない反対側の手をみせる。
「剣の修行をしているため、手のひらは硬いですし、水仕事をしているため関節部分も黒いですよ?」
「それは、妖夢が、日々、頑張っていることの証だろ?それも含めて綺麗だと思う」
「・・・ありがとう、ございます」
その言葉を聞いていて、とても穏やかな気持ちになった。
手の痛みはもうなくなったが、もう少しこのままでいたかったので、良也さんが『もう大丈夫だろう』、と言うまで手を握ってもらっていた。そのせいで、鍋の具は少し焦げてしまったけど。
その後の宴会で、白玉楼に剣の稽古に来ることを良也さんに進言した。いつも辛そうに稽古をしていたから、断られると思っていたけど、二つ返事だった。・・・良かった。それに、今回のことで自分の心の変化に気づくことができた。きちんと形にできる日がきたなら、ちゃんと伝えたい。
瞑想が終わり、目を開けて、気持ちを切り替え終える。開始を伝えるために、口を開く。
「良也さん、それでは、始めます」
「お手柔らかに。妖夢」
その言葉を受けて、一歩、踏み出す。
私は剣を振る。想いを形にするために。
あとがき
侍っ娘。みょん。・・・甘いのかなぁ?
それでは、また。
ネコのへそ
初稿 2010/09/18
|