「東方紅執人6」



空に佇む月が、森の道往く二人を照らす。

一人は長い黒髪を後ろでとめた、整った容貌の青年。

もう一人は薄黄色の髪をなびかせながら軽快なテンポで森を歩く、可愛い気な少女。

「どうだ外は?」

青年が少女に問いかける。

「よくわかんないけど、すっごく気持ちいい!」

眩しいぐらいの笑顔を見せる少女、フランドール・スカーレット。

そんな少女を見た青年、早乙女悠は安堵の息をつく。

フランが外の世界に対して、好印象を持ってくれたということに、悠は安心した。

「それはよかったな」

「うん!でも悠が一緒にいるから、気持ちいいんだと思う」

恥ずかしくなって顔を赤らめる悠。

フランのやつ、うれしいこと言ってくれる。

途端、悠はレミリア・スカーレットのことを思い出す。

今回、こうやってフランが外に出れたのは、紛れもなくお嬢様のおかげなのだから。



「執事になってくれれば外に出てもいい?」

フランが外に出るに当たって出した条件を告げられたレミリアは、一瞬顔を怪訝な表情にするも、優しい声でこう言い放った。

「それならなってあげなさい」

「いいんですか!?」

悠は目を見開いて、驚いた声を出す。

「何か問題でもある?」

「い、いえ別に……」

自分の執事が他の者につくっていうのに、反対の言葉の一つも申さないお嬢様の反応が少し寂しい。

「ならとっととフランの所へ行ってあげなさい。あなたは今日からフランの執事なのよ」

とことんクールなレミリア。これが紅魔館の主といったところか。

「は、はい、わかりました!」

多少戸惑いながらも、フランの元へ向かうため、部屋を出ていく悠。

その背中を見つめるレミリアが、複雑な思いを浮かべていたことも知らずに。



レミリアの寛大さに感謝しながらも、フランとの夜の散歩を満喫する悠。

「手、出して」

そんな時、いきなりフランが悠の方を見てそう言い放つ。

「ん?」

「だから手」

いきなりなんなのだろうか?

言われた通りに手を出すと、それに暖かい物が触れた。

その暖かい物の正体はフランの手。

「!?」

悠の体が緊張でこわばる。

フランのことは「女」としてではなく、「妹」として見ているはずだった。

しかしこのところ、「女」としてフランを見てしまうことのある自分が嫌になる。

だがそれが、フランの純粋無垢な性格と幼いながらも可憐な容姿のせいと考えると、仕方がないといった気持ちになる。

(今の今まで、異性には興味は無かったんだけどな……)

あっちの世界では何度か告白されたが、それを全て断ったことを思い出す。

(ただちょっとドキッとしただけだ、好きってわけじゃない……はず)

自分の恥ずかしがり屋という性格で、フランに対しての感情をごまかす。

「あったかい……」

ふと小声で一言呟いたフラン。

その言葉の響きがすごく真面目に聞こえて、さっきまで悩んでいたことも一気に飛んだ。

異性に興味とかじゃなく、俺はフランが好きだ。

家族として、妹として、友達として。

女として好きになるのはまだだけど……。

フランのことをずっと好きでありたいと思う。

悠は握られた手を恥ずかしながらも、強く握り返した。



それからの時間は、二人で楽しくお喋りしながら夜の森を歩いた。



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