現在は夕暮れ時、カナカナと鳴き声の多重奏を奏でているのは蝉科の昆虫ひぐらしであろう。 フェイトと速人は日々の訓練を海鳴の自然公園で結界を張りつつ行っていた。 クロノ曰く、ここまで成長しているなら嘱託扱いで管理局入りをして、今後の対処をしやすくしたほうがいい。とのことだった。 試験そのものの日程はまだ決まっていないが、フェイトは自分が経験した事がある為、速人に試験課題のひとつである魔法の伝授を行っていた。 儀式魔法サンダーフォールの伝授である。 「じゃあ、今から言う呪文を復唱してね?」 私服姿のフェイトはバリアジャケット姿の速人に確認を取る。 「よろしくおねがいします!」 速人も気合は充分だ。静かに目をつむるフェイトは呪文の詠唱に入った。 アルカス・クルタス・エイギアス 「アルカス・クルタス・エイギアス」 フェイトの落ちついた、涼しげな詠唱を、後を追うように気合の入った声で行う速人。 煌めきたる天神よ、今導きの元、降りきたれ 「煌めきたる天神よ、今導きの元、降りきたれ」 魔力の集中をさせるが為に両目を閉じて呪文の詠唱を続ける。 アルカス・クルタス・エイギアス 「アルカス・クルタス・エイギアス」 空は局地的ではあるが雷雲が立ちこみ始め、雷が周囲に発生し始める。 速人は意識の集中を更に研ぎ澄まし両目を見開き発動キーを口にする。 「サンダーフォール!!」 速人が叫ぶとカミナリが落雷をし周囲は静かになり雷雲も消えていった。フェイトはそれを見届け、速人に向かって笑顔で言った。 「訓練お疲れ様、これで私が教えられるものも残り少なくなってきたかな、頑張ったね? 速人」 「ありがとうフェイト、君が僕に力に怯えず共に生きることを教えてくれたからだよ」 あの時の速人とうって変わり、今の速人は力に怯える様子は微塵もない。フェイトは魔法を教えてよかったと心から思った。 二人がいつも訓練後にやる反省会での事。ベンチに座り、サンダーフォール以外の儀式魔法も伝えられた速人は体中汗をかいている。 フェイトからタオルを受け取り、それをふき取る作業をするがサンダーフォールの感想を速人が喋りだす。 「でも、不思議なことがあるもんだな」 「何が不思議なの?」 フェイトは持ってきたアイスココアを二人分用意して先に飲みながら聞く。汗のふき取り作業を半ば中断しフェイトの隣に座り、アイスココアを飲みながら話す速人。 「さっきの魔法の詠唱さ、前に聞いた覚えがあるような? 気がする……気のせいだと思うんだけどね、自分が自分でない感覚で今の呪文を聞いたような?」 フェイトはハッとする。自分がこれと同じ呪文詠唱を使ったのは、ミルズと組んだ氷の世界でのファランクスシフト行使の時だ! (やっぱり速人とミルズはどこかで関係が……ある?) 速人とミルズが別人と言うことはすでにわかっていたことである。だが、それでも今の発言を聞くとその考えが増してくる…… 「ここにおったんか?」 訓練を終えた二人の所に、関西弁の少女の声が聞こえた。声の方を見ると八神はやてとリィンフォースが歩いてくる。 「!」 フェイトはリィンフォースに目がいく。しかし良く見ると瞳は青いリィンフォースは赤いはずだ。フェイトは呟く。 「違う人……だよね?」 「え! はやても魔導師?!」 速人がすごい驚いたのも無理もない、なのはとフェイトの魔導師姿は見たことがあったが、彼女とは今までそういう接点が無かったからだ。 「そうや、驚いたか?」 はやては速人の隣に座りニヤニヤ顔で言う。 「なのは、フェイト、はやてもってことはさ……アリサとすずかも?」 速人の疑問ももっともかもしれない、アリサもすずかも今にして思えば彼女達三人の事を本当の意味で理解してるという感じに取れていたから。 「いや、二人は魔導師の存在は知ってるけど、魔導師は私等三人だけやよ」 速人の疑問にすんなりと答えるはやてであるも、短期間に嘱託試験まで持っていける力をつけた目の前の友人に、個人的感想を送る。 「でも私は、速人クンが魔導師の力、持ってることのほうが驚いた。かなりの速度で力つけたいう話やんか?」 そうなのである、速人はフェイトやなのは、クロノのスパルタではあるが実のある訓練を続けて、わずか三週間という期間で嘱託魔導師試験受験というイベントを控える身でもあった。 