高町家では。リンディ、士郎、エナ、なのはが話し合っていた。
 時刻は午後7時。高町家のリビングの雰囲気は明るいとはけしていえない。

 現在口を動かしているのはリンディ。

 内容は魔法という存在と魔導師。時空管理局についてエナに説明している所だった。
 魔法の源リンカーコアと人の命の密接な関係も述べている。
 速人が意識を失って今まで目を覚ましていない原因はリンカーコアにあった。

「速人君はその魔法の元になってる魔力をつかったわけなんです、魔力を使いすぎると先ほど説明したとおりに意識を失うこともあり得ます」

 リンディはそこでいったん口を閉じる。エナは終始真剣に聞いている様子。
 一拍置いてリンディ・ハラオウンは解説を続ける。

「それと、気になることが2点あるんです」

 速人の魔法の使い方はなのはやフェイトのそれとちがい魔力そのものを放出して魔力が尽きると止まる。
 そのような流れであり、これは今までに例がないそうだ。

 普通はデバイスという媒介を使うか、呪文という形を取ってでないと使えないらしい。

「あとひとつは、魔力の元となるリンカーコアの大きさなんです」

 リンディが、なのはさんに居てもらったのは見てもらった方がわかりやすいのでと付け加え、なのはが自分のリンカーコアを発現させる。
 彼女の胸の前に桜色の球体が現れる、レイジングハートの待機状態の宝石位の大きさだ。

「速人君のは現在この大きさの三分の一位なんですが……それにしては発現した魔力の力が大きすぎるんです、まるでリンカーコア自体から魔力を削り取るような感じで使ってるんです」

 その説明を受けてエナと士郎が顔色を変える。
 リンディはそれを見逃さなかった。鋭い視線を二人に向け聞く。

「何か、心当たりがおありなんですね?」

 リンディの鋭い視線を受ける士郎とエナ。
 
 やがてエナが口を開く

「実は……今日のようなことが過去に1度だけありました、もう7年も前のことですけど……」

 俯くエナに代わり士郎が続けて話す。

「リンディさんが知ってる通り高町の家は剣士の家系ですが彼女も同じ剣士の家系なのです、鳳凰の翼という剣士の」

 エナが顔をあげ、飛鳥の家系の側面を説明する。
 本来なら話す内容ではないが、目の前の異世界人には話しておいた方がいいというエナの判断であった。

 エナが話す内容は、鳳凰院流派は陰陽師。
 安部清明(あべのせいめい)が時の帝を守る武術として開発したものであるが武術の他にリンディたちの言う魔法といわれる術もあるのだという。

 それを鳳凰院では【力(ちから)】と呼んでいる。

 速人の【力】はその中でもかなり稀なもので、生命力そのものを【力】として使う類のもので使いすぎると命を落とすというものである。
 リンカーコアと人の命の密接な関係説明を受けた為に士郎とエナは顔色を変えた訳である。

 術の中にはその【力】を封印するものが存在しており、それを七年前の速人に施していたということを伝える。

 リンディは納得がいったとばかりに頷く。

「なるほど。それで今まで速人君から魔力を感じなかったわけですね」

 静寂が支配する高町家リビング、リンディが考えを纏めて提案する。

「しかし、今のままでは速人君自身が狙われているようですし私に預けていただけませんか? エナさん」

「どういうことでしょうか?」

 疑問を投げかけるエナにリンディはまたも説明しだした。

 理由が解らないが、管理局が追っている犯罪者達に速人が狙われているという事。
 魔力をこのままにすると暴発する恐れがあると言う事。
 
 だが魔力運用の仕方を覚え、コントロール出来るようになれば無理に封印する必要性がないことを説明した。

 エナがリンディに対して懇願するように口を開く。

「速人が……死なずに済むなら…お願いいたします、私では使っちゃいけないとしか教えられませんから……」

 リンディはそんなエナに大丈夫きっと速人君は良い方向に向かいますと告げ、エナの両手を握った。














 夢幻回廊に存在する七罪の番人達。

 淡い金色の球体の中に、裸で体育座りの格好で眠りについている少年と少女、グリードとラース。

 海鳴で見せた回復魔法の最中なのであろう。二つの球体を見つめる青い騎士甲冑を身に纏う女性剣士エンヴィーの姿と老人ラスト。
 剣士は二人の状態を心配しており老人は魔法の管理をしているのだろう。
 
 ラストは番人中一番攻撃力は低い。だが回復や支援といった物を得意とする。
 コキュートスでエウリュトスがこの老人の復活までは戦いは避けたかったと言うのも頷けると言うものだ。





