!!警告!!
前作とは全く関係ありません。
大部分が、独特で危険な厨設定と妄想で構成されています。
いままでとかなり毛色がちがいます。でも、エロはかなり自重しません
あと、カリスマは最後までブレイクしません。一応そのつもりで書きました。
それでもいい人は進んでください。

かなり長いのでページ内リンク貼っておきます
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教育実習も終わって、大学へレポート等も提出し、やっと時間に余裕が出来た。
だから、週末、久しぶりに幻想郷へ行こうと思った。 週明けに必要である小物が出来ているころだ。
週明けは妹の誕生日だからプレゼントのために特注した期待の品だ。 それに、以前からパチュリーに頼まれていた本も、手に入れたから届けないといけないしな。 僕は久しぶりに幻想郷に行き、博麗神社で久しぶりに霊夢といつものやりとりをして、人里の呉服屋へ向かった。


目的の呉服屋で注文していた品物を受け取る。 そういう小物の物の良し悪しはわからないけど、これなら妹はきっと喜んでくれると思う。 二つの装飾品は高級な風呂敷に包まれて、これまた高価な感じの紙袋に入れてもらい店員に渡された。 店から出てきたところで、偶然、慧音さんに会った。

「久しぶりです。慧音さん。」
「久しぶりだな、良也くん。ここは女物の呉服屋なんだが・・・あぁ、そうか。それはどう見ても贈り物だ。 しかもかなりの高級品。とうとう博麗神社の巫女を見初めて告白すんだな?良也のヤツは神社に寝泊りして 怪しい関係だと与吉がいっていたし・・・」
「誰ですか!?そんないいかげんでもないようなことを言っていたのは!! これは妹へのプレゼントです!!週明けに誕生日なのでずいぶん前から頼んでおいた品です!!!」
「いや、冗談だ。そんなに怒らないでくれ。寺子屋の子供が面白がって言っていただけだよ。 でも、結婚すれば、幻想郷に移住するだろ? 以前も言ったが人里は君なら大歓迎だ。君のことはみんな知っているし、子供にも人気があるしね。 それに君は顔が広いからそういうことにも、少し気にしたほうがいいと思う。」
「はあ、そうですか」

曖昧に頷いて誤魔化す。
慧音さんは里で最も慕われている実力者だし、結構、世話焼きだ。 僕に早くいい相手を見つけるよう、心配して薦めているのだろう。 でも、僕は霊夢とそんな関係にはならないと思う。他の連中もそうだ。
今、ちょっと想像しただけで、連中にそういう気持ちになるのは、違和感バリバリだし。
まぁ、別の意味でとって喰われそうだが、そういう連中は酒でも持っていれば、大抵は見逃してくれる。
あと、慧音さんに言っておかないといけないことがあった。

「そういえば、来週末は久しぶりにお菓子売りをできると思うので、里の待っている人に伝えておいてください。 でも今回はなしということで。 幻想郷へ来るのがかなり久しぶりなのと、紅魔館へ本を届けないといけないので荷物に余裕がなくて。 それじゃあ、また来週」
「わかった。里の者に伝えておく。いつもありがとう。それじゃあ、また来週」

慧音さんと礼儀正しく別れの挨拶をして、僕は人里の出口へ向かった。




人里で用事を済ませて紅魔館に向かうと、途中で急に雨が降り出した。
とりあえず、能力で薄い壁を作って傘の代わりにする。なんだ?さっきまで晴れてたのに?
門まで行くと、美鈴は珍しく起きていた。僕を見ると獲物を見つけたルーミアの笑顔で、

「待ってましたよ。良也さん。さぁ、一刻も早く妹様の所へ会いに行ってください。主に、私の永眠のために。」

と、チルノみたいなこと言った。嫌な予感がしたから現実逃避のために、 そのちぐはぐな行動から珍妖怪精生物を想像してみた。そーなのかーとかいいながら 暗闇の中で、あたいさいきょー、といって相手を凍らす。強そうだった。 あと、永眠って死ぬ気か?・・・もう、つっこみが続かない。

あきらめて詳しい話を聞くと、フランドールが癇癪を起こして大暴走しているとのこと。
今、気づいたが、美鈴はかなり憔悴している感じだ。前庭も竜巻が起きた後みたくなっていて、 他も絨毯爆撃があったみたいに粉々だ。たぶん、美鈴がフランドールが外出するのをやめるように、 説得した跡なんだろう。絶対に、あんな状態のフランドールと争おうとは考えない。
・・・帰ろうかな?そう思って、時間を加速させて回れ右したとき肩をつかまれた。
振り向くと、顔をくしゃくしゃにして鼻水まで垂らし、マジ泣きしている美鈴がいた。

「本当にお願いしますって。ただとはいいません。ロングスカートのメイド服でしたっけ?
それを咲夜さんに着るようにお願いします。あと、下着の色もその時に調べますよ。」

・・・・・まぁ、仕方ない、スルーしても後で殺されるだけだしな。今から行けば何回か殺されるくらいで済むだろう。 そう思って、美鈴の泣き顔に免じて、純粋な気持ちで願いを叶えることにした。
決して不埒な思いからではない。色のことなど考えていない。
今のうちに、もう一度深くため息をついておく。死んだら息も吐けないし。生き返るけど気持ちの問題だ。

「わかったよ。でも、僕の大切な荷物を預かっていてほしいのと、 パチュリーのために外の世界の本を持ってきたから、僕の代わりに届けておいてくれ。」
「それくらいなら、お安い御用です。頑張って逝って来て下さい。」

そこはかとなく、”イッテ”の発音に悪意と自分の未来が感じられるけど、気のせいだろう。
美鈴はひったくるように、僕から荷物を奪って一瞬で見えなくなった。ちゃんと門番として働け。
あと、約束守れよ。









しかし、よく考えてみると美鈴は僕との約束を守っても果たさなくていい。最初が必ず失敗するからだ。
しかも”着せる”じゃなくて”お願い”だけだし・・・怠け者の中国にうまく嵌められた。
どうやって復讐しようか考えながら、やけになってフランドールを探して紅魔館を進んでいると、 パーフェクトメイド・咲夜さんと会った。

「お久しぶりです、良也様。今、少々立て込んでいまして手が離せません。 申し訳ございません。ご足労していただいた客人を、充分にもてなすことが出来なくて。」

どうやらフランドールが癇癪を起こしてその対応に大変らしい。
僕は灰色の脳細胞をフルに使って、手伝いを申し出た。

「・・・久しぶりです、咲夜さん。全然気にしてないですよ。たぶん、忙しいのはフランドールが 癇癪を起こしているからですよね?門のところで、僕に生贄になれとずいぶん憔悴した美鈴に言われて、 無理に押し付けられました。それで安心したのか、今から図書館にサボりに行くと言っていましたよ。
でも、それとは関係なく、僕は紅魔館にはとてもお世話になっている身になので、個人的な意思でお手伝いします。 僕は弱いですが、話し相手か弾除けぐらいにはなるでしょう。今、フランドールはどこにいますか?」

僕は普段使わない言葉づかいをして手伝いを申し出た。
それは忙しそうな咲夜さんに気を使っただけだ。それに僕は門番の”行動のみ”の事実を言った。
嘘じゃない、”言葉”は脚色したけど。決して、僕が嵌められて何回も死ぬから、その八つ当たりではない。 僕の言動に咲夜さんは、少し不振な顔をしたけど、

「・・・客人に度重なる失礼な対応をして申し訳ございません。中国にはしっかりと話して聞かせておきます。」

美鈴への教育的指導を大事にしたようだ。
それに、咲夜さんは”話”して済ますようだ。なんて優しいのだろう。 大丈夫だ、美鈴。優しい咲夜さんは、殺さないように死なないように、ただ”話”をしてくれる。 きっと、殺してしまうと自分が楽しめなくて、死んでしまうと苦痛を与え続けられないから、 懇切丁寧に”話”をするはずだ。
ふっ、僕を怒らせた美鈴が悪いのだよ。これで、僕のささやかな復讐は達成できるだろう。

「厚かましいお願いですが、是非、妹様の話相手になってください。喜ばれて機嫌がよくなるでしょう。
妹様は、レミリアお嬢様と仲良く弾幕ごっこをしています。では今からそちらにご案内します。」

そういい終わると同時に、紅魔館全体に響くような轟音が聞こえた。・・・かなり近い。
ここまでフランドールが荒れているのは初めてだ。
・・・選択肢を間違えた。人を呪わば穴二つ。文字通り、墓”穴”に入ることになりそうだ。

そして、僕は咲夜さんに連れられて、仲良く弾幕ごっこしている部屋へ案内された。
その姉妹は光り輝いて遊んでいた。比喩ではない、事実だ。二人とも弾幕が壁になって全く見えない。
優しい咲夜さんは、この仲良く遊んでいる姉妹と一緒に遊んで欲しいらしい。
ムリだ。話をしに行く途中で、確実に蒸発する。弾除けなんて、ダメ、ゼッタイ。いまからでも逃げるか?
迷ってるうちに、弾幕が少しづつ弱くなってきた。終わることを期待したが、それは嵐の前の静けさだった。 弾幕の雨が晴れてようやく姿が見えるようになると、姉妹はスペルカードを取り出していた。
そうして、館を吹き飛ばすくらいの妖力をこめいていて、スペルカードの発動を宣言している最中に、
咲夜さんは時間を止めて、僕をその間へ蹴りだした。
おい、さっき客人がどうとか言っていなかったか?あと、黒か、意外に・・・・・・・・・
そして、最後に見た光景を魂に焼き付けながら、僕は心身ともに完全に黒くなった。

しばらくして生き返ったら、幻想郷へしばらくこれないことを伝えていなかったことに 怒っているフランドールと、フランドールを悲しませたことに怒り狂ったレミリアに、 血を吸われて、その後、殺された。
ちなみに、その時の服装は腰にタオルしか身につけさせてくれなかった。 どうやら蹴り出された時に、思っていたことを口に出していたらしい。 僕を殺して満足した姉妹を、咲夜さんは寝室へ送った。
その前に、僕は縄でぐるぐる巻きに拘束されて部屋に放置されたが。
しばらくして部屋に戻ってきた咲夜さんは、何故かたくさんの妖精メイドを引き連れていた。
何人か眠そうな顔をしている。きっと寝ていたのを起こされたのだろう。
そして全員の手に何本かナイフをもっている。なんかとってもイヤーンな感じだ。
咲夜さんは妖精メイドに説明を始めた。

「いまからゲームをします。きちんと順番を守って・・・・」

後の説明は聞きたくないから、聞こえないことにした。
妖精が持っているナイフと、今の僕の格好からゲームの内容がわかったからだ。
とてもとてもとても長いゲームになりそうだ。

だって”当たり”は絶対ない。

そうして、終わりのない黒ひげ危機一髪が始まった。
たくさんのナイフを挿されて反応を示さなくなって、 その後、何回か挿されて、苦しまなくなったことを確認してから、ようやく咲夜さんが”当たり”を宣言した。
・・・・・・・・・・そういえばこれって、”当たり”がでたらどうなったっけ?
血がなくなった頭で、”当たり”をぼんやり想像できたころに、視界が暗転した。






起きたら視界が赤かった。
目がおかしくなったのかと思ったけど、周りを見渡すと紅魔館の客室だった。
昨日はたしか、人里で注文していた品を受け取って、紅魔館へパチュリーに頼まれた本を持ってきたはずだ。 その後は・・・?よく思い出せない。
きっと、でも、それは、思い出したらいけないことだ。そして、思い出せないことはどうでもいい。
たぶん、図書館で魔法の勉強をしていて、ちょっと危険な魔導書に取り込まれかけて、 倒れて、介抱されて、ここに泊まったのだろう。そういうことが過去に何回かあったから、今回もそうだろう。
寝巻きは、高級ホテルのようなバスローブだった。 着替えようと思ったが服がない?服をどうしようかと、思ったところで部屋をノックされて、咲夜さんが入ってきた。

でも、咲夜さんを見たときから、僕は体が勝手に震えだした。

薄着だから寒いと思い、能力を使って周りの気温をあげる。 咲夜さんはちょうど服を持ってきいて、いつも通りのパーフェクト・メイドだ。

「良也様。着替えをお持ちいたしました。昨日はよくお休みになられていましたよ。」

その声を聞いていて、気温をあげて暖かいはずなのに、体の震えが激しくなる。風邪だろうか?