「それは、フェイトやなのはの教え方が良かったんだよ、きっとね」 速人が少し離れた所に居るフェイトと女性の方をみる。 カレンとフェイトは二人で話しをしている。速人やはやてから離れたということは彼女がこれから話す内容は二人に聞かれてほしく無いというところか。 「先ずは自己紹介をしておきますね、私はカレンといいます、はやてさんの所にお世話になってるミルズの知り合いです」 フェイトは驚く、リィンフォースにそっくりな人がミルズの知り合いと言ってきたのだ。 「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです……」 フェイトも名乗る。カレンは自分とミルズの関係や満月の夜のことを話した…… 「ミルズがエルヌアークの騎士……」 フェイトの信じられないという表情をみたカレンは頷く。 「そして、ミルズから貴女宛にこれを預かってます」 ミルズから手渡されたふたつの物、手紙と黄銅色のリストリングをフェイトに手渡した。 「これは?」 「私にも分かりません、ただ、二日後に手紙の内容を貴女の手で実行してくれ、そういわれただけですので」 伝える事をしたカレンは、はやての所に戻っていった。 その日の夜のハラオウン家では。自分の部屋で後は寝るだけ状態のフェイトがベッドに座り込み、カレンから受け取った手紙を読み始めていた。ミッドで使う公用語で書かれた丁寧な文面は、送り主であるミルズの性格を表現している。 「これは……」 フェイトが注目した内容。それはミッド式でもベルカ式でもない魔法の構築式だった、内容の最後にこう綴ってある。 【アーク式魔法。構築実行方法】 次の日の訓練で、速人はフェイトに自分が構築した魔法の出来を見てもらう。 前になのはとフェイトの目前で実践したダンシングエッジはもちろんの事。ほかに数種類の射撃系統の魔法を編み出していた。 フェイトが驚いたのはその中のひとつ、彼女のサンダースマッシャーをヒントに作り出された中距離貫通魔法だった。 速人のソレは術者の前にミッド式魔方陣が出るところまではフェイトと同じプロセスなのであるが、そこからが違っていた。 フェイトの場合、構築した魔方陣から雷のごとく強大な魔力の帯が相手にむかって飛んでいくのだが、速人の場合はフェイトのプラズマランサーの5分の一の大きさの無数の光の槍が魔方陣から飛んでいくのである。 速人はこれに投げる槍の意味を含めて、スロウランサーと名づけていた。 誘導制御魔法(ダンシングエッジ)と中距離貫通魔法(スロウランサー)この二つが魔導師速人のメインで使っていく事になるであろう魔法の候補だった。 「他にもあと一つあるんだけど、まだ構築が不安定で今は無理そうだ」 魔法を構築するのが楽しいという感じで話す速人にフェイトは一抹の不安を覚えた。 今の速人からは作った魔法を実践してみたいという雰囲気が取れたからだ、実戦を経験していない魔導師が自分の力を過信してしまう、そんな魔導師を見たことがある彼女ならではの不安だった。 「今日の所はここで終わろう? 速人。……今夜はエナさん、翠屋にお泊りで君は私の家に泊まるんだし」 速人の魔法構築に集中している思考を切り替えようとフェイトは今後の予定を切り出した。 先日のエナのレセプションは関係者にいい反応がでて、試験的に翠屋でいくつかの新メニューを販売することなり、そのために本日は店に桃子と泊り込みで製作するのであった。 高町の家がバタバタするので、ハラオウン家に速人は預けられるという事になっていたのだ。 まぁ、なのはにいたっては教導が入っていて海鳴にすら今はいないのであるが。 「じゃあ、アパートでお風呂入ってからそっちにいくね」 速人もフェイトの家に泊まるという事を思い出し、汗をかいた体を自分のアパートで落としてから行くと答えるとフェイトとそこで別れた。 数時間後、ハラオウン家にお邪魔した飛鳥速人がいた。 同時刻、本局ロストロギア管理室。 ヴォルケンリッターを始めとしたクロノ、はやて、ユーノはモノリスのところに来ていた。 ミルズが言っていた、カレンも見れば何かを思い出すかもしれませんの一言。はやてが捜査のプラスになるだろうとモノリスの検分をクロノに申し立てた訳だ。 「これが……文字の刻まれたモノリスか」 シグナムが呟く。 本来なら回収されたロストロギアは厳重に保管され遺失物管理部扱いになる。 