「東方紅執人5」



紅魔館の大図書館。

時々ここに来ては、幻想郷の勉強をする悠。

今日も埃のかぶった本を開く。

「勉強熱心ね。それとも、ただの読書好き?」

悠に歩み寄ってくる色白な少女。

「パチュリーか」

パチュリー・ノーレッジ。

ここに住む魔法使いで、よくというかいつも本を読んでいる。

「読書好きっていうわけじゃない。知っておきたいんだ、ここのことを」

「ふーん、まあがんばりなさい」

重そうな足取りで本棚に向かうパチュリー。

取り出したのは、「上級魔法の応用」と表紙に書かれた分厚い本。

「よくそんなのを読む気になれるよな」

「そんなのって何よ、そんなのって」

紫の瞳でこちらをじっと睨んでくるパチュリー。

魔法使いとして、魔法についての本を侮辱された気になったのだろう。

「……悪い」

「分かればいいわ」

小さい声で、一応謝る悠。

気が強いくせに、こういうとこではすぐに引いてしまうのだ。

それが皆に好かれるところでもあるのだが。

「ところで、あなたは何の本を読んでるの?」

「「吸血鬼とは?」」

本をめくりながら問いかけてくるパチュリーに、本の名前を読み上げる。

それを聞いたパチュリーはくすくすと微笑む。

「自分の主人の勉強なんて、変な趣味してるわね」

お嬢様だけじゃなく、フランのこともだが。

知っておきたいのだ。二人の事を。

なぜなら俺は、スカーレット姉妹に仕えるものだから。



小一時間ほど本を読んだ後、フランの部屋へ向かう悠。

一日に何回もフランと遊ぶ悠は、ある悩みを抱えていた。

それは、フランが外出を嫌うこと。

495年もの間地下の部屋に閉じ込められていたフランは、他者との関わりを苦手にするようになった。

紅魔館に住む者ならばなんの苦手意識もなく接するものの、外の人間や妖怪との交流は駄目らしい。

それに紅魔館でも普段は部屋に閉じこもっている。そのため、悠が部屋に訪ねて遊ぶことになったのだ。

悠はフランに外出をしてほしいと思っている。

紅魔館に引き蘢って遊ぶのではなく、外に出て他のみんなと楽しく遊んでほしいのだ。

しかしその願いが叶うのはまだ先のこと。それは悠自身もわかっている。

徐々に、少しずつでいいから外の世界に馴染んでくれれば。

悠はそんな思いを胸中に秘めているのだ。



「あっ、悠!」

部屋に入るとフランが満面の笑みで迎えてくれる。その笑顔に、俺は安らぎを覚えているのかもしれない。

そう思うとなぜか、フランを悲哀的な目で見てしまう。

人に安らぎを与えることの出来る笑顔を持っているのに、人と接することを苦手にするフランに対しての哀れみか。

「フラン」

「何?」

「外に出てみないか」

途端にフランの表情が曇る。

「嫌……」

顔を俯かせそう言い放つフラン。

あまり自分からは言いたくなかったのだが、思わず口から漏れてしまった。

「別に人里に行くわけじゃない。そこらへんを少し散歩するだけだ」

言ってしまったからには、外に出てもらうための説得をする。

「もちろん俺も一緒に行く」

だが、フランに反応はない。

(……やっぱり無理か)

そう諦めかけた時、悠は一つのアイデアを思いついた。

「なら、これをしてくれたらいいっていう条件はないか?」

条件を求めさせるということ。

それなら、その条件を解決すればいいはなしだ。

問題はフランが条件を出してくれるかということ。

「……」

相変わらず黙ったままのフラン。やはり駄目かと悠が諦めかけたその時、フランの口が小さく動いた。

「悠が……悠がフランの執事になってくれるなら」

フランが出した条件は、悠を悩ませる凶悪な条件だった。







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