「そうなんですか?そういえば、昨日、ここへ来てからのことを、全く覚えていないんです。
なにか変わったことをしませんでしたか?」

普段余り使わない敬語が勝手にでてきた。なんでだ?
でも、そう咲夜さんに返事をしたら、体の震えが収まってきた。きっと起きたばかりだから、 体が本調子じゃなかっただけだろう。咲夜さんは、何かを確かめるように僕を見た。
・・・その視線で昨日のことを思い出しそうになったけど、

「・・・たぶん、お嬢様と妹様の弾幕ごっこに良也様が仲裁に入ったからです。 そのとき、亡くなられた際のショックでしょう。」

と、僕では絶対しないことを言われて、思い出しそうになったことはどうでもよくなった。

「なんでまた・・・?でも、それなら納得だ。思い出してはだめだ。忘れろ。それより今何時だ?
明日、絶対、外せない用事があるから早めに帰えらないと・・・」

そんな無謀なことを思い出したくないから、落ち着くために独り言をぶつぶつ言っていると、
咲夜さんは律儀に答えてくれた。

「今はもう夕方です。ご夕食の準備は済ましてあります。食事を済ませてから帰宅されても問題ないかと。 それに、昨日のことで話がある、とお嬢様も仰っていましたので、是非」

僕はそんなに寝ていたのか。むしろいつもより長く寝た程度でよかった。
あの姉妹の弾幕の仲裁に入って、痛めつけられた記憶があるほうが嫌だし。
それに、ここの夕食はおいしいから食べていきたい。ワインを飲まずに帰れば終電には間に合うだろう。
最悪間に合わなくても、空を飛んで帰ればいいし。レミリアの話は、今度来るときはお菓子を持ってこいとか、その辺の話だろう。
そうして会食へ参加して、腹と気分が満たされて気持ちよく帰る。






















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ハズだった。
でも、その会食で、腹が満たされるどころか、全く味も感じなかった。何を食べているのかもわからない。 理由は、何故かレミリアと二人きりだったから。いつものレミリアなら問題はなかった。
だがレミリアは高貴な雰囲気をだしていて、本物の貴族のようだったからだ。
そして僕はこの場にいるのが絶対に『間違いだ』と思った。
だって今のレミリアは美術館に飾られていてもおかしくない、一枚の完璧な絵画だった。
僕は絵画と会話する術は持っていない。そして、完璧な絵画は僕に話しかけることはない。
そんな重苦しい食事が終わって、気がついたら紅茶がだされていた。これを飲み終われば帰れる、 と思って紅茶カップに口をつけた時、絵画が話しかてきた。

「久しぶりね、良也。しばらく幻想郷に来なかったみたいだけど、どんな用事があったの?」。
「……あぁ、外の世界で教師になるのが夢だから、その研修に行っていた。…あと、久しぶり、レミリア。」

絵画が話しかけてきたので、挨拶を忘れて後から付け足すくらい、戸惑った。

「・・・そう。でも、あなたが来なくてフランがとても悲しんだわ。次から絶対無いようにしなさい。」
「そう言われても・・・。今はまだ学生だから時間があるけど、働き出したら以前のように幻想郷にはこれなくなる。 一ヶ月に、2回これるかどうか・・・」

そう答えると完璧な絵画から、美しい吸血鬼が出てきた。
そうして、高貴な夜の支配者が僕に告げる。

「・・・・・・フランドールには長い間待たせてしまった。もうこれ以上待たせるわけにはいかない。
私の眷族になれ。幸い、貴様は童貞だから、血を与えても理性のない下僕にはならない。
やっとフランドールに、”いつまでも絶対に壊れない友”ができたのに失うわけにはいかない。」
「・・・・・・は?何を・・・」

僕の見たことがないレミリアの様子に気圧されて、やっと声を出したら、いつの間にか背中が床についていた。 顔の前には美しい吸血鬼がいた。そうして・・・やっと、押し倒されたこと気づいた。全く動けない。
それは、体が自由な状態であっても、この精神的なプレッシャーで、絶対、動けない。
同時に悟った。目の前にいるのは言葉が通じない吸血鬼だと。
そして、一方的で絶対的な宣言する。



「私のものになれ」


美しい吸血鬼に噛み付かれた。
普段の食事のための吸血とは決定的に違う。
人として大事な”何か”を奪われていく。
それはどんな快楽よりも気持ち良かった。
そして代わりによくわからない”ナニカ”を流し込まれた。
それに犯されることは、どんな性行為より魅力的だった。
だから僕はソレを受け入れて性感に飲まれて気を失った。
















オきたらシカイがアカかった。
目がおかしくなったのかと思ったけど、周りを見渡すと紅魔館の客室だった。
昨日はたしか、人里で注文していた品を受け取って、紅魔館へパチュリーに頼まれた本を 持ってきたはずだ。その後は・・・?よく思い出せない。
それは絶対に忘れてはいけないことだ。でも、思い出せないことはどうでもいい。
たぶん、図書館で魔法の勉強をしていて、ちょっと危険な魔導書に取り込まれかけて、 倒れて、介抱されて、ここに泊まったのだろう。そういうことが、過去に何回かあったから、今回もそうだろう。
寝巻きは、高級ホテルのようなバスローブだった。 着替えようと思ったが服がない?服をどうしようかと、思ったところで部屋をノックされて、 咲夜さんが入ってきた。

でも、咲夜さんを見たときから、僕はとても喉が渇いてきた。

咲夜さんは、ちょうど服と紅茶セットを持ってきて、いつものパーフェクト・メイドだ。

「旦那様。着替えをお持ちいたしました。昨日はよくお休みになられていましたよ。 あと、喉がかわいていらっしゃると思って、特別な飲み物を用意しました。」

その声を聞いていて、喉の渇きが激しくなる。変な呼び方をされた気がしたがどうでもいい。
喉が渇いた。ナニカが飲みたい。

「ありがとう、咲夜。そういえば昨日僕は何をしたんだ?昨日のことを全く覚えていなんだ。
なにか変わったことをしなかったか?」

咲夜さんには割と敬語を使うのに、霊夢と話している時みたいな言葉遣いになった。なんでだ?
                        ノドが渇いた。ナニカが飲みたい。
でも、きっと起きたばかりだから頭が本調子じゃなかっただけだろう。 咲夜さんは何かを確かめるように僕を見た。その視線で絶対忘れてはいけない、ナニカを思い出しそうになったけど、

「・・・たぶん、昨日あったことで混乱されているのでしょう。それと今日は月曜日の朝ですよ。」

と、二日間寝ていた事実を告げられてどうでも良くなった。          ノドがカワいた ナニカがノみたイ

「本当か、それ、まずいな。今日は、実家に帰って、家族と誕生会の準備をする約束を していたんだ。
早く帰らないと。明日は妹の誕生日だ。急いで帰らないと家族にシメられる。」

僕は、慌てて予定を独りでぶつぶつ言っていると、咲夜さんは律儀に答えてくれた。

「ええ、でも、お出かけされる前に、お飲み物をどうぞ。とても気に入ると思いますよ。服は以前のものを
用意しておきました。まだ、本調子ではないみたいなので、現状を理解されることが重要かと思います。
私は今からパチュリー様に用事があります。それでは失礼します、旦那様。」

変わったことを言われて、変な呼び方をされた気がしたが、急いでいたので気にしなかった。
慌てて着替えて部屋を文字通り飛び出した。

ノドガカワイタ    ナニカガノミタイ

あぁ、部屋を出る前に飲んだ紅茶はとてもおいしかった。
少し変わった味だったけど、きっと葉が高級だったのだろう。 外の世界でも飲みたいから、後でどんな葉を使ったのか聞いてみよう。できれば少し分けて欲しい。

家へ帰るために急いで廊下を飛ぶ。
僕は妹へのプレゼントに幻想郷の呉服屋で、漆塗りの櫛と、 金細工の髪飾りを、ずいぶん前に頼んでおいた。かなりお金と気持ちがこもっている装飾品だ。 前会った時、おしゃれに気を使っていたから、さらに女の子らしくしてほしかった。 そして僕を殴らなくなってほしい。
これを持っていけば遅れていっても家族にリンチされないだろうから、 絶対忘れないでおこう。美鈴に預けたから、門のところで言えばすぐに返してくれるだろう。
そう思って玄関から急いで飛び出して、門へ向かった。

そしたら、突然、体が燃え上がった。

・・・いや違う。服は大丈夫だ。でも身体が激しく気化している。 飛んでいた僕は地面にたたきつけられるように落ちた。体が動かない。声がだせない。 息ができない。動けない。痛い。死ぬ。いたい。シヌ。 いたイ イタい イタイ シヌ シネナイ イタイ イタイ シヌ シネナイ  イタイ イタイ シヌ シネナイ イタイ イタイ シヌ シネナイ イタイ  イタイ イタイ  イタイ イタイ  イタイ イタイ イタ イイ タ イ イ タ イ イ タ イ イタイ イタ イイ タイ イ タイイ タイイ タイ イタイイタイ

死ぬ痛みで気がつく、死ねない痛みで気を失う、それが永遠に続くと思った。
誰かの慌てる声が聞こえる。身体に吹き飛ばされたような衝撃があった。

それで、やっと気を失った。






誰かが言い争っている?いや違う、誰かが一方的に大声を出している。
喧嘩はよくない。二人ともよく知っている声だから、やめて欲しい。

「・・夜さん。一体、どう・・つもり・・ですか!!」
「・・・・。お嬢様の・・向です。」
「・・ど、納得いきません、咲夜さん!!」
「・・・当に、優しいわね、美鈴」

どうやら言い争っているのは咲夜さんと美鈴らしい。僕が紅魔館へ来るようになって、 美鈴が咲夜さんに食って掛かるなんて初めてだと思う。でも、喧嘩はよくないから僕は止めようと声をなんとか出す。

「そんなことを言ってい「・・・ぁ」!?良也さん、気がつきましたか。大丈夫ですか?」

声を出した僕に気づいた美鈴が、肩を掴んで僕を起こす。
どうやら、僕はソファーの上で休んでいたらしい。何度か、深呼吸をして意識をはっきりさせる。
怒り心頭といった感じの美鈴を落ち着かせるために、僕はいつものように言葉をかける。

「どうしたんだ美鈴。そんな大きな声を出して喧嘩はよくないぞ?」

それで冷静になった美鈴が沈んだ顔で静かになった。
さっきのショックで完全に思い出した。吸血鬼にされたこと。あと、とても大切なことも。
僕の様子から事情を察した咲夜さんが声を掛ける。

「現状を理解されたみたいですね、旦那様。もしものときはパチュリー様にお任せするよう、 レミリアお嬢様から申し付かっていましたけど、その様子だと必要ないみたいですね。
・・・美鈴。さっきの事は旦那様を、部屋に案内することで不問にします。それでは失礼します。」
「待ってください、咲夜さん。一つ確認したいことがあるんっですけどいいですか?」

僕は仕事に戻ろうとする咲夜さんに、確認したいことができた。
咲夜さんは僕のことを旦那様と言った。だから多少失礼なことを聞いてもいいだろう。

「敬語は結構です。レミリアお嬢様から、旦那様のお世話を申し付けられて、遣える身なので」

・・・うん、これなら大丈夫そうだ。では遠慮なく。

「咲夜。今日の下着の色は黒?」
「・・・死ね、下衆野郎」

視界が暗転した。




















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なにかおかしい。
たしかにあれは調子に乗りすぎた。でもあんなシリアスな展開の後にこれはないと思う。
いくら蓬莱人で死なないといって、黒ひげ危機一髪よりヒドイ仕打ちだ。
少し陰のある白日の下で、四肢を白樺の杭で固定して、豆まいて、流水かけて、最後に・・・・・・・・・。
咲夜さん曰く”金太郎飴”ゲーム。しかもエンドレスエイト。終わりがなくて、どうやっても抜け出せない。
なぜかぼろぼろなっている美鈴も、嬉々として手伝っていたし。 ちなみに美鈴の案は、豆まいて流水をかけることだった。あんまり痛くなて微妙に優しい。
黒ひげ危機一髪と金太郎飴は、外の世界でもあまり見なくなったから、香霖堂にあってもおかしくない。
咲夜さんが買い物に行ったとき見たのだろう。 この従者達はご主人様の旦那の扱いが悪いと思う。
・・・旦那じゃなくて、おもちゃの気がしてきた。
日が暮れて仕事がたまった咲夜さんが不満げに帰っていった後、美鈴は僕を助けてくれた。
僕は無限ループから開放されて、疲れたように呟いた。

「咲夜さん、そんなに下着を見られるのがいやなら、ロングスカートにすればいいのに。」
「いろいろ言いたいですが同感です。今度、香霖堂にお使いへ行ったときに探してみます。」