 剣士と老人からやや離れた所で密談を交わすオールバックの男と筋肉質の大男が居た。

 ラースとグリードのデバイス。
 グリンタンニとイモータルシミターから速人の発現させた【力】の映像を見ていた。
 大男グラトニーとスロウスが映像の感想を語る。

「ふむ……魔法というよりエナジーストライク(魔力打撃)というタイプのものだな」

 スロウスも頷くが疑問も同時に投げかけた。

「エウリュトスが言っていたイレイザーの力ではないな? これはアルハザードの一般兵士なら使える類のものだぞ」

 二人の会話に加わる人物が現れた。弓士エウリュトス、彼は槍士スロウスの疑問に答えた。

「この少年の手首には十字架の痣があったのだろう? それは間違いなく【世界を消去する存在】スターロードイレイザーである証だよ」

 エウリュトスは速人の画像をみて長年探していた物を見つけた! と言わんばかりに嬉々とした表情を見せていた。
 彼の右手には分厚い黒い本が持たれている。
 大事そうに抱えていた物のページを開く。

「この本の禁書目録部分起動までは放置しておいてもいいさ、居場所の特定が出来ただけでもかなり違うよ」

 グラトニーは分厚い黒い本を見てすこし表情を曇らせる。
 反対にスロウスは何処吹く風で弓士に聞いた。

「蒐集の残りページ数は?」

「残りは350さ、光属性の魔力でないと受け付けないから少し厄介だね」

 エウリュトスは残り残数を答え、蒐集対象となる属性の魔力を告げる。
 弓士が持つ分厚い黒い本にはミッド式とベルカ式が重なり合った紋様が掘り込まれていた。


「そろそろ子供達が目を覚ますぞぃ」

 蒐集対象の話をしていた三人に声をかけるラスト。

「こちらも準備はできました……」

 赤い長いツインテールと茶色のブレザー、紅い短いスカートを履いた女性が術式準備の完了を続けて三人に伝える。
 
「では始めるとするか」

 グラトニーの開始の合図と共に七罪の番人達は赤いツインテールの女性を中心にして儀式魔法の実行を開始する。

 意識の覚醒を果たした二人の子供。ラースとグリードを加えた七人は各々円形と三角形の魔方陣を展開し始める。
 中心で魔力を受ける彼女の魔方陣はグラトニーがモノリスの封印を解除した時と同じもの。
 
 円形の魔方陣の中がヘキサグラムのものである。色は彼女の髪の色と一緒である赤色であるが。

 金色の魔力を放つ大食のグラトニー、白色の嫉妬のエンヴィー、黒色である憤怒のラースと貪欲のグリード。
 氷の様な蒼さを持つ怠惰のスロウス、海の青さをもつ色欲のラスト。
 
 そして彼等の魔力を一手に受ける女性。傲慢のプライドという。
 
 番人の中で最も魔法に精通し番人中最大の魔力を有する炎の魔法使い。
 シンフレアを炎の海にしたのは彼女の魔法によるものだ。やがて全員の魔方陣が消えていく。

「何かわかったかい? プライド」

 エウリュトスがプライドに聞く。彼ら全員の魔力を使っての探索魔法、これで何を探していると言うのだろうか?

 プライドは閉じていた目を開く。その瞳に光は無く虚ろだ。
 エウリュトスの問いかけに暫くの時間を使った彼女は声を出して答えた。

「探し物は……アルザス……」

 彼女の答えにグラトニーが反応した。

「ほう、あの竜召喚一族の居る世界か……相手は、真龍(しんりゅう)ティアマットか?」

 グラトニーの言葉にエウリュトスは苦い表情をした。もう竜退治は御免だという感じである。

「ティアマットならば、光属性の魔力をふんだんに持っていましょう……」

 虚ろな瞳のプライドの一言が七罪の番人達に蒐集目標を定めさせた。
 
 真龍ティアマットとの対決。番人のリーダー格である大男グラトニーが号令する。

「本調子でないラースとグリードを残し、後の者はアルザスに向かうとする」





















「うん、わかった」

 フェイトはリンディからの電話を切った、速人のいきさつを聞かされた所だった。


 フェイトが速人の所に戻ると速人が目を醒ましていた。室内は少し暗めに照明が調整されている、丁度蛍光灯に付く小さな裸電球が発する程度の光に。

「速人! おきたんだね」

 嬉しそうに目の前の少年に笑顔を向けるフェイトの心境は、気が付いて本当に良かった、という感じのものであった。

「ここは?」

 上半身を起こした速人がフェイトの方をみる。
 彼女を助けたい一心で【力】を発動させ気を失い、いま居る場所が何処なのか理解できていない、現在彼はベッドの上なのだ。

 フェイトは速人の居るベッドに腰を掛け、彼の右隣に座り質問に答える。

「私の家だよ」

 フェイトは速人の【力】についてエナ達から聞いたことを速人に伝え、自分となのはが魔導師であることも伝えた。

 
 薄暗い空間でフェイトの視線から顔を背けている速人、ジッと速人を見つめるフェイト、二人の間に沈黙が流れる。


 急に速人が自分の両腕で自身の体を抱き、震えだす。
 何かに怯えるような仕草にフェイトは少し戸惑いを感じ聞く。

「速人どうしたの? 大丈夫?」

 フェイトは速人の右手を自身の左手で掴み聞く。
 意識は取り戻したとしてもまだ体調が良くないのであろうか? 
 
