「東方紅執人9」



紅魔館を囲む森。そこには多くの妖精、妖怪が棲んでいる。

獰猛な性格の妖精や、穏やかな性格の妖怪と、我々が思っているのとは違う者が出てくることも……。



「なんだあれは……」

人里からの帰り道、悠は森で奇妙な物体を発見した。

それは引き込まれそうな黒色をした球型の物体で、悠の数メートル手前をふわふわと浮かんでいる。

理解に乏しい悠だったが、それが妖怪の能力だということに気づくのには、そう時間はかからなかった。

以前パチュリーが言っていた、闇を操る妖怪。たぶんあれがそうだろう。

後ろに一歩下がり身構える。まだ、攻撃はしてこないが念のためだ。

しかし黒い球体は、そこら辺をうようよと浮遊するだけでこちらには向かってこない。。

それどころか、なんでもない近くの木に衝突する始末である。

「あうー、痛い……」

木にぶつかった衝撃からか、黒い塊は消え、黄色の髪に赤いリボンををした黒い服の少女が姿を現した。しかしぶつかりどころが悪かったのか、目に涙を浮かべている。

思わず緊張が解ける。闇を操ると言ってたから、どんなに恐ろしい妖怪かと思ったが、実際には幼い少女だったという事実がなぜか笑えてくる。

そんなことを考えていたとき、ふと少女と目が合った。

「……!」

驚いた顔をする少女。だがその表情は、だんだんと喜びの表情に変わっていった。

「うわっ!」

いきなり突っ込んできた少女を咄嗟な判断でかわす悠。

「あなたは食べられる人間?」

「なっ!?」

考える暇もなく、再び飛びかかる少女をかわすことに専念する。

「くっ!」

少女の攻撃をかわしながら、悠は気づく。

こいつは俺を喰いに来ている。

その幼い容貌からは想像もつかない行動だが、少女が妖怪だということを考えれば充分納得がいく。

「なかなか素早しっこいなー、でも、これならどう?」

動くことを止めた少女は、両腕を左右に大きく広げる。その腕の周囲にいくつもの光弾が出現する。

そしてその光弾を、悠にめがけて発射する。

「ちっ……!」

絶対絶命と思われるだろうこの状況。しかし悠は、少女が放った弾幕を避けようとはしない。それどころか弾幕に向かって突っ込んで行く。

(あまりこの能力は使いたくなかったが……仕方ない)

意を決した悠。その手にはどこからともなく出現した、青く装飾された大剣が握られていた。

「おらっ!」

自身の背丈近くある大剣を光弾に向かって振り下ろす。すると弾は真っ二つに切断され、悠の体をかすめて後ろに飛んで行く。

さらに数度剣を振るい、ルーミアの出した弾幕を全て破壊した悠。

これにはルーミアも呆然とし、自分はこの人間を食することは出来ないと悟ったのか、猛スピードでその場を去った。

「追い払うことには成功したが……はぁー」

何か問題でもあるのか、大きなため息を吐き出す悠。その次の瞬間、いきなりその場に崩れ落ちた。



「お嬢様!」

普段、冷静沈着な咲夜が興奮状態でレミリアの元に駆け寄る。

「何よ」

咲夜がこんなに慌てるなんて珍しいと思いながらも、赤く染まった紅茶をすするレミリア。

「悠が……」

「悠がどうしたのよ」

「悠が女に……」

思わず、口に含んでいた紅茶を吹き出すレミリア。

「何ですって!」

窓を開けて外を見ると、門のところにいつもとはどこか雰囲気が違う悠がいた。







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