僕の呟きに美鈴はあきれたように答えてくれた。
是非、ロングスカートは探してほしい。僕は美鈴と親友になれそうな気がする。

その後、美鈴に案内されて紅魔館の一室に案内された。
ドアを開けてみるとベットと机とイスが、今までの客室と比べてかなり豪華な感じだった。
あと、立派な掛け時計もあって、外の世界での高級ホテル並みだった。・・・窓はついてなかった。
今日はたくさん死んで疲れたから、部屋に入って休もうとした時、美鈴に声を掛けられた。

「良也さん、預かっていた荷物をお返しします。職務上、危険物がないか確認しましたけど装飾品が 二つあるだけでした。これはお嬢様方への贈り物ですか?」
「・・・明日、妹の誕生日なんだ。そのプレゼント。」

僕がそう答えると、美鈴は泣きそうな顔をして、

「・・・おやすみなさい、良也さん」

と、言って、僕の顔を見ないように足早で去っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとうにやさしい。



・・・僕はベットに横になっても、吸血鬼になったためかあまり眠くなかった。
パソコンもテレビもラジオないし、明かりさえもない。全く暇が潰せない。 でも、枕元に分厚い辞書みたいな、外国語で書いてある本が置いてあった。 明かりがないけど、かなり夜目が効くようになったから問題なく読めるだろう。 暇つぶしにはもってこいだ。僕は本を開いた。

それは、外の世界の西洋の国の昔話。
その国の小さな地方の貴族の少女の物語だった。


暗い時代は争いの渦中。

その中で明るい話題を提供しようと、その国は少女の誕生日を祝うことにした。
家族を含め領民全てをあげてのお祭りだった。争いを忘れて日常を楽しむ日。
少女は全てに祝福される特別な日になるはずだった。
事実、祝福されて特別な日になった。

人として終わりを告げる日として。

その国を破滅させようと、刺客は貴族の姉妹を吸血鬼にした。
誰がやったのかわからない、敵はたくさんいたのだから。
姉妹は吸血鬼にされて、その反動の吸血衝動と破壊衝動と無理やり与えられた力で、
愛する家族を、仲のいい友達を、守るべき領民を殺した。全て殺した。全て壊した。
気がついたら、国中が見渡す限り空気で色がくすんだ血で覆われたていた。
楽しかった思い出がたくさんあった場所や、自分達が育った館もそうだった。
それは絶対に消えることのない罪の証。

目が覚めた。昨日は、本を読みながらいつの間にか寝てしまったらしい。
寝る前に読んだ本は吸血鬼の話だった。
吸血鬼の住処なのだから、そんな本があっても不思議ではない。 掛け時計を見ると単身の針が5をさしている。窓がないから確認できないけど、たぶん夕方だろう。
部屋のドアがノックされてので返事をすると、咲夜さんが着替えと紅茶セットを持って入ってきた。

「お目覚めですか、旦那様。昨日はよくおやすみでしたよ。着替えとお飲み物をお持ちしました。 その後、一息つかれたらでかまいませんので、レミリアお嬢様の所へ行ってください。 お話があるそうです。」

昨日のことを全く感じさせない。さすがパーフェクト・メイドだ。
変なことを考えて昨日と同じことをされると怖かったので、僕は普通に答えた。

「わかりました。着替えが終わったらすぐに行きます。」
「かしこまりました。では、部屋の外で待っていますので着替えが終わったら、 部屋を出る前に一声おかけください。レミリアお嬢様の部屋にご案内にします。」

僕は着替え終わったら喉が渇いた。・・・少し迷ったけどソレを飲んでおくことにした。
レミリアも多分その話をするつもりだろうし。
・・・・・・僕は気分を落ち着つけてから咲夜さんに声をかけて、レミリアの所へ案内してもらった。


部屋の前について、咲夜さんがレミリアに声をかけてからドアを開けた。
僕は中に入って部屋を見渡す。僕の部屋よりさらに豪華だった。 それは、一つ一つの家具に品があるだけでなく調和も取れている。それに天蓋つきのベットなんて始めて実物で見た。 だけど、これは部屋の主がいて初めて意味がある。
そんな風に思って、僕はベットに腰掛けているこの部屋の主に声をかける。

「一昨日ぶりだな、レミリア。こんばんわ、でいいのか?」
「別に挨拶なんてどうでもいいわ。それより喉の渇きはどうなの?」

レミリアは単刀直入に話題に入った。僕はある事実を確認するために答えた。

「今は大丈夫。昨日、起きた時はかなり喉が渇いていたけどソレを飲めば我慢できたし、 今日も服を着替えた後、喉が渇いたからソレを飲んだ。・・・やっぱり血だったのか?」
「ええ、吸血鬼の喉の渇きを癒すものなんてそれだけよ。でも、思っていたより冷静ね何故かしら?」

僕は用意していた答えを言う。

「蚊も人間の血は吸うし、それに人を殺すわけじゃないんだろ?食事のためならしかたないさ。
僕はレミリアに血を吸われて殺されたことは一度もなかったし。」
「もし、血を吸うために人を一人殺すことになったらどうするの?」
「僕は元蓬莱人だからね、食事を抜いても死なないから大丈夫。
・・・もし、レミリアがそうしないといけなくなったら僕の血を吸えばいい。僕は死なないから。」

僕が淀みなく答えると、レミリアはくつくつ喉を震わせ、嘲笑しながら告げる。

「いい心がけだな、眷族。近くにこい。いいことを教えてやる。」

なにかマズイ感じがするが、逆らっても無駄なのは身にしみてわかっている。 近くまで行ってどこに座ろうか迷ったが、僕はレミリアの隣に腰掛けた。 そして、レミリアは僕に吐き捨てるように言った。

「奇麗事を並べるのは結構だが、お前はもう吸血鬼だ。それを魂に刻んでやる。」

そう告げられて、僕は抵抗する間もなくベットに押し倒されて、首筋に噛みつかれた。
食事のための吸血とは絶対的に違う。
人としての大切な”ナニカ”を奪われる感覚だ。
そして、代わりに吸血鬼として必要な”何か”を流し込まれた。
それは吸血鬼にされた時よりも、さらに気持ち良かった。
これは血液がなくなって肉体が侵されるのではなく、魂を犯されるような感覚だ。
そんな未知の感覚に抵抗できない。
抵抗できたとしても、この性楽を拒むことなんて考えられない。
僕は魂を犯されて理性が溶けていって、この性感がずっと続くことだけを望んでいた。
もう、性楽を得ることしか考えられなくなった。

      レミリアの綺麗な首筋が目に入った。                  ボクはそれにカみついた。

奪われて、流し込まれるだけで、こんなにキモチちいい。
奪って、流し込めば、もっとキモチよくなれる。
血を飲むことも、血を吸うことも、血を与えることも、奪うことも、失うことも、今は全てがどうでもいい。
性楽を求めることが、性感を得ることが、これを永遠に続けることが全てだ。
僕は性楽に溺れて、本能をむき出しにして、互いの血で穢されながら、激しくレミリアを求めた。
そんな僕にレミリアはさらに性楽を与えてくれた。僕も倣ってレミリアに性楽を与える。
この魂を犯しあう性楽に永遠と溺れていたかったけど、僕は性感に耐え切れずに溺死した。




生き返って意識が戻った。ベットの隣にはレミリアが眠っている。
さっきの血まみれの服じゃなくてネグリジェだった。僕はいつもの高級バスローブだった。
・・・そこまで確認して死ぬ前の行為のことを、冷静に思い出した。
・・・・・・人間的にも、外の規制法律的にも、いろいろと終わった。僕的には後者の方がショックだ。
最中のことを思い出したら、目がさえてしまった。僕は首に噛み付いただけだから、きっと大丈夫だ。
血を吸って服を汚し、血を与えただけだ。他は何もしていない。咲夜さんがきっと服を着替えさせてくれたんだ。 絶対にそれだけだったんだ、と思い込むことにした。
目が覚めたからといって、自分の部屋へ逃げたら何回か殺されるだけではすまない。
咲夜さんに、ありとあらゆる拷問をされそうだ。僕はベットサイドの机の上に置いてある、部屋にあった本を読むことにする。 たぶん咲夜さんが、気を利かせて持ってきてくれたのだろう。
続きを読むために、僕は本を開いた。


たくさんの時間がかかった。

殺した全ての人間をきちんと弔った。
全て弔った後、少女は家名を捨てた。
家名は自分で考えた。運命を自分で決めた。罪の十字架を背負うことにした。
考えた家名は”穢れた紅色”
少女は十字架なんて怖くない。それは、背負わなければいけない罪なのだから。
罰は吸血鬼になっても一緒だった妹を失うことだった。
妹は、大切な友達と、愛する家族を、得た力で壊してしまって、気が狂ってしまった。
少女は泣きながら妹を幽閉した。妹の力のせいじゃなくて、妹の心を治すために。
少女は妹のために吸血鬼から戻る方法をさがすことにした。


目が覚めた。また、本を読みながら寝てしまったらしい。
そういえば、妹は元気だろうか?僕は誕生会をすっぽかしてしまった。 僕が外の世界へ帰ったら、家族と一緒に僕をリンチするだろう。爺ちゃんも加わるかもしれない。

・・・・・・・・さて、現実逃避はやめて、昨日のことを確認しないといけない。

でも、ベットの隣を見るとレミリアはいなかった。
部屋の中を見渡すと、少し離れたテーブルで優雅に紅茶を楽しんでいて、 咲夜さんが給仕をしている。 声が掛けづらい。僕がどうしようか悩んでいると、起きたことに気づいた咲夜さんに声を掛けられた。

「お目覚めですか、旦那様。昨日はずいぶんとお楽しみでしたね。 血であれだけ服とシーツを汚されては、洗濯が無理でしたので処分しました。 変わりは用意してあるので問題ないです。
それに、二人で仲睦まじくお休みになられているところを、起こさないように服とシーツを交換するのは骨が折れましたよ。 それと、着替えはベットの上に置いてあります。
いまさら気にされることもないので、ここで着替えていただいて結構です。」

なんか、重要な事実をいろいろ言われた気がするが、とりあえず服を着ることにした。
置いてあった服は、外の世界と同じデザインの服だったが、かなりサイズが小さいかった。
昔の僕なら問題ないサイズだけど、さすがに着れないから咲夜さんに聞いてみた。

「あの、咲夜さん。服のサイズが、かなり小さい気がするんですけど、これでいいんですか?」
「・・・今、パチュリー様に鏡の代わりになる魔導書を作ってもらっています。失礼ながら申し上げますと、 それを見て確認していただければ、理由は簡単にご理解されるはずです。 率直に申し上げますと、旦那様はレミリアお嬢様と同じ年頃の容姿です。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?
からかわれているかと思ったけど、目に映る手と腕はかなり縮んでいる。
髪はその年頃まで、肩くらいまで伸ばしていた。髪を触って確認すると肩ぐらいまであった。
足を見てみた。小さい。一番肝心な部分を確認した。・・・僕はリアルコナンしていた。
確認が終わって軽くパニックになっていると、レミリアが教えてくれた。

「昨日あなたに私が血を大量に送って、あなたが私の血を大量に吸って、魂が吸血鬼になったわ。 それに引っ張られる形で身体もその年頃になるの。」
「・・・・・・・・・また、大きく、なれますか?」
「絶対無理ね。まぁ、年月が経てば羽が生えるようになるし、他には霧になったり、蝙蝠になったり、
狼になったり、変身できるようになるから、その辺りを工夫すればなんとかなるんじゃないかしら?」

さらっと、そんなことを言われても困る。
この年頃の身体は二次成長前だし、さっきの咲夜さんの発言から、昨日は外の世界の規制に引っかかることをしていないことが、 わかっただけでも良いことにした。あと、このナリじゃ恥ずかしがる必要もない。もう成るようになれ。やけっぱちになって 着替えを始めた
僕が着替え終わったら、レミリアに声を掛けられた。

「今から行く所に着いてきなさい。」





混乱したまましばらく着いていったが、気持ちが落ち着いてきて、気になってから聞いてみた。

「レミリア、これから何処にいくつもりなんだ?」
「フランの所よ。新しくできた兄を紹介しないといけないわ。」
「・・・・・・・・・かなり難易度が高いであります。僕は殺されるだけで済むのでありますか?」

僕は変な敬語を使うほど動揺した。一緒に着いてきていた咲夜さんが答えてくれた。

「いえ、きっと妹様は大変喜ばれますよ。常々、兄がほしいとレミリアお嬢様にねだっていましたから」
「へぇ、そうなんですか?僕も小さい時に、両親に姉が欲しいと、ねだってよく困らせましたよ。」
「旦那様と話されるようになって、そのようなことだけでなく、いろいろなことに興味をもたれて話されるようになりました。 最近は、ペットが飼いたいとおっしゃっていましたよ。猫がいいそうです。」
「そうなんですか?そういえば以前、僕はフランドールに本を読み聞かせていて、物語に猫が出てきたときに 小さい時に猫が飼いたかったと話したことがありました。 実家では道場の柱や板の間で爪とぎをするから両親に飼うのは駄目だと言われて・・・」

気持ちを落ち着けるために、そんな感じで咲夜さんと和やかな会話をつづけながら、 長い螺旋階段を降りて行った。そうして、フランドールの部屋の前に着いた。

フランドールに事情を説明するために、先にレミリアと咲夜さんが部屋へ入っていった。
僕は一人、外で待っている。・・・いろいろ緊張する。入っていきなり、レーヴァテインとかないよな?
咲夜さんから声をかけられたので、僕は意を決してドアを開けて入った。部屋を見てみると、 姉妹がテーブルについて仲良く紅茶を飲んで話していた。

そんな光景を見て安心したのと、疑問が浮かんできた。どうやって用意したのだろう?

