終わった世界でただ一人存在する自分。何も無い空間で白金の身体が鈍く光る。 世界が終わると様々な存在が破片となり何もない空間で漂流しだす。破片たちは何処に向かうのだろう? 終わりのない旅? いや既に終わったのだ、故に何処に行くのかなんていう詮索はいらないのだ。 そんな事を考え自分は漂流物と一緒に終わりのない流れに身を任せる。 周囲には世界だった欠片がいくつも漂っている。 近くにあった世界の存在を意味する欠片を手にする。 一人の老婆が世界に別れを告げて旅立つ情景。一族の者が別れを惜しみ泣く。 悲しみ。という感情が自分に入り込む。 もう一つの欠片を手にしてみる。 一人の青年が愛する女性を守りきれずに女性を亡き者にした者達に復讐を誓う情景。 怒りと憎悪が自分の中で渦巻く。 最後の欠片を手にする。 小さな子供が元気に稲穂の原っぱを駆け回り。両親が一緒に笑顔で話している情景。 喜び、慈しみ。という感情が自分に流れ込んでくる。 欠片から流れ込んでくる、命を持った者特有の感情。欠片達を手に取り自分という存在を省みる。 「私には、このような感情が無かった筈だ……だが……何故。今は理解ができるんだ?」 もう一人の自分が隣に現れ話し出す。 「理解しようという心が君に芽生えたんだ、何度も世界を破壊しながら、其処に存在する命という物に興味を持ったからさ」 自分の語りかけに自分は考える。何故興味をもったのか? を。 「君は、人間が作り出す様々な奇跡を目の前で見てきた。そして惹かれたんだ、限りある命をまっとうしなければならない存在に」 もう一人の自分が答えた内容に自分は納得した、そうだったと。 私は力を解き放てば存在が無に帰する兵器……だが私は今も存在している。 「そう、君は命に興味なんて沸くはずが無い兵器だった、だが君は私達の中で選ばれたんだよ、プロトタイプ。人間と言う存在になれるのは君だけだから」 私は選ばれた? 「喜怒哀楽を知り、世界を消し去る事に疑問をもったのだろう?」 「私達。魔導兵器の想いを乗せ君は人という存在の枠組みに加わる。限りある命を手に入れて【生きる事】が出来るんだよ」 もう一人の自分は語気を強め自分に問いかけた。 「だが呪縛はあまりにも強い、君はそれを乗り越えるしかないんだぜ? できるのか?」 もう一人の自分に大きく頷いた自分。 「なら、やってみせろよ。こんな所で燻るな、スターロード」 もう一人の自分は自分の名前を呼び姿を消した。 自分は呪縛を乗り越え生き抜くという構図を想い描き。終わった世界の中で自分の身体を光り輝かせた。 (新しい夢? もしかして僕の前世の記憶なのか……) 速人はベッドの上で目が覚めた。いい匂いがする、いつもと違うフカフカな羽毛布団。 それもそのはず……ここはフェイトの自室なのだ。 「目が覚めた? よく寝てたね?」 フェイトは速人にささやく、今は深夜の2時を回った所だ。月明かりに照らされたフェイトの目尻には涙の痕が見える。 「フェイト、泣いていたの?」 彼女の顔を見て速人が問いかける。 「ごめんね、恥ずかしいところ見られちゃった」 フェイトは先ほど消えたミルズの事を思い出しながら、涙の痕を服の袖で擦って消そうとする。 フェイトのその行動を自分の左手で止めた少年は彼の事を口にした。 「ミルズのことで泣いてくれたの?」 「!」 速人自身はミルズという存在を知らないはずである。フェイトは驚き速人の方に向き直る。 「そっか……」 速人はフェイトの腕から自分の手を離し、窓に浮かぶ月を見つめてポツリポツリと話しはじめる。 「僕の中のミルズが僕の正体を教えてくれたよ、この訳の解らない力もアルハザードって所で創られたものなんだってさ」 ミルズがフェイトに伝えた事を話す速人、フェイトは黙って聞く。 「でね、僕の人としての【力】はねエルヌアークのこれからに大きく関係していくって言ってた」 速人はさらに話す。 エルヌアークはアルハザードの従属世界で、魔法の研究やマジックアイテムの作成をしていた世界。 主に人々がより良い未来を暮らせるようにするためのデバイス開発をしていた所。 王女は自分を慕う臣下や国民と平和に暮らしていたのだと。 そして速人の前世であるスターロードイレイザーがアルハザードで創られ、エルヌアークで再調整される事になった。 世界そのものを消し去る力、それをよく思わなかったアイリスはスターロードイレイザーの希望。 【人の枠に入り暮らしたい】を聞き入れ【転生の理】をもって自分の体内に納めた。エルヌアークの王子として転生させるために。 アルハザード世界は、その王女の行為を反逆とみなしエルヌアークを滅ぼす戦乱を巻き起こす。 アイリスはまず、ヴォルケンリッターとの契約を解除、次元転移魔法を使い次元の彼方に飛ばした。 ミルズ、カレンには、やがて転生するであろう命の守護を命じ、速人(スターロードイレイザー)を魂のままで転送させた。 残りのエインリッターと共にアルハザードに抵抗はしたが、アルハザードの力に勝てるはずが無く。 最後に自らの命と引き換えにトレースコフィンという広域封印魔法によってエルヌアーク自体を封印した。 フェイトは黙って聞いていたが、速人に疑問を投げつける。 「どうして、今の時代になってエルヌアークの事柄が動き出したの?」 速人はフェイトに向き直り、ハッキリとした口調で答えた。 「僕の誕生をまっていたんだよ、おそらくね……」 フェイトがいままで見た事がない凛々しい表情で速人は自分の覚悟を伝える。 