だがモノリスはエルヌアークの謎の解明のために本局アースラチームが持っていた。 シグナムには読むことが出来ない文字だが、所々は古代ベルカ文字に似ている所はあるので読んでみる事にした。 日本における漢字と中国で使われる漢字。 そのくらいの開きがあるので、やっぱりシグナムを筆頭にヴォルケンリッター達には理解ができなかった。 だが、カレンは文字を読み解いていく、読み解いていくうちに表情が青くなっていく。 「どうしたカレン?」 はやては心配になり様子を伺う。 「光のプロトクリスタルは本当に回収したのですか?」 一言そういったカレン。クロノ、ユーノが疑問に思う。 「始めの調査の時に回収したものがそれだと思いますけど?」 ユーノにしてみれば自分が調べたプロトクリスタルであるこのような言葉がでても当然であろう。カレンは文字の方を見つつユーノの答えに自分が青ざめた理由を述べる。 「ミルズは見落としたのかもしれません、本物は管理第6世界アルザスにあるとここに書いてあります」 「何だって!」 その場にいる全員が声を上げた。 「じゃあ……今あるのは?」 シャマルがカレンに質問をする。 「よくできていますが偽物かと……」 残念な表情でシャマルの疑問に答えるカレン。 「なんてこった! あたしたちがクーザーの場所特定出来てもそれじゃ意味がねーじゃんか!」 ヴィータが怒鳴るのも無理も無い、別働隊に参加したヴィータは、それこそ必死の思いでクーザーを探し出したのだから。 本局にある光のプロトクリスタルが偽物になると本物は既に番人側に落ちイニシアチブを取られたと考えるしかない。 「それについては、平気だとは思いますが……」 皆を不安にさせた当人が今度はその心配は無いといい始める。シグナムはカレンの考えがわからずイラツキ気味に質問をする。 「どういうことだ?」 「ええとですね」 カレンの話によると。 封印城クーザーはエルヌアークの魔法研究施設であると同時に強固な城塞でもあり、時の王女アイリスを守る十四人の魔導師により守られていた。 十四人が同時にクーザーに存在しなければ心臓部であるクリスタルグレイブは起動することがないとのこと。 その十四人の魔導師とは【天の騎士】と呼ばれ。 ナイツオブゴールドのグリフィンドールを長に 副団長ナイツオブブルーミルズ。 ユーリル、ミネルヴァ、リアリエーター。 スリザリン、レイブンクロー、クーフーリン。 シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。 それにカレン(シーレン)と今は亡きリィンフォース(エヴァ)の事で。 この場に居ない他の人物も戦乱で存在が消えていてクリスタルグレイヴが起動することはできないと語る。 「だとしたら、ミルズが言っていた光天の書のインデックス開放はどうなるんだ?」 クロノがカレンの説明に理解は示すも、疑問も残っている事を主張する。今までの番人達の動きは主にクリスタルの略奪とかなり数の命を散らせた蒐集活動。 光のクリスタルのエネルギー代用と予測されていた光天の書の存在。 クロノは考えが纏まらない。弱気な一言を漏らした。 「番人の……動きが読めない……」 「もう一度情報を一から洗いなおすしかない! 徹底的に!」 クロノに代わり、はやてがそう叫んで全員を叱咤激励する。クロノはクーザーの特定とあわよくば破壊をミルズに頼まれていたのだが。 クーザー自体が巨大ロストロギアのために管理局上層部が破壊を認めずに今現在残っている事に歯噛みするしか出来なかった。 ハラオウン家では、フェイトと速人、それに人形態のアルフの三人しかいなかった。 クロノはエルヌアークから戻ったばかりでエイミィといっしょに再調査の案件のまとめが残っており、リンディも同じくそれの処理に追われていた。 本来ならリンディはまとめには手を出さないのであるが。 ミルズの示唆した封印城クーザーがあまりにも巨大なオーバーテクノロジー遺失物(ロストロギア)のために、それの説明を上層部にしなければならなくなったのである。 そのため今夜は三人だけなのだ。 アルフが人形態を速人の前にさらしたのも魔法の存在を知り、使い魔というものを少年が理解したためである。 「狼ってのはさ〜」 あぐらをかいて狼の何たるかをしゃべるアルフ。 