咲夜さんは、さっき紅茶セットをもっていなかった。 この部屋は台所がない。出入り口は僕が待っていたドアは一つしかないし、窓もない。 部屋を出れば僕は気づくはずだ。どうやらパーフェクト・メイドに不可能はないらしい、 などと、どうでもいいことを考えていたら、気分が落ち着いてきた。
僕が二人の近くまで行くと、僕に気づいたフランドールがゆっくりと立ち上がって側までやって来た。
目線がほとんど同じになったフランドールが、照れながら恥ずかしそうに言った。

「・・・兄様」

なんかもう、いろいろと反則だ、ソレは。とりあえず、レミリアに礼を言っておく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・初めてレミリアに感謝した。」
「・・・そう」

優雅に紅茶を飲んで僕達を見ていたレミリアは、僕がそういうと少し満足そうだった、
しばらく、一緒に紅茶を飲んで用意してあったトランプでゲームをしながら雑談する。
そして、ゲームが一区切りついたとき、フランドールがなにか思いついた顔で僕を呼んだ。

「良・・・じゃなくて兄様。」

間違えるところも、なんか、こう、グッとくる。

「なんだ?フランドー・・・じゃなくてフラン」

僕は呼び間違えたわけではないが、フランドールと呼ぼうとしたら、レミリアは僕だけにわかるように えらい殺気を向けてきたので、フランと呼ぶことにした。別にこれくらいで殺されならいくらでもする。
僕に愛称で呼ばれたはフランドールは、歳相応の純粋なとても嬉しそうな笑顔で、

「私、弾幕ごっこをしたい。」

一緒に遊んで欲しいとねだった。
もちろん二つ返事だ。その笑顔と、兄様といわれて、ねだられたら何でも言うことを聞いてしまうそうだ。 それに僕は吸血鬼になったから、フランドールと弾幕ごっこで遊んでも一方的に殺戮されないだろう。
それに死んでも生き返るだろうし。だから、フランドールと以前出来なかった遊びに付き合うことにした。
人間だったころと比べてかなり長い時間もったけど、最終的には一方的に殺戮された。
逆になかなか死ねないから、恐怖を感じる時間が長くなっただけだ。僕は吸血鬼になっても弱かった。

ぼろぼろになりながらも、なんとか部屋に戻ってきた。
弾幕ごっこの後、フランドールがいつも通り僕の血を吸おうとしたが、レミリアと咲夜さんに止められていた。 まだ、僕が吸血鬼として安定していないから駄目らしい。僕もそれには賛成だ。
今、血を吸われたらレミリアの時と同じ事をフランにしてしまう気がする。それはいろいろと駄目だろう。
昨日のことを思い出したら、気分が落ち着かなくなった。
だから、僕はいつもの本を読むことにした。


たくさんの時間が流れた。流れるように月日はたった。

図書館の全ての本と、全ての魔導書を読んだけど治す方法は見つからなかった。
だから少女は、たくさんの本と魔導書を買い揃えた。
だから少女は、大勢の持ち主を殺して、たくさんの本と魔導書を奪った。
でも方法は見つからなかった。その頃は人を殺すことになにも思わなくなった。
もう奪うことにも、もう罪を重ねることも、気にならなくなった。

ある日、魔女が来た。

その頃館に来るのは、少女を殺そうとする狩人だけだったので、 声だけで相手を殺せそうな威圧をこめながら、魔女に自分を殺しにきたのか、と聞いた。
魔女は、その殺気を、本当にどうでもよさそうに受け流してこう答えた。
吸血鬼は観察対象として興味深いけどどうでもいい。 それより、貴方が集めた貴重な本と魔導書が読みたいからどこにあるのか。
それを聞いて少女は笑った。久しぶりに腹の底から笑った。
この殺気を受けて怯えずに、自分の命よりも本を読むことのほうが大切だなんて、どこかずれている。
だから、そんな可笑しな魔女と少し話をしてみた。殺すことなら後でもできる。
でも、少女は久しぶりに誰かと話をして可笑しくて楽しかったから、その魔女と契約をすることにした。
自分の髪の半分と、図書館と魔導書を全て与えることを代償に、妹の治療法を探す協力を頼んだ。

そうして、少女に久しぶりに友達ができた。



目が覚めた。また、本を読みながら寝てしまったらしい。
そういえば、紅魔館の地下図書館に行っていない。この姿になってから、パチュリーとは会っていない。
でも会ったらいろいろ実験されて、最後に魂レベルまで解剖されそうな気がする。 蓬莱人が吸血鬼になったのだから、興味深いとか何とか言って。
・・・近い未来そうなる気がする。絶対、地下図書館に近づかないほうがよさそうだ。ドアがノックされので返事をすると、 咲夜さんがやってきた。いつも通り服と紅茶セットをもらい、一息ついて着替えてから 今日の予定を聞いてみた。

「今日は、地下図書館のパチュリー様の所へ行って下さい。以前、話しいた姿を確認できる魔導書ができたそうです。 それと、いろいろ調べたいこともあるそうです。今から、そちらにご案内します。」

さっき考えた不穏な未来が現実になりそうだ。

僕は咲夜さんに連行されて地下図書館についた。
そこにはいつも通り本を読んでるパチュリーがいた。僕が来たのがわかると割と機嫌がよさそうに、 本を読むのをやめてこっちへ向かってきた。それを確認した咲夜さんは他の仕事があるのか、 何処かへ行ってしまった。小悪魔さんも本棚の整理をしているのか見当たらない。
・・・ヤバイ、解剖される。完全にビビって動けなくなりその場に固まった。
ゆったりと飛んで隣にパチュリーがきた。今の僕より少し背が高かった。

「久しぶりね、良也。吸血鬼になってどう?喉の渇きは大丈夫なの?」

僕に声を掛けたパチュリーは、いつも通りだった。
それにレミリアと同じ質問だ。アノ前なら、血を飲むのに抵抗があったが、今は血を飲むのは抵抗がない。 これが調べることなら、解剖されることもないだろう。僕は安心して答えた。

「ああ、特に問題はないと思う。咲夜さんが、毎朝、もってくる分の血を飲めば問題なく過ごせているし。」
「吸血鬼に成り立ての者は、吸血衝動と破壊衝動に思考が侵されて大変だと聞いていたけど、特別なことはしなかった?」

・・・いや、それは、その、あの、レミリアとなんなことがあったし。アノの詳細を言うのは、さすがに抵抗がある。 嘘をつくときは、ある程度事実を混ぜればいいと、なんかのラノベに書いてあった。それを実践してみよう。

「その辺は、レミリアが協力してくれてなんとかなった。」
「・・・へぇ、そうなの。まぁ、レミィが協力したのなら大丈夫だわ。」

よし、なんとか誤魔化せそうだ。僕は安心してため息をつく。
そんな僕をみて、パチュリーは妖艶にくすくす笑いながら質問をつづけた。

「そうそう、レミィの血はおいしかった?ここまで血の匂いがするわ。身体に匂いが染み付くくらい、 激しくレミィの血を求めたのでしょう?吸血鬼として、血を吸うのは、血を与えるのは、気持ちよかった?」
「・・・・・」

猥談を真剣に聞かないで欲しい。あと、ラノベの知識は現実で利用してはだめだ。
僕は答えられないので黙っていると、パチュリーになんか変なスイッチが入った気がする。

「でも、血を吸うのは慣れるまではレミィだけにしておきなさい。歯止めがきかなくなるわよ?」
「・・・・・・・・・・」
「それに最初の頃は食事の吸血と違って、人間で言うところの性行為にあたるから、溺れるのはいいけど吸いすぎはだめよ。 あなたにも負担になるし、レミィの身体にも負担がかかるわ。するなとは言わないけど、節度を守ってしなさい。 あと、フランに手を出したら、私が真っ先にあなたを殺すわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それと・・・」

どうやら、僕が適当に答えたのがだめだったらしい。
途中から、珍しく感情的になりながらパチュリーは、僕に小言をいい続けた。
なんていうか、レミリアと本当に仲がいいのがよくわかった。
その小言は小悪魔さんが姿見用の鏡を持ってくるまで続いた。
その後、パチュリーは咲夜さんが持ってきた特製のハーブティを飲んで、落ち着いてから本題に入った。

さっきとは違い、いつも通りの落ち着いた様子でパチュリーが長い講義をする。
要約すると、話は二つ。 まずは小悪魔さんが持ってきた鏡についてだ。

吸血鬼は鏡に映らないから、その対応について。

咲夜さんがパチュリーの制作を頼んでいた、鏡の代わりになる魔導書が完成したそうだ。
吸血鬼は、鏡に映るということがいけなくて、得た情報から姿を自身の想像すればいい。
さっき小悪魔さんが持ってきた鏡は実は魔導書で、見た対象の情報を読み取り対象者の姿を構築する。
だからこれは、対象者の姿を情報で構築した、絵本を読むのと同じだから問題ないそうだ。
あと、レミリアは鏡を普通に使っている。・・・吸血鬼にも格差社会があった。
鏡の魔導書で今の姿を確認すると、そこには僕の二次成長前の姿が写っている。
わかっていたけど、実際、目で見るとかなりヘコんだ。

次に吸血鬼になって僕の能力が変わったらしい。

普通、人間が吸血鬼になったら、新しい能力や、強力な魔法を使えたり、大幅な身体能力の強化がある。 それを調べるために、咲夜さんから処分するシーツと服をもらい僕の血を詳しく調べたたそうだ。 ・・・なるほど、だからあんなに詳しかったのか。
そんなことよりも、パチュリー曰く、僕の能力は”自分の世界に引き篭もる程度の能力”から ”世界を支配する程度の能力”に変わったそうだ。超中二臭いので、スキマにあったら、また変な名前がつけられそうな気がした。

能力の詳細は実はあんまり変わっていない。でも、できることの規模がかなり違う。
僕が本気で能力を使えば、周辺の気温だけでなく幻想郷全体の気温も操れるし、 薄い壁を作るだけじゃなく紅魔館クラスの館も建てれるし、時間操作も加速だけじゃなくて止めれる、 などが出来るとのこと。
でも、僕がそんなことは認識できないから、今は現実的に使用するのは無理らしいが。吸血鬼として年月を重ねて、 力を蓄えて、使い方がわかればできるようになるかもしれないらしい。

あと、自然や環境は支配下におけるが、生物を支配下におくことはできない。
例えば、とあるパーフェクト・メイドに『お帰りなさいませ、ご主人様』と言わせることとか、 あんなことや、こんなことも命令できない。 でも、自然や環境は人や妖怪の欲望や本能にかなり影響を与えるから、長い時間をかければできるようになるかもしれない、だそうだ。 ・・・メイドの件を頑張ってみよう。
あと、妖精は自然の延長だが、僕が生物として認識しているため支配下にはおけないそうだ。
別にチルノが支配下になっても無意味だ。なんかいろいろ足りないし。

だから、今できることは大幅な身体能力の上昇と、妖力の大幅な上昇と、通常の弾幕がけっこう強くなっただけ。 それだけあれば、弾幕ごっこが有利になるはずだ。異変の時の興奮した妖精たちにはそれで充分だろうし、 まぁ、ルーミアとかの割と強力な妖怪に襲われても、本気で走って逃げれば絶対に追いつけないから問題ないだろう。
でも、霊夢や魔理沙や萃香を筆頭とした幻想郷のチート達にはそれだけでは、絶対勝てないし、逃げれるかも微妙だ。 それで、スペルカードの強化について講義を聴いてみたが、土符は弾速が遅いから弾幕ごっこには向かない。 火符と水符は、火と流水が吸血鬼の苦手なものだから扱いが難しい。雷符と氷符は錬度が足りないため実践では使えない。 その恩恵が与えられるスペルカードは風符だけ。
・・・なぜだろう、前より弱くなった気がする。

