「東方紅執人4」



「すみません、咲夜さん!」

「問答無用!何度言えばわかるの!」

門番の仕事を毎度のごとくサボる美鈴に、放たれる銀色のナイフ。

それを額ぎりぎりのところではじき返す美鈴。

「これに懲りたら真面目に門番としての責務をはたすことね」

「はーい……」

このやり取りを何回見てきたことか、悠は過去の記憶を振り返る。



咲夜さんは、俺が幻想郷で初めて出会った人間だった。

「ここでの生活にはまだ慣れないかもしれないけど、困ったことがあったらなんでもわたしに訊きなさい」

当時、何がなんだかわからずにいた俺を支えてくれたのは、まぎれもなくこの人だったと今になって思う。

頼れる姉のような人で、今もお世話になっている。

美鈴との出会いは、とても自然だった。

門に寄りかかって、うたた寝をしていたのを見かけたのが初めて。

彼女とはお嬢様やフランとは話すことの無い、たわいもない会話をよくしていた。

その会話は、俺の心を癒すと同時に、清らかにさせてくれた。

二人とも、俺の大切な人だ。

た、大切ってそういう意味じゃないぞ!家族として大切ってことだからな!

か、勘違いすんなよ!



「悠、どうしたの」

「な、なんでもないです……」

少しばかり自分の世界に入っていたようだ。咲夜さんがどうしたのという視線を向けてきている。

「まったく……美鈴には困ったものだわ。何度言えばわかるのかしら」

呆れ顔でため息をつく咲夜。

残念ながら、何度言っても美鈴は駄目だと思います。

「まあまあ、そんなに考え込まないで」

「美鈴……だれのことだと思っているの!」

能天気な美鈴に、再び襲い掛かる咲夜のナイフを紙一重でかわす美鈴。

本当にこのふたりは……



「お嬢様」

「何よ」

「咲夜さんと美鈴って、仲良いんですか?」

二人の関係に対しての意見をレミリアに尋ねる悠。

「喧嘩するほど仲が良いって言うでしょ。もっとも、あれは喧嘩じゃないけれど」

あれは一方的に美鈴が悪いので、喧嘩と呼ぶことはできない。

「愛の鞭ってやつじゃない」

それはすごくしっくりくる。愛の鞭か……言われてみればそうかもしれない。

「あなたも愛の鞭、喰らってみる?」

「お嬢様のですか?」

「そう、わたしの甘くて酷な愛の鞭」

微笑を浮かべるレミリア。

悠は少しばかり、背筋に冷たいものが奔るのを覚えた。

「……遠慮します」

「それは残念ね」

何が残念なのかはわからないが、それは聞かないことにする。



館の外から、美鈴の悲鳴が微かに聞こえた。




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