 そういう心配からでた行動だった。心配してくれる彼女に速人は静かに喋りだした。

「姉さんがいってた……この【力】は僕の命を確実に削っていくんだって。何でこの【力】が僕にあるのかわからない」

 今まで【力】に関して他人に自分の心境を話すという機会は無かったが、目の前の少女には素直に打ち明ける。

「正直……あの時。必死だったよ【力】が魔力だったとしても命を削っていくことには代わりがない」

 速人の話を隣で黙って聞くフェイト。小さな窓から差し込んだ月の明かりが速人の顔に当たり彼の表情を印象つける。フェイトに顔を向けた少年の澄んだ青い瞳から、一筋の涙が頬に伝わって顔から落ちそれがフェイトの左手の甲に当たる。

「怖いよ……僕……死にたくないよ、こんなわけの解らない魔力のせいでなんか……死にたくない」
「感情の高ぶりが。この【力】を呼び覚ますきっかけになるんだ……小さい頃に、この【力】を使った事がある、その時も生死の境を彷徨ったんだ、二度と使わないって決めたのに……」

 速人はフェイトの目の前で涙を流す、命の危険に怯える涙を。

「僕は、この力が嫌いだ。小さい時に好きな人達が傷つくのを見たくなくて傷をつけた原因の子達に怒った事がある。その時に力が出た……余りにも大きすぎる力は、周りを不幸にするんだよ……だから僕は人の心を先読みして、この力を使わない様に生きてきた……」

 泣きながらフェイトに今まで溜めて来たものを吐き出す速人。

「でも……君やなのはが傷つく所を見てしまったら、それも出来なかったんだ……もう鳳凰院の術は施せない。背中の紋様があの時に飛んでしまった。三歳の時の様に今度は直ぐにでも感情の高ぶりをきっかけに、この力が開放される。今度こそ僕はそこで死ぬんだ」

 フェイトも速人を死なせたくはない。知り合って友達になれた男の子は、心の先読みという言葉を使ったが、人の気持ちを理解できる事なんだと彼女は思ったし、絵の事柄は少なからずフェイトに感動を与えたのは事実である。
 それに、彼の力によって先日の戦いは決着が付いたのだ。
 リンディが言うにはコントロールすることを覚えればその危険を回避できることも聞いていたから。

 フェイトはベッドで涙を流す速人を抱き寄せる。

「フェイ…ト?」

「速人。私、この間のお礼を言ってなかった、助けてくれて有難う」

 速人は急に抱きしめられ丁度フェイトの胸あたりに顔をうずめる形になる。

 フェイトは自分の魔力を解放すると、やさしい金色の光が二人を包み込んだ。
 暫し無言で、フェイトは速人を抱きしめ、速人は抱きしめられていた。



 フェイトは自分の胸中に顔をうずめている速人に優しく話し始める。

「魔力は。わたしにもあるよ? 君は。今この魔力に何を感じる? 怖い?」

 やさしく語るフェイトの表情には、死に怯える少年を救う聖母のような雰囲気がある。

「あたたかい……」

 速人は言葉に出した感覚以外に自分の不安が薄らいでいく感覚も味わった。

 それを聞いたフェイトは魔力の開放を止め抱擁を解いた。速人の顔まで自分の顔を持っていき。

「君は、魔力の使い方を知らなかっただけ、ちゃんとした使い方を覚えれば死ぬ事なんて無い。速人が私に絵の描き方を教えてくれたように私が君に魔法をおしえるから、だから一緒にがんばろう……ね?」

 速人の瞳をみつめてそう語るフェイト。

「使い方……覚えれば、死ななくてすむ……」

 瞳はフェイトに向けてはいるが、自分に言い聞かせるような感じで話す速人に、フェイトは真剣に頷く。

(君は人としての命をある事に使わなければならない、この少女の差し伸べた手を受け取るべきだ)

 速人は自分の心の中でそんな声をきいた気がした。力を嫌うのではなく共に生きてゆく事。フェイトは速人にそれを伝えたいのだ。

 真剣な紅い瞳をみた速人は目の前の人物のいう事を信じる事にする。

「フェイトの言うこと信じるよ、僕に使い方教えて……」

 フェイトはありったけの微笑みを彼にむけた。

 その後に「まかせて」と答えた。



  ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds――
            第十話 飛鳥速人




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