そして、最後にパチュリーは妖しく目を光らせ少し興奮しながら、

「いままでのあなたの能力はあなた周辺だけだったけど、この能力の影響を与える範囲がよくわからないわ。 認識できる物に限定されたのか、あるいは広くなりすぎたのか・・・・・・。 それに元蓬莱人の吸血鬼なんて、そんな魂の在り方は他にみたことがないから、とても研究対象として興味深いわ。 いろいろ解明したいから、本格的に解剖してみようかしら? 昔、フランの暴走防止のために開発した吸血鬼専用の拘束術式のページは・・・・・・

と、不穏なことを言い出した。僕は全部いい終わる前に、必死になって地下図書館から、全力で走って逃げ出した。 たぶん、記事を見つけた射命丸と同じくらいのはやさだった。
後で僕の部屋に咲夜さんが鏡の魔導書を持ってきたから、シーツをかけて部屋の隅に放置している。
絶対にこの魔導書は罠だ。見てはいけない。
もう地下図書館の本は読めないかもしれない。本を開いたら動けない、なんてことになりそうだ。 せっかく暇つぶしに本を借りようと思っていたのに。
しかたないから、いつもの本を読むことにした。




長い年月が流れた。いくつもの時代が過ぎた。

いつの間にか少女の館に人が増えた。
穏やかで優しい門番がいた。不思議な従者も就いた。友達は親友になった。
吸血鬼の治療法は見つからなかったが、親友が妹の心の治療法をたくさん編み出した。
それに真剣に取り組んだ御蔭で妹も少しづつ良くなっている。
でも少女は、必要な物を得るためにたくさん罪を重ねたから、敵もたくさんいた。
だから、安全に生きていける場所をもとめた。
その時、偶然通りかかった賢者が別の世界を教えてくれた。
そこへ引っ越すことにした。
その世界は全てを受け入れる優しい場所だ。
でも、その世界は少女の犯した罪を償うことが絶対できない、残酷な世界だ。




ここ最近は、本を読みながら寝ている。
そういえば、外の世界へ一週間くらい帰っていない。こんなに長いのは、生霊だった時以来だ。
家族のことや大学のことなどの外の世界のことを考えていると、ドアがノックされた。
生返事をして、いつも通り服と紅茶セットをもらい、一息ついて着替えてから今日の予定を聞いてたら、特にないと言われた。 それで、今日は何をしようか考えて、昨日は何をしたか思い出して、最後にパチュリーの様子を思い出した。
・・・身の安全のために、美鈴に体術の訓練をつけてもらおうと門へ行くことにした。
だって、咲夜さんは仕事があるし、フランは無理だ。レミリアは絶対そんなことはしない。
唯一、パチュリーはまともに教えてくれそうだけど、アレが一番危険だ。小悪魔さんは図書館にいるので残念ながら却下。 残った選択肢は紅魔館で、比較的常識人の美鈴だけだ。
門へ行く途中で夜の空を見上げると、あと一週間くらいで満月になりそうな月があった。
綺麗な月だった。なんとなく僕は月をしばらく眺めてから、真面目に門番をしている美鈴に声をかけた。

「こんばんわ、美鈴。少し頼みたいことがあるんだけど・・・」
「こんばんわ、良也さん。その頼みは急ぎですか?実は渡したいものがあります。」
「別に、急ぎじゃないけど・・・何、渡したいものって?」
「昨日、香霖堂へお使いへ行ってきました。その時に、以前良也さんに頼まれた品も買ってきましたよ。 あと、私なりにアレンジも加えました。」

といって、柱の影にあった紙袋を僕に渡してくれた。ああ、アレのことか。本当にそんなものまで、 置いてあるなんて、本当に香霖堂は夢の島だな。 では、早速、拝ませてもらおう。僕は楽しみにして中身をみた。
・・・これは!?

「・・・メイド服はロングスカートが絶対だ、中国。貴様、なぜスリットをいれた。」

そう、絶対不可侵の聖域であるロングスカートに致命的な亀裂が入っていた。
そんな許されないことをした元凶を殺気を込めて睨むと、美鈴は肩を震わせながら下を向いていた。
そして、顔をあげ、悟りを啓いた仙人の気を纏い、僕に宣戦布告をした。

「あなたは中国拳法を舐めた。」

僕は聖域を汚されたのとその言葉で、怒りで視界が真っ赤になりながらキレた。
いまなら理不尽な暴力を振るえるだけの力がある。それを使えばいい。そして絶対的な宣言する。

「ぶち殺すぞ、美鈴。」

僕と美鈴は殺し合いを始めた。
・・・・・・なんて、無駄に格好をつけてみたが、僕はあっさり負けた。
美鈴は”気”といろいろな武器(中華刀とかクナイとか三節棍とかいろいろ)を使って戦った。
だけどそれでは補えないくらい、僕と美鈴は身体能力の差があるはずなのに、全てがうまく捌かれた。
美鈴のほうが技術と経験が圧倒的に上だけど、それだけでは説明がつかない。
メイド服を穢されたのでくやしかったから、どういう理由か聞いてみると、

「良也さんは型にはまりすぎです。たしかに、大幅な身体能力の強化で力やスピードは上がりました。
それに、良也さんは多彩な武術を扱えます。でも、それはあくまで人間のための形式的な武術です。
それでは、私が気と武器を使ったぐらいの身体能力で、簡単に対応することができます。
生まれてから妖怪は身体能力が違います。発想が違います。私は能力なしで壁を普通に走れます。
気を使えば、天井も地面と同じように使えます。
ですから、虚をつけ、とまではいいませんが発想を柔軟にしてみてください。」

と、かなり真面目なことを言われた。いつも寝てサボっているくせに。
あと、メイド服はロングスカートが絶対だ。
・・・・・・でも、パチュリーに捕まったら解剖されることを思い出したので真面目に考えてみる。

「虚をつくね・・・手品みたいなものか?」
「ちょっと違う気がしますが・・・・あと手品と言えば、咲夜さんが得意です。」

咲夜さんの意外な一面を知ったけど、その手品はタネも仕掛けもないと思う。
強力な身体能力とタネ無し手品か・・・・・・うん、これならいけそうだ。

「一つ思いついたよ、ありがとう美鈴。他に外の世界の手品で注意を逸らすときに使うのはバニーだな。」
「ダニー?なんですかそれ?」
「ダニーじゃない、バニーだ。バニーってのは、ウサギをモチーフにした衣装を来た人で、 手品師の付き人をしている人のこと。・・・!?そうだ、今度、咲夜さんに着せてみよう。フランをそそのかせばう・・・」
「へぇ、ふざけたこと思いつくのね、下郎。」

・・・終わった。さっきまでいなかったのに、こうなったら道連れだ親友。

「美鈴が咲夜さんにスリットの入ったスカートを薦めるから、僕はそれに乗っただけで・・・すみません。」
「ちょ、ちょっと良也さん、頭わいているんですか?なにを根拠にそんないいかげんな嘘を。
あの、咲夜さん、その紙袋はいつのまに?けど、それは良也さんが買ってくるように・・・ごめんなさい。」

僕達は言い訳を最後まで言えなかった。別に咲夜さんは怖い顔していない。むしろ逆で、優しく微笑んでいる。 それは、この後のことを、とても  とても  とても  とても楽しみにしているからだろう。

「下郎と中国、話をしましょうか?」

拒否権はなかった。
それから二人で仲良く、咲夜さんからとても厳しい”話”をされることになった。

僕達に”話”をする部屋へ連れて行く途中で、なにかのいい匂いがする部屋の前に着いた。
咲夜さんがドアを開けたので、僕達はそっと中を伺ったら壁一面に大量のピータンがあった。
僕は拍子抜けして隣を見ると、美鈴は、外の世界でゴキブリが大嫌いな主婦がソレと遭遇したときのような、おびえ方をしていた。

    めいりんは    にげだした

しかし、魔王からは逃げれない。
ドアを開けた時点でスペルカードを使っていた。

迷符「アキレスと亀」

魔王の能力で時間が無限に分割され、絶対に到達点へ届かなくなり逃げれなくなっていた。
時間を止めて捕まえて閉じ込めれば良いのに、獲物にあえて限られた自由を与えて必死に逃げさせて、 逃げるのが無理なことがわからせ、絶望するのを見て楽しんでいるのがわかった。・・・本物の魔王だ。

結局、美鈴は逃げるのを諦めて、自分から部屋に入って閉じ込められた。
罰の内容は笑っていいだろうけど、あの取り乱した美鈴を見たらすごく可哀想だと思った。
だって、それは、壁全面にびっしりとゴキブリがいる部屋に閉じ込められるのと同じだ。
・・・最悪だ。絶対、僕なら発狂する。
そんな美鈴と同じ末路を辿るのかと恐怖しながら、魔王についていった。
逃げれないからついていくしかない。説教部屋に着いた。
魔王がドアを開いた時点で、恐怖がピークになった。後のことは記憶が曖昧だ。

記憶に残ったのは、”親指サイズのマトリョーシカ”だけだ。

そんな酷い拷問が終わって、やっと部屋に戻った。あんな拷問されては、悪夢を見るので寝たくない。
こんな時は本を読むのに限る。僕はいつも通り、枕元にある本を開いた。


この世界で暮らし始めて、長い年月が経った。

妹は以前と比べて、話も通じるし落ち着いて行動できるようになった。
だからある日、少女は妹のためにきっかけを作ることにした。

少女はまた罪を重ねることにした。

でも、それがうまくいけば妹に友達が出来るはずだ。
それは目論見どおり成功した。
妹に一緒に遊ぶ友達ができたし、永遠に絶対壊れない友達ができた。
とても楽しそうに毎日を送っている。これで安心できる、妹はもう狂わない。

安らかな日々が続く、穏やかな日常がある。それはいままでなかったことだ。
でも、少女はたくさん罪を犯してきたから、それを受け入れられない。

だけど、家族が幸せならそれでもいい。
妹は友達と無邪気に遊んでいる。親友はいつも通り本を読む。
不思議な従者は完璧だ。門番は穏やかで優しい。
あとは、この安穏がずっと続けばいい。



だから、私は、また罪を重ねることにした。





長い物語を読み終わった。
僕はこの古い外国語なんて知らなし、本は初めから無かったようにどこにも見当たらない。
でも、それはある少女の思い出だった。どうして、彼女は自分の幸せをわからないのだろうか。
彼女はもう持っている。そんなことはとても簡単なことだ。それを受け入れることは、当たり前のことだ。
だけど、彼女は絶対にわかっていない。それを伝えるのは、教えることは、弱い僕でもできる。


だから、僕は彼女の願いを叶えたい。



そう強く思うのは、たぶん、さっきの拷問のせいで気が高ぶっているせいだろう、それに全く眠くない。
こういうときは、誰かと話すのが一番だ。

だから、なんとなくレミリアのところへ行きたくなった。

ふと、部屋の机に置いたままの二つの装飾品が目に入った。手ぶらで行くのも微妙だし、誰かのためだったプレゼントを渡そう。 ちょっと失礼かもしれないけど、今の僕は”招かれていない”から人里の店へ買い物へはいけない。 それに髪は女の命だから、どうか大切にしてほしい。

レミリアの部屋へいく。ドアをノックした。・・・よかった、返事があった。さすがに寝ているところを邪魔はできない。 ドアを開けて部屋に入る。僕はレミリアの顔がよく見えるところまで移動して声をかけた。

「こんばんわ、レミリア」
「挨拶なんてどうでもいいわ。こんな時間になんの用事なの?もう夜が明けるわ。私は眠いのだけど?」

ベットに身体を起こして休んでいたレミリアは、目のふちに涙をためて、あくびをしながら僕に用件を聞いた。 僕に寝ようとしたところを邪魔されて機嫌が悪そうだ。それなら、別の日でもいいのかもしれないけど、 どうしても、今、レミリアと話がしたい。それに、この機会を逃すとだめな気がした。
僕は気が高ぶっているし、思ったまま行動してもいいだろう。

「レミリアに渡したい物があって」

そういいながら、僕はレミリアの傍までゆっくり歩いて行く。

「眷族から貢物ね・・・。まぁ、いいわ。それはなにかしら?つまらないものだと殺すわよ?」

レミリアは機嫌が悪いらしい。でも、僕は殺されても生き返るからつまらない物でも関係ない。
ベットに腰かけて、手を伸ばせば届く距離でプレゼントを渡す。

「つまらない物かもしれない。珍しいものでもないからたくさん持ってるかも。 でも髪を大切にしてほしいから、櫛と髪飾りを渡すよ。どうか大事に使ってほしい。」
「・・・そう」