「フェイト。僕はまだ……君やなのは達の力を借りないと何も出来ない。だけど、この訳のわからない戦いを僕の手で終わらせたいと思うんだ、力を貸してくれる?」 今までに見たことが無い速人の決意ある凛々しい表情。 それに何かを感じたフェイトはベッド上の速人の右隣に座りあの黄銅の腕輪(リストリング)を差し出した。 「ミルズがこれを君にって……」 フェイトから差し出されたデバイスを受け取る速人。 フェイトは速人の願いを次の言葉と行動で応えた。リングを中心にして、フェイトは速人の手を両手で包みこむ。 ミルズから託された、人としてより良い方向に導くという想い、それに応えようと口を開いた。 「私は、君と一緒に……戦うよ……」 二人の手と、想いがつながった夜。黄銅の腕輪であるグラットンソードはミルズの喜びを表すかの様に輝いた。 「この子が生まれたら、あなたは、良いお姉ちゃんになってくれるのかしら?」 月下麗人が【自分】の方に優しい微笑みを投げかけ、問いかけた。 「わっちがお姉ちゃんに? だとしたらうんと可愛がってあげるのですわ」 月下麗人は自分の答えを聞くと彼女の顔が光だし、辺りの景色も白い闇に変換されていく。 徐々に白い闇が晴れていき、薄暗い部屋の景色を映し出した。 「また……同じ夢……ですわ」 七罪の番人。憤怒のラースはここ最近、月下麗人の夢をよく見るようになっていた。 となりでは貪欲のグリードが高鼾をかきながら眠っていた。その寝姿をみたラースは思った。 最近の自分は今見た夢のせいで十分な睡眠が取れていないのだ。 俺様は平和に惰眠をむさぼっているんだぜ! を主張する彼の寝姿をみて沸々と怒りが込み上げてきた。 額に怒りマークをつけたラースは右手に愛機であるグリンタンニを起動させゆっくりとグリードに向かって狙いをさだめる。 「グリードの鼾は……安眠妨害ですわ!」 安眠妨害の一言とともに巨大なハンマーを振り落とした。鈍い音をたてて彼の腹部にのめりこむグリンタンニ。 「うぎゃあああああああああああああ」 夢幻の回廊にグリードの悲鳴がこだまする。 朝になった。腹部をいまだにさすりながらラースをにらむグリード。 ラースはグリードを無視して冷蔵庫を覗いていた。朝食を取るために二人は食堂エリアに来ていたのである。 「……なぁ、ラース。なんで俺様は、おまえのデカブツにぶったたかれなくちゃいけねーんだ?」 冷蔵庫の食材の在庫を確認するラースにグリードは問う。幸せに寝ていたのにそれを腹部強打という行為で妨害されたのだ、文句の一つも言いたくなるであろう。 「おまえだって分かってんだろ? この睡眠の意味がよ……」 魔導師にとって睡眠はとても大切なものである、魔力の源であるリンカーコアの回復は睡眠行為によってでしか行うことが出来ない。小さな番人達は度重なる管理局魔導師達との戦いでリンカーコアを酷使しすぎていたのだ。 今回のアルザス遠征に参加しなかったのもリンカーコアの回復をさせるが為のもので、グリードはそれに忠実にしたがっていただけなのだ。たんに惰眠をむさぼっていたわけではない。 彼女もグリードの言いたい事は十分に理解はしている。だが、自分は毎回見るあの夢のせいで、グリードほどの睡眠がとれていないのだ、魔力の回復も彼ほど順調ではないのだ。 「まったくよ〜 気まぐれで起こされちゃたまんねーぜ」 ラースはそんなグリードの文句にまたもや怒りのスイッチが入る。それはもうカチンと音が聞こえる位に。 「うるさいですわ! ゴチャゴチャネチネチと! 罰としてグリード、食材の買出しいってきやがれですわ!」 バン! と食堂のテーブルを両手で叩き、右手で冷蔵庫の中を指し示すラース。見事に何も無かった。 「ああ? なんで俺が買出しいかなきゃなんねー? 面倒くせえ」 グリードのこの一言にラースは完全に頭にキタ、不完全睡眠(ゆめのせい)で魔力の回復が遅れている自分なのに、それすらも気がつかないグリードの鈍感さに。 「文句言わずにいきやがれですわ! こっちは十分な睡眠がとれてないのですわ! お母様の夢のせいで!」 「お母様?」 ラースの発したお母様という言葉を聞いたグリードは表情を変えた。いや言葉を発したラース自身も意外だという顔をしている。 「お前……この間のイレイザーの魔力打撃うけて、頭おかしくなったんじゃねーのか?」 「でも……そうですわよね……わっち達にお母様なんて……」 「いるわけがねーんだよ」 ラースとグリード。この二人はアルハザードに従属する世界で作り出された、成長する守護騎士プログラムの初回生産体であり、人ではない生まれ方をしたのである。 母と呼べる人物は居ない。だから、グリードはラースにさっきの言葉を投げかけたのだ。 ラース自身も夢に出てくる月下麗人を母と認識していた自分に、違和感をもったのだ。 「まぁ……そんな状態じゃたしかに買出しなんかいけねーな、しかたねーからいってきてやんよ」 グリードはラースに行ってくると言い、海鳴市につながる魔法陣に向かったのだ。 ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds―― 十四話 リンカーネイション 南です。ここまで読んで頂き有難う御座います。 東方二次の方にかかりっきりで此方のほうがおろそかになっていました。 此方も約半分ほど進みました。残り半分、書き直し等をして上げていこうと思っています。 神威譚と共によろしくお願いいたします。 |
戻る? |