「へ〜、流石にアルフは狼の使い魔だ、狼の事、すごい勉強になるよ」 アルフは狼の使い魔であり狼の事は自分の事を話すということにつながる、それを真剣に聞き喜んだりする動物好きの少年にアルフは優越感をもった。 アルフとフェイトの感情はある程度リンクしているのは言うまでも無い。 フェイトは速人に対して嫌悪感というものは持ってはいない。アルフも速人に対して同じ感じである。 話をしているうちに優越感に浸っているアルフはスキンシップと称して速人を弄くりまわしたのであった。 最初びっくりした速人であったが、オネエ気質のアルフにいいように弄られて、精神的にも肉体的にも疲れたようだ。アルフに弄くられている最中に寝息をたてはじめた。 「やれやれ、完全に夢の中かい?」 アルフが速人のほっぺたをつつく。 速人はムゥーとむずがるが、おきない。 フェイトがなのはから聞いていたのだが速人は一度寝てしまうと相当なことが無い限りおきることが無い。 一度の睡眠が深いタイプなのである。 アルフが速人を弄くりまわして疲れさせたのには意味があった。 「で? フェイト、やるのかい?」 アルフが表情を強張らせてフェイトに聞く。リビングの壁時計はそろそろ10時になろうとしている。 「そうだね、時間もそろそろだし……私の部屋に速人運んでくれるかな?」 人形態のアルフが「ハイョ」と答え、速人をおぶってフェイトの部屋に連れて行きベッドに仰向けで寝かせる。 スゥスゥ……と聞く者も眠りに誘われそうな寝息を出している少年。 速人は未だ起きる気配が無い、フェイトはその寝顔をみて少し微笑むがすぐに表情を強張らせた。 「アルフ結界を、お願い!」 アルフは言われたとおりに結界を張る。フェイトはバルディッシュのみを起動させ呪文を唱え始める。 フェイトの足元には【金色の六角形の魔方陣】が現れた。 同じような文様の魔方陣をプライドとグラトニーも使ってはいたが、これがアーク式である。 ミルズの手紙には、エルヌアーク独自の構築方法でありミッドともベルカとも違う魔法体系であるとの事。 「ジークガイフリーズ……ジークガイフリーズ……時の理を外れる英霊の魂よ呼び声にこたえ、ここに姿を現せ……ジークガイフリーズ、ジークガイフリーズ……」 詠唱が終わりフェイトは声を小さく、しかしはっきりと口にする。 「ネクロマンシーアクティベート」 魔法が発動し速人の体が金色の光に包まれていく。フェイトはその光の動きを観察する、速人を包んだ光はやがて人の形となって、青年の姿になっていく。 「それがあなたの本当の姿ですか? ミルズ」 フェイトは姿を現した青年に問う。 青年は本局の青い制服姿、短い銀髪と蒼い瞳そして180はある背丈でフェイトを見つめて無言で頷く。 「何故……私にこの魔法を?」 「貴女なら、アーク式を構築し実行できると思いましたよテスタロッサさん」 ミルズは声をだした。フェイトはジッとミルズの目を見つめる。 「あまり時がありません、すぐに話しを始めましょうか」 ミルズが話し始めようとするのを、フェイトがさえぎる。 「その前に……貴方が何故、速人の中に居るのかを聞きたい……」 「そうですね、それから話しましょうか……」 ミルズはフェンリルと契約した直後、今から七年前のこの世界に移され、丁度三歳になった速人の元に現れた。 ダム決壊事故の中で速人は【力】を発動させていた所だった。その【力】とは以前エナがいっていたモノであるが。ミルズが言うには生まれ出る命とも関係しているのだと言う。 その正体は失われし世界といわれる【アルハザード】で作られた【魔力兵器】 世界を消去させる力をもつ【スターロードイレイザー】の力だった。 イレイザーの力を押さえ込む為、ミルズは三歳の速人に【ユニゾン】を強引に実行してイレイザーの力を押さえ込んだという。 しかし、イレイザーの影響でミルズのリンカーコアが変調をきたし、ユニゾンの解除が不能となった。 ミルズ自身もその先5年間は目覚めることができなかったと言う。 「速人が……魔力兵器……そんな……」 フェイトはこの事実を受け入れることが出来ない。目の前の少年はどこにでもいる普通の少年だ、魔力は確かに高いが。 「大丈夫ですよテスタロッサさん。速人君はちゃんとした人間ですよ」 フェイトの不安を取り払うかの様にミルズは優しく話す。 本当ですか? とミルズの青い瞳をじっと見つめて聞くフェイト。 「確かに彼は前世は兵器だったかもしれない。