レミリアは綺麗な手を伸ばす。よかった受け取ってくれるみたいだ。
僕の手の中にある装飾品を受け取ろうとして手が触れ合った。
ひどく冷たい手だった。人のぬくもりは感じられなかった。
思い至る。僕達は吸血鬼だから暖かい血は通わない。
それがきっかけだったのか、よくわからないけど、僕はその手を掴んでレミリアを抱き寄せた。
せっかくの贈り物が落ちたし、誰かの驚いて息をのむ音が聞こえたけどどうでもいい。

ただ、本当に、なんとなく、レミリアを抱きしめたくなった。

暖かくなかったけど、人のぬくもりは感じられないけど。
彼女がいるのを確かめたかった。
僕がここにいることを伝えたかった。
このまま、ずっとこうしていたかった。

綺麗な首筋が目に入った。僕は噛み付いた。
もうなにがしたいか、わけがわからない。
でもこれが、気持ちを伝える一番いい方法だと思った。
心を奪うように血を吸う。
想いを込めて血を送る。
魂を犯すように、心に刻みつけるように。

きっと拷問のせいだろう。気が高ぶっているからこんなことをしただけだ。
僕が蛮勇をレミリアに振るってもなにもしなかった。
簡単に、振りほどくことも、吹き飛ばすこも、殺すことも、できるだろうに。
僕は座っている体勢が疲れてきたので、レミリアをベットに押し倒した。
そのときに首筋に痛みが走った。どうやらレミリアに噛み付かれたらしい。

それはいつもの吸血とは違う。
心の”何か”を奪われる感覚だ。
代わりにとても暖かい”何か”を流し込まれた。
それが、嬉しくて、楽しくて、気持ちよくて。
僕達は疲れて眠るまでその行為を続けた。


それから、紅魔館で退屈しない日常を過ごした。
図書館へはパチュリーに解剖されるのが怖かったので行っていない。
だから、暇な時間がかなりできたので、フランと一緒に遊ぶことにした。
兄様、兄様と呼ばれて、ねだられて、返事二つで弾幕ごっこに付き合っていたら、風符がやたら強力になったのと、 逃げ回るために必死になっていたら短い間だけ変身できるるようになった。
でも、体力的にきつくなってきたので、やっぱり本を読んで暇を潰そうと思った。
咲夜さんはいろいろと忙しそうだから、美鈴に本を借りてきてもらおうと思って頼みにいったら、 空を見上げてぶつぶつ独り言をしていて目が虚ろだった。でも、三日ぐらいしたらいつも通りだった。
だから本を借りてきてもらうことにした。暇つぶしの本は美鈴に適当に選んでもらうことにした。
美鈴が選んだ暇つぶしの本は、『ピータンの調理法』『ピータンの歴史』『ここがすごいピータン』だった。
やっぱり、まだ、だめらしい。そっとしてあげて遠くから心の傷の回復を応援してあげよう。

僕はあの日から、レミリアの部屋へ毎日行って、トランプをしたり、ボードゲームをしたり、雑談をしたり、 いろいろなことをして、なるべく一緒に過ごすようにしている。嫌がられていなかったと思いたい。


そして、満月の日になった。
















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今日は、咲夜さんに割りと早めに起こされた。
といっても午後3時くらいだが。でも人間だったころでいうと早朝だ。 咲夜さんに今日の用事を聞くとレミリアが僕を呼んでいるらしい。そういえば、夜型生活にも慣れてきた。 大学生の頃、一時期はそういう生活をしていたからできないわけでもない。
かなり駄目になっている気がする。その時に、ふと、あることに気づいた。今の生活は完璧にヒモだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その事実から目を逸らすために他の事を考えることにした。
美人なメイドに起こされるのに慣れてしまったとか、美鈴はふりきれてピータン料理にはまっているとか、
フランとの弾幕ごっこで死なずに逃げ切れるようになったとか、レミリアはボードゲームが弱かった、など。
そんな、吸血鬼になっての紅魔館での日々を考えながら、着替えて一息ついてから部屋から出た。
レミリアの部屋へ行くと、レミリアがパチュリーとフランと一緒にテーブルについて歓談していた。
僕は空いているレミリアの隣の席に座った。

「あなたの服ができたわ。」

レミリアはいつも単刀直入に話題に入りすぎだ。視線でパチュリーに説明を促す。
それを受けて勘違いしたパチュリーが服を取り出した。バッタみたいな全身翠のタイツだった。

「やっぱり永遠の少年、ピーターパンといえばこれね。本で読んだわ。この服装は外の世界でもさぞかし人気があるでしょう」

それは、流行らなかったし人気もない。その服装は変だ。
なんだろう。時々、パチュリーはどこかずれている気がする。
僕が微妙な顔をしていたら、フランが嬉しそうな笑顔で服をとりだして僕に別の服を薦めた。

「ほら、兄様があきれているじゃない。やっぱり私と同じ服がよかったのよ。」

いや、それはどうかと思う。
それを着るようにねだられても絶対嫌だ。いや、サイズ的には大丈夫だが倫理的に駄目だろう。
最後の望みを託して、僕は咲夜さんを見る。

「やはりレミリアお嬢様と同じ服がいいでしょう。」

メイドはお嬢様の服を誇らしげに広げて立っていた。
ブルータス、お前もか。もうだめだ。選択肢がない。
悲しそうな顔をしているフランがこっちを見ているので、僕がその服を選ぼうかと思ったとき、 レミリアが服を取り出して、僕に言った。

「だから、最初から私が選んだ服を着ればいいのよ」

そして、レミリアからを渡された服を見てみた。
白いカソック服の様なワンピース状の、身体にぴったりとした膝より少し長いローブ。
それは、首元から裾まで一本の豪華な金色の装飾が施されている。
皮のズボンは黒色。靴は編み上げブーツだった。
他の連中に薦められた服よりも、かなりまともだった。
でもこれは持っているだけでわかるほどの、強力で高度な魔法的処置も施されている。
これはパチュリーじゃないと組めない術式だ。 それにレミリアは、たぶん裁縫はしないから、咲夜さんが変わりにやったのだろう。 そう思って、周りを見ると全員がからかっていることがわかった。フランは少し残念そうだったが。
服を確認した僕を見て、レミリアが説明を始めた。

「その服は、ちょっとの弾幕ごっこじゃ汚れないし、破れない。変身しても服がなくなることはないわ。
その辺は大丈夫よ。デザインは、外の世界での昔の殺し相手の吸血鬼の服装を参考にしたわ。
そいつは王冠の通り名をもつ、自称ピーターパン。
とりあえず殺しあった後で、話したら気があってね。そいつは珍しい宝石のコレクターで、その当時、 私は貴重な魔導書を集めていたから、コレクションの話で盛り上がったの。 でも、二人の身の上話になったら、何故か『血を吸うのが嫌いな吸血鬼は、ボクの姫君だけでいい』と 言って、襲い掛かってきたわ。
その後、会う度に何度か殺しあったけど、結局、決着はつかなかったわ。」
「・・・そうか」

それは、ただの変態吸血鬼だ。
もし会うことがあったら、絶対、殺そう。あと、そんなクズの服を参考にしないでほしい。
でも、せっかくのレミリアからの贈り物だし着ることにした。・・・あの髪飾りもつけてくれているし。

パチュリーからは力の制御のためにいくつか指輪を与えられた。
渡してもらう時に、これで詳細なデータ取れるとか、服に仕込みをしたから観測はばっちりだ、とか言っていた。 すこし不安になったが、これなら解剖されずに済みそうだ。 相談したいこともできたし、後で久しぶりに地下図書館へ行ってみよう。

フランには手作りの月と星をモチーフにした髪飾りをもらった。
少し歪だったが、フランから初めての贈り物だったので大切にしよう。
これを作るのにパチュリーと子悪魔さんに手伝って作ってもらったそうだ。
なにか御返しをしたくて、何がいいか聞いたら、血が欲しいといわれた。二つ返事で了解した。
レミリアとパチュリー、咲夜さんも何も言わなかったし、僕も大丈夫だと思う。

いつのまにか、部屋に咲夜さんが僕の部屋から鏡の魔導書を持ってきいた。
僕はそれらを身につけて自分の姿を確認する。

二次成長になる前の幼い顔。
肩まで届くらいの髪。
ワンピースにも見える服装。
そして、頭にはフランからの髪飾り。
・・・・鏡に映った姿は、幻想郷にいそうな少女だった。
・・・・・・あと、他に誰か忘れている気がするのと、忘れていたかったトラウマを思い出しそうだ。


そんなことより、これを用意してくれたみんなに感謝の気持ちを伝えよう。

「ありがとう、大切にする。」

その時のみんなの顔をしっかり覚えておいた。
その後みんなで会食をした。



















会食が終わってパチュリーと一緒に地下図書館へ向かった。
スペルカードのことや、変身できるようになったことについて詳しく聞きたいからだ。
今夜は満月だから、身体の調子がすごくいい。今ならなんでもできる気がする。
しばらくパチュリーから、かなり強力になった風符の制御と吸血鬼の変身のことで講義を受けていたが、 パチュリーが途中で『用事がある』と言って席を外した。
パチュリーの講義の御蔭で制御もうまくいきそうだし、 この風符と新しく出来た変身のためのスペルカードは弾幕ごっこの切り札になりそうだ。




僕の他に図書館には誰もいない。小悪魔さんは、最近体調が悪いらしく魔界へ帰っている。
本を読む気分でもなかったので、以前思いついたアイデアの練習をしている。飛んでいるとできないので 地面の上でやっている。身体の調子がよくて、やっとコツを掴んできたから、2回に1回は成功するようになってきた。 しばらくすると、かなり遠くに二人が歩いて一緒にやってきたのが見える。
目が異常な視力になったから、かなり遠くでも誰かわかった。本でも読みにきたのだろうか?
あと、聴力もかなり上がったので会話を聞いてみた。

「・・・の門番は、かなり手ごわかったぜ。『お前達にもピータンの恐ろしさを教えてやる』とか喚きながら、 弾幕をいつもの倍以上撒き散らしていたぜ。」
「そうね、一体なんだったのかしら?ところで、魔理沙、異変と紅魔館の地下図書館は関係あるの?」
「当たり前だぜ、アリス。私の勘がまちがっているわけがない。ついでに、何冊か魔導書も借りていくぜ。」

よかった、美鈴はだいぶ正気に戻ったらしい。ビータン(≒ゴキブリ)を食べるようになるよりましだ。
今度、暇な時に組み手をして、ストレス発散に付き合ってあげよう。
あと、魔理沙の目的は、絶対、後者だ。それに、今は幻想郷で異変がおきているらしい。
図書館でそのことでも調べにきたのだろう。でも、パチュリーがいないから、僕が対応をする。
さっきのコツの復習のために、僕は一瞬で二人の前に移動して声をかけた。

「おーい、そこの二人。本を読むのはいいけど、今、パチュリーは席をはずしているから、 借りるのはまたの機会にしてくれ。なんかあったら僕が咲夜さんにいびられる。」

最近、咲夜さんは、理由をつけて僕をいびっている。嫁に行ったら姑にいじめられている感じだ。
・・・違和感がないのが嫌だった。
二人の魔法使いは、話しかけた僕にそれぞれの表情で答えた。

「おっ、見ない顔だな新入りか?ここじゃ、弾幕ごっこがルールだぜ。止めたきゃ、それに従わないと。」

魔理沙は楽しそうに八卦炉をかまえる。

「・・・魔理沙の勘があたったわね。変わった魂の在り方をしている。こいつが異変の原因よ。」

アリスは真剣な顔で上海人形を操る。

なぜか、二人とも臨戦体勢に入った。
このままだと空に飛ばれて弾幕ごっこになりそうだ。
それだと絶対に僕が痛い目にあう。なんとか話し合いたい。

僕は指を鳴らす。
・・・僕の右手に八卦炉と、右腕の中に上海人形がある。

「・・・?!」
「・・・!?」

彼女らは一瞬で魔導具を奪われたことに驚いたようだ。
だが、彼女達は反撃するためにすばやくスペルカードをとりだす。

僕は指を鳴らす。
・・・僕の左の指の間に、二人のそれぞれのスペルカードがはさまっている。

どうやら、うまくいったようだ。
実際、命がかかっている。本当に勘弁して欲しい。

「頼む。話し合おう。弾幕ごっこはいいけど、二人には絶対敵わない。 結果がわかりきっているから、しなくて良いだろ?だから話し合いで解決しよう。ホント、お願いします。」

かなり情けないことを言っているが、事実だ。切実にそうして欲しい。 二人の魔法使いはおとなしく帰るはずがないだろうけど、なんとか話し合って解決したい。

「・・・私の人形を返しなさい、吸血鬼」
「・・・やるじゃねーか。だけど手品のタネはもうわかった。」

二人ともかなり気合が入ったみたいだ。
ホワイ?ナゼ?どこで選択肢を間違えた。

それに、どうらやあっさり手品がバレたらしい。
実は僕のやっていることは、簡単に誰でも出来るけど、絶対に誰でもはできない。
それは吸血鬼の強力な身体能力を利用したタネ無し手品だからだ。
指をならして、魔法・能力の発動の条件に見せる。
でもやってることは三つだけ。

走って、奪って、戻ってくる。

それは、簡単に普通の人間・妖怪でもできる。でも、絶対に吸血鬼じゃないと意味がない。
それにわかったところで、この速度に対応できていないはずだし、 魔導具を奪っているから戦力は半減したはずだ。それに、スペルカードも取り出した時点で奪えばなんとかなる。 だから、このまま話し合いで解決できると思っていると、魔理沙は勝ち誇った笑みを浮かべて言った。

「教訓だ、吸血鬼。同じ手品は二回しちゃダメだぜ。」

そうして手元にあるそれぞれのスペルカードが発動した。
左手から強烈なにおいがする。これは、にんにく!?ヤバイ、体の力が抜ける。
そのせいで右腕の拘束がゆるみ上海人形が自由になった。
すぐさまアリスは自由になった人形を操り、左手にあったスペルカードを変化させて十字架にした。
上海人形にそれを掴ませて、左腕を巻き込みながら、右腕全体を殴って吹き飛ばした。
その拍子に八卦炉が右手から弾き飛ばされて、魔理沙のところへ戻っていく。

「見事な共同作業。お前ら、絶対、付き合ってんだろ。」

と、結局、話し合えなかったので、つい、やさぐれて言ってしまった。
しまった、今の発言は死亡フラグだ。恐る恐る二人を見る。
・・・・それぞれ形容しがたい笑みを浮かべてる。
そして、魔力をまきちらして、妖しい笑みを浮かべながら魔女達が、ゆっくりゆっくり近づいてくる。
あとは語るまでもない。



しばらく二人で私刑をして、満足したのか帰ろうとしている。しっかり、魔理沙は魔導書を盗っている。
最悪だ、咲夜さんに”話”をされる。僕はなんとか起き上がって、帰ろうとしている二人に声をかけた。

「魔理沙、アリス。今度、家に遊びに言っていいか?」
「不躾な誘い方ね、さっきもそうだけど、レディに対して失礼だわ。」
「全くだぜ。それに吸血鬼相手に”招待すること”の意味を知ってるヤツは絶対、いい返事はしない。
・・・でも、私はここへ魔導書を借りに来る。その時に紅茶をだしてくれればいい。」
「あら?めずらしく同じ意見だわ、魔理沙。私は魔導書の他に興味深い魂があるし。」

それぞれの魔法使いが、各々の目的を言う。そして、

「ごきげんよう、良也」

礼儀正しく、七色の人形使いは別れの挨拶をした。

「またな、良也」

元気よく、普通の魔法使いは再会を約束した。

・・・どうやら聡明な魔法使い達は、僕だとわかったらしい。それに気も使わせてしまった。
今度来るまでに、咲夜さんにおいしい紅茶の入れ方を教えてもらおう。






本を盗られたのがばれて、咲夜さんに話をされるのが嫌だから、図書館から紅魔館ホールに行く。
そうすると、ばったり守矢神社の御一行と会った。いつかのように、僕は東風谷に声をかける。

「久しぶり、東風谷。さっき魔理沙達が言っていたけど、幻想郷で異変が起きているらしい。 僕は、人里や神社へしばらく行っていないからわからないんだ。なにか知らないか?」

僕がそう言うと、東風谷は複雑な顔をして

「・・・なれなれしいですよ、吸血鬼。今回の異変はあなたの責任です。 あと、言葉遣いに気をつけてください。神様がいるので信仰のために敬語を使うことはもちろん、 表現も気をつけてください。
絶対、あなたはどう見ても女の子です。なのに一人称が『僕』ですよ。 でも、妖怪に理屈は通じませんから、 道理を体に教えないと。しっかり『私』と言えるように弾幕でしつけないといけません。」

といって、スペルカードを取り出した。
傷ついた。傷しかつかなかった。東風谷は優しくて他人を思いやれるいい子だったのに。

今の東風谷の言動で、忘れていたかったトラウマを思い出した。

実は、僕がナンパが嫌いなのは、忘れ去った理由があった。
今の容姿の年頃に武術をいろいろやっていて、 妹と一緒になぎなたの胴着姿のまま、近くのスポーツ店へ用品の買い出し行った。 その時、18歳くらいに間違われた。 当時はそれなりに背が伸びたけど、二次成長が始まる前の幼い顔立ちだったから、 大人に見られて結構嬉しかった。

・・・それで終わっていれば。

僕に声を掛けたのは、遊んでいそうな二人の大学生。そいつらは年齢を間違えただけじゃなかった。
性別も間違えていた。最低最悪なナンパだった。僕は絶対にナンパはしないことにした。 その時から、武術を遠ざけるようになったと思う。

東風谷の幻想郷での成長と、忘れ去っていたトラウマを思い出して、 部屋の隅で膝を抱えて、能力を全開にして引き篭もった。

「・・・早苗、あれはたぶん・・・」
「・・・わかっています。でも、異変を起こしていてあの態度は納得いきませんでした。 私の勝手な八つ当たりです。 反省しますし、後で罰も受けます。それに、今の発言から異変の原因をつくったのは別の吸血鬼のようですし。 ・・・それで先生を人間に戻すことはできますか?諏訪子様、加奈子様。」
「ごめん、早苗。私は力は与えることはできても、奪うことは無理だよ。」
「魂を奪うのは悪魔の仕事だ早苗。ここの吸血鬼の仕業だ。私は魂をいじることはできない。」
「・・・そんな・・・・・・・でも・・・・・」

僕が引き篭もっている間に、彼女達は必死にやりとりしていたけど聞こえないふりをした。
吸血鬼になってから、やたらと耳が良くなってしまったから引き篭もっていても聞こえてしまう。
結論がでたらしい。東風谷は部屋の隅で引き篭もっていた僕を、スペルカードを使って引きずり出した。
そして、しっかり僕を見据えて、

「・・・先生ですよね?お久しぶりです。積もる話をしたいですけど、用事があるから奥へ進みます。」

そう断言する。
・・・かなり怒っている。付き添っている二柱も、同意するようにに無言だ。説得するのは無理だった。
僕がどう答えようか考えていると、沈黙を肯定ととったのか守矢神社の御一行は奥へ行く。
僕はその背中に声を掛ける。

「諏訪子、また、湖で水切りをしよう。加奈子さん、いい御酒を持っていきますから、みんなで飲みましょう。 それと、東風谷、喧嘩は絶対によくない。」
「わかっています、先生。・・・神社にいつでも遊びに来てください。」

そういって奥へ進んでいった。 やっぱり彼女は優しくて他人を思いやれるいい子だ。
でも、真面目な東風谷は筋を通すだろう。 それでも、絶対に喧嘩はよくない。
僕は弱いからレミリアのことは、主人思いの従者に託そう。
それに異変が起きたら、解決するために霊夢がくる。嫌だけど彼女は僕の担当だ。

「咲夜さん、頼みがあります。」
「はい、ここに。なにか御用ですか、旦那様」

流石、完全で瀟洒な従者。すぐに来てくれた。


「東風谷と諏訪子と加奈子さんが、レミリアの所へ行きました。絶対、喧嘩をすると思います。
僕は弱くて力になれないから、レミリアを守ってください。できれば止めて欲しいです。
かなり身勝手ですけどお願いします。僕は霊夢と話をします。話が出来る大部屋はどこが良いですか?」
「かしこまりました。時間を止めてでも阻止します。 お嬢様は妹様、パチュリー様と、一緒にお茶会を楽しんでいます。それを台無しにされるのは従者失格です。 それと博麗の巫女との話は、そこの通路を突き当たりの右の部屋でお願いします。
・・・あと、自分をあまり卑下しないで下さい、良也さん。私はあなたに期待しています。」

・・・レミリアは、フランとパチュリーと一緒らしい。それなら絶対大丈夫だ。
・・・・・・期待されても僕は弱いのに。でも、できるだけ頑張ってみよう。
そう思って僕は、レミリアの所へ時間を止めて移動しようとする咲夜さんに言う。

「咲夜さん、後で僕に教えてください。おいしい紅茶の入れ方。」
「・・・私の指導はきびしいですよ、旦那様。それでは、また。」

僕は背を向けて歩き出していたから表情はわからなかったけど、穏やかで優しい声だった。
全部が終わったら、大切な友達と家族においしい紅茶を入れてあげよう。







僕は教えてもらった大部屋へ移動して、部屋の中央で霊夢を待つ。
やれやれ、かなり似合わないことをしている。
いつも異変がおきたら霊夢に無理やり連れて行かれて、巻き込まれるだけだった。
でも、どうやら今回の幻想郷の異変の原因は僕らしい。
霊夢を待ちながら、いままでの幻想郷でのありえない日々、退屈しない日常を思い浮かべる。
いままで、いろいろな異変があった。今回はどんな異変なのか考えてみた。
でも異変の原因である僕自身に、いまいち思い当たる節がない。大事になっていなければいいが・・・。
そう考えていると部屋の扉が開いた。

そして現れた。幻想郷の天秤の担い手、博麗神社の巫女。

でも、霊夢は気だるそうに飛びながら、僕の声が聞こえる距離まで近づいて地面におりた。
近くに来てわかったが、いつもよりかなり面倒くさそうな顔をしている。
僕は久しぶりに、いつも通り挨拶をする。

「久しぶり、霊夢。あいかわらず気だるそうだな。 いつもよりかなり面倒くさそうな顔だけど、どうしたんだ」
「久しぶりね、良也さん。少し見ない間にずいぶん小さくなったわね。
そうね。見てわかるように、かなり面倒くさいわ。 ゆっくりと縁側でお茶を楽しんでいたのに、紫に無理やりここまで連れてこられたわ。 紫は私をここまで連れてきたら、さっさと何処かに行ってしまったし。 だからさっさと私に退治されて頂戴。」

あいかわらずのお気楽巫女だ。でも、聞きたいことができたから退治されるは後だ。

「スキマに連れてこられたってことは、かなり大事だな。どんな異変なんだ?」
「別に何も起きてないわよ。妖精も妖怪も暴れていないし、天候も季節も狂っていないわ。
むしろ私は平和すぎて退屈していたぐらいよ。」
「・・・そうなのか?」
「ええ、でも紫が言うには危険らしいわ。あの胡散臭い妖怪曰く、
『妖怪は本能が、人間は欲求が、安らかに穏やかになる。でも、それは生きていくのに必要なことまで影響を与える。 このままだと誰も傷つけないけど、誰も気づかないまま、幻想郷が緩やかに衰弱死する』
だって。なにが面倒くさかったかというと、これが一番ね。
コレを良也さんに伝えるために、紫の戯言を覚えるのが、かなり面倒くさかったわ。」

・・・本当に、いつも通りの霊夢だった。
でも、今の話で異変の原因がわかった。話し合いで解決したかったけど、それが原因なら無理のようだ。

「たまには真面目に働けよ、ぐうたら巫女。それじゃあ、希望通りさっさと終わらせよう。 幻想郷のルールの従って。スペルカードは3枚、弾幕ごっこの始まりだ。」

そう言って、僕は身体能力をフルに使って、霊夢と大きく距離をあける。
対して、霊夢は、ゆっくり空に上がってお払い棒を構えた。
僕達は誰に言うでもなくつぶやいた。

「おいしい紅茶を入れる練習をしたい。」
「早く帰ってお酒を飲んで寝たいわ。」

そうして、僕達は異変が終わった後の、くだらない日々をつまらない日常の事を想いながら弾幕ごっこを始めた。




僕は何回か訓練で、霊夢と弾幕ごっこをしたが相手にならなかったし、 霊夢はレミリヤやフランとやりあって勝てる実力者だ。 まともにしても絶対勝てないし、さっきのタネ無し手品も通用しないだろう。
だから余計な弾幕はなし。速攻全力でスペルカードを使って、霊夢の希望通りさっさと終わらす。
出し惜しみはなしだ。最初から切り札を使う。

僕は一枚目のスペルカードをとりだして宣言する。

空符「螺旋賽子」

世界に呼びかけて、霊夢周辺の空気を歪まさせる。
やってることは前の風符の強化版だ。発生させるのはカマイタチじゃなくて、シンクウハを生み出す。
以前と違うのは威力だけじゃなく、対象者の周りの空気を使った絶対避けれない、六方面からの全面弾幕だ。 だけど、霊夢は避けて見せた。どうやら僕の術式とイメージが完璧でなかったらしい。
一部に穴があったから、スペルカードを一枚も使わずにそこを抜けられた。・・・この天然チートめ。