でも、アイリス王女に出会い【転生の理】を受けこの世界に生を受けたのですからね」 フェイトはミルズの説明を受け安堵した、自分も人とは違う生まれ方をしてきている、速人にもそういう部分があるとは思いたくなかったからだ。 だが先日、速人が言っていた自分の儀式魔法の詠唱を聞いた気がするという疑問が浮かんでくる。 「今までの貴方の姿はもしかして……」 フェイトの推察の通りの答えを返すエルヌアークの騎士。 「そうです、彼の体を借りて意識だけわたしが出ていました。その時の姿はフェンリルの戒めとした姿ですけどね」 ユニゾンと言うミルズの言葉にフェイトはクロノから以前聞いた古代ベルカの融合機の話を思い出した。 「ユニゾンできるってことはミルズは……」 そこまでいってフェイトは口をつぐみ視線をミルズから外した、つまりはミルズは人ではない存在。 「そうです、私はエルヌアークで生まれた守護騎士プログラムです。シグナム達とは違い独自で行動できる自律型ではありますが」 フェイトに自分の正体を伝える黒翠色の騎士。 ミルズがプログラムと言う事実に、フェイトは動揺を隠せない。 ヴォルケンリッターという前例を知ってはいるがそれでもやりきれない思いが心の隅にある。 「貴女にはお礼をいわねばなりません、テスタロッサさん」 ミルズのその言葉にどうしてですか? と外した視線を戻し返事をする。 「先ほど言った生まれ出る命とは」 ミルズは話す転生の理(てんせいのことわり)【リンカーネーション】とは、スターロードイレイザーが人として生を受け。10年たつ頃に、人としてのリンカーコアを生誕させることを意味する。 「彼は、貴女を助けたい……この一心でイレイザーの力を呼び出しました。ですが、人としてのリンカーコアも同時に生み出せたのです。エルヌアークの王子としての力に目覚める事ができたんですよ」 速人の王子としての覚醒を、自分の事の様に喜ぶミルズ。 「しかも魔法の手ほどきまでしてくださいました、本当に感謝します」 ミルズはフェイトに深々と頭を下げる。 「私は、速人に魔力の使い方を教えるって約束したから……」 ミルズの行動に少し照れて今の返事をする。ミルズはそんなフェイトを見て心から思う。 この少女に【アーク式】を伝えたのは間違いでは無かったと。 するとミルズの姿が少し歪む。 「そろそろアクティベートが切れますね、テスタロッサさんもう一つの物を王子速人に渡してもらえますか?」 フェイトはリストリングを見せ「これですか?」とミルズに確認を取る。 小さく頷くミルズの姿は徐々に光だしネクロマンシーアクティベートの効果が切れ始めた事を無言で知らせる事になった。 「これはなんですか?」 時間一杯まで何とか話をつなげていくフェイト。 「わたしが使っていたデバイス、グラットンソードですよ。私にはもう必要が無いので、王子にお返しするのです……」 「必要がないってどういう?」 「王子がリンカーコアを生誕させたことで、私の方はおそらく変調したコアのせいだと思いますが、同化します……」 「……」 「でも、本意識は王子ですから、私の記憶と魔力が彼に残り、わたしの意識はじきに消えるでしょうね、正直もうそれは始まっています」 「心の中で聞こえる声と、彼は言っているようですが、私の知識を使ってるのですよ。私の魔法知識を無意識のうちに彼は使い始めています」 「そんな……」 フェイトは悲しい顔をする。フェイトの優しい心に触れたミルズは、自分の願いを彼女に託す。 「いいのですよテスタロッサさん、私はそのためにこの世界に来たのですから、最後にお願いします王子を人としてより良い方向に……」 そこまでいった所でミルズは光の粒になって消えていった。 「ミルズ……」 フェイトは消えた光の中でたたずむしかなかった、外は新月の月が浮かんでいた夜のことだった ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds ―― 十三話 ミルズの手紙 あとがき 南です。ミルズの謎が明るみに出た話です。 速人が短期間で強くというか魔法に馴染んだのは彼の知識を使っていたからです。 では次回でお会いいたしましょう。 |
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