そして霊夢は一気に僕に接近してスペルカードを宣言した。

夢符「封魔陣」

僕は発生した強力な結果の範囲から、両足と左手を消し飛ばされながらも、飛びながら何とか抜け出して、 残った右手でスペルカードを取り出した。
そんな僕に警戒して、霊夢はスペルカードを取り出しながら距離をとった。
そのわずかな間に、僕の身体は完全に再生した。
そして霊夢は僕より先に二枚目のスペルカードを発動させた。

霊符「夢想封印」

僕も遅れてスペルカードを発動させる。

変符「三色珍猫」

吸血鬼は蝙蝠や狼に変身出来る。僕は子猫。ブラフがうまくいった。
実を言うとこれは、変身の時間を延ばすための補助的なスペルカードで、逃げるための切り札だ。
僕はスペルカードを使わないと、長い時間は変身できない。
フランの弾幕から逃げ回っている時になんとなく変身したいと考えたらできた。
実は、なにに変身していいかイメージがわかなかったから、お燐をパクッたけど。
何故か外見は勝手に珍種のオスの三毛猫で子猫になったが。

子猫になって弾幕から逃げる。
人型でも一発あたったら全身が吹き飛ぶ、8個の強力な光の弾をなんとか避ける。
追撃のために上空から雨あられと降ってくる、針やお札の弾幕を地面に張り付いて逃げ回る。
霊夢は空からの弾幕が効果がないため、カタをつけるために、この大部屋を吹き飛ばせる霊力を溜めながら、 僕の側まできて地面に降り、最後のスペルカードを取り出した。
僕は霊夢が地上に来るのを待っていた。僕は人型に戻り、今作った、最後のスペルカードを宣言する。

世符「安穏世界」

変化はなにも起きない。
でも、霊夢は驚いているようだ。溜めていた霊力が霧散して、手にあったスペルカードが消えたからだ。
そして、空も飛べない。霊弾も放てない。霊力を利用した身体能力の強化もできない。

だってこれは、彼女の願いを叶えた、安らかで穏やかな世界。

このスペルカードは、自然・環境を完全に僕の支配下において、世界の秩序を安穏にする。
この世界内では、僕を含めた、霊力、妖力、能力、人外の身体能力が全て使用できない。
でも、それらを奪うわけでも、失うわけでも、相手を傷つけるわけでもない。
自然と環境を支配下において、それら使えない状態を維持するだけ。
それに武器やスペルカードなどの争うための道具も手元から消す。でも、転送といったほうが正しい。
いい場所が思いつかなかったから、転送先は適当に博麗神社の境内にしておいた。
だから、僕も霊夢も見た目どおりの普通の人間と同じことしかできない。

異変の真相はこれだろう。使ってわかったけど、制御ができていなかった。
この弾幕ごっこで吸血鬼の力の制御の仕方がわかったから、効果範囲はこの大部屋だけにした。

さて、今、この世界でできることはひとつだけ、ガチンコの殴り合い。

これで僕でも、霊夢となんとか渡り合えるだろう。 うまくいけば、一発くらい殴れるかもしれない。
・・・やれやれ、やっぱり、かなり似合わないことをしている。
だって僕は霊夢に振り回されて傍で見てきたから、異変を起こした者のオチを知っている。





結局、僕は一発も殴れず、霊夢にぼろぼろにされて仰向けになりながら、紅魔館の住人のことを考える。
レミリアは大丈夫だろう、僕よりずっと強いし。そして、フランとパチュリー、咲夜さんが絶対守ってくれる。 それに、レミリアも彼女達を守るだろう。あと、紅魔館に来た全員と戦った美鈴はタフだから大丈夫。
・・・・・・たぶん。 そんなことを考えていると、無傷でいつも通りの霊夢が、倒れている僕に声を掛ける。

「最後のスペルカードは驚いたわ。ちょっとだけ本気を出しちゃったじゃない。」
「いや、いつも通りの霊夢だったと思うが・・・。まぁ、霊夢がそういうなら、そうなんだろう。」

このぐうたら巫女が、ちょっとだけ真面目に仕事をやったのは奇跡だろう。僕はそれで大いに満足した。
今日はいろいろあったから疲れて眠い。このまま眠ろうとボーとしていると、霊夢は

「そうそう、後日、神社でみんなで宴会をするわ。初めて良也さんを主賓で宴会をしてあげる。
私にちょっとだけ本気を出させたご褒美よ。まぁ、雑用無しでのんびり呑んでなさい。」

と言って、帰って行った。
それは楽しみだ。宴会の主賓というのは生まれて初めてだし、おいしいお酒をみんなと楽しく呑もう。

そんなことを思いながら僕は眠っていった。




















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それは、夢のように楽しい宴会だった。

丑三つ時がすぎて、宴もたけなわになったから、僕はこっそりと博麗神社の境内の中へ入った。
吸血鬼になってから初めて訪問した家では、家人に招かれなければその家へ入れないから、 ここへ来たくてもこれなかった。わかっていたけど、やっぱり、博麗大結界を越えれない。
でも、ここにきて強く想いだす。僕は、まだまだ、たくさん、外の世界には未練がある。

「おめでとう。あなたは立派な”吸血鬼”よ。もう、あなたは外の世界の常識ではくくれない。
ようこそ、土樹良也。幻想郷は全てを受け入れますわ。」

僕に真実を告げに幻想郷の賢者は現れた。

「・・・お前なら、僕を、人間に戻せるだろ?」

たのむように、すがるように、いのるように、愚かな僕は尋ねる。

「私は全知全能じゃないわ。吸血鬼の部分の魂の分離なんて不可能よ。 でも、方法がないわけでわないわ。あなたの世界を二つ差し出せばいい。」
「僕の能力をさすら一つじゃないのか?」
「いいえ、二つよ。あなたの世界と、この世界での出来事よ。
私があなたの能力を犠牲にして体を人間に戻す。 魂の方をなんとかする能力者は、幻想郷の住人にあてがある。 でも、その代償は幻想郷の思い出すべてよ。ここでのことを全て”なかった”ことにする。
もう二度とここへはこれない。そして、外の世界でいままでのことを忘れて過せばいい。
両方は選べない。どちらかの世界を捨てなさい。」

幻想郷の賢者は僕に選べという。どちらかひとつだけだと。
僕はそれぞれの世界を比べてみる。



外の世界でのありふれた日々、つまらない日常を考える。


進んでいく現代の日本。
人間や情報や機械が活躍する時代。
スイッチひとつでできることがたくさんあって、とても効率がいい。
掃除機があって、洗濯機があって、車もあって、とても楽だ。
飲み物はどこにでもある自動販売機で簡単に手に入る。
物をたくさん手に入れるのに、スイッチ一つで済む世界。
娯楽も数え切れないぐらい多い。ラノベにゲームにインターネット、ラジオ、テレビ。
争いはあるけど、日本では命を失うことがほとんどない平和な世界。
快適で、便利で、安全だけど、人と物の暖かさが、わかりにくい世界。
それは幻想郷よりもずっとずっと複雑になっている。

外の世界の友達のことを考えた。
大学に通って、課題やレポートを一緒にする。
人には自慢して言えないけど、話していてとても楽しい趣味の話。
一緒に呑みにいったり、飯を食ったり、買い物へ行ったりする。
そんな肩を叩き合って笑い合える、気の会う男友達。

僕を育ててくれた家族のことを考えた。
手の早い凶暴なかわいい妹。
落ち着いて優しい母親。
厳しくて家族思いの父親。
ちょっと変わった爺ちゃん。
世話をかけっぱなしで、まだ育ててくれた恩をぜんぜん返していない。
一緒に誕生日を祝うくらい、とてもとても仲がいい家族。

最後に夢を思う
教師になる夢のこと。





幻想郷でのありえない日々、退屈しない日常を考える。


失ってしまったかつての日本。
人間や妖怪や神様が生きていた時代。
スイッチひとつでできないことがたくさんあって、それを全て人の手でやっている。
それだけだといってもいい。掃除機がなく、洗濯機がなく、車もない。
飲み物一つ得るのに人の手で用意しないといけない。
物を一つを手に入れるのに、たくさんの人の手が必要な世界。
娯楽も驚くぐらいに少ない。本に新聞に、お祭り、宴会。
交通事故はないけど、人が妖怪に喰べられるような危険な世界。
手間がかかって、不快で、不便で、危険だけど、人と物の暖かさがわかりやすい世界。
それは外の世界よりもずっとずっと素朴ではっきりしている。

ここで出来た友達のことを考えた。
神社に通って、掃除や料理を一緒にする。
かなり危険だけど、見ていて綺麗だと断言できる弾幕ごっこ。
のんびりとお茶を飲んだり、雑談したり、宴会したりする。
でも気を抜けば殺されるような、凶暴で綺麗な少女達。

僕を迎え入れてくれた家族のことを考えた。
手のかかる狂暴なかわいい妹。
穏やかで優しい門番。
厳しくて主人思いの従者。
ちょっと抜けてる日陰の魔女。
迷惑をかけたり、迷惑をかけられたりしながら、過ごした日々。
一緒に殺し合いをするくらい、とてもとても変わった家族。

最後に願いを想う
幸せにしたい、一人の少女のこと





だから僕は選んだ。選んで、捨てた。ありふれた日々を、つまらない日常を捨てた。

「僕は幻想郷を選ぶ。」

僕の選択を見届けて幻想郷の賢者は、最初からいなかったように消え去った。
あとは後ろにいるこの少女に僕の気持ちを伝えよう。

「逃げるつもりなら殺してでも止めるつもりだったが、よい心がけだ、眷族。私のものだから当然だ。
奪ったからには、同情はしない、後悔はしない。それが奪われた物への礼儀だ。支配者の在り方だ。」

そう言って、高貴な夜の支配者は在り方を僕に告げる。

違う。それは嘘だ。
僕はレミリアの記憶を見た。

だって彼女は、ありふれた日々をつまらない日常を無邪気に過ごしてこれなかった。

誰かから奪うことで日々の必要な物を手に入れた。
誰かと争うことで日常を送った。
罪を重ねないと家族を守ることができなかった。
そうしないと生きていけなかった。
そんな彼女は、わかっているはずだ。
それに彼女は、知っているはずだ。

僕がレミリアの記憶を見たように、レミリアは僕の記憶を見たはずだ。

家族と一緒に仲良くすごす日々を。
友達と一緒に楽しく送る日常を。
そんなありふれた日々を送ることが、どんな奇跡であるか。
そんなつまらない日常は、どんなに楽しくて美しいのか。
だから、自分が望んでいた日常を、奪われてしまった僕に、同情や後悔をしないわけがない。

「そうだな、レミリアは強い。だから僕は、レミリアの弱さになる。だって、僕は本当に弱くて薄い。」

そうだ、僕は弱くて薄い。

吸血鬼になっても、この世界の連中には敵わないほど弱い。
自分の力を扱いきれなくて、異変を起こすくらい浅薄だ。
それに僕は選んだ。
奇跡である日々を、人であることを、失うことを。
人であることを、楽しくて美しい日常を、捨てることを。
失うのは、捨てるのは、僕じゃなくても、よかったかもしれないけど。
与えられるのは、きっと誰でも、簡単にできることだけど。

だけど僕は、レミリアに当たり前で幸せな日々を送ることを与えたい。
罪を背負って、自分を許すことができない、強くて悲しい彼女と。
弱くて薄い僕は、大切な日常を共に歩みたいと願ったんだ。






万感の思いを込めて見つめあう。

レミリアは告げる。

「絶対に逃がさないわ、良也。」

僕が白状する。

「それだと逃げれないぞ、レミリア。」

そして、一つの想いを伝えるために、互いの首に互いの牙をつき立てた。

しばらくして互いの想いで満たされたから、僕はレミリアと一緒に空を見上げた。




美しい月がある

そんな当たり前のことに、今気づいた








君の傍だと月が綺麗だ






















あとがき
書いていることは、いつも身勝手で傲慢です。
いつも、反省します。でも、後悔はしません。
だから、けっして自重はしません。

ここまで付き合ってくれた全ての人に感謝とこの思いを捧げます。
厳しい批判・批評をどうかよろしくお願いします。


追伸
なんかこれを書いてみて、自分の性癖がやばい気がします。
だってロリとショタとカニバリズムですよ。
なんですかその三重殺。

それでは、また。


ネコのへそ
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